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カラスは告げる
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季節はそろそろ木イチゴを摘む時期になる。本来ならば、獅子皇国も木イチゴを摘むために老若男女問わず外に駆り出されるのだが、幽閉されている塔では、当然ながら木イチゴ摘みはできない。
それに気付いたのかどうかは知らないが、カスパルが食料を運びに来た際に、どっさりと木イチゴを持ってきてくれた。
樽いっぱいの木イチゴを見て、ハンナはおろおろおろとした顔でカスパルと木イチゴを見比べた。
「すごい……でも、戦争で人手が……」
「若くて前線に出せない騎士は城に残ってますしね。城に残ってるもんに摘ませました」
「でも、これだけ私たち三人では食べきれない……」
「そこは、ジャムにするなりコンポートにするなりお好きに。必要ならばハチミツも砂糖も持ってきますんで」
「じゃあ、ジャムにだったら……あの、木イチゴの葉っぱとかはありますか? あれで消毒液とかつくれるんですけど」
「ありませんでした? 必要ならば、若い連中に摘ませますけど」
ふたりがのんびりとしゃべっているのを聞きながら、「あのう……」とアンジェリカが話に割り込んだ。
「それで、ユリウスは?」
「……今も軍議中ですよ」
「そうですか……ありがとうございます」
「前にも申しましたが、本当に殿下は心変わりもしておらず、姫様の身をずっと案じておられますよ。そういえば」
「はい?」
カスパルはアンジェリカのほうを上から下までまじまじと見た。思わずアンジェリカはたじろぐ。
幽閉生活も数ヶ月に及ぶが、運動不足にならないよう階段を上り下りしていたが、季節の変わり目に洗い物をしたり、洗濯物を干したり。時にはユールの薬づくりの手伝いをして重いものを女三人で持ち運びしていたら太る暇などなく、だからと言って痩せてはいないから、体型自体はそこまで大きく変わってないはずだ。
だからジロジロと見られても、アンジェリカも反応に困る。
アンジェリカに替わって、とうとうユールが声を荒げた。
「なんですか、姫様をジロジロジロジロ見て。先日の神託ですが、あれからなんの進展もないのですか!?」
「いえ。神託の件は未だに神殿で協議中でして。ただ、姫様の発情期は問題ないのかと思いましてね。場所的にも殿下は姫様が発情期に入ったらすぐわかるとは思いますが、それにしたっておかしな話だと思いましてね」
「だから、なんの話ですか!?」
カスパルはどれだけユールに冷たいことを言われても、激しく罵られても、態度を変えることは一切ない。カスパルの言いたいことがわからず、アンジェリカはおろおろしながら彼の次の言葉を待っていたら、するりと言ってのけてきた。
「……体調が崩れたり、ストレスが溜まったりすると、発情期がずれることがあるそうですが。それにしたってこうもずれるのは都合がよ過ぎやしないかと思いましてね」
「いい加減なことばっかり……!」
とうとうユールが怒って柑橘類のジャムを詰めていた瓶をぶん投げたら、カスパルは這々の体で逃げてしまい、外からさっさと鍵をかけていってしまった。
ユールは「もう!」と怒る。ハンナはおろおろしつつも、「えっと、ジャムをつくりたいんですけど、皇太子妃様はどうですか?」となんとか話を変えようと試みていた。
それにアンジェリカもどうにか乗る。
「ええ、私の味見したいし、お手伝いすることはある?」
「なら布で木イチゴを拭いてください。拭き終わった木イチゴを鍋に入れて、コトコト煮ますから」
こうして、今日一日は木イチゴジャムづくりに使うことになった次第であった。
****
木イチゴを布でよく拭き、へたを取って鍋に入れる。ある程度溜まったら、その上から砂糖をかけて、弱火でじっくりと火を通す。
