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律動
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真壁と長瀬が蛍を連れ帰ったとき、それはそれはもう、早乙女は嬉々として調べようとするものだから、思わず長瀬が早乙女の首根っこを掴む。
「やーめーてーくーだーさーいー! 蛍くんに服を渡すだけですってば!」
「うん、人体発火のケースは異能者で一番多いからね。そのほとんどは、わざわざ自分から人体発火をしないから服の支給まではいかなかったんだけど、まさか三年近くも服を犠牲にしながら人体発火を繰り返すケースがあるというのは驚きでね」
「早乙女さん! 怒りますよっ!?」
長瀬がキィーッ! と怒鳴る中、「いやいやいやいや」と柏葉が渋い顔をしていた。
「そもそも今回の件、本当に続行して大丈夫なんですか? 封鎖地区になんかあるっていうのはもちろんですけど……大河総理のところのご令息が三人揃って外宇宙人になったなんて話、漏洩したら自分たち消されません?」
柏葉のシニカルなツッコミはもっともである。現総理の息子が三人揃って外宇宙人になったことを公表する訳にはいかなかったからこそ、今の今まで封鎖地区の調査許可が降りなかったのだ。それが明るみに出てしまったら、関係者一同消されてもおかしくはない。
宇宙防衛機構はオーパーツ関連の作業を受注しているが所詮は民間企業。上の思惑で簡単に干されるし伸されるし潰される。今までの活躍がいかほどであったとしても、影響力はこんなものである。
柏葉のツッコミに、蛍にちょっかいをかけつつも早乙女がひとつに結わった髪をぷるんぷるん振るわせる。
「んー……宇宙防衛機構としても、大河総理には総理を続けてもらわないと困るんだけどね。そもそも大河総理自身は僕たちを消すことはないんじゃないかなあ。だって現状この国では僕たち以外にオーパーツの対処ができるのいないし。むしろ問題は大河総理の政敵の方だろうねえ」
「……明確にウィークポイントですしね、これ」
「うん、総理の息子たちのためにひとつの地区を見捨てたぁなんてスキャンダル、政敵からしてみれば鴨がネギしょってきたようなレベルの話だから、それで世論を煽って大河総理を辞めさせようとする。ぶっちゃけ僕たちの活動にも支障が出るよね」
「ですよねえ……」
柏葉は存外に現政権と宇宙防衛機構の関係について詳しい。
ふたりのやり取りを聞いていた長瀬は「あ」と声を上げる。
「そういえば柏葉さんは、元々」
「自分? 元々は警視庁の警備部所属ですしねえ……」
マスコミなどでもときどき取り上げられている政治家のSPは、基本的に警視庁警備部所属となっている。要人警備のプロのため、その選抜も厳しい。ちなみに柏葉がそこから出向というのは、ひとえに民間人の避難誘導を的確にできる人間にエージェントの指導を任せたいという意図と、政治家とのコネクションがひとつでも欲しいという宇宙防衛機構側の下心によるものであった。
柏葉が前職でどの政治家のSPをしていたかまではさすがに聞いてはいないが、口ぶりからすると普通に大河三兄弟のことは知っているようだった。
「ところで、大河三兄弟ってどのような方々なんですか? 私もニュースに取り上げられた程度のことしか知らないんですけど」
「体を外宇宙人に乗っ取られているんだったら、あんまり意味ない話かもしれないんですけどねえ……。長男の龍輝は総理大臣秘書を務めていて、未来の総理大臣っていうのはほぼ確実だろうと言われてましたよ。有名私立大学を出て、成績優秀なことに加え、とにかく品行方正でした。政治家も二世三世となったら横柄なのも出てくるんですけど、とにかく育ちがいいって感じでしたね。SPやってたらこんなんも守らないと駄目かと呆れるケースも多かったけど、彼からはそんながっかりした感想は出なかったですねえ」
「若い方でしょうけどすごい方だったんですね……」
