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故郷
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大河総理は、この数年だとかなりの人権派であり穏健派であることが知られている。
特にオーパーツ襲撃の際の保険周りや宇宙防衛機構への受注を決定してくれたのは大河総理であり、オーパーツ関連にかかわっている人間で彼に足を向けて眠れる者なんてほぼいないが。
彼の息子三人が封鎖地区に訪問していたなんて話があれば、封鎖地区一帯はオールドメディアにほぼ関心のない地区とはいえど、他の場所であったら人気取りにマスコミが貼り付いていてもおかしくなかったのだが、そんな噂はとんと聞いたことがなかった。
「どういうことなんですか?」
「オーパーツ」
「え……?」
「そいつら、オーパーツが突き刺さって、深度が上がったらしい……早い話、外宇宙人に体が乗っ取られた」
「…………っ!?」
帳の言葉に、長瀬は息を呑んだ。
今まで、水穂以上に深度の上がった人間には出会ったことがないし、体が完全に乗っ取られる前に、ほとんどの異形体は我を忘れて銃殺されるか、体が追いつかずに死んでいた。だが。この土地をたまたま訪れていた現総理の息子が三人揃って外宇宙人に体を乗っ取られたなんて話が世に出回ったら、混乱が半端ない。
ただでさえ、彼らは眉目秀麗ということで、かつてのマスコミはひっきりなしに彼らの情報を流していたのだ。だがたしかに、このところぱったりと彼らの情報が流れていなかった。現総理のおかげでオーパーツ関連の研究調査が進むようになったが、世の中にはオーパーツ襲撃のことを訳わからない方向で取り上げている人間が多過ぎるのだ。
オーパーツ襲撃を地球人に対する罰だとして訴えている新興宗教。オーパーツ関連に予算を回すよりも他に回すべき場所があると訴える政治家。オーパーツの存在自体を懐疑的なものとして見てあることないこと書き続けるゴシップ。
なかなかオーパーツの欠片の刺さった人々を元に戻す方法が見つからなかったのは、なにも真壁を保護した上に彼の体液を使ったオーパーツ分離方法が確立したからだけではない。政治的な問題、ゴシップ的な問題が絡み、なかなかその手の情報が出回らなかったからだ。
(あれか……早乙女さんが軍やら警察やらに根回ししたのは、ひとつでも政治家周りに説得してくれる人を増やすためだったんだ……そんな上からの命令で情報が握りつぶされてたんだったら、そりゃ誰だって調査許可を取れない……)
長瀬が頭が痛いと思いながら、帳と誠を見た。
「それで……私を呼び出したのは結局、どういった要件で?」
「そいつらがうちの地区を勝手に住み着いて迷惑している。この辺り、オーパーツからできたロボットが跋扈してて、年々住みにくくなってるが、ここから俺たちが出て行ったら、いよいよ龍脈を弄られて、テラフォーミングがはじまっちまう。そいつら追い出すだけの武器やら人手やら寄越してほしい」
「!? ちょっと待ってください。龍脈の話と、大河三兄弟の話はそこに繋がるんですか!?」
「おう。最初から言っても、どういう理屈かわかんねえから説明できねえだろ。こっちだって情報選別して取引してんだよ。わかれよ」
「帳ぃー。それいくらなんでも巧の相方さん困るからぁー」
見かねた誠が口を挟みつつ、長瀬に謝る。
「ごめんごめん。頭いい割に説明が無茶苦茶むずくってさ。でも、この地区が魔改造されないように、この地区に残ってる人間が一丸になって戦ってるのは本当。俺らが政府信じられねえのも本当。それで宇宙防衛機構が信用できるかどうかも、巧と長瀬ちゃんの言動で判断するしかねえから、どうしようってことで帳に見てもらった訳なんだけどね。で、帳視点ではどうなのさ?」
誠に話を向けられ、帳はモニターをひとつピックアップすると、それを拡大させる。
真壁が人体発火している蛍と一緒に、訳のわからない動く無機物と戦っているのが映り、長瀬はギョッとする。
「先程おっしゃってたオーパーツでできたロボットってこれですかぁ……」
「そう。一日一回盛大に暴れて帰っていく。ここらの連中一丸になって戦わねえと追い返せねえから、いい加減手を焼いてる」
