愛が重いなんて聞いてない

音羽 藍

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薄氷上のダンス

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軽食を食べていると、色々な話を聞く。

「やはり、其方の方も異常気象なの?」
「ええ、いつもより気温が高くって。作物が枯れ気味なのよ。」
「あら、私の所はいつも通りよ。王都の辺りに来たらびっくりしちゃったもの。」

豪商の婦人達だろうか、煌びやかな衣装とキラキラと輝く宝石などの装飾品がランプの光を浴びて輝きが見えた。

「…………《助けて》」

この暑さはいつもより熱いのかと私はその事にびっくりしていると、ふと耳に微かに鈴が鳴る様に響いた悲痛な声に驚いた。

辺りを見渡しても何も無く、助けを乞うその声はどこから聞こえたのだろうと、不思議に私は首を捻った。

ユリウスは共通の知人がいたとの事で、少し離れ位置にいるが時折私の方を見ている目は、急に辺りを見回した私を見たのか、少し心配そうではある。
だから、こっそりと手を振り大丈夫よ笑う。

他国の王宮の為、自由には動けない。

窓辺の方へ歩みを進めて行くと、空を飛ぶ鳥や毛皮が暑そうなマンモスはノシノシと、人に手綱を取られ、大通りを通り何処かへと向かっていく。

「あぁ、あの大きいのはディーボーという魔獣なんですよ。普段は大人しく、人と共に暮らして行けるほどです。エサを渡していれば、人と共に動き有事の際に助けてくれる事もあります。」

ふと左を見ると、白い髭を蓄えたお爺さんは髭を触りながら私が見ていた方向を見ていた。

「来た時に気になっていたので、助かりますわ。」
「ディーボーは本来水辺に生息する魔獣です。元の湖に移動している所なのですぞ。」
「湖が近くにありますの?」
「はい、近郊にありまして、夏場の貴重な貯水湖です。」

私は涼やかな気配の所に行きたい気分になり、先程までまるで恐怖さえ感じた不穏な声にびびって居たが、今はもう離していると落ち着いてきた。

「先程はなにか強張る表情をされていたので、心配しておりました。何かあったのですか?」
「え、顔に出ていました?」

私は驚いて、白い髭を触り、豪華な衣装を着た老人の男性に顔を向けると、彼はほっほぅほっと笑っており詳しくはわからなかった。

「……それが」
「ふむふむ、鈴の様な声じゃの。」
「全く心配した」

スッとユリウスが戻って来て、私の背中から腰へ手を回し優しく頭にキスを落としてくれた。
匂いですぐに彼だとわかっていたので、驚きはしない。

「心配しすぎだから……」
「これはモヒャタ前王お久しぶりです。」
「ふむ、あの魔獣騒動以来じゃの。こちらのお嬢さんが御主のアレか。」
「ええ、あの時は冒険者としてでしたね。」
「シア・キャロルと申します……」

私は改めて挨拶をして、まさか前王だったとは驚いた。
会場に来る前は前王は、公の場から離れたと聞いていたので、目の前にいるのがびっくりだった。

「初孫が楽しみじゃのうて……来てしもうた、それに鈴の様な声心当たりがすこーしあるのじゃ。」
「初孫?」
「あぁ、ほら嫁の方の腹が膨れておるじゃろ、来年の春には産まれる予定じゃ。全く誰に似て手が早いというか。」

そう言われてみて、視線を向けると腹が少しふっくらとしており、私は眩しくそれが映る。

ユリウスがそっと手を握ってきたので、私は視線を向けると俺の事は気にするなと編み込んでいる頭を撫でられる。

「昔、わしの可愛い妻がの……王宮の裏手にある泉で聞いたと話しておったことがあった。わしも行った事は何度もあるが、聞いた事はないのじゃ。」
「裏手です?」
「裏手にあるからの、一般客では入り込む事はできんぞ。せがれに頼むといい。わしはそろそろ戻るとしよう。余りここにいると大臣達に見つかるとまた会議にひきこまれそうじゃ。」

そう言って、ほっほっほっと笑い、こっちを見ていたかなりたぷんとその身に余る程の贅肉が歩く度に揺れていて、快活に笑う前王の方へ行こうとしていたが商人達に捕まっていた。

「……シア、またなにかに巻き込まれたのか。」
「巻き込まれてるのかな。少し気になるのよね。他国だから無理にとは言わないけれど……」

異常気象
鈴の音の様な助けを求む声
王宮の裏手の泉

今わかったのはこれだけであり、全てが繋がるかはわからないが、気になる。

ユリウスに話しながら、そうだとユリウスはもう少ししたら、少し別室に移り、顔合わせと少し会談になると先程話していた現王との事かな?と思い出しだから私は頷いた。




「ははっ……そうだったか、それは災難だな。」
「あの街はアレで賑わっていますから。」

ふふと微笑んでそういった彼女は時折、お腹をさすりながら私の首元を眺めた。
王はグレゴリオ・レイエスと王妃アポリナリオ・レイエス。
二人は親密そうで、見てるこっちが頬が緩むぐらい熱々なのがわかる。

「ええ、でも本当に美しいのですね。初めて見ましたわ。銀の鱗。」
「ありがとうございます。」
「王宮の裏手にある泉があると聞いて、今すぐにじゃなくて良いのだが行けるだろうか。」

その言葉を言った瞬間、二人の気配がピリつきまるで禁断の言葉を言った様だった。
柔和な笑みを浮かべていた青年は真剣な表情を浮かべた。

「どこでその事を聞いた?」

不穏な雰囲気に私達は何故にそこまで彼女達が、気にしているのかわかりないが、なにかあったのではないかとわかった。

「それが……」
「ふむ、父がか。なら良かった、あそこは他国の者も、そして、この国も入るのにはかなり限定していたのだ。」

私は今日会った前王の事を言うとわりかしピリついていた気配が弱まり、多少は居心地が元に戻った。

「聞いたのなら言うが、あそこは元々は聖域だった。だが……不届き者が泉に汚物の入った瓶を投げ込んだ事から、全てが少しずつ変わっていった。」
「異常気象ですわ、今熱いでしょ?こんなに、熱いのは異常です。もう少し涼やかですわ、本来ならば。」
「その不届き者はどうしてその聖域に入れたんだ?」
「それが……言っている事が不思議ですのよ。」
「不思議?」

私達は目線を合わせた。
話を聞くと神官の一人が帰宅途中、戸締りを確認していると大臣の側近である一人が懐から取り出した禍々しいなにかが入った瓶を投げ込み、それを咎めた神官は急いで応援を呼んだらしい。

側近は今まで、そんな気配も無く至って普通な態度で過ごしており、そんな事をする様な人ではないのに、急にまるで洗脳された様に笑いながら、闇に全ては浄化される、人は悪だと繰り返しているらしい。

「あれか……ここにも居たのか。」
「どういうことだ?」

私達は闇の導師にかかわる過激派がいた事を話した。

「わかった……それでそいつらの団体の名前は?」

私はその事をまだ知らなかったので、彼の方を見ると抽出時間が長かかった苦い紅茶を飲んだ様な表情をしており、ため息をついて言った。

「銀闇教だ。」
「銀闇?」

その事でちらりと私の鱗へ王夫婦の視線が向き、気まずかった。
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