「次男の虎徹は生真面目で、元々は財務省で官僚を務めていました。そこを退職してから、草の根活動で県議会の議員に当選。わざわざ父親の母体のない土地から立候補したことで、最初は警戒されてましたけど、とにかくキレ者で自分の元に上がってきた陳情の成果をすぐ見せる人だったから。親の看板もないところで選挙に勝てるっていうのは、もうどれだけ草の根活動ができたかって話ですから、忍耐強い人なんだと思いますね」
「そこはさすがに知りませんでした……その、失礼ですけど……」
「長瀬さん、選挙では顔で入れるタイプ?」
「いえ……そのう。嫌いな人を落とすために、嫌いな人を落としてくれそうな人をいつも選んでます……」
あまりにもの消極的な投票基準に、柏葉は「ははっ」と笑った。
「それも立派な投票基準だと思いますよ。最後に三男の麟太郎ですが」
「……三男なのに太郎なんですね?」
「富裕層だと、養子縁組を視野に入れることもありますから、その都合でその名前だったんだと思いますけどね。彼についてはあまり情報を得ていません。強いて言うならまだ選挙権も立候補の権限もないということ。その代わりかなりボランティアに参加しているということ。たしか封鎖地区に兄弟揃って訪問に行ったのも、ボランティアの一環だったかと」
「十代の子にしてはかなりしっかりしていたんですね……でもそんな人間的にも優れている人たちが外宇宙人に浸食されたとなったら……」
「まあ、野党が真っ先に総理を血祭りに上げようと、オーパーツ対策そっちのけで不信任案を提出するでしょうね。いろんなことが無茶苦茶になるから、この情報を揉み消したのだと」
「ですけど……その代わりにここの地区の方たちが……」
長瀬が複雑な気分に駆られていたら、黙って聞いていた真壁が口を挟んできた。
「うるせえ。同情したら殺すと前にも言ったはずだ」
「……っ、真壁さん。そういう言い方は」
「うちの連中はそこまでやわじゃねえ。その金持ち三兄弟のことは知らん」
どうにも真壁は本気で大河三兄弟や政治系統のことには興味がないせいで、そもそも彼らのことを知らないようだった。長瀬はなんと言ったらいいかと思っていた矢先。
蛍に合うジャージと靴を引っ張り出してきた早乙女が、彼に着せていた。
「これ、真壁くんの分泌液に耐えうる素材でできた服。これなら発火にも耐えられると思うけど、やってみて」
「ええっと……こう?」
「ちょっ、ちょっと早乙女さんっ!?」
長瀬や柏葉が止める間もなく、蛍は人体から発火させる。
たしかに彼の周りは発火しているにもかかわらず、服が燃えていない……すぐにスプリンクラーが発動し、蛍もろとも全員ずぶ濡れになった。ここが休憩室でなかったらパソコンが死んでいた。
「なに考えてるんですか!? 場所考えなかったら機械やられてましたけど!?」
「アハハハハ、ごめんごめん。でもこれで蛍くんの服の問題は解消できそうだね。他に不便なことない? 発火でできることできないこととか掴んでる感じ?」
「うーんと。今のところは問題ないや。ありがとう、おじさん」
「アハハハハハ、真壁くん。君んところの子ちょっと殴っていい?」
「蛍に燃やされるぞ」
「アハハハハハハ……」
しょうもない会話をこなしつつ、「さて」と手を叩く。
「で、その大河三兄弟の体を乗っ取った外宇宙人は封鎖地区に今も潜伏している。あの土地で今も暮らしている面々がレジスタンス活動を行っているものの、物資も足りず人手も足りず、硬直状態で奪還できない。そしてその外宇宙人たちがなにかをつくっているのをどうにかしたいと」
「……封鎖地区のある場所は、龍脈だから、そこに介入することで地球のテラフォーミング化を促進したいんじゃとは、あちらのリーダー格になっていた帳さんから伺いましたけど」
「彼結構頭いいねえ。うちにハッキング仕掛けてたの彼だろう? スカウトできないかなあ」
「無理じゃないでしょうか、その……」
まさか、あのボロボロ状態の封鎖地区でもなお、引きこもりを維持しようとしているほどの気合いの入った引きこもりなのだから、外に出たがらないだろうとは、長瀬も口にしたらあまりにも失礼過ぎて言うのもはばかられていた。
