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故郷
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バイクが走る。
走る中、だんだんアスファルトの舗装が剥がれ、でこぼことした感覚がタイヤを通して伝わるようになってきた。
「あれが閉鎖地区……真壁さんの故郷なんですね」
長瀬の言葉に、真壁は返事をしなかった。
かつてあったとされる20世紀の面影も、今は廃墟と化して崩れてしまっている。こんな場所に今も人が住んでいるとは思えないのだが、実際に目撃情報が出ている。
「あの……真壁さん。あそこに残ってらっしゃる方々が、真壁さんのお知り合いに……なるんですか?」
「おそらくは。あそこから出てきて引っ越したとされる人間から話を聞いて回ったが、あいつらの情報はなかった」
「……説得できますか?」
「わからん」
いつものぶっきらぼうな返事ではあるが、ただ会話を打ち切った色には長瀬には聞こえなかった。どうも真壁も本気でそう思っているらしかった。
やがて、【立ち入り禁止】の黄色いテープを越え、足を踏み出した。ずっと立ち入り禁止調査禁止と言われていた割には、あまりにも呆気なく入れたことに、長瀬は拍子抜けした。
「なんか……思ってるより普通でしたね?」
「ここを真っ直ぐ行く。その先」
「真壁さん?」
真壁はバイクを降りると、長瀬も降りてヘルメットを外したのを見計らってから、そのまま押しはじめる。それに長瀬は慌てて小走りで着いていった。
「この先に神社がある」
「……鳥居は、見えませんが」
「オーパーツ襲撃の際に崩れ落ちた。だが境内はこの辺りだと一番だだっ広い。もし人が今でも住んでるんだったら、境内にテントを張って暮らすだろう」
「なるほど」
日頃の真壁のことを思えば、幾分か口調が落ち着き払っている。これは数年ぶりに故郷に帰ってこられたことへの郷愁なのか、悲惨で見る影もなくなった故郷への哀愁なのかは、さすがに長瀬も聞くことがはばかられて口を噤んだ。
ふたりでシャリシャリと音を立てて歩いている中。真壁が「おい」と足を止める。
「バイクの免許持ってたな?」
「ええっと、まあ。はい」
「これ乗れ。そしてさっさと走れ」
「はいっ!?」
「……異形体じゃない。異能者だ」
真壁は手袋を外して臨戦態勢に入ったのを見て、さすがに長瀬はまずいと思った。
「真壁さんはどうされるおつもりですかあ!?」
「歩いて帰るからいい」
「ここから無事な地区まで、だいぶ時間がかかるじゃないですか!」
「うるさい。とっとと行け」
バイクを押しつけられた長瀬は、渋々ヘルメットを嵌め直して走りはじめたとき。いきなり地鳴りが響いた。
「ギャッ」
「……ちっ」
舌打ちした真壁が手を一閃させる。粘りのある毒が放出されるが、それが立ち所にジュッと音を立てて蒸発する。
「あれ、巧兄ちゃんの能力、毒だったんだ……大丈夫? ご飯とか食べれてる?」
まだ声変わりしていない甲高い少年の声が響いた。思わず長瀬は声の方向に視線を向ける。まだ成長半ばの小柄で華奢な少年が、瓦礫の山の上に立っていたのだ。ハニーフェイスであり、伸びっぱなしのピンピンと跳ねた髪を輪ゴムと洗濯バサミで留めている。半袖にハーフパンツと、やけに涼しげな格好だった。靴はバコバコに割れてしまったスニーカーを履いている。
「……蛍」
「よかった! ボクのこと覚えてくれてた!」
蛍と呼ばれた少年はにっこりと笑った。
「……なんで避難してない?」
「する訳ないじゃん。理不尽だよ。オーパーツ落ちてきただけだっていうのに、勝手にここから皆を追い出してさあ。ここに人も集めないで、勝手に瓦礫の山にするし。ここ、不法投棄多過ぎなんだよね。ボクたち住んでるのにさあ。まっ、そのおかげでボクたちも死なずに今まで生きてこられた訳だけどさあ」
「なるほど」
