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故郷
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長瀬が誠に拉致されたのを横目に、真壁は溜息をついた。
「で、蛍。なにが目的だ?」
「目的って訳でもないけど。巧兄ちゃんと久々に会ったから遊びたいだけで」
「クソガキが」
「子供扱いしないでよ。ボクこれでもここでずぅーっと皆のこと守ってきたんだからね! 褒めてくれてもいいよ!」
そう言うと、次の瞬間蛍の体は崩れた。
いや、発火している。発火に合わせて、形が変わっているのだ。
「……人体発火能力か」
「アハハハハ! そうなのかも、ねっ!」
炎が一気に迫り来る。真壁は大量に体液を噴射させて火を塞き止めるが、それでもなお、炎が消えることがない。
(オーパーツ……どうなってんだ。人体発火だったら、肉体自体は残るはずだが……炎そのものになってる? 水でも消えないってことは……水以外のものか」
炎は薬品火災の場合、水をかけたほうが勢いが増すことがある。つまりは、今の蛍は薬品そのものになって発火しているからこそ、水では消えない。おそらく真壁の持つありとあらゆる毒も、薬品火災を消す決め手にはならない。
(そもそもこいつは、俺と長瀬を引き離してなにをしたい? 蛍はクソガキだが、誠はこのクソガキ具合のおイタが過ぎたら普通に止めるが……長瀬をさらったのは誠のほうか)
真壁が考える中も、蛍が笑いながらピョーンピョーンと飛んでいる。
「ねえ、巧兄ちゃん! 遊ぼ!」
「うるせえ」
「遊ぼ! あの頃のように」
「うるせえ!」
しまいには、真壁は火に焼かれるのを物ともせず、足が出た。途端に蛍はギョッとして炎化を解いた。
「あっぶないじゃん! 巧兄ちゃん燃えたいの!?」
「それ、自分の意思で消せんのかよ」
「消せるようになったのは数年がかりでだよ。最初は人体発火したまんま全部燃やしちゃうし、誠兄ちゃんが発狂しながら水かけてたけど消えなかった」
「だろうな」
結局は元に戻った蛍を、手袋を嵌め直した真壁はゲンコツを一発振り下ろすことで話を終わらせた。
「で、結局なにがしたかったんだ。俺たちをわざわざ呼び出した末に、長瀬をさらって」
「んー、アイツと話をしたかったのはボクじゃないから詳しいことは知らない」
「……誠でもないのか」
「うん。引きこもり。帳。あいつが外の奴と話をしたいってさ。巧兄ちゃんが今いるのはうちゅうぼ……とにかくそこにいるんじゃないかと推測したのもそいつ」
元々封鎖地区に住まう人々はオールドメディアをほとんど見ていない。新聞は高いし、テレビは面倒臭いしで、オーパーツの情報だって三年前の大惨事になるまで知らなかったような情報の遅れ具合だ。
その中で、唯一引きこもりだった帳とかいう男だけが、外の情報をネットを通じて正確に把握していたのだろう。大方、宇宙防衛機構にハッキングをかけ続けていたのもそいつだ。
「……なにを長瀬に聞きたい?」
「だから知らないんだってば。というか、ボクには話を聞いててもよくわかんなかった」
「あっそ。なら話を変える。お前はいったい、なにからこの地区の連中を守ってたんだ?」
真壁が聞いた途端、なにかが降ってきた。
それはオーパーツの欠片が突き刺さった異形体にも見えるが、異形体は曲がりなりにも人間の形を保っていた。だがこれは、明らかに人間の姿をしていなかった。
「……なんだこいつら」
「こいつらだよぉ。なんかここにしょっちゅう来ては、皆を襲うから、ボクらで迎撃してスクラップにしてたんだよ。ねえねえ、アイツ返してほしいんだったら手伝ってよ!」
真壁は思わず溜息をついた。
話があっちに行ったりこっちに行ったりしているが、ここに自分たちを呼び出した理由も、彼らがここから離れなかった理由も一応は納得できた。
「あいつら、炎効いてたのかよ」
「わかんないから、とりあえずボクがあちこち溶かしてから、誠兄ちゃんが超音波で壊してた」
