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案の定というべきか、御坂さんに取材が入ったことは、教室の皆が知っていた。
「すっごいじゃん! 映見、もしかするとデビュー決まっちゃうかもよ?」
「すごくないすごくない。ローカル局で一曲歌うだけだし」
「でも今だったらネットでローカル局の番組も見られるもん」
人気者グループの皆がやんややんやと喝采している中、御坂さんだけは顔を引きつらせている。それを見ていると、人気者って大変なんだなとアカウント盗られているのに、少しだけ同情してしまった。
だって、人気者は常に人気になる情報を振りまかないと、いつまでも人気者ではいられないから。
そうこうしている間に、御坂さんが友達と一緒にカラオケ屋に行くことになった。私と東雲くんは一緒にそのカラオケ屋に行くことになったとき、私と彼の接点を知らない面々は当然ながら怪訝な顔をした。
「あれ、東雲。いつの間に木下さんと仲良くなったの?」
「うーん、いろいろ」
「マジぃ?」
カラオケ屋の前には、当然ながらテレビ局のスタッフが来ていた。
「今日はよろしくお願いします」
「お願いしまーす」
いろいろ打ち合わせをして、御坂さんがカラオケを歌うシーンを撮ることになったけれど。私はそれをハラハラしながら見ていた。
彼女が歌う曲は、今まで私たちのアカウントにアップしたことのない曲だ。上手いことには上手いけれど。
(……私のほうが上手く歌えるって言ったら、失礼なんだろうな。きっと)
私はそう思いながら、皆で拍手をしているのを見ていた。
周りも少しだけ首を傾げている。
「なんかアカウントと声違わない? 録音のせい?」
「えー……そんなことないよぉ」
御坂さんが痛々しい。あの子は多分いい子だけれど、目立ち方を間違えてしまったんだ。
私がちらりと東雲くんを見ると、東雲くんは小さく言った。
「木下、かましてやれ」
私は周りを見た。
テレビ局のスタッフも「もうちょっとリラックスして」と言って御坂さんを撮り続けている。綺麗なストレートヘア、爪先までピカピカに磨き抜かれてて可愛くって、友達思いの優しい子。でも、ずっと人気者でいるために、いろんなネタを拾い続けないといけない女の子。
対して私は、可愛くもなければ優しくもない、東雲くんの影に隠れてなかったら、ひとりで歌うことしかできない。
このギャラリーの前で歌うのは、もし私たちのつくったアカウントがかかっていなかったら無理だった。
私が迷わず空いているマイクに手を取り、電源を入れた途端に、周りがぱっとこちらに視線を寄せてきた。
怖……くない。怖くない。大丈夫。
喉が突っ張りそうになるのを堪える。
「木下さん? 今撮影中で」
「……こ、れは。私たちのアカウントだから」
「えっ?」
御坂さんが困惑したように、こちらを見てきた。
あなたのことは嫌いじゃない。でも、あなたがアカウント盗ったのは、嫌だから。
イントロがはじまった途端に、なにかがプツンと切れた。今まで「無理」「駄目」「人怖い」と思っていたのが嘘のように、膜一枚隔てられたかのように、気持ちが静かになる。
私の歌が、一気に弾けた。
途端に周りがぎょっとしたようにこちらを凝視してきた。
なぜかこの中で、東雲くんだけ満足げに腕を組んで頷いていた。これはいわゆる後方彼氏面という奴ではないのか。
一曲が永遠にも思えた。でも、そんなことはなくて、あっという間だった。
歌を終えた私がプツン、と電源を切った途端に、テレビ局の人は大興奮だった。
「すごい! まさか可愛い子と地味な子でギャップを見せてくるなんて!」
地味……。わかってはいたけれど、本当にそういうこと言うんだな。私がもやもやしていたら、御坂さんが「木下さんすごい!」と拍手をしてきた。
「これは、木下さんのアカウントですから」
「え……?」
「私が友達になりたくってやったことですから」
「は……?」
そう言い張られたら、周りもなあなあでなんか納得してしまったし、テレビ局の人たちも丸め込まれてしまった……ううん、多分丸め込まれたというより、そっちのほうがギャップで面白い絵になると思っただけだと思う。
帰りに皆で別れたあと、当然ながら東雲くんが御坂さんに苦言を呈した。
「御坂ー、あれはいくらなんでもない。木下の歌い損じゃん」
「どうして東雲が木下さんの歌上手いって知ってるの」
「だってあのアカウント管理しているの俺だし。歌ってるのは木下だけど」
「へあ?」
御坂さんは私と東雲くんを交互に見た。
「もしかして……ふたりは付き合って」
「違う」「ちがいますっ」
ほぼ同時に声が出たので、御坂さんは噴き出した。
「うん、ごめん。でも……木下さんと一緒にカラオケに行きたかったのは本当だよ」
なんというか、可愛い子って得だなあと思った。
彼女のしたことは、世間一般だったら許されないことなのかもしれない。でも私は彼女にほだされてしまったし、ふたりに目標を伝えた。
「あの……東雲くん。アカウント削除してもらっていいかな?」
「ええ……まさかテレビに出るのが嫌だった?」
「と、いうより……人前で歌っても大丈夫だって、ようやく自身ができたから、今度オーディションに出てみたいの」
そう言って、近所にやってくるのど自慢コンテストの宣伝をスマホで見せてみた。
それに、東雲くんと御坂さんは顔を見合わせた。
「おう、かましたれかましたれ」
「頑張って、木下さん」
「うん」
しゃべるのが苦手で、上がり症。それでも歌だけは好きだった。
私の好きなものが、私に友達をつくってくれた。
なんか人気者って大変なんだなと傍から見て思っていたけれど、同じ轍を踏まないように、今度は自分の足で頑張ってみるよ。