どうも彼らが勝手に今もなお閉鎖地区に住んでいるのは、抗議のためらしかった。
「あ、あの! 君! ここに今まで来られなかったことは謝ります! でも、宇宙防衛機構は、別に君たちを攻撃したり襲ったりしたりしません! 衣食住は保証しますから、こんな場所にずっと住んでいるのは」
「巧兄ちゃん、コイツ誰?」
蛍は長瀬には冷たい。それに長瀬は思わず喉を詰まらせる。どう考えてもこの少年視点では、身内をさらった一味だから、敵認識されてもおかしくはない。
「長瀬。仕事上の相方」
「そっかあ。誠兄ちゃんが妬くんじゃないの? 勝手に相方ポジション奪われたからさ」
「そ、そんなつもりはありません!」
「オマエに話してないよね?」
どこまで行っても取り付く島のない蛍に、長瀬は少しだけ泣きそうになった。それでも、こんなところに子供を置いておく訳にもいかないから、なんとしてでも連れ帰らないと駄目なのだが。
ふいに風が揺れた。
「えっ?」
途端にバイクに乗っていたはずの長瀬が、宙に浮いていた。
「ごめんね、ちょっとお話したいから、君連れて帰りたいんだけど」
やけに甘い声で囁かれ、長瀬は仰け反りかけたが。低く甘い声を出しているのは、伸ばしっぱなしの癖毛を耳にかけた青年だった。ジャージ姿だが、ダサく見えないのは手足が全体的に長いからだろう。サンダルを履いている。
「おい、誠……」
「ごめーん巧。ちょっとこの子借りるわ。いいよねえ、蛍?」
「別にボクはソイツいらないからいいよ。じゃあね」
勝手に手を振られ、長瀬は誠を名乗る男にそのまま連れさらわれていった。
(ちょっと待って……この人見えなかった。どこから来て、どこから出てきたの? これも……異能者の力なの!?)
そもそも真壁といきなり分断されたことに長瀬はパニックに陥りながらも、今は危害を加えられないと信じて大人しくしているしかなかった。横抱きにされて移動しているのだから、このまま手を離されたら、あちこちに尖ったものの見える瓦礫に堕とされる。瓦礫に突き刺さって死ぬ結末は、さすがに長瀬も嫌だった。
****
誠に抱えられて移動した長瀬は、日頃滅多にしない乗り物酔いで吐きそうになっていた。
(待って……この人、足速い……なんで……なんかすごい勢いで景色が変わるし……速過ぎてなんにも見えないし……吐きそう……)
三半規管がおかしくなり、目が回ってふらふらの長瀬は、やっと降ろされたときには、膝を突いてなんとか吐き気を堪えて蹲るしかできなかった。
「ごめんごめん。久々に普通の子抱えたしさあ。ダイジョブ?」
「大丈夫じゃ……ないです……あの、その足とか、いきなり出てきたのとか」
「ああ、これ? 俺の異能。音に関することだったら比較的なんでもできるやつ」
「お、音?」
「そっ、音。だから音速で走れるし、超音波とかも出せる。あと音が聞こえる場所だったら比較的盗聴とかもできる」
「……便利過ぎやしませんか?」
「そう? ぶっちゃけなんでも聞こえ過ぎて頭おかしくなりそうだから、普段耳栓してないとまともに生活できないし寝ることもできないんだけどね。巧は? なんか酸っぱい匂い出してたけど、あれも異能でしょ?」
「……真壁さんは、全身から毒を出せます。そのせいで、食事も使い捨てのパウチ使わないと食べられません。寝る場所も決められた場所じゃないと、毒で死者が出ますから……」
「ありゃ。可哀想。あいつ食べるの好きだったのにさあ」
「あの……それで私だけ連れてきて、なんの用でしょう……?」
そもそも、どうして蛍と誠ふたりがかりで分断されたのか、意味がわからなかった。宇宙防衛機構を信用できないなら、音速で走れるんだったらさっさと奇襲を仕掛ければ済んだ話だ。いくら真壁が強かろうと、毒が効く相手でなかったら意味がない。避けられる誠では相手にならないだろう。
誠はにこやかに笑った。
「とりあえず、話をしたくってさ。うちのリーダーと」
「リーダー? あの、誠さんとか、蛍くんではなくて?」