「……なるほど。それで大河三兄弟は、今この地区のどこに住んでるんですか?」
「この地区、ほとんど廃墟になってっけど、一カ所だけ無事だった場所があって、そいつらそこに勝手に住み着いてる」
「一カ所……ですか?」
「うん。元この地区に住んでたヤのつく自由業の人たちが住んでた屋敷、そいつらオーパーツ襲撃以降見なくなったから、そこに勝手に住んでるの。ここ」
モニターのひとつは、封鎖地区を上から見下ろせるようになっている……どう考えても衛星カメラからの情報なんだが、これも帳の持つ異能の力なのか、それとも帳のハッキング能力の賜なのかが、長瀬にはわからなかった。
ただそこはヤのつく自由業の人々が住んでいたというだけあり、20世紀の面影を残しているこの土地でもかなり頑丈につくられているため、三年前のオーパーツ襲撃で瓦礫の山だらけになってしまった封鎖地区においても数少なくかつても面影が残っている場所のようだった。
「……わかりました。このことは、一度宇宙防衛機構に持ち帰ります。あと、ひとつだけ相談なんですが」
「うん? なになに?」
「……蛍くんですが。私嫌われているみたいなんですが、そのう。彼も宇宙防衛機構に一度連れ帰りたいんですが、おふたりどちらか一緒に来ていただけませんか?」
帳は心底嫌な顔をして、誠を睨んだ。誠はヘラヘラと笑いながら頷く。
「帳は引きこもりだからここから出たくないって。でも、なんで?」
「……人体発火で毎度毎度服が燃え落ちているのは、そのう……服の調達が大変だと思いますので、なんとかならないか、うちの科学責任者に相談したいんです」
「わあ、嬉しい。いっつもいっつも人に頭下げてお古の服もらってくるの、いい加減なんとかならないかって言ってたところだから!」
誠が明るく答えてくれたのに、長瀬はほっとした。
モニターに映る蛍は、元気に人体発火でオーパーツのロボットを蹴り飛ばしながらも、服をどんどんと焼いていたのだから。
****
ブスブスと焦げ臭いにおいが漂っている。化学繊維だったらもっと鼻につくにおいだが、これは木綿なのだろう。気のせいか甘い爛れたにおいが漂っていた。
「……クソガキ、そのにおいどうにかならねえのか?」
「仕方ないじゃん。体から火を出したら、時間制限内に火を消さないと服も燃えちゃうんだよね」
「時間制限付きか」
「そうだよぉ。そのせいで、誠兄ちゃんも帳も、ボクひとりで戦わせたがらないんだよねえ、服調達するのが億劫だって。失礼しちゃう」
それは子供ひとりにおんぶに抱っこするのが嫌だから、服だけで言い訳しているんだろうと真壁は思ったが、それを口にすることはなかった。
真壁が手で水鉄砲の構えを取ると、それでロボットの隙間に毒を打ち込み、一気に錆びさせる。その錆びて動けなくなったところで、蛍の炎を纏った蹴りが入り、一気に壊れる。
ひっきりなしに湧いてくるロボットを追い返していたら、ある程度日が傾いていったところで踵を返して勝手に帰っていく。身勝手にも程のあるロボットたちだった。
「……あいつら、本当になんなんだ」
「知らないよ。帳だったら説明できるのかもだけど、ボクだとなにがなんだかさっぱり。それよりさあ、巧兄ちゃん」
「なんだ」
「ここ戻ってくる気ないの? ボクら強いし。毒くらいじゃ死なないし。そりゃ普通に生活するのは、全然だけど。でもこんなぐっちゃぐちゃな場所だったら、どこでもおんなじじゃない。どーう?」
蛍にそう問いかけられて、真壁は黙り込む。
真壁の服一式は、全て宇宙防衛機構からの配給品だ。彼らに自分の生活一式やら自分から噴出する体液やら全部を分析研究されることで、生活が成り立っている。彼の体液の研究により、オーパーツ被害の死傷者の数も減った。深度がよほど深くならない限りは、彼の毒から開発されたオーパーツ分離液やそれを使った銃器で救出できるし、病院の治療もきちんと受ければ後遺症もなく元の生活に戻れている。
真壁の毒の影響を受けないならば、元の生活に帰るのもありだろう。ずっと焦がれていた故郷なのだから。だが。
「……断る」
「ありゃりゃ。巧兄ちゃん、アイツが好きなの?」
「長瀬か? そんなんじゃねえ」
「でもそれだったらどうして帰ってこないの? なんで?」
「……俺がここで宇宙防衛機構を抜けたら、エージェントの数が減ると思っただけだ」
「なにそれ。わざわざ守る必要あんの?」
