26 / 28
新しい神話
しおりを挟む
七日間、発情期を番ふたりで過ごした結果、医師に診てもらったらしっかりと妊娠していたのは確認取れた。
皇帝陛下からは「しばらくは使い物にならない」と言われたユリウスは、しばしの間休みを出された。その間、ふたりは図書館に行ったり、神殿へと訪問したりとしながら生活することとなったのだ。
「よろしいんですか? いくら陛下から追い払われたからと言っても、皇太子殿下がずっと後宮に入りっぱなしというのは」
「まあ、大丈夫だろう。どのみち、皇帝陛下からしてみれば俺がいろいろと国政を変えたがっているのを渋っていたからな」
「ユリウスを国政から遠ざける大義名分ですか、私の妊娠は」
「それだけではないんだろうが、あの人もそれ以上は言えないだろうなあ」
「どういうことですか?」
神官に訪問しているのは、新しい治癒魔術の編纂のためだった。アンジェリカの覚えている魔術を神官たちが解析し、そこから加護をどうにかやり過ごすための隙間を探して、術式の発動を促す隙はないかと研究されていた。
まだ大きく形にはなっていないが、アンジェリカとユリウスの起こした魔術の裏技をどうにか術式に興せないかと、通っては研究していたのだった。
その術式の被検体に自ら志願したがため、神官たちには当然ながら慌てられたものの、ユリウスは平然と「役職を取り上げられて暇をしているんだ、妻の体調も随時確認したいから協力させてくれ」と申し出てからは、脅えられつつ被検体の仕事を続けている。
そんなユリウスは、そろそろ見えてきた神殿の白い建物に視線を向けた。
「番に憎まれ誹られながらも、なおもあの人は母上を愛していた。己がアルファでなかったら、あの人もそこまで苦しまずに済んだんだろうにな。母上もだ。ビッチングにより無理矢理性を変えられてしまい、母上も感情の置き場を失ってしまった」
「それは……はい」
「だから、自分たちの二の舞に俺とアンジェリカになってほしくないんだろうさ。まあ……そんなことは言えないだろうがなあ」
そもそもの問題として。一夫多妻が一般的な獅子皇国において、番制度はあまりに噛み合わせがよろしくなかった。だから、もう二度と間違えないようにしたかったのだろう。
アンジェリカはしみじみとユリウスを見た。
「番がどうかとか、愛がどうとか……私も人のことはあまり言えませんけど、ちゃんと伝えたほうがよろしかったのでは。憎悪や嫌悪は、そう簡単には払拭できませんし、求愛の言葉は一度疑われたら嘘だと思われてなかなか届かなくなります。そうなる前に伝えるしかなかったのでしょうね」
「厳しいな、アンジェリカは」
「……ユリウスが陛下の気持ちがわかるように、私にもユリウスのお母様の気持ちが少しだけ理解できただけです」
好き、好き、愛している、私だけを見て。
口だけでは本当にいくらでも言えるが、その言葉は一度疑われてしまったらなかなか届かなくなってしまう。だからこそ、疑われる前に伝えなければいけなかった。
ユリウスの両親に起こった悲劇は、ただ番だから起こった悲劇ではなく、もっと普遍的なもの。伝える前に疑われてしまったら、どれだけ真心を込めようとも届かなくなってしまうほどに、愛の言葉は儚い。
アルファとして性を受け、それを捻じ曲げられて番にされてしまった、臓腑が煮えたぎるほどの憎悪を越えるようなことが、ユリウスの両親にはついぞ訪れなかった。ユリウスとアンジェリカが落ち着いたのは、アンジェリカが少しずつユリウスに絆されていった一方、ユリウスは最初のビッチング以降、彼女が傷付くことを一切行わなかったからというのが大きい。そんな思いやりができる番はどれだけいるのか、アンジェリカにもよくは理解できなかった。
「難しいんですよ、本当に」
「……そうだな」
アンジェリカはそっと自身の腹を撫でた。
今、彼女の腹には新しい命がいる。アルファとオメガの番から生まれた以上、必ずアルファになるだろうが、ユリウスもアンジェリカも、その子の相手をアルファと定めるつもりはない。三代に渡って憎んで憎まれるような歪な関係を繰り返さなくてもいいというのが、ふたりの共通の意見であった。
やがてふたりは神殿に入ると、神官たちと話をして、治癒魔術の実験を執り行う。