「多分あいつは巧のこと知らないんじゃないかなあ。一応ずっとこの地区に住んではいたんだけど、引きこもりだったがために、オーパーツに刺されるまで外に出なかった奴」
そう言いながら、誠は歩きはじめた。
先程蛍が「不法投棄されてる」と憤慨していたように、だんだん粗大ゴミの量が増えている区画に出る。
「ああ、足下気をつけて。この辺りマジで不法投棄多いんだよねえ」
「……あの、おふたり以外にも人が住んでいるのはわかりましたけど、他には?」
「そうねえ。オーパーツに突き刺さって異形体になった連中は、ほとんど出なかったかなあ。それ特殊らしいね?」
「特殊もなにも……今のオーパーツ襲撃で一番問題になっているのは、異業体になった人を元に戻すことですよ。オーパーツだけなら、ただ街が穴ぼこだらけになるだけで済みますけど、異業体が暴れ出したら、真壁さんみたいな方や、真壁さんの毒を使った武器でなかったら対処できませんもん」
「なるほどねえ。たしかに」
「あの……どうしてオーパーツや異形体、異能者のことをご存じなんですか?」
「んー?」
「すみません。この辺りではオールドメディア……テレビとか新聞とかチェックしてない方が多いと聞きまして」
「ああー。俺たちも教えてもらえるまで知らなかったよ。かろうじて神社でテント張ってる連中もそうさ。こいつは引きこもりでネット中毒だったから知ってたみたいだけどさ。おーい、連れてきたよー」
そこを見て、長瀬は唖然とした。
粗大ゴミから部品という部品を抜き取って、ソーラーパネルで電気を確保し、ネット回線を敷き、大量のモニターの前でキーボードを叩いている青年がいたのだ。
ボサボサの髪は癖毛で、伸ばしっぱなしにしていたらたちまちマリモみたいになって顔すら覆っていたあろう。そのせいかバリカンで刈ったかのようにたわしのような髪型をしていた。
「おー……」
「あ、あの。こんにちは……宇宙防衛機構の長瀬です。真壁さんは必要なかったんですか?」
「あいつはなにも知らねえだろ。今はいらん。外の話ができる奴が欲しかった」
「あ、あの……? 私も、真壁さんとここに来たのは、あくまでここを調査するための許可を欲しかっただけで、強制執行で皆さんを立ち退きさせたかった訳ではないんですが」
「あー……おたくら、政府とは関係ない感じ?」
振り返った男は、おそらくは真壁や誠とそこまで年が変わらないのだろう。引きこもりだと言っていただけあり、肌はやけに青白く、ジャージ姿がやけにギークに見える男であった。
「あ、あのう……政府……とは?」
走る中、だんだんアスファルトの舗装が剥がれ、でこぼことした感覚がタイヤを通して伝わるようになってきた。
「あれが閉鎖地区……真壁さんの故郷なんですね」
長瀬の言葉に、真壁は返事をしなかった。
かつてあったとされる20世紀の面影も、今は廃墟と化して崩れてしまっている。こんな場所に今も人が住んでいるとは思えないのだが、実際に目撃情報が出ている。
「あの……真壁さん。あそこに残ってらっしゃる方々が、真壁さんのお知り合いに……なるんですか?」
「おそらくは。あそこから出てきて引っ越したとされる人間から話を聞いて回ったが、あいつらの情報はなかった」
「……説得できますか?」
「わからん」
いつものぶっきらぼうな返事ではあるが、ただ会話を打ち切った色には長瀬には聞こえなかった。どうも真壁も本気でそう思っているらしかった。
やがて、【立ち入り禁止】の黄色いテープを越え、足を踏み出した。ずっと立ち入り禁止調査禁止と言われていた割には、あまりにも呆気なく入れたことに、長瀬は拍子抜けした。
「なんか……思ってるより普通でしたね?」
「ここを真っ直ぐ行く。その先」
「真壁さん?」
真壁はバイクを降りると、長瀬も降りてヘルメットを外したのを見計らってから、そのまま押しはじめる。それに長瀬は慌てて小走りで着いていった。
「この先に神社がある」
「……鳥居は、見えませんが」