「お前らは強い。だが、そうじゃねえ奴らもいる」
実際、真壁が助けてきた中には、深度が浅かったから助かっただけで、異能に引きずり回されてパニック状態になっている子供が大勢いた。
年寄りに至ってはオーパーツが突き刺さっただけで死んでしまい、異形体にならなかっただけで、普通に死体に変わり家族が泣いているのを見た。
そしてそんな彼らに対応しているエージェントの数は、初期に比べれば減り方もずいぶんと変わったらしいが、それでも減るときは減るのだ。
外宇宙からの侵略は絶えない。オーパーツ襲撃は終わらない。そうなった場合、オーパーツをひとつでも多く封印し、オーパーツの被害から人を守る存在が必要だった。
真壁は正義の味方になった覚えはないが、泣いて「助けて」と言っている子供の声を耳を塞いで聞き逃すような臆病者にだけはなりたくなかった。
「お前みたいなガキを助けられなくなる」
「ちぇーっ。ボク強いから助けてもらえないし」
「クソガキが。もしお前が本当に泣いて助けを求めたら助けに行く」
「えー……でもま、安心した。巧兄ちゃんは巧兄ちゃんだったからさあ。惚れた女最優先とかだったら、今頃あの女殺してたしさ」
「やめとけ。あいつはそういう女じゃねえ」
「ふーん。ボク、巧兄ちゃんが女っ気あるの初めて見たけどね。兄ちゃんは毒が出るから、あんまりご飯食べられないんだよね。でもおにぎりあげたらもらってくれる?」
「こんなとこで、そんなもんあるのか?」
「あるよー。鉢植えで稲育ててたおばちゃんがいてねえ。ボクらが一生懸命あのロボット退治してたら、その鉢植えで育ててたお米分けてくれんの。その日ロボット退治した人は褒めてあげなきゃってさあ。もらいに行こうよ。それくらいだったらできるでしょう?」
正直、皆で鍋を囲むとか、食器を使い回すであったら、真壁の毒が原因で最悪人が死ぬが。食べれば完結して食器を使わないものだったら多少は問題ない。
「……わかった。もらう」
「わーい。じゃあ行こう行こう」
こうして、真壁は蛍に案内されて、外からは廃墟にしか見えない中にも、未だに生き残っている営みを見に歩けることとなったのだ。
どこかで子供がはしゃいでいる声が聞こえる。
ボロボロになった街並みにも、人のぬくもりがある。
特にオーパーツ襲撃の際の保険周りや宇宙防衛機構への受注を決定してくれたのは大河総理であり、オーパーツ関連にかかわっている人間で彼に足を向けて眠れる者なんてほぼいないが。
彼の息子三人が封鎖地区に訪問していたなんて話があれば、封鎖地区一帯はオールドメディアにほぼ関心のない地区とはいえど、他の場所であったら人気取りにマスコミが貼り付いていてもおかしくなかったのだが、そんな噂はとんと聞いたことがなかった。
「どういうことなんですか?」
「オーパーツ」
「え……?」
「そいつら、オーパーツが突き刺さって、深度が上がったらしい……早い話、外宇宙人に体が乗っ取られた」
「…………っ!?」
帳の言葉に、長瀬は息を呑んだ。
今まで、水穂以上に深度の上がった人間には出会ったことがないし、体が完全に乗っ取られる前に、ほとんどの異形体は我を忘れて銃殺されるか、体が追いつかずに死んでいた。だが。この土地をたまたま訪れていた現総理の息子が三人揃って外宇宙人に体を乗っ取られたなんて話が世に出回ったら、混乱が半端ない。
ただでさえ、彼らは眉目秀麗ということで、かつてのマスコミはひっきりなしに彼らの情報を流していたのだ。だがたしかに、このところぱったりと彼らの情報が流れていなかった。現総理のおかげでオーパーツ関連の研究調査が進むようになったが、世の中にはオーパーツ襲撃のことを訳わからない方向で取り上げている人間が多過ぎるのだ。
オーパーツ襲撃を地球人に対する罰だとして訴えている新興宗教。オーパーツ関連に予算を回すよりも他に回すべき場所があると訴える政治家。オーパーツの存在自体を懐疑的なものとして見てあることないこと書き続けるゴシップ。
なかなかオーパーツの欠片の刺さった人々を元に戻す方法が見つからなかったのは、なにも真壁を保護した上に彼の体液を使ったオーパーツ分離方法が確立したからだけではない。政治的な問題、ゴシップ的な問題が絡み、なかなかその手の情報が出回らなかったからだ。