ユリウスの指先は軽くナイフを撫でて傷をつくり、その傷が治るように、祝福や治癒魔術がかけられる。魔術の無効化の加護を授かっているユリウスにも効く魔術がつくられるようになれば、今後加護をもらっている人間でも効く魔術が研究できるということで、役目は重要であった。
今まではユリウスの加護が強固過ぎて、傷口が塞がるより先に魔術がかかった形跡はなかったものの、アンジェリカが持ち込んできた魔術の解析が進み、加護の隙間を縫うという考えから、加護を許可した上で魔術を行使するという形に変えて、どうにかユリウスの傷が完治するようになってきた。
「まだ加護のかかった方を完治させるほどの治癒量にはなりませんが、これならばいずれ治療が可能になるかと思います!」
「そうですか……これで、いろんな方が完治できるようになるといいですね」
少しずつ。本当に少しずつよくなればいいと、そう思わずにはいられなかった。
****
ずっと出張していたカスパルとユールが帰ってきたのは、ユリウスとアンジェリカが産休で少しずつふたり一緒に行動を共にするようになってからしばらくのことだった。
ユールは「姫様、ただいま戻りました!」と挨拶を済ませると、アンジェリカはぱたぱたと出迎える。
「姫様、既に御身はおひとりだけのものではありません。あまりはしゃがないでください」
「ごめんなさいね、ユール。でも、お帰りなさい!」
「……殿下と仲良くやれててなによりです」
久々のユールの生真面目な返しに、アンジェリカはにっこりと笑った。一方、カスパルはユリウスと話をしている。
「殿下、どうでした。ちゃんと仲良くできましたか?」
「カスパル……俺が彼女を邪険に扱ったことはないが」
「殿下は言葉が全然足りなかったでしょうが。姫様、こいつちゃんと上手くやれていましたか?」
「カスパル、そろそろその姫様はやめろ。彼女とは正式に式を挙げたのだから」
「あー……はいはい」
カスパルにさんざんからかわれ、様子を崩しているユリウスを見るのは、アンジェリカとしても物珍しい姿であった。それをユールは「やれやれ」と呆れる。
「あの人、ずっとこの調子だったんですから。出張している中でも、殿下の話ばかり」
「そういうユールは、多分私の話しかしてないから、同じじゃないかしら」
「……あれとする話は姫様や殿下のことしかなかっただけですよ」
ユールの吐き捨てるような言葉に、アンジェリカは「まあまあ」と口元を手で抑えた。基本的にあまりよく思っていなかった魔術師団の悪口すら滅多に言わないユールがこき下ろす相手というのは、大なり小なり情がある。
(ユールは放っておくと私を最優先してしまうけれど……彼女には幸せになってほしいけど、これを私が口出しするのはなにか違うような気がするわ。ただでさえ私が妊娠したのだから、私が出産するまではきっと今のままでしょうし)
彼女がカスパルをどう思っているのか、アンジェリカでは推測の域にしか入らなかったが、これを指摘したら最後、彼女はしばらく意固地になってなにも話してくれなくなる気がしたので、黙って見守ることしかできなかった。
四人のやり取りを、ハンナは相変わらずパタパタしながらお茶の準備をしつつ眺めていた。
ハンナはアンジェリカにはハーブティーを出し、残りの皆にはコーヒーを差し出す。
「ええっと……皇太子妃様の体に障りがない程度でお願いしますね?」
「ハンナ、ありがとう。そうね、まだ安定期に入ってないから」
「ですから殿下がずっと一緒にいらしているんでしょう?」
本来ハンナは後宮をひとりで切り盛りしているメイドなのだから、アンジェリカに付きっきりになったほうがいいが。彼女がいないと後宮の部屋の清潔さを保つことはできないし、料理全般で妊婦の体に優しい料理の考案もできない。いい加減人手を増やすべきだが、その人事もアンジェリカに付きっきりで面倒を見るユールが帰還するまではままならないものだった。
ハンナの言葉に、アンジェリカは思わずユリウスのほうに振り返った。
「いい加減、ハンナひとりにだけ後宮を任せるのは無理がありますから、人手を増やせませんか? そもそも、後宮を解体する話だって出てらしたでしょう?」
「それだがなあ……なかなか難しい」