「オーパーツ襲撃の際に崩れ落ちた。だが境内はこの辺りだと一番だだっ広い。もし人が今でも住んでるんだったら、境内にテントを張って暮らすだろう」
「なるほど」
日頃の真壁のことを思えば、幾分か口調が落ち着き払っている。これは数年ぶりに故郷に帰ってこられたことへの郷愁なのか、悲惨で見る影もなくなった故郷への哀愁なのかは、さすがに長瀬も聞くことがはばかられて口を噤んだ。
ふたりでシャリシャリと音を立てて歩いている中。真壁が「おい」と足を止める。
「バイクの免許持ってたな?」
「ええっと、まあ。はい」
「これ乗れ。そしてさっさと走れ」
「はいっ!?」
「……異形体じゃない。異能者だ」
真壁は手袋を外して臨戦態勢に入ったのを見て、さすがに長瀬はまずいと思った。
「真壁さんはどうされるおつもりですかあ!?」
「歩いて帰るからいい」
「ここから無事な地区まで、だいぶ時間がかかるじゃないですか!」
「うるさい。とっとと行け」
バイクを押しつけられた長瀬は、渋々ヘルメットを嵌め直して走りはじめたとき。いきなり地鳴りが響いた。
「ギャッ」
「……ちっ」
舌打ちした真壁が手を一閃させる。粘りのある毒が放出されるが、それが立ち所にジュッと音を立てて蒸発する。
「あれ、巧兄ちゃんの能力、毒だったんだ……大丈夫? ご飯とか食べれてる?」
まだ声変わりしていない甲高い少年の声が響いた。思わず長瀬は声の方向に視線を向ける。まだ成長半ばの小柄で華奢な少年が、瓦礫の山の上に立っていたのだ。ハニーフェイスであり、伸びっぱなしのピンピンと跳ねた髪を輪ゴムと洗濯バサミで留めている。半袖にハーフパンツと、やけに涼しげな格好だった。靴はバコバコに割れてしまったスニーカーを履いている。
「……蛍」
「よかった! ボクのこと覚えてくれてた!」
蛍と呼ばれた少年はにっこりと笑った。
「……なんで避難してない?」
「する訳ないじゃん。理不尽だよ。オーパーツ落ちてきただけだっていうのに、勝手にここから皆を追い出してさあ。ここに人も集めないで、勝手に瓦礫の山にするし。ここ、不法投棄多過ぎなんだよね。ボクたち住んでるのにさあ。まっ、そのおかげでボクたちも死なずに今まで生きてこられた訳だけどさあ」
「なるほど」
どうも彼らが勝手に今もなお閉鎖地区に住んでいるのは、抗議のためらしかった。
「あ、あの! 君! ここに今まで来られなかったことは謝ります! でも、宇宙防衛機構は、別に君たちを攻撃したり襲ったりしたりしません! 衣食住は保証しますから、こんな場所にずっと住んでいるのは」
「巧兄ちゃん、コイツ誰?」
蛍は長瀬には冷たい。それに長瀬は思わず喉を詰まらせる。どう考えてもこの少年視点では、身内をさらった一味だから、敵認識されてもおかしくはない。
「長瀬。仕事上の相方」
「そっかあ。誠兄ちゃんが妬くんじゃないの? 勝手に相方ポジション奪われたからさ」
「そ、そんなつもりはありません!」
「オマエに話してないよね?」
どこまで行っても取り付く島のない蛍に、長瀬は少しだけ泣きそうになった。それでも、こんなところに子供を置いておく訳にもいかないから、なんとしてでも連れ帰らないと駄目なのだが。
ふいに風が揺れた。
「えっ?」
途端にバイクに乗っていたはずの長瀬が、宙に浮いていた。
「ごめんね、ちょっとお話したいから、君連れて帰りたいんだけど」
やけに甘い声で囁かれ、長瀬は仰け反りかけたが。低く甘い声を出しているのは、伸ばしっぱなしの癖毛を耳にかけた青年だった。ジャージ姿だが、ダサく見えないのは手足が全体的に長いからだろう。サンダルを履いている。
「おい、誠……」
「ごめーん巧。ちょっとこの子借りるわ。いいよねえ、蛍?」
「別にボクはソイツいらないからいいよ。じゃあね」
勝手に手を振られ、長瀬は誠を名乗る男にそのまま連れさらわれていった。
(ちょっと待って……この人見えなかった。どこから来て、どこから出てきたの? これも……異能者の力なの!?)