「そうかよ。俺で悪かったな」
「ううん! 楽しいから、いい!」
まあ、いいかと内心真壁は思う。いつもいつも、オーパーツ回収の際には、異形化してしまった人間を死なせないようにするという繊細な動きが求められたが、これはどこからどう見ても人間ではない。
つまりは、無茶をしてもなんの良心の呵責もない。
真壁は手袋を外してドロリと粘液を出すのと、蛍が全身から炎を噴き出すのは、ほぼ同時だった。
「とりあえず、全部スクラップにすればいいんだな?」
「そっ! 今日は誠兄ちゃんがいないから骨折れそ!」
「全部錆びさせれば同じだろ!」
「賛成!」
ふたりが塊に躍りかかった。
****
真壁と蛍が、オーパーツからできた謎の物体と戦っている中。長瀬は困惑してテントの主……帳と話をしていた。
「政府……というのは?」
「……外では、この地区の情報どうなってる?」
「……封鎖地区ということで、現在封鎖して立ち入り禁止になっています」
「原因や現状も流れてないってことか?」
「ここにオーパーツが襲撃した以上、この土地の調査は必要だと、うちの偉い人もずっと政府に訴えましたが、何年もかかってやっと調査許可が下りたと聞きました……真壁さんが来るまでは、うちもオーパーツの欠片だけでも致命傷を与えることも、オーパーツが突き刺さって異形化した人たちを救出する方法も、存在しなかったんです」
「なるほど。そっちの方も後手後手ってことか。本当に政府もしょうもねえ」
「……あの? 政府がどうして封鎖したのか、ご存じなんですか?」
長瀬が尋ねると、黙って帳がキーボードを叩きはじめた。大量のモニターに、大量の地図と、一部の詳細が提示される。
「あの……」
「まず必須教養。オーパーツが落ちてきた理由は?」
「え、ええっと、うちの偉い人曰く、オーパーツは地球上や太陽系の物質でないと伺っています。ですから外宇宙からの侵略で、オーパーツの目的はテラフォーミング……外宇宙の環境にできる限り近付けるためだと」
「その偉い奴、マジでちゃんと偉い奴なのな。正解。続いて応用。オーパーツが人体に突き刺さる理由は?」
「……オーパーツの欠片ひとつひとつに、外宇宙人の人格能力データが付与されていると聞き及んでいます。ですから、地球人の体に外宇宙人の人格能力を付与した上で、乗っ取るつもりだと」
「マジで偉い奴がちゃんと偉いまま説明してるって珍しいんだよなあ」
「……あなたはどうしてこの情報を?」
「宇宙防衛機構から情報引き抜いて読んでた」
あまりにも悪びれずに言うので、長瀬は怖々と尋ねた。
「あなたが、うちにハッキングを仕掛けていた人ですか?」
「おう。俺の能力は電子妖精。まあ、高度なハッキングだな。あとは俺の自前で、だいたい地元で起こっている情報は把握している」
「は、はあ……私、真壁さん以外の異能者の方、あまり知らなくて……その、誠さんは耳栓しないと眠れないと聞き及んでいますし、真壁さんに至っては宇宙防衛機構が用意した衣食住がないと生活できないんですが……帳さんはなにかご不便はありませんか?」
長瀬の質問に、誠は「ヒュー」と下手っくそな口笛を吹いた。
「君ほんっとうにいい子過ぎない? ハッキングって普通に犯罪のはずなのに、平然と不便かどうか聞いてさ」
「いえ……オーパーツの情報は欲しいですし、オーパーツに対抗する手段はいくらでも欲しいですから。その代わりに異能者の皆さんが住みよい環境をつくったほうが、いいのかなと……」
「アハハハハハ! そりゃ巧がたらし込まれるはずだわ」
長瀬は誠が盛大に笑い飛ばしたのに「あの人がいつ自分にたらし込まれたのだろう」と釈然としないものを長瀬は感じた。
それはさておき、帳の話は続く。
「まあ、ここまで話が通じるんだったら、要点も通じんだろ。地球免疫説については?」
「これも上の人が言ってましたね……三十年前、オーパーツ飛来のせいで、世界規模で大災害が起こったと。日本は比較的ダメージが少なかったですが、各地で津波や地盤沈下が進んだのは、オーパーツを異物と判断した地球の免疫機構が働いたせいだろうと」