やっていることは至ってシンプルだが、火をかけながらハンナは一生懸命アクを取っているし、ユールは保存用の瓶を煮沸しているのだから、ジャムづくりはなかなかに大変なものだった。
「でも……今、戦況はどうなっているのかしら」
「護衛騎士のカスパルが姫様の見張りから動いてないところからして、こちらが思っているよりも落ち着いているのかとは思いますが」
「神殿の神託のこともわからないままだし」
「それはそうですが……」
アンジェリカはハンナがアクを捨てている小鍋がパンパンになったのを見計らって「それ捨ててきていい?」と尋ねると、ハンナが頷いた。
「お願いします! ええっと、あんまり難しい話はよくわからないんですけれど」
ハンナは後宮からほぼほぼ外に出たことがないため、知識に偏りがあるものの、アンジェリカとユールの会話を聞いていろいろと思うところがあったらしく、口を挟んできた。
「カスパル様は皇太子様の命令はなにがあっても絶対に守りますから、カスパル様だけを見ていても当てにならないように思えます」
ユリウスの異母兄妹であり、長らく後宮でユリウスとカスパル主従を見ていた彼女ならではの視点である。
乳姉弟であり、ユリウス専属の護衛騎士。ユリウスがカスパルに「皇太子妃を見張れ」と言えば、それでユリウスがどうなっていても絶対にここから離れないという話だ。思わずアンジェリカとユールは顔を見合わせた。
ひとまず、アンジェリカは小鍋に溜まったアクを捨てに出かける。アクを捨てに出かけた先で、窓縁にコツコツと音がすることに気付き、アンジェリカは窓のほうに視線を移した。
そこにはユールの飼っているカラスがいた。アンジェリカは慌てて窓の外を眺める。カスパルや神官たちがどこにいるのかがわからない。
アンジェリカは小さく魔術の呪文を唱えた。彼女の習った魔術は、ユールほど精巧なものではないものの、目くらまし程度ならば充分に使える。アンジェリカは防音の魔術を使ってから、そっと窓を開けた。柵があるから窓から身を乗り出すことはできないものの、カラスの脚に括り付けられた手紙を取ってそれを読むことくらいならばできた。
(本当にいつぶりの手紙かしら……いったい、魔術師団はなんと?)
心臓がドキドキするのを堪えながら、アンジェリカは手早く手紙を読んだ。
【そろそろ姫様を救助に向かいます】
「……え?」
内容をもう一度読んだ。
なにがどうなっているのかがわからない。
アンジェリカに与えられた指令は、後宮を乗っ取ること。後宮が乗っ取れなかった旨を伝えた次は、皇太子と仲睦まじく日常を過ごすこと。
そして今は、救助。
いちいち矛盾しているのだ。そもそもの問題。
(どこの誰が来るのかわからないけれど、こんなことしたら白狼王国の人が皆殺しにされるに決まってるじゃない! 既にここは護衛騎士だけでなく神官まで見張ってるんだから、魔術だけじゃ勝てない! そもそも騎士団の練度だって圧倒的に獅子皇国のほうが上だし……! でも……)
どう考えても。塔は見張られているし、ここでカラスに手紙を括り付けて飛ばしたとしても、その手紙は白狼王国の陣地に辿り着く前に、獅子皇国の誰かに見つかる可能性が高い。そこでアンジェリカの手紙を検められたら、内通者としてアンジェリカの処刑は免れない。だからと言って、祖国の人間をおめおめと殺すこともできない。
結局見られてもかまわないと判断した文章は短いものだった。
【必要ありません】
それだけをカラスに括り付けて送り返した。カラスが羽ばたいていったのを確認してから、アンジェリカは防音の魔術を解くと、ユールが降りてきた。
「姫様、今わたくしのカラスが窓に留まっていませんでしたか?」
「……ユール、どうしましょう」
「姫様?」
「ここに私を助けに白狼王国の方が来るって。でも……ここはカスパルや獅子皇国の神官たちが見張っているのよ? 無理よ。うちの国の練度では、騎士だったら絶対に獅子皇国には勝てない……皆殺されちゃう……」
「……姫様。あくまで、わたくしの意見ですが、よろしいですか?」
「ユール?」
