うちのAIが転生させてくれたので異世界で静かに暮らそうと思ったが、外野がうるさいので自重を捨ててやった。

藍染 迅

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第22話 アリスさん猫無双からのオイラのムーブを見てくんな、ヨー!

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 もうね、ゴンゾーラ商会には睨まれるだけ睨まれてるね。あちらさんからしてみたら、怪しさ満載だもの。
 動物を操る。ゴロゴロ金塊を見つけて来る。謎の秘薬で治療不可能な傷を治す。……そりゃ怪しいわ。

 でも