「この辺り、20世紀だったらオカルトの域だったんだけどな。続き、元々は外宇宙の連中がなんやかんやあって、地球に辿り着いて地球をテラフォーミングしようと、大量にオーパーツを打ち込んだ。でもテラフォーミングされることなく、地球免疫説により多少の犠牲を払いながらも防いだ。でも諦めきれない外宇宙の連中が、今度は地球人にオーパーツの欠片を埋め込むことで外宇宙の人間と同化させて、なんとか地球を乗っ取ろうとした」
「それが現在……と言われていますね。それと、ここが狙われたのは……」
「話が飛ぶが、龍脈って知ってるか?」
「ええっと……?」
さすがに話が飛び過ぎて長瀬にもわからず、思わず誠のほうを見ると、誠は苦笑していた。
「ごめんな、こいついきなり自分のわかる言葉でペラペラしゃべり出すからさあ。今日はまだ説明してくれてる方」
「そ、そうなんですか。ごめんなさい。わかりません」
「地球免疫説は知ってて、龍脈は知らねえのかよ。一応龍脈は元々は風水用語。風水の気の流れ……ひいては地球のエネルギーの流れのことを指す」
「は、はあ……」
「で、本題。この今絶賛封鎖されているこの地が、地球における龍脈の流れを司る重要な拠点」
「……は?」
「で、ここにはほぼ毎日のようにひっきりなしにオーパーツの襲来とオーパーツからできたデカブツの攻撃を受けてる。今ここにそのまんま住んでる奴らは、俺らみたいな異能者になったから、よそに行ったら生活しにくい奴か、郷土愛ある奴らしかいねえけど、この土地に住んでいる連中のほとんどは、異能者適正があったから、人格を奪われずに済んだが。その代わり大なり小なり日常生活に不得手なもんを持っているから、よそに移動することもできねえ」
「はあ!? さすがに、そのことはずっと宇宙防衛機構にいた私たちも知らないです! 上の人はもしかして知っていたのかもしれませんし、だからこそずっと政府から調査要請をずっと繰り返していたけど……警察からの出向なり、軍からの出向なりが来て、やっと調査要請受理してもらえたばかりで……」
そんな重要な話だったら、政府からオーパーツ回収調査を受注している宇宙防衛機構にも話を通してもらわないと困る。なによりも、彼らは三年間ずっと戦い続けていたのに、そんな彼らに支援も必要物資提供もなしだったのは、あまりにも薄情過ぎる。
思わず長瀬が憤るのに、ヘラヘラと誠が笑った。
「ありがとうね、おかげで俺ら。ここで頑張っててよかったって思えるわ」
「……ここにいるっていう、異能者になった皆さんのご様子は?」
「皆比較的元気よ。さすがに不法投棄のもん投げ出されたときは怒ってるけど、皮肉なことにあれで食料調達も必要物資確保もできてるからなんも言えねえ」
「……そうですか。でも、そんな重要なこと。どうして政府は黙ってたんですか。ちゃんと調査して、対策を立てないと」
「そりゃなあ。これを公表したら、選挙に絶対勝てなくなるからな」
「……は?」
またしても、長瀬は唐突な帳の爆弾発言で、喉を詰まらせた。思えば、封鎖地区については、あまりにも情報が少な過ぎるのだ。
どうしてこの土地は、わざわざ名前を奪われたのかがわからない。マスコミも近付かないということは、普通に政府が動いて情報封鎖している。なによりもまともな人たちは根こそぎ封鎖地区から追い出されてしまっているし、今残されている異能者たちだって、帳のような異能がない限りは外に情報が流れない。
帳の発言で、長瀬が固まっている中。ひとつのモニターを大きく映した。
「外からの人間に質問。お前はこいつらのこと、知ってるか?」
「……芸能人みたいな容貌の方々ですね?」
三年前と聞いてはいるが、身長が高い二十代のスーツの青年たちに、十代の少年がかつての20世紀の面影の街並みを散策しているのが見える。そしてひとりはたすきをかけている。そして帳はなんなく言った。