ユリウスはそう言う。
「陛下の時代では後宮はどうされていたのですか?」
「あの人の時代では、後宮イコール外交の窓のひとつだったからな。中に入れる人材は専ら妃が連れてくるものであって、今みたいに完全に皇族の世話のための人材という形ではなかった」
「それはまあ……」
妃の世話をし、ついでに妃の子である皇太子や姫の面倒を見ていたのだろうが、そもそもが後宮を解体したいというのがユリウスの意思だった。だが現状、子作りをして子を育てる場所で後宮ほど都合のいい場所もなかったから困っている。
誰でもいい訳ではない。そもそも皇族に危害を加えない、皇族の面倒を必ず見る、獅子皇国のしきたりに従う……その手の人材は専ら皇帝陛下のほうで働いているため、新しく雇うにしてもその人材のチェックをする方法がなかったのだ。
カスパルは「そうですねえ……」と腕を組む。
「そうなったら、神殿のほうに頼むのが一番人材が安定してるんじゃないですかねえ……あそこは厳しいですから、後宮で働くとなっても、粗相はしないかと思います」
「それが妥当だろうな。この辺りはベアトリスあたりに相談してみるのがいいだろうな」
そう話は締めくくられたのだ。
少しずつ、この国も変わりつつある。
白狼王国は魔術師団の不正と解体を受けて、国力をしばらくの間は内側に向けるだろうし、獅子皇国は獅子皇国で、後宮の解体に向け、少しずつ縮小しつつも、人手については考えないといけなかった。
かつて、白狼王国に憧れた海賊たちがこぞって獅子皇国をつくったのだとされている。当時の白狼王国と獅子皇国の関係は定かではないが、今のような心地のいい関係ではなかっただろう。
今は新しい神話が紡がれようとしている。
皇帝陛下からは「しばらくは使い物にならない」と言われたユリウスは、しばしの間休みを出された。その間、ふたりは図書館に行ったり、神殿へと訪問したりとしながら生活することとなったのだ。
「よろしいんですか? いくら陛下から追い払われたからと言っても、皇太子殿下がずっと後宮に入りっぱなしというのは」
「まあ、大丈夫だろう。どのみち、皇帝陛下からしてみれば俺がいろいろと国政を変えたがっているのを渋っていたからな」
「ユリウスを国政から遠ざける大義名分ですか、私の妊娠は」
「それだけではないんだろうが、あの人もそれ以上は言えないだろうなあ」
「どういうことですか?」
神官に訪問しているのは、新しい治癒魔術の編纂のためだった。アンジェリカの覚えている魔術を神官たちが解析し、そこから加護をどうにかやり過ごすための隙間を探して、術式の発動を促す隙はないかと研究されていた。
まだ大きく形にはなっていないが、アンジェリカとユリウスの起こした魔術の裏技をどうにか術式に興せないかと、通っては研究していたのだった。
その術式の被検体に自ら志願したがため、神官たちには当然ながら慌てられたものの、ユリウスは平然と「役職を取り上げられて暇をしているんだ、妻の体調も随時確認したいから協力させてくれ」と申し出てからは、脅えられつつ被検体の仕事を続けている。
そんなユリウスは、そろそろ見えてきた神殿の白い建物に視線を向けた。
「番に憎まれ誹られながらも、なおもあの人は母上を愛していた。己がアルファでなかったら、あの人もそこまで苦しまずに済んだんだろうにな。母上もだ。ビッチングにより無理矢理性を変えられてしまい、母上も感情の置き場を失ってしまった」
「それは……はい」
「だから、自分たちの二の舞に俺とアンジェリカになってほしくないんだろうさ。まあ……そんなことは言えないだろうがなあ」
そもそもの問題として。一夫多妻が一般的な獅子皇国において、番制度はあまりに噛み合わせがよろしくなかった。だから、もう二度と間違えないようにしたかったのだろう。
アンジェリカはしみじみとユリウスを見た。
「番がどうかとか、愛がどうとか……私も人のことはあまり言えませんけど、ちゃんと伝えたほうがよろしかったのでは。憎悪や嫌悪は、そう簡単には払拭できませんし、求愛の言葉は一度疑われたら嘘だと思われてなかなか届かなくなります。そうなる前に伝えるしかなかったのでしょうね」
「厳しいな、アンジェリカは」