ユールは一瞬息を吸うと、アンジェリカの頬を張った。普段ユールは絶対にアンジェリカに手を挙げることはない。これが初めてユールがアンジェリカの頬を張った瞬間であった。
「あなた様は今、どこのどなたになられますか!?」
「ユール?」
「あなたは獅子皇国の皇太子妃! いくら神官や護衛騎士であろうとも、獅子皇国の民を心配せずに白狼王国の民の心配ばかりする皇太子妃がどこにいるというのですか!」
「……でも」
「白狼王国も、本来ならば穏やかな国柄の平和な国だったかと存じます。が、魔術師団が戦争で成果を見せるごとに増長し、王族から少しずつ様々な権限を取り上げてしまいました! はっきり言いましょう。姫様は利用されているのです! わたくし、何度も何度も申しましたでしょう。いい加減白狼王国の未練を捨てて、獅子皇国の者として生きたほうがいいと! 魔術師団にはわたくしが必死になって誤魔化してきましたのに! もう姫様を利用するのをやめてほしいから!」
「……っ!」
その言葉に、とうとうアンジェリカもユールに頬を張り返した。
「私だってこの国の皇太子妃として生きられたらと思ってるわ! でも……ユリウスがなにを考えているのかわからない! 私を利用しようとしているのか、なにも教えてくれないし、なにも話してくれないから! 私だって戦争は嫌だし、誰かが傷付くのは嫌だわ! でも、どうしたらいいの!?」
「……ハンナも言っていたでしょう。カスパルは少なくとも、殿下のことでは絶対に嘘をつきません。彼がわたくしたちの監視から外れない以上、殿下も多分この件を察している。わたくしたちは、ただ耐えましょう。わたくしたちにできる戦いは、今はそれだけですから」
「……ええ」
アンジェリカが目尻から涙を流していたら、パタパタとハンナが降りてきた。
「あ、あの!? 先程から頬を叩く音が聞こえて……おふたりともどうされたんですか!?」
「いえ、ちょっと」
「元気がなかったから、ユールに気合いを入れてもらって、私もユールに気合いを入れ直したの」
「頬を叩くのは駄目ですよぉ!」
本気でわかっていないハンナは、涙目になりながらふたりに濡れタオルを持ってきたのに、ふたりは顔を見合わせた。
相変わらずユリウスからの連絡はない。
だが、そろそろ事態は動く。白狼王国の何者かがここに来たとき、やっとなにかがはじまって、なにかが終わるのだ。
それに気付いたのかどうかは知らないが、カスパルが食料を運びに来た際に、どっさりと木イチゴを持ってきてくれた。
樽いっぱいの木イチゴを見て、ハンナはおろおろおろとした顔でカスパルと木イチゴを見比べた。
「すごい……でも、戦争で人手が……」
「若くて前線に出せない騎士は城に残ってますしね。城に残ってるもんに摘ませました」
「でも、これだけ私たち三人では食べきれない……」
「そこは、ジャムにするなりコンポートにするなりお好きに。必要ならばハチミツも砂糖も持ってきますんで」
「じゃあ、ジャムにだったら……あの、木イチゴの葉っぱとかはありますか? あれで消毒液とかつくれるんですけど」
「ありませんでした? 必要ならば、若い連中に摘ませますけど」
ふたりがのんびりとしゃべっているのを聞きながら、「あのう……」とアンジェリカが話に割り込んだ。
「それで、ユリウスは?」
「……今も軍議中ですよ」
「そうですか……ありがとうございます」
「前にも申しましたが、本当に殿下は心変わりもしておらず、姫様の身をずっと案じておられますよ。そういえば」
「はい?」
カスパルはアンジェリカのほうを上から下までまじまじと見た。思わずアンジェリカはたじろぐ。
幽閉生活も数ヶ月に及ぶが、運動不足にならないよう階段を上り下りしていたが、季節の変わり目に洗い物をしたり、洗濯物を干したり。時にはユールの薬づくりの手伝いをして重いものを女三人で持ち運びしていたら太る暇などなく、だからと言って痩せてはいないから、体型自体はそこまで大きく変わってないはずだ。
だからジロジロと見られても、アンジェリカも反応に困る。