「こいつら、イケメン政治家って言われてた大河一族の三兄弟だよ」
さすがにその名前を聞けば、やけに顔が整った三兄弟の正体も自ずとわかる。
「待ってください。総理のご子息が三人とも、ここでのオーパーツ襲撃事件に巻き込まれてたんですか!?」
大河は現総理の名字。そして大河三兄弟は、総理の秘書官にいち議員、そしてまだ政治に参加する権限のない弟で構成され、その甘いマスクと総理の息子ということで、なにかとネットニュースでも騒がれていた存在だった。
「で、蛍。なにが目的だ?」
「目的って訳でもないけど。巧兄ちゃんと久々に会ったから遊びたいだけで」
「クソガキが」
「子供扱いしないでよ。ボクこれでもここでずぅーっと皆のこと守ってきたんだからね! 褒めてくれてもいいよ!」
そう言うと、次の瞬間蛍の体は崩れた。
いや、発火している。発火に合わせて、形が変わっているのだ。
「……人体発火能力か」
「アハハハハ! そうなのかも、ねっ!」
炎が一気に迫り来る。真壁は大量に体液を噴射させて火を塞き止めるが、それでもなお、炎が消えることがない。
(オーパーツ……どうなってんだ。人体発火だったら、肉体自体は残るはずだが……炎そのものになってる? 水でも消えないってことは……水以外のものか」
炎は薬品火災の場合、水をかけたほうが勢いが増すことがある。つまりは、今の蛍は薬品そのものになって発火しているからこそ、水では消えない。おそらく真壁の持つありとあらゆる毒も、薬品火災を消す決め手にはならない。
(そもそもこいつは、俺と長瀬を引き離してなにをしたい? 蛍はクソガキだが、誠はこのクソガキ具合のおイタが過ぎたら普通に止めるが……長瀬をさらったのは誠のほうか)
真壁が考える中も、蛍が笑いながらピョーンピョーンと飛んでいる。
「ねえ、巧兄ちゃん! 遊ぼ!」
「うるせえ」
「遊ぼ! あの頃のように」
「うるせえ!」
しまいには、真壁は火に焼かれるのを物ともせず、足が出た。途端に蛍はギョッとして炎化を解いた。
「あっぶないじゃん! 巧兄ちゃん燃えたいの!?」
「それ、自分の意思で消せんのかよ」
「消せるようになったのは数年がかりでだよ。最初は人体発火したまんま全部燃やしちゃうし、誠兄ちゃんが発狂しながら水かけてたけど消えなかった」
「だろうな」
結局は元に戻った蛍を、手袋を嵌め直した真壁はゲンコツを一発振り下ろすことで話を終わらせた。
「で、結局なにがしたかったんだ。俺たちをわざわざ呼び出した末に、長瀬をさらって」
「んー、アイツと話をしたかったのはボクじゃないから詳しいことは知らない」
「……誠でもないのか」
「うん。引きこもり。帳。あいつが外の奴と話をしたいってさ。巧兄ちゃんが今いるのはうちゅうぼ……とにかくそこにいるんじゃないかと推測したのもそいつ」
元々封鎖地区に住まう人々はオールドメディアをほとんど見ていない。新聞は高いし、テレビは面倒臭いしで、オーパーツの情報だって三年前の大惨事になるまで知らなかったような情報の遅れ具合だ。
その中で、唯一引きこもりだった帳とかいう男だけが、外の情報をネットを通じて正確に把握していたのだろう。大方、宇宙防衛機構にハッキングをかけ続けていたのもそいつだ。
「……なにを長瀬に聞きたい?」
「だから知らないんだってば。というか、ボクには話を聞いててもよくわかんなかった」
「あっそ。なら話を変える。お前はいったい、なにからこの地区の連中を守ってたんだ?」
真壁が聞いた途端、なにかが降ってきた。
それはオーパーツの欠片が突き刺さった異形体にも見えるが、異形体は曲がりなりにも人間の形を保っていた。だがこれは、明らかに人間の姿をしていなかった。
「……なんだこいつら」
「こいつらだよぉ。なんかここにしょっちゅう来ては、皆を襲うから、ボクらで迎撃してスクラップにしてたんだよ。ねえねえ、アイツ返してほしいんだったら手伝ってよ!」
真壁は思わず溜息をついた。