(あれか……早乙女さんが軍やら警察やらに根回ししたのは、ひとつでも政治家周りに説得してくれる人を増やすためだったんだ……そんな上からの命令で情報が握りつぶされてたんだったら、そりゃ誰だって調査許可を取れない……)
長瀬が頭が痛いと思いながら、帳と誠を見た。
「それで……私を呼び出したのは結局、どういった要件で?」
「そいつらがうちの地区を勝手に住み着いて迷惑している。この辺り、オーパーツからできたロボットが跋扈してて、年々住みにくくなってるが、ここから俺たちが出て行ったら、いよいよ龍脈を弄られて、テラフォーミングがはじまっちまう。そいつら追い出すだけの武器やら人手やら寄越してほしい」
「!? ちょっと待ってください。龍脈の話と、大河三兄弟の話はそこに繋がるんですか!?」
「おう。最初から言っても、どういう理屈かわかんねえから説明できねえだろ。こっちだって情報選別して取引してんだよ。わかれよ」
「帳ぃー。それいくらなんでも巧の相方さん困るからぁー」
見かねた誠が口を挟みつつ、長瀬に謝る。
「ごめんごめん。頭いい割に説明が無茶苦茶むずくってさ。でも、この地区が魔改造されないように、この地区に残ってる人間が一丸になって戦ってるのは本当。俺らが政府信じられねえのも本当。それで宇宙防衛機構が信用できるかどうかも、巧と長瀬ちゃんの言動で判断するしかねえから、どうしようってことで帳に見てもらった訳なんだけどね。で、帳視点ではどうなのさ?」
誠に話を向けられ、帳はモニターをひとつピックアップすると、それを拡大させる。
真壁が人体発火している蛍と一緒に、訳のわからない動く無機物と戦っているのが映り、長瀬はギョッとする。
「先程おっしゃってたオーパーツでできたロボットってこれですかぁ……」
「そう。一日一回盛大に暴れて帰っていく。ここらの連中一丸になって戦わねえと追い返せねえから、いい加減手を焼いてる」
「……なるほど。それで大河三兄弟は、今この地区のどこに住んでるんですか?」
「この地区、ほとんど廃墟になってっけど、一カ所だけ無事だった場所があって、そいつらそこに勝手に住み着いてる」
「一カ所……ですか?」
「うん。元この地区に住んでたヤのつく自由業の人たちが住んでた屋敷、そいつらオーパーツ襲撃以降見なくなったから、そこに勝手に住んでるの。ここ」
モニターのひとつは、封鎖地区を上から見下ろせるようになっている……どう考えても衛星カメラからの情報なんだが、これも帳の持つ異能の力なのか、それとも帳のハッキング能力の賜なのかが、長瀬にはわからなかった。
ただそこはヤのつく自由業の人々が住んでいたというだけあり、20世紀の面影を残しているこの土地でもかなり頑丈につくられているため、三年前のオーパーツ襲撃で瓦礫の山だらけになってしまった封鎖地区においても数少なくかつても面影が残っている場所のようだった。
「……わかりました。このことは、一度宇宙防衛機構に持ち帰ります。あと、ひとつだけ相談なんですが」
「うん? なになに?」
「……蛍くんですが。私嫌われているみたいなんですが、そのう。彼も宇宙防衛機構に一度連れ帰りたいんですが、おふたりどちらか一緒に来ていただけませんか?」
帳は心底嫌な顔をして、誠を睨んだ。誠はヘラヘラと笑いながら頷く。
「帳は引きこもりだからここから出たくないって。でも、なんで?」
「……人体発火で毎度毎度服が燃え落ちているのは、そのう……服の調達が大変だと思いますので、なんとかならないか、うちの科学責任者に相談したいんです」
「わあ、嬉しい。いっつもいっつも人に頭下げてお古の服もらってくるの、いい加減なんとかならないかって言ってたところだから!」
誠が明るく答えてくれたのに、長瀬はほっとした。
モニターに映る蛍は、元気に人体発火でオーパーツのロボットを蹴り飛ばしながらも、服をどんどんと焼いていたのだから。
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ブスブスと焦げ臭いにおいが漂っている。化学繊維だったらもっと鼻につくにおいだが、これは木綿なのだろう。気のせいか甘い爛れたにおいが漂っていた。
「……クソガキ、そのにおいどうにかならねえのか?」
「仕方ないじゃん。体から火を出したら、時間制限内に火を消さないと服も燃えちゃうんだよね」