アンジェリカに替わって、とうとうユールが声を荒げた。
「なんですか、姫様をジロジロジロジロ見て。先日の神託ですが、あれからなんの進展もないのですか!?」
「いえ。神託の件は未だに神殿で協議中でして。ただ、姫様の発情期は問題ないのかと思いましてね。場所的にも殿下は姫様が発情期に入ったらすぐわかるとは思いますが、それにしたっておかしな話だと思いましてね」
「だから、なんの話ですか!?」
カスパルはどれだけユールに冷たいことを言われても、激しく罵られても、態度を変えることは一切ない。カスパルの言いたいことがわからず、アンジェリカはおろおろしながら彼の次の言葉を待っていたら、するりと言ってのけてきた。
「……体調が崩れたり、ストレスが溜まったりすると、発情期がずれることがあるそうですが。それにしたってこうもずれるのは都合がよ過ぎやしないかと思いましてね」
「いい加減なことばっかり……!」
とうとうユールが怒って柑橘類のジャムを詰めていた瓶をぶん投げたら、カスパルは這々の体で逃げてしまい、外からさっさと鍵をかけていってしまった。
ユールは「もう!」と怒る。ハンナはおろおろしつつも、「えっと、ジャムをつくりたいんですけど、皇太子妃様はどうですか?」となんとか話を変えようと試みていた。
それにアンジェリカもどうにか乗る。
「ええ、私の味見したいし、お手伝いすることはある?」
「なら布で木イチゴを拭いてください。拭き終わった木イチゴを鍋に入れて、コトコト煮ますから」
こうして、今日一日は木イチゴジャムづくりに使うことになった次第であった。
****
木イチゴを布でよく拭き、へたを取って鍋に入れる。ある程度溜まったら、その上から砂糖をかけて、弱火でじっくりと火を通す。
やっていることは至ってシンプルだが、火をかけながらハンナは一生懸命アクを取っているし、ユールは保存用の瓶を煮沸しているのだから、ジャムづくりはなかなかに大変なものだった。
「でも……今、戦況はどうなっているのかしら」
「護衛騎士のカスパルが姫様の見張りから動いてないところからして、こちらが思っているよりも落ち着いているのかとは思いますが」
「神殿の神託のこともわからないままだし」
「それはそうですが……」
アンジェリカはハンナがアクを捨てている小鍋がパンパンになったのを見計らって「それ捨ててきていい?」と尋ねると、ハンナが頷いた。
「お願いします! ええっと、あんまり難しい話はよくわからないんですけれど」
ハンナは後宮からほぼほぼ外に出たことがないため、知識に偏りがあるものの、アンジェリカとユールの会話を聞いていろいろと思うところがあったらしく、口を挟んできた。
「カスパル様は皇太子様の命令はなにがあっても絶対に守りますから、カスパル様だけを見ていても当てにならないように思えます」
ユリウスの異母兄妹であり、長らく後宮でユリウスとカスパル主従を見ていた彼女ならではの視点である。
乳姉弟であり、ユリウス専属の護衛騎士。ユリウスがカスパルに「皇太子妃を見張れ」と言えば、それでユリウスがどうなっていても絶対にここから離れないという話だ。思わずアンジェリカとユールは顔を見合わせた。
ひとまず、アンジェリカは小鍋に溜まったアクを捨てに出かける。アクを捨てに出かけた先で、窓縁にコツコツと音がすることに気付き、アンジェリカは窓のほうに視線を移した。
そこにはユールの飼っているカラスがいた。アンジェリカは慌てて窓の外を眺める。カスパルや神官たちがどこにいるのかがわからない。
アンジェリカは小さく魔術の呪文を唱えた。彼女の習った魔術は、ユールほど精巧なものではないものの、目くらまし程度ならば充分に使える。アンジェリカは防音の魔術を使ってから、そっと窓を開けた。柵があるから窓から身を乗り出すことはできないものの、カラスの脚に括り付けられた手紙を取ってそれを読むことくらいならばできた。
(本当にいつぶりの手紙かしら……いったい、魔術師団はなんと?)