「……ユリウスが陛下の気持ちがわかるように、私にもユリウスのお母様の気持ちが少しだけ理解できただけです」
好き、好き、愛している、私だけを見て。
口だけでは本当にいくらでも言えるが、その言葉は一度疑われてしまったらなかなか届かなくなってしまう。だからこそ、疑われる前に伝えなければいけなかった。
ユリウスの両親に起こった悲劇は、ただ番だから起こった悲劇ではなく、もっと普遍的なもの。伝える前に疑われてしまったら、どれだけ真心を込めようとも届かなくなってしまうほどに、愛の言葉は儚い。
アルファとして性を受け、それを捻じ曲げられて番にされてしまった、臓腑が煮えたぎるほどの憎悪を越えるようなことが、ユリウスの両親にはついぞ訪れなかった。ユリウスとアンジェリカが落ち着いたのは、アンジェリカが少しずつユリウスに絆されていった一方、ユリウスは最初のビッチング以降、彼女が傷付くことを一切行わなかったからというのが大きい。そんな思いやりができる番はどれだけいるのか、アンジェリカにもよくは理解できなかった。
「難しいんですよ、本当に」
「……そうだな」
アンジェリカはそっと自身の腹を撫でた。
今、彼女の腹には新しい命がいる。アルファとオメガの番から生まれた以上、必ずアルファになるだろうが、ユリウスもアンジェリカも、その子の相手をアルファと定めるつもりはない。三代に渡って憎んで憎まれるような歪な関係を繰り返さなくてもいいというのが、ふたりの共通の意見であった。
やがてふたりは神殿に入ると、神官たちと話をして、治癒魔術の実験を執り行う。
ユリウスの指先は軽くナイフを撫でて傷をつくり、その傷が治るように、祝福や治癒魔術がかけられる。魔術の無効化の加護を授かっているユリウスにも効く魔術がつくられるようになれば、今後加護をもらっている人間でも効く魔術が研究できるということで、役目は重要であった。
今まではユリウスの加護が強固過ぎて、傷口が塞がるより先に魔術がかかった形跡はなかったものの、アンジェリカが持ち込んできた魔術の解析が進み、加護の隙間を縫うという考えから、加護を許可した上で魔術を行使するという形に変えて、どうにかユリウスの傷が完治するようになってきた。
「まだ加護のかかった方を完治させるほどの治癒量にはなりませんが、これならばいずれ治療が可能になるかと思います!」
「そうですか……これで、いろんな方が完治できるようになるといいですね」
少しずつ。本当に少しずつよくなればいいと、そう思わずにはいられなかった。
****
ずっと出張していたカスパルとユールが帰ってきたのは、ユリウスとアンジェリカが産休で少しずつふたり一緒に行動を共にするようになってからしばらくのことだった。
ユールは「姫様、ただいま戻りました!」と挨拶を済ませると、アンジェリカはぱたぱたと出迎える。
「姫様、既に御身はおひとりだけのものではありません。あまりはしゃがないでください」
「ごめんなさいね、ユール。でも、お帰りなさい!」
「……殿下と仲良くやれててなによりです」
久々のユールの生真面目な返しに、アンジェリカはにっこりと笑った。一方、カスパルはユリウスと話をしている。
「殿下、どうでした。ちゃんと仲良くできましたか?」
「カスパル……俺が彼女を邪険に扱ったことはないが」
「殿下は言葉が全然足りなかったでしょうが。姫様、こいつちゃんと上手くやれていましたか?」
「カスパル、そろそろその姫様はやめろ。彼女とは正式に式を挙げたのだから」
「あー……はいはい」
カスパルにさんざんからかわれ、様子を崩しているユリウスを見るのは、アンジェリカとしても物珍しい姿であった。それをユールは「やれやれ」と呆れる。
「あの人、ずっとこの調子だったんですから。出張している中でも、殿下の話ばかり」
「そういうユールは、多分私の話しかしてないから、同じじゃないかしら」
「……あれとする話は姫様や殿下のことしかなかっただけですよ」
ユールの吐き捨てるような言葉に、アンジェリカは「まあまあ」と口元を手で抑えた。基本的にあまりよく思っていなかった魔術師団の悪口すら滅多に言わないユールがこき下ろす相手というのは、大なり小なり情がある。