話があっちに行ったりこっちに行ったりしているが、ここに自分たちを呼び出した理由も、彼らがここから離れなかった理由も一応は納得できた。
「あいつら、炎効いてたのかよ」
「わかんないから、とりあえずボクがあちこち溶かしてから、誠兄ちゃんが超音波で壊してた」
「そうかよ。俺で悪かったな」
「ううん! 楽しいから、いい!」
まあ、いいかと内心真壁は思う。いつもいつも、オーパーツ回収の際には、異形化してしまった人間を死なせないようにするという繊細な動きが求められたが、これはどこからどう見ても人間ではない。
つまりは、無茶をしてもなんの良心の呵責もない。
真壁は手袋を外してドロリと粘液を出すのと、蛍が全身から炎を噴き出すのは、ほぼ同時だった。
「とりあえず、全部スクラップにすればいいんだな?」
「そっ! 今日は誠兄ちゃんがいないから骨折れそ!」
「全部錆びさせれば同じだろ!」
「賛成!」
ふたりが塊に躍りかかった。
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真壁と蛍が、オーパーツからできた謎の物体と戦っている中。長瀬は困惑してテントの主……帳と話をしていた。
「政府……というのは?」
「……外では、この地区の情報どうなってる?」
「……封鎖地区ということで、現在封鎖して立ち入り禁止になっています」
「原因や現状も流れてないってことか?」
「ここにオーパーツが襲撃した以上、この土地の調査は必要だと、うちの偉い人もずっと政府に訴えましたが、何年もかかってやっと調査許可が下りたと聞きました……真壁さんが来るまでは、うちもオーパーツの欠片だけでも致命傷を与えることも、オーパーツが突き刺さって異形化した人たちを救出する方法も、存在しなかったんです」
「なるほど。そっちの方も後手後手ってことか。本当に政府もしょうもねえ」
「……あの? 政府がどうして封鎖したのか、ご存じなんですか?」
長瀬が尋ねると、黙って帳がキーボードを叩きはじめた。大量のモニターに、大量の地図と、一部の詳細が提示される。
「あの……」
「まず必須教養。オーパーツが落ちてきた理由は?」
「え、ええっと、うちの偉い人曰く、オーパーツは地球上や太陽系の物質でないと伺っています。ですから外宇宙からの侵略で、オーパーツの目的はテラフォーミング……外宇宙の環境にできる限り近付けるためだと」
「その偉い奴、マジでちゃんと偉い奴なのな。正解。続いて応用。オーパーツが人体に突き刺さる理由は?」
「……オーパーツの欠片ひとつひとつに、外宇宙人の人格能力データが付与されていると聞き及んでいます。ですから、地球人の体に外宇宙人の人格能力を付与した上で、乗っ取るつもりだと」
「マジで偉い奴がちゃんと偉いまま説明してるって珍しいんだよなあ」
「……あなたはどうしてこの情報を?」
「宇宙防衛機構から情報引き抜いて読んでた」
あまりにも悪びれずに言うので、長瀬は怖々と尋ねた。
「あなたが、うちにハッキングを仕掛けていた人ですか?」
「おう。俺の能力は電子妖精。まあ、高度なハッキングだな。あとは俺の自前で、だいたい地元で起こっている情報は把握している」
「は、はあ……私、真壁さん以外の異能者の方、あまり知らなくて……その、誠さんは耳栓しないと眠れないと聞き及んでいますし、真壁さんに至っては宇宙防衛機構が用意した衣食住がないと生活できないんですが……帳さんはなにかご不便はありませんか?」
長瀬の質問に、誠は「ヒュー」と下手っくそな口笛を吹いた。
「君ほんっとうにいい子過ぎない? ハッキングって普通に犯罪のはずなのに、平然と不便かどうか聞いてさ」
「いえ……オーパーツの情報は欲しいですし、オーパーツに対抗する手段はいくらでも欲しいですから。その代わりに異能者の皆さんが住みよい環境をつくったほうが、いいのかなと……」
「アハハハハハ! そりゃ巧がたらし込まれるはずだわ」
長瀬は誠が盛大に笑い飛ばしたのに「あの人がいつ自分にたらし込まれたのだろう」と釈然としないものを長瀬は感じた。