それはさておき、ずっと蛍で遊んでいた早乙女も「さて」とやっと話を元に戻した。
「今は外宇宙人の詳細がわからない以上は、大河三兄弟としか呼べないからそう呼ぶとして。この三人の詳細は、封鎖地区のレジスタンス面々も把握できてないってことでいいね?」
早乙女に尋ねられ、蛍は頷いた。
「しょっちゅう襲われるけど、こいつらが今も封鎖地区にいるのかは知らない。定期的にオーパーツでできたロボットを送り込んでくるから、ボクたちが撃退してたの。さすがにおかしいからってことで、帳が調べたら状況証拠としてこの三人が操ってんだろうってさ」
「なるほど……封鎖地区を欲しいと活動している以上は、テラフォーミングの礎に使いたいという考えはあながち間違ってはいないだろうね。わかった。真壁くん長瀬くん。明日蛍くんを送り次第、封鎖地区の調査を開始してくれたまえ。まあ、現地民から気に入られてるなら、いろいろ人手もくれるだろうさ」
「わかりました……あのう、そちらの皆さんに、食料とか……補給物資持って行ってもよろしいですか? さすがに追い出されてしまった人たちがこっそり補給物資持ってきてたみたいですけど、限度がありますから」
さすがに残っている人々に、もう少しいいものを食べてほしいと思った。長瀬の提案に、早乙女は頷く。
「そうだね。そこは好きにしていい」
「ありがとうございます」
「さすがに補給物資は大変でしょう。自分も車出して手伝っていいですか?」
「いいよ。あと柏葉くんやってもらいたいことあるから。あとで来てね」
「はあい」
柏葉はなにかとエージェント教育やオーパーツ襲撃の際の避難誘導以外に、早乙女のお使いを頼まれて独自行動が多い。
(なんなんだろう……この人が政治家とコネあるから、それでどうこうしているのかな。まあ……今回封鎖地区に行かなかったらわからなかったことがたくさんあるし。それをどうこうしたいって思うのは、仕方ないかも)
そう考えをまとめ、蛍を泊めるために居住区画の空き部屋の片付けをすることにした。
****
居住区画はひとりひと部屋。
真壁のような特殊体質の場合は、早乙女が指揮を執って置いてある家具から部屋壁、塗装まで全部考えなければいけなかったが……結果として、真壁は分泌物質ありとあらゆるものが採取されないといけない部屋と化したが、こんなもの彼の体質さえ考慮しなかったら普通に人権違反である……、彼よりも情報が集まっている人体発火体質の蛍は、せいぜい耐火処理の施された壁紙とマットレスを敷いたベッドを用意すれば済む話だった。
人体発火は異能者たちの中で一番出現係数が多いため、この手の情報の蓄積が一番できていたため、対策自体は用意だった。
「外に遊びに行ったり泊まりに行かないで、ここで大人しく寝ててくださいね?」
長瀬の言葉に、当然ながら蛍はぶうたれた。
「えー……巧兄ちゃんの部屋に遊びに行っちゃ駄目ぇ?」
「駄目ですよ、真壁さんも全身うちが用意した特殊加工の衣食住がなかったら生活できないんですからね。毒塗れになったら、さすがに蛍くんも危ないです」
「ふうん……残念だけど、ボクになにかあったら巧兄ちゃん悲しむからしない」
蛍は長瀬のことは嫌いみたいだが、真壁には懐いているせいか、彼基準で物事を考えているようだった。クソガキ扱いされても可愛げが見え隠れするため、長瀬からしてみれば未だに彼にどんな感情を向けるべきかがわからずに困る。
「ところでさあ……ええっと、長瀬だっけ?」
「はい? なにかありましたか? 食事はここの食堂で取れますけど」
「じゃああとでもらいに行くぅー。ところでアンタ、ここでずっと働いて、どうして巧兄ちゃんの相棒に収まってるの?」
「……まあ、上からの命令ですから」
「ふーん。でさ、あと質問。これ全然わからなかったから普通に疑問なんだけど」
「なんでしょう?」
蛍に嫌われているのはわかっているから、早いところ追い払われると思っていたのに、意外と手放さないのを訝しがっていたら。ひょいっ、と蛍が身を乗り出して尋ねた。