(ユールは放っておくと私を最優先してしまうけれど……彼女には幸せになってほしいけど、これを私が口出しするのはなにか違うような気がするわ。ただでさえ私が妊娠したのだから、私が出産するまではきっと今のままでしょうし)
彼女がカスパルをどう思っているのか、アンジェリカでは推測の域にしか入らなかったが、これを指摘したら最後、彼女はしばらく意固地になってなにも話してくれなくなる気がしたので、黙って見守ることしかできなかった。
四人のやり取りを、ハンナは相変わらずパタパタしながらお茶の準備をしつつ眺めていた。
ハンナはアンジェリカにはハーブティーを出し、残りの皆にはコーヒーを差し出す。
「ええっと……皇太子妃様の体に障りがない程度でお願いしますね?」
「ハンナ、ありがとう。そうね、まだ安定期に入ってないから」
「ですから殿下がずっと一緒にいらしているんでしょう?」
本来ハンナは後宮をひとりで切り盛りしているメイドなのだから、アンジェリカに付きっきりになったほうがいいが。彼女がいないと後宮の部屋の清潔さを保つことはできないし、料理全般で妊婦の体に優しい料理の考案もできない。いい加減人手を増やすべきだが、その人事もアンジェリカに付きっきりで面倒を見るユールが帰還するまではままならないものだった。
ハンナの言葉に、アンジェリカは思わずユリウスのほうに振り返った。
「いい加減、ハンナひとりにだけ後宮を任せるのは無理がありますから、人手を増やせませんか? そもそも、後宮を解体する話だって出てらしたでしょう?」
「それだがなあ……なかなか難しい」
ユリウスはそう言う。
「陛下の時代では後宮はどうされていたのですか?」
「あの人の時代では、後宮イコール外交の窓のひとつだったからな。中に入れる人材は専ら妃が連れてくるものであって、今みたいに完全に皇族の世話のための人材という形ではなかった」
「それはまあ……」
妃の世話をし、ついでに妃の子である皇太子や姫の面倒を見ていたのだろうが、そもそもが後宮を解体したいというのがユリウスの意思だった。だが現状、子作りをして子を育てる場所で後宮ほど都合のいい場所もなかったから困っている。
誰でもいい訳ではない。そもそも皇族に危害を加えない、皇族の面倒を必ず見る、獅子皇国のしきたりに従う……その手の人材は専ら皇帝陛下のほうで働いているため、新しく雇うにしてもその人材のチェックをする方法がなかったのだ。
カスパルは「そうですねえ……」と腕を組む。
「そうなったら、神殿のほうに頼むのが一番人材が安定してるんじゃないですかねえ……あそこは厳しいですから、後宮で働くとなっても、粗相はしないかと思います」
「それが妥当だろうな。この辺りはベアトリスあたりに相談してみるのがいいだろうな」
そう話は締めくくられたのだ。
少しずつ、この国も変わりつつある。
白狼王国は魔術師団の不正と解体を受けて、国力をしばらくの間は内側に向けるだろうし、獅子皇国は獅子皇国で、後宮の解体に向け、少しずつ縮小しつつも、人手については考えないといけなかった。
かつて、白狼王国に憧れた海賊たちがこぞって獅子皇国をつくったのだとされている。当時の白狼王国と獅子皇国の関係は定かではないが、今のような心地のいい関係ではなかっただろう。
今は新しい神話が紡がれようとしている。
0
あなたにおすすめの小説
能力持ちの若き夫人は、冷遇夫から去る
基本二度寝
恋愛
「婚姻は王命だ。私に愛されようなんて思うな」
若き宰相次官のボルスターは、薄い夜着を纏って寝台に腰掛けている今日妻になったばかりのクエッカに向かって言い放った。
実力でその立場までのし上がったボルスターには敵が多かった。
一目惚れをしたクエッカに想いを伝えたかったが、政敵から彼女がボルスターの弱点になる事を悟られるわけには行かない。
巻き込みたくない気持ちとそれでも一緒にいたいという欲望が鬩ぎ合っていた。
ボルスターは国王陛下に願い、その令嬢との婚姻を王命という形にしてもらうことで、彼女との婚姻はあくまで命令で、本意ではないという態度を取ることで、ボルスターはめでたく彼女を手中に収めた。
けれど。
「旦那様。お久しぶりです。離縁してください」
結婚から半年後に、ボルスターは離縁を突きつけられたのだった。