「時間制限付きか」
「そうだよぉ。そのせいで、誠兄ちゃんも帳も、ボクひとりで戦わせたがらないんだよねえ、服調達するのが億劫だって。失礼しちゃう」
それは子供ひとりにおんぶに抱っこするのが嫌だから、服だけで言い訳しているんだろうと真壁は思ったが、それを口にすることはなかった。
真壁が手で水鉄砲の構えを取ると、それでロボットの隙間に毒を打ち込み、一気に錆びさせる。その錆びて動けなくなったところで、蛍の炎を纏った蹴りが入り、一気に壊れる。
ひっきりなしに湧いてくるロボットを追い返していたら、ある程度日が傾いていったところで踵を返して勝手に帰っていく。身勝手にも程のあるロボットたちだった。
「……あいつら、本当になんなんだ」
「知らないよ。帳だったら説明できるのかもだけど、ボクだとなにがなんだかさっぱり。それよりさあ、巧兄ちゃん」
「なんだ」
「ここ戻ってくる気ないの? ボクら強いし。毒くらいじゃ死なないし。そりゃ普通に生活するのは、全然だけど。でもこんなぐっちゃぐちゃな場所だったら、どこでもおんなじじゃない。どーう?」
蛍にそう問いかけられて、真壁は黙り込む。
真壁の服一式は、全て宇宙防衛機構からの配給品だ。彼らに自分の生活一式やら自分から噴出する体液やら全部を分析研究されることで、生活が成り立っている。彼の体液の研究により、オーパーツ被害の死傷者の数も減った。深度がよほど深くならない限りは、彼の毒から開発されたオーパーツ分離液やそれを使った銃器で救出できるし、病院の治療もきちんと受ければ後遺症もなく元の生活に戻れている。
真壁の毒の影響を受けないならば、元の生活に帰るのもありだろう。ずっと焦がれていた故郷なのだから。だが。
「……断る」
「ありゃりゃ。巧兄ちゃん、アイツが好きなの?」
「長瀬か? そんなんじゃねえ」
「でもそれだったらどうして帰ってこないの? なんで?」
「……俺がここで宇宙防衛機構を抜けたら、エージェントの数が減ると思っただけだ」
「なにそれ。わざわざ守る必要あんの?」
「お前らは強い。だが、そうじゃねえ奴らもいる」
実際、真壁が助けてきた中には、深度が浅かったから助かっただけで、異能に引きずり回されてパニック状態になっている子供が大勢いた。
年寄りに至ってはオーパーツが突き刺さっただけで死んでしまい、異形体にならなかっただけで、普通に死体に変わり家族が泣いているのを見た。
そしてそんな彼らに対応しているエージェントの数は、初期に比べれば減り方もずいぶんと変わったらしいが、それでも減るときは減るのだ。
外宇宙からの侵略は絶えない。オーパーツ襲撃は終わらない。そうなった場合、オーパーツをひとつでも多く封印し、オーパーツの被害から人を守る存在が必要だった。
真壁は正義の味方になった覚えはないが、泣いて「助けて」と言っている子供の声を耳を塞いで聞き逃すような臆病者にだけはなりたくなかった。
「お前みたいなガキを助けられなくなる」
「ちぇーっ。ボク強いから助けてもらえないし」
「クソガキが。もしお前が本当に泣いて助けを求めたら助けに行く」
「えー……でもま、安心した。巧兄ちゃんは巧兄ちゃんだったからさあ。惚れた女最優先とかだったら、今頃あの女殺してたしさ」
「やめとけ。あいつはそういう女じゃねえ」
「ふーん。ボク、巧兄ちゃんが女っ気あるの初めて見たけどね。兄ちゃんは毒が出るから、あんまりご飯食べられないんだよね。でもおにぎりあげたらもらってくれる?」
「こんなとこで、そんなもんあるのか?」
「あるよー。鉢植えで稲育ててたおばちゃんがいてねえ。ボクらが一生懸命あのロボット退治してたら、その鉢植えで育ててたお米分けてくれんの。その日ロボット退治した人は褒めてあげなきゃってさあ。もらいに行こうよ。それくらいだったらできるでしょう?」
正直、皆で鍋を囲むとか、食器を使い回すであったら、真壁の毒が原因で最悪人が死ぬが。食べれば完結して食器を使わないものだったら多少は問題ない。
「……わかった。もらう」
「わーい。じゃあ行こう行こう」
こうして、真壁は蛍に案内されて、外からは廃墟にしか見えない中にも、未だに生き残っている営みを見に歩けることとなったのだ。
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