「どうしてアンタ、オーパーツ刺さんないの?」
「……はい?」
唐突に蛍に疑問をぶつけられ、長瀬は目をパチンとさせる。
「さっきさあ。早乙女? その人から服もらうときにもしゃべったけど、ここのエージェント? その人たち、全然長続きしないって。最終的には、アンタが一番長くいるって聞いたからさ。しかもここでずっと引きこもって仕事している早乙女とか、あの警察のシュッコ……なんかそんな人とかがオーパーツに刺さらないのはまだわかるとして。オーパーツ被害に遭う場所に急行しているアンタ、なんで死なないの?」
「……意味がわかりません。私が死なないのの、なにがそんなに疑問……」
「だってさあ……うちの地区。残ってる人たちは皆元気だし、おばちゃんとか皆残って補給品でご飯つくってくれたりしてるけどさ。その前にかなり死んだんだよ。最初の襲撃のときに」
それに長瀬はなんと返せばいいのかがわからなかった。
外から見ると廃墟に見えるが、中に入ってみると牧歌的な空気が流れ、そこを逞しく生きている人々がいた。それに少しだけ感動を覚えたが、それだって長瀬が見た一側面に過ぎない。
蛍が誠や帳と一緒にずっとオーパーツのロボットと戦い続けるほどに、闇や死を見つめ続けてきたのだろう。長瀬が目の前でパートナーがリタイアしていくのを見送った数よりも、彼が看取った数のほうが多い。
「……私は謝れません。私もパートナー、真壁さんが来るまで何人も亡くなってますし、ここを辞めましたから」
「ふうん。ボクやっぱりアンタ嫌い」
「はい」
「まっ、嫌われる元気があるんだったら、巧兄ちゃんともやっていけるんじゃない? 巧兄ちゃんも、いろいろあってほんっとうに自分の話しないからさ。巧兄ちゃんの邪魔するようだったら、ボクのほうがアンタを殺すけど」
「はい」
長瀬は蛍に「しっし」と追い出されるまま部家を出つつ、廊下から彼の部屋を振り返った。
(ふたりとも語彙が似てる……やっぱり同じ地区に住んでいたからかな)
そう複雑に思いつつ、長瀬は歩いて行った。
「どうしてお前が生きててうちのこが死んだ」と、遺族に胸倉を掴まれたことは、一度や二度じゃない。
「あまりにも夢と割が合わないから戻ってこい」は何回か実家から連絡をもらった。
自分はヒーローになれるとは思ってないし、向いてないんじゃないかとは薄々気付いているが、それでも。
柏葉がヒーローに憧れてしまったのと同じで、長瀬は宇宙に焦がれている。
安全な空を返してもらうためには、オーパーツをどうにかするしかないのだ。
「やーめーてーくーだーさーいー! 蛍くんに服を渡すだけですってば!」
「うん、人体発火のケースは異能者で一番多いからね。そのほとんどは、わざわざ自分から人体発火をしないから服の支給まではいかなかったんだけど、まさか三年近くも服を犠牲にしながら人体発火を繰り返すケースがあるというのは驚きでね」
「早乙女さん! 怒りますよっ!?」
長瀬がキィーッ! と怒鳴る中、「いやいやいやいや」と柏葉が渋い顔をしていた。
「そもそも今回の件、本当に続行して大丈夫なんですか? 封鎖地区になんかあるっていうのはもちろんですけど……大河総理のところのご令息が三人揃って外宇宙人になったなんて話、漏洩したら自分たち消されません?」
柏葉のシニカルなツッコミはもっともである。現総理の息子が三人揃って外宇宙人になったことを公表する訳にはいかなかったからこそ、今の今まで封鎖地区の調査許可が降りなかったのだ。それが明るみに出てしまったら、関係者一同消されてもおかしくはない。
宇宙防衛機構はオーパーツ関連の作業を受注しているが所詮は民間企業。上の思惑で簡単に干されるし伸されるし潰される。今までの活躍がいかほどであったとしても、影響力はこんなものである。
柏葉のツッコミに、蛍にちょっかいをかけつつも早乙女がひとつに結わった髪をぷるんぷるん振るわせる。
「んー……宇宙防衛機構としても、大河総理には総理を続けてもらわないと困るんだけどね。そもそも大河総理自身は僕たちを消すことはないんじゃないかなあ。だって現状この国では僕たち以外にオーパーツの対処ができるのいないし。むしろ問題は大河総理の政敵の方だろうねえ」