心臓がドキドキするのを堪えながら、アンジェリカは手早く手紙を読んだ。
【そろそろ姫様を救助に向かいます】
「……え?」
内容をもう一度読んだ。
なにがどうなっているのかがわからない。
アンジェリカに与えられた指令は、後宮を乗っ取ること。後宮が乗っ取れなかった旨を伝えた次は、皇太子と仲睦まじく日常を過ごすこと。
そして今は、救助。
いちいち矛盾しているのだ。そもそもの問題。
(どこの誰が来るのかわからないけれど、こんなことしたら白狼王国の人が皆殺しにされるに決まってるじゃない! 既にここは護衛騎士だけでなく神官まで見張ってるんだから、魔術だけじゃ勝てない! そもそも騎士団の練度だって圧倒的に獅子皇国のほうが上だし……! でも……)
どう考えても。塔は見張られているし、ここでカラスに手紙を括り付けて飛ばしたとしても、その手紙は白狼王国の陣地に辿り着く前に、獅子皇国の誰かに見つかる可能性が高い。そこでアンジェリカの手紙を検められたら、内通者としてアンジェリカの処刑は免れない。だからと言って、祖国の人間をおめおめと殺すこともできない。
結局見られてもかまわないと判断した文章は短いものだった。
【必要ありません】
それだけをカラスに括り付けて送り返した。カラスが羽ばたいていったのを確認してから、アンジェリカは防音の魔術を解くと、ユールが降りてきた。
「姫様、今わたくしのカラスが窓に留まっていませんでしたか?」
「……ユール、どうしましょう」
「姫様?」
「ここに私を助けに白狼王国の方が来るって。でも……ここはカスパルや獅子皇国の神官たちが見張っているのよ? 無理よ。うちの国の練度では、騎士だったら絶対に獅子皇国には勝てない……皆殺されちゃう……」
「……姫様。あくまで、わたくしの意見ですが、よろしいですか?」
「ユール?」
ユールは一瞬息を吸うと、アンジェリカの頬を張った。普段ユールは絶対にアンジェリカに手を挙げることはない。これが初めてユールがアンジェリカの頬を張った瞬間であった。
「あなた様は今、どこのどなたになられますか!?」
「ユール?」
「あなたは獅子皇国の皇太子妃! いくら神官や護衛騎士であろうとも、獅子皇国の民を心配せずに白狼王国の民の心配ばかりする皇太子妃がどこにいるというのですか!」
「……でも」
「白狼王国も、本来ならば穏やかな国柄の平和な国だったかと存じます。が、魔術師団が戦争で成果を見せるごとに増長し、王族から少しずつ様々な権限を取り上げてしまいました! はっきり言いましょう。姫様は利用されているのです! わたくし、何度も何度も申しましたでしょう。いい加減白狼王国の未練を捨てて、獅子皇国の者として生きたほうがいいと! 魔術師団にはわたくしが必死になって誤魔化してきましたのに! もう姫様を利用するのをやめてほしいから!」
「……っ!」
その言葉に、とうとうアンジェリカもユールに頬を張り返した。
「私だってこの国の皇太子妃として生きられたらと思ってるわ! でも……ユリウスがなにを考えているのかわからない! 私を利用しようとしているのか、なにも教えてくれないし、なにも話してくれないから! 私だって戦争は嫌だし、誰かが傷付くのは嫌だわ! でも、どうしたらいいの!?」
「……ハンナも言っていたでしょう。カスパルは少なくとも、殿下のことでは絶対に嘘をつきません。彼がわたくしたちの監視から外れない以上、殿下も多分この件を察している。わたくしたちは、ただ耐えましょう。わたくしたちにできる戦いは、今はそれだけですから」
「……ええ」
アンジェリカが目尻から涙を流していたら、パタパタとハンナが降りてきた。
「あ、あの!? 先程から頬を叩く音が聞こえて……おふたりともどうされたんですか!?」
「いえ、ちょっと」
「元気がなかったから、ユールに気合いを入れてもらって、私もユールに気合いを入れ直したの」
「頬を叩くのは駄目ですよぉ!」
本気でわかっていないハンナは、涙目になりながらふたりに濡れタオルを持ってきたのに、ふたりは顔を見合わせた。
相変わらずユリウスからの連絡はない。
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