それはさておき、帳の話は続く。
「まあ、ここまで話が通じるんだったら、要点も通じんだろ。地球免疫説については?」
「これも上の人が言ってましたね……三十年前、オーパーツ飛来のせいで、世界規模で大災害が起こったと。日本は比較的ダメージが少なかったですが、各地で津波や地盤沈下が進んだのは、オーパーツを異物と判断した地球の免疫機構が働いたせいだろうと」
「この辺り、20世紀だったらオカルトの域だったんだけどな。続き、元々は外宇宙の連中がなんやかんやあって、地球に辿り着いて地球をテラフォーミングしようと、大量にオーパーツを打ち込んだ。でもテラフォーミングされることなく、地球免疫説により多少の犠牲を払いながらも防いだ。でも諦めきれない外宇宙の連中が、今度は地球人にオーパーツの欠片を埋め込むことで外宇宙の人間と同化させて、なんとか地球を乗っ取ろうとした」
「それが現在……と言われていますね。それと、ここが狙われたのは……」
「話が飛ぶが、龍脈って知ってるか?」
「ええっと……?」
さすがに話が飛び過ぎて長瀬にもわからず、思わず誠のほうを見ると、誠は苦笑していた。
「ごめんな、こいついきなり自分のわかる言葉でペラペラしゃべり出すからさあ。今日はまだ説明してくれてる方」
「そ、そうなんですか。ごめんなさい。わかりません」
「地球免疫説は知ってて、龍脈は知らねえのかよ。一応龍脈は元々は風水用語。風水の気の流れ……ひいては地球のエネルギーの流れのことを指す」
「は、はあ……」
「で、本題。この今絶賛封鎖されているこの地が、地球における龍脈の流れを司る重要な拠点」
「……は?」
「で、ここにはほぼ毎日のようにひっきりなしにオーパーツの襲来とオーパーツからできたデカブツの攻撃を受けてる。今ここにそのまんま住んでる奴らは、俺らみたいな異能者になったから、よそに行ったら生活しにくい奴か、郷土愛ある奴らしかいねえけど、この土地に住んでいる連中のほとんどは、異能者適正があったから、人格を奪われずに済んだが。その代わり大なり小なり日常生活に不得手なもんを持っているから、よそに移動することもできねえ」
「はあ!? さすがに、そのことはずっと宇宙防衛機構にいた私たちも知らないです! 上の人はもしかして知っていたのかもしれませんし、だからこそずっと政府から調査要請をずっと繰り返していたけど……警察からの出向なり、軍からの出向なりが来て、やっと調査要請受理してもらえたばかりで……」
そんな重要な話だったら、政府からオーパーツ回収調査を受注している宇宙防衛機構にも話を通してもらわないと困る。なによりも、彼らは三年間ずっと戦い続けていたのに、そんな彼らに支援も必要物資提供もなしだったのは、あまりにも薄情過ぎる。
思わず長瀬が憤るのに、ヘラヘラと誠が笑った。
「ありがとうね、おかげで俺ら。ここで頑張っててよかったって思えるわ」
「……ここにいるっていう、異能者になった皆さんのご様子は?」
「皆比較的元気よ。さすがに不法投棄のもん投げ出されたときは怒ってるけど、皮肉なことにあれで食料調達も必要物資確保もできてるからなんも言えねえ」
「……そうですか。でも、そんな重要なこと。どうして政府は黙ってたんですか。ちゃんと調査して、対策を立てないと」
「そりゃなあ。これを公表したら、選挙に絶対勝てなくなるからな」
「……は?」
またしても、長瀬は唐突な帳の爆弾発言で、喉を詰まらせた。思えば、封鎖地区については、あまりにも情報が少な過ぎるのだ。
どうしてこの土地は、わざわざ名前を奪われたのかがわからない。マスコミも近付かないということは、普通に政府が動いて情報封鎖している。なによりもまともな人たちは根こそぎ封鎖地区から追い出されてしまっているし、今残されている異能者たちだって、帳のような異能がない限りは外に情報が流れない。
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