「……明確にウィークポイントですしね、これ」
「うん、総理の息子たちのためにひとつの地区を見捨てたぁなんてスキャンダル、政敵からしてみれば鴨がネギしょってきたようなレベルの話だから、それで世論を煽って大河総理を辞めさせようとする。ぶっちゃけ僕たちの活動にも支障が出るよね」
「ですよねえ……」
柏葉は存外に現政権と宇宙防衛機構の関係について詳しい。
ふたりのやり取りを聞いていた長瀬は「あ」と声を上げる。
「そういえば柏葉さんは、元々」
「自分? 元々は警視庁の警備部所属ですしねえ……」
マスコミなどでもときどき取り上げられている政治家のSPは、基本的に警視庁警備部所属となっている。要人警備のプロのため、その選抜も厳しい。ちなみに柏葉がそこから出向というのは、ひとえに民間人の避難誘導を的確にできる人間にエージェントの指導を任せたいという意図と、政治家とのコネクションがひとつでも欲しいという宇宙防衛機構側の下心によるものであった。
柏葉が前職でどの政治家のSPをしていたかまではさすがに聞いてはいないが、口ぶりからすると普通に大河三兄弟のことは知っているようだった。
「ところで、大河三兄弟ってどのような方々なんですか? 私もニュースに取り上げられた程度のことしか知らないんですけど」
「体を外宇宙人に乗っ取られているんだったら、あんまり意味ない話かもしれないんですけどねえ……。長男の龍輝は総理大臣秘書を務めていて、未来の総理大臣っていうのはほぼ確実だろうと言われてましたよ。有名私立大学を出て、成績優秀なことに加え、とにかく品行方正でした。政治家も二世三世となったら横柄なのも出てくるんですけど、とにかく育ちがいいって感じでしたね。SPやってたらこんなんも守らないと駄目かと呆れるケースも多かったけど、彼からはそんながっかりした感想は出なかったですねえ」
「若い方でしょうけどすごい方だったんですね……」
「次男の虎徹は生真面目で、元々は財務省で官僚を務めていました。そこを退職してから、草の根活動で県議会の議員に当選。わざわざ父親の母体のない土地から立候補したことで、最初は警戒されてましたけど、とにかくキレ者で自分の元に上がってきた陳情の成果をすぐ見せる人だったから。親の看板もないところで選挙に勝てるっていうのは、もうどれだけ草の根活動ができたかって話ですから、忍耐強い人なんだと思いますね」
「そこはさすがに知りませんでした……その、失礼ですけど……」
「長瀬さん、選挙では顔で入れるタイプ?」
「いえ……そのう。嫌いな人を落とすために、嫌いな人を落としてくれそうな人をいつも選んでます……」
あまりにもの消極的な投票基準に、柏葉は「ははっ」と笑った。
「それも立派な投票基準だと思いますよ。最後に三男の麟太郎ですが」
「……三男なのに太郎なんですね?」
「富裕層だと、養子縁組を視野に入れることもありますから、その都合でその名前だったんだと思いますけどね。彼についてはあまり情報を得ていません。強いて言うならまだ選挙権も立候補の権限もないということ。その代わりかなりボランティアに参加しているということ。たしか封鎖地区に兄弟揃って訪問に行ったのも、ボランティアの一環だったかと」
「十代の子にしてはかなりしっかりしていたんですね……でもそんな人間的にも優れている人たちが外宇宙人に浸食されたとなったら……」
「まあ、野党が真っ先に総理を血祭りに上げようと、オーパーツ対策そっちのけで不信任案を提出するでしょうね。いろんなことが無茶苦茶になるから、この情報を揉み消したのだと」
「ですけど……その代わりにここの地区の方たちが……」
長瀬が複雑な気分に駆られていたら、黙って聞いていた真壁が口を挟んできた。
「うるせえ。同情したら殺すと前にも言ったはずだ」
「……っ、真壁さん。そういう言い方は」
「うちの連中はそこまでやわじゃねえ。その金持ち三兄弟のことは知らん」