そもそも真壁といきなり分断されたことに長瀬はパニックに陥りながらも、今は危害を加えられないと信じて大人しくしているしかなかった。横抱きにされて移動しているのだから、このまま手を離されたら、あちこちに尖ったものの見える瓦礫に堕とされる。瓦礫に突き刺さって死ぬ結末は、さすがに長瀬も嫌だった。
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誠に抱えられて移動した長瀬は、日頃滅多にしない乗り物酔いで吐きそうになっていた。
(待って……この人、足速い……なんで……なんかすごい勢いで景色が変わるし……速過ぎてなんにも見えないし……吐きそう……)
三半規管がおかしくなり、目が回ってふらふらの長瀬は、やっと降ろされたときには、膝を突いてなんとか吐き気を堪えて蹲るしかできなかった。
「ごめんごめん。久々に普通の子抱えたしさあ。ダイジョブ?」
「大丈夫じゃ……ないです……あの、その足とか、いきなり出てきたのとか」
「ああ、これ? 俺の異能。音に関することだったら比較的なんでもできるやつ」
「お、音?」
「そっ、音。だから音速で走れるし、超音波とかも出せる。あと音が聞こえる場所だったら比較的盗聴とかもできる」
「……便利過ぎやしませんか?」
「そう? ぶっちゃけなんでも聞こえ過ぎて頭おかしくなりそうだから、普段耳栓してないとまともに生活できないし寝ることもできないんだけどね。巧は? なんか酸っぱい匂い出してたけど、あれも異能でしょ?」
「……真壁さんは、全身から毒を出せます。そのせいで、食事も使い捨てのパウチ使わないと食べられません。寝る場所も決められた場所じゃないと、毒で死者が出ますから……」
「ありゃ。可哀想。あいつ食べるの好きだったのにさあ」
「あの……それで私だけ連れてきて、なんの用でしょう……?」
そもそも、どうして蛍と誠ふたりがかりで分断されたのか、意味がわからなかった。宇宙防衛機構を信用できないなら、音速で走れるんだったらさっさと奇襲を仕掛ければ済んだ話だ。いくら真壁が強かろうと、毒が効く相手でなかったら意味がない。避けられる誠では相手にならないだろう。
誠はにこやかに笑った。
「とりあえず、話をしたくってさ。うちのリーダーと」
「リーダー? あの、誠さんとか、蛍くんではなくて?」
「多分あいつは巧のこと知らないんじゃないかなあ。一応ずっとこの地区に住んではいたんだけど、引きこもりだったがために、オーパーツに刺されるまで外に出なかった奴」
そう言いながら、誠は歩きはじめた。
先程蛍が「不法投棄されてる」と憤慨していたように、だんだん粗大ゴミの量が増えている区画に出る。
「ああ、足下気をつけて。この辺りマジで不法投棄多いんだよねえ」
「……あの、おふたり以外にも人が住んでいるのはわかりましたけど、他には?」
「そうねえ。オーパーツに突き刺さって異形体になった連中は、ほとんど出なかったかなあ。それ特殊らしいね?」
「特殊もなにも……今のオーパーツ襲撃で一番問題になっているのは、異業体になった人を元に戻すことですよ。オーパーツだけなら、ただ街が穴ぼこだらけになるだけで済みますけど、異業体が暴れ出したら、真壁さんみたいな方や、真壁さんの毒を使った武器でなかったら対処できませんもん」
「なるほどねえ。たしかに」
「あの……どうしてオーパーツや異形体、異能者のことをご存じなんですか?」
「んー?」
「すみません。この辺りではオールドメディア……テレビとか新聞とかチェックしてない方が多いと聞きまして」
「ああー。俺たちも教えてもらえるまで知らなかったよ。かろうじて神社でテント張ってる連中もそうさ。こいつは引きこもりでネット中毒だったから知ってたみたいだけどさ。おーい、連れてきたよー」
そこを見て、長瀬は唖然とした。
粗大ゴミから部品という部品を抜き取って、ソーラーパネルで電気を確保し、ネット回線を敷き、大量のモニターの前でキーボードを叩いている青年がいたのだ。
ボサボサの髪は癖毛で、伸ばしっぱなしにしていたらたちまちマリモみたいになって顔すら覆っていたあろう。そのせいかバリカンで刈ったかのようにたわしのような髪型をしていた。
「おー……」
「あ、あの。こんにちは……宇宙防衛機構の長瀬です。真壁さんは必要なかったんですか?」
「あいつはなにも知らねえだろ。今はいらん。外の話ができる奴が欲しかった」
「あ、あの……? 私も、真壁さんとここに来たのは、あくまでここを調査するための許可を欲しかっただけで、強制執行で皆さんを立ち退きさせたかった訳ではないんですが」
「あー……おたくら、政府とは関係ない感じ?」
振り返った男は、おそらくは真壁や誠とそこまで年が変わらないのだろう。引きこもりだと言っていただけあり、肌はやけに青白く、ジャージ姿がやけにギークに見える男であった。
「あ、あのう……政府……とは?」
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