<了>
「すっごいじゃん! 映見、もしかするとデビュー決まっちゃうかもよ?」
「すごくないすごくない。ローカル局で一曲歌うだけだし」
「でも今だったらネットでローカル局の番組も見られるもん」
人気者グループの皆がやんややんやと喝采している中、御坂さんだけは顔を引きつらせている。それを見ていると、人気者って大変なんだなとアカウント盗られているのに、少しだけ同情してしまった。
だって、人気者は常に人気になる情報を振りまかないと、いつまでも人気者ではいられないから。
そうこうしている間に、御坂さんが友達と一緒にカラオケ屋に行くことになった。私と東雲くんは一緒にそのカラオケ屋に行くことになったとき、私と彼の接点を知らない面々は当然ながら怪訝な顔をした。
「あれ、東雲。いつの間に木下さんと仲良くなったの?」
「うーん、いろいろ」
「マジぃ?」
カラオケ屋の前には、当然ながらテレビ局のスタッフが来ていた。
「今日はよろしくお願いします」
「お願いしまーす」
いろいろ打ち合わせをして、御坂さんがカラオケを歌うシーンを撮ることになったけれど。私はそれをハラハラしながら見ていた。
彼女が歌う曲は、今まで私たちのアカウントにアップしたことのない曲だ。上手いことには上手いけれど。
(……私のほうが上手く歌えるって言ったら、失礼なんだろうな。きっと)
私はそう思いながら、皆で拍手をしているのを見ていた。
周りも少しだけ首を傾げている。
「なんかアカウントと声違わない? 録音のせい?」
「えー……そんなことないよぉ」
御坂さんが痛々しい。あの子は多分いい子だけれど、目立ち方を間違えてしまったんだ。
私がちらりと東雲くんを見ると、東雲くんは小さく言った。
「木下、かましてやれ」
私は周りを見た。
テレビ局のスタッフも「もうちょっとリラックスして」と言って御坂さんを撮り続けている。綺麗なストレートヘア、爪先までピカピカに磨き抜かれてて可愛くって、友達思いの優しい子。でも、ずっと人気者でいるために、いろんなネタを拾い続けないといけない女の子。
対して私は、可愛くもなければ優しくもない、東雲くんの影に隠れてなかったら、ひとりで歌うことしかできない。
このギャラリーの前で歌うのは、もし私たちのつくったアカウントがかかっていなかったら無理だった。
私が迷わず空いているマイクに手を取り、電源を入れた途端に、周りがぱっとこちらに視線を寄せてきた。
怖……くない。怖くない。大丈夫。
喉が突っ張りそうになるのを堪える。
「木下さん? 今撮影中で」
「……こ、れは。私たちのアカウントだから」
「えっ?」
御坂さんが困惑したように、こちらを見てきた。
あなたのことは嫌いじゃない。でも、あなたがアカウント盗ったのは、嫌だから。
イントロがはじまった途端に、なにかがプツンと切れた。今まで「無理」「駄目」「人怖い」と思っていたのが嘘のように、膜一枚隔てられたかのように、気持ちが静かになる。
私の歌が、一気に弾けた。
途端に周りがぎょっとしたようにこちらを凝視してきた。
なぜかこの中で、東雲くんだけ満足げに腕を組んで頷いていた。これはいわゆる後方彼氏面という奴ではないのか。
一曲が永遠にも思えた。でも、そんなことはなくて、あっという間だった。
歌を終えた私がプツン、と電源を切った途端に、テレビ局の人は大興奮だった。
「すごい! まさか可愛い子と地味な子でギャップを見せてくるなんて!」
地味……。わかってはいたけれど、本当にそういうこと言うんだな。私がもやもやしていたら、御坂さんが「木下さんすごい!」と拍手をしてきた。
「これは、木下さんのアカウントですから」
「え……?」
「私が友達になりたくってやったことですから」
「は……?」
そう言い張られたら、周りもなあなあでなんか納得してしまったし、テレビ局の人たちも丸め込まれてしまった……ううん、多分丸め込まれたというより、そっちのほうがギャップで面白い絵になると思っただけだと思う。
帰りに皆で別れたあと、当然ながら東雲くんが御坂さんに苦言を呈した。
「御坂ー、あれはいくらなんでもない。木下の歌い損じゃん」
「どうして東雲が木下さんの歌上手いって知ってるの」
「だってあのアカウント管理しているの俺だし。歌ってるのは木下だけど」
「へあ?」
御坂さんは私と東雲くんを交互に見た。
「もしかして……ふたりは付き合って」
「違う」「ちがいますっ」
ほぼ同時に声が出たので、御坂さんは噴き出した。
「うん、ごめん。でも……木下さんと一緒にカラオケに行きたかったのは本当だよ」
なんというか、可愛い子って得だなあと思った。
彼女のしたことは、世間一般だったら許されないことなのかもしれない。でも私は彼女にほだされてしまったし、ふたりに目標を伝えた。
「あの……東雲くん。アカウント削除してもらっていいかな?」
「ええ……まさかテレビに出るのが嫌だった?」
「と、いうより……人前で歌っても大丈夫だって、ようやく自身ができたから、今度オーディションに出てみたいの」
そう言って、近所にやってくるのど自慢コンテストの宣伝をスマホで見せてみた。
それに、東雲くんと御坂さんは顔を見合わせた。
「おう、かましたれかましたれ」
「頑張って、木下さん」
「うん」
しゃべるのが苦手で、上がり症。それでも歌だけは好きだった。
私の好きなものが、私に友達をつくってくれた。
なんか人気者って大変なんだなと傍から見て思っていたけれど、同じ轍を踏まないように、今度は自分の足で頑張ってみるよ。
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