どうにも真壁は本気で大河三兄弟や政治系統のことには興味がないせいで、そもそも彼らのことを知らないようだった。長瀬はなんと言ったらいいかと思っていた矢先。
蛍に合うジャージと靴を引っ張り出してきた早乙女が、彼に着せていた。
「これ、真壁くんの分泌液に耐えうる素材でできた服。これなら発火にも耐えられると思うけど、やってみて」
「ええっと……こう?」
「ちょっ、ちょっと早乙女さんっ!?」
長瀬や柏葉が止める間もなく、蛍は人体から発火させる。
たしかに彼の周りは発火しているにもかかわらず、服が燃えていない……すぐにスプリンクラーが発動し、蛍もろとも全員ずぶ濡れになった。ここが休憩室でなかったらパソコンが死んでいた。
「なに考えてるんですか!? 場所考えなかったら機械やられてましたけど!?」
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「アハハハハハハ……」
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「で、その大河三兄弟の体を乗っ取った外宇宙人は封鎖地区に今も潜伏している。あの土地で今も暮らしている面々がレジスタンス活動を行っているものの、物資も足りず人手も足りず、硬直状態で奪還できない。そしてその外宇宙人たちがなにかをつくっているのをどうにかしたいと」
「……封鎖地区のある場所は、龍脈だから、そこに介入することで地球のテラフォーミング化を促進したいんじゃとは、あちらのリーダー格になっていた帳さんから伺いましたけど」
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「無理じゃないでしょうか、その……」
まさか、あのボロボロ状態の封鎖地区でもなお、引きこもりを維持しようとしているほどの気合いの入った引きこもりなのだから、外に出たがらないだろうとは、長瀬も口にしたらあまりにも失礼過ぎて言うのもはばかられていた。
それはさておき、ずっと蛍で遊んでいた早乙女も「さて」とやっと話を元に戻した。
「今は外宇宙人の詳細がわからない以上は、大河三兄弟としか呼べないからそう呼ぶとして。この三人の詳細は、封鎖地区のレジスタンス面々も把握できてないってことでいいね?」
早乙女に尋ねられ、蛍は頷いた。
「しょっちゅう襲われるけど、こいつらが今も封鎖地区にいるのかは知らない。定期的にオーパーツでできたロボットを送り込んでくるから、ボクたちが撃退してたの。さすがにおかしいからってことで、帳が調べたら状況証拠としてこの三人が操ってんだろうってさ」
「なるほど……封鎖地区を欲しいと活動している以上は、テラフォーミングの礎に使いたいという考えはあながち間違ってはいないだろうね。わかった。真壁くん長瀬くん。明日蛍くんを送り次第、封鎖地区の調査を開始してくれたまえ。まあ、現地民から気に入られてるなら、いろいろ人手もくれるだろうさ」
「わかりました……あのう、そちらの皆さんに、食料とか……補給物資持って行ってもよろしいですか? さすがに追い出されてしまった人たちがこっそり補給物資持ってきてたみたいですけど、限度がありますから」
さすがに残っている人々に、もう少しいいものを食べてほしいと思った。長瀬の提案に、早乙女は頷く。
「そうだね。そこは好きにしていい」
「ありがとうございます」
「さすがに補給物資は大変でしょう。自分も車出して手伝っていいですか?」
「いいよ。あと柏葉くんやってもらいたいことあるから。あとで来てね」
「はあい」
柏葉はなにかとエージェント教育やオーパーツ襲撃の際の避難誘導以外に、早乙女のお使いを頼まれて独自行動が多い。
(なんなんだろう……この人が政治家とコネあるから、それでどうこうしているのかな。まあ……今回封鎖地区に行かなかったらわからなかったことがたくさんあるし。それをどうこうしたいって思うのは、仕方ないかも)
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人体発火は異能者たちの中で一番出現係数が多いため、この手の情報の蓄積が一番できていたため、対策自体は用意だった。
「外に遊びに行ったり泊まりに行かないで、ここで大人しく寝ててくださいね?」
長瀬の言葉に、当然ながら蛍はぶうたれた。
「えー……巧兄ちゃんの部屋に遊びに行っちゃ駄目ぇ?」
「駄目ですよ、真壁さんも全身うちが用意した特殊加工の衣食住がなかったら生活できないんですからね。毒塗れになったら、さすがに蛍くんも危ないです」
「ふうん……残念だけど、ボクになにかあったら巧兄ちゃん悲しむからしない」
蛍は長瀬のことは嫌いみたいだが、真壁には懐いているせいか、彼基準で物事を考えているようだった。クソガキ扱いされても可愛げが見え隠れするため、長瀬からしてみれば未だに彼にどんな感情を向けるべきかがわからずに困る。
「ところでさあ……ええっと、長瀬だっけ?」
「はい? なにかありましたか? 食事はここの食堂で取れますけど」
「じゃああとでもらいに行くぅー。ところでアンタ、ここでずっと働いて、どうして巧兄ちゃんの相棒に収まってるの?」
「……まあ、上からの命令ですから」
「ふーん。でさ、あと質問。これ全然わからなかったから普通に疑問なんだけど」
「なんでしょう?」
蛍に嫌われているのはわかっているから、早いところ追い払われると思っていたのに、意外と手放さないのを訝しがっていたら。ひょいっ、と蛍が身を乗り出して尋ねた。
「どうしてアンタ、オーパーツ刺さんないの?」
「……はい?」
唐突に蛍に疑問をぶつけられ、長瀬は目をパチンとさせる。
「さっきさあ。早乙女? その人から服もらうときにもしゃべったけど、ここのエージェント? その人たち、全然長続きしないって。最終的には、アンタが一番長くいるって聞いたからさ。しかもここでずっと引きこもって仕事している早乙女とか、あの警察のシュッコ……なんかそんな人とかがオーパーツに刺さらないのはまだわかるとして。オーパーツ被害に遭う場所に急行しているアンタ、なんで死なないの?」
「……意味がわかりません。私が死なないのの、なにがそんなに疑問……」
「だってさあ……うちの地区。残ってる人たちは皆元気だし、おばちゃんとか皆残って補給品でご飯つくってくれたりしてるけどさ。その前にかなり死んだんだよ。最初の襲撃のときに」
それに長瀬はなんと返せばいいのかがわからなかった。
外から見ると廃墟に見えるが、中に入ってみると牧歌的な空気が流れ、そこを逞しく生きている人々がいた。それに少しだけ感動を覚えたが、それだって長瀬が見た一側面に過ぎない。
蛍が誠や帳と一緒にずっとオーパーツのロボットと戦い続けるほどに、闇や死を見つめ続けてきたのだろう。長瀬が目の前でパートナーがリタイアしていくのを見送った数よりも、彼が看取った数のほうが多い。
「……私は謝れません。私もパートナー、真壁さんが来るまで何人も亡くなってますし、ここを辞めましたから」
「ふうん。ボクやっぱりアンタ嫌い」
「はい」
「まっ、嫌われる元気があるんだったら、巧兄ちゃんともやっていけるんじゃない? 巧兄ちゃんも、いろいろあってほんっとうに自分の話しないからさ。巧兄ちゃんの邪魔するようだったら、ボクのほうがアンタを殺すけど」
「はい」
長瀬は蛍に「しっし」と追い出されるまま部家を出つつ、廊下から彼の部屋を振り返った。
(ふたりとも語彙が似てる……やっぱり同じ地区に住んでいたからかな)
そう複雑に思いつつ、長瀬は歩いて行った。
「どうしてお前が生きててうちのこが死んだ」と、遺族に胸倉を掴まれたことは、一度や二度じゃない。
「あまりにも夢と割が合わないから戻ってこい」は何回か実家から連絡をもらった。
自分はヒーローになれるとは思ってないし、向いてないんじゃないかとは薄々気付いているが、それでも。
柏葉がヒーローに憧れてしまったのと同じで、長瀬は宇宙に焦がれている。
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