※復縁、元サヤ無しです。
※時系列と視点がコロコロゴロゴロ変わるのでタイトル入れました
※えろありです
※ボルスター主人公のつもりが、端役になってます(どうしてだ)
※タイトル変更→旧題:黒い結婚
沈黙の指輪 ―公爵令嬢の恋慕―
柴田はつみ
恋愛
公爵家の令嬢シャルロッテは、政略結婚で財閥御曹司カリウスと結ばれた。
最初は形式だけの結婚だったが、優しく包み込むような夫の愛情に、彼女の心は次第に解けていく。
しかし、蜜月のあと訪れたのは小さな誤解の連鎖だった。
カリウスの秘書との噂、消えた指輪、隠された手紙――そして「君を幸せにできない」という冷たい言葉。
離婚届の上に、涙が落ちる。
それでもシャルロッテは信じたい。
あの日、薔薇の庭で誓った“永遠”を。
すれ違いと沈黙の夜を越えて、二人の愛はもう一度咲くのだろうか。
王の影姫は真実を言えない
柴田はつみ
恋愛
社交界で“国王の妾”と陰口を叩かれる謎の公爵夫人リュミエール。彼女は王命により、絶世の美貌を誇る英雄アラン公爵の妻となったが、その結婚は「公爵が哀れ」「妻は汚名の女」と同情と嘲笑の的だった。
けれど真実は――リュミエールは国王シオンの“妾”ではなく、異母妹。王家の血筋を巡る闇と政争から守るため、彼女は真実を口にできない。夫アランにさえ、打ち明ければ彼を巻き込んでしまうから。
一方アランもまた、王命と王宮の思惑の中で彼女を守るため、あえて距離を取り冷たく振る舞う。
愛さないと言うけれど、婚家の跡継ぎは産みます
基本二度寝
恋愛
「君と結婚はするよ。愛することは無理だけどね」
婚約者はミレーユに恋人の存在を告げた。
愛する女は彼女だけとのことらしい。
相手から、侯爵家から望まれた婚約だった。
真面目で誠実な侯爵当主が、息子の嫁にミレーユを是非にと望んだ。
だから、娘を溺愛する父も認めた婚約だった。
「父も知っている。寧ろ好きにしろって言われたからね。でも、ミレーユとの婚姻だけは好きにはできなかった。どうせなら愛する女を妻に持ちたかったのに」
彼はミレーユを愛していない。愛する気もない。
しかし、結婚はするという。
結婚さえすれば、これまで通り好きに生きていいと言われているらしい。
あの侯爵がこんなに息子に甘かったなんて。
上手に騙してくださらなかった伯爵様へ
しきど
恋愛
アイルザート・ルテシオ伯爵は十七歳で家督を継いだ方だ。
文武両道、容姿端麗、人柄も良く領民の誰からも愛される方だった。そんな若き英雄の婚約者に選ばれたメリッサ・オードバーン子爵令嬢は、自身を果報者と信じて疑っていなかった。
彼が屋敷のメイドと関係を持っていると知る事になる、その時までは。
貴族に愛人がいる事など珍しくもない。そんな事は分かっているつもりだった。分かっていてそれでも、許せなかった。
メリッサにとってアイルザートは、本心から愛した人だったから。
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件
水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
以後、
寝室は強制統合
常時抱っこ移動
一秒ごとに更新される溺愛
妻を傷つける者には容赦なし宣言
甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。
さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――?
自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。
溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ
お飾り妻は天井裏から覗いています。
七辻ゆゆ
恋愛
サヘルはお飾りの妻で、夫とは式で顔を合わせたきり。
何もさせてもらえず、退屈な彼女の趣味は、天井裏から夫と愛人の様子を覗くこと。そのうち、彼らの小説を書いてみようと思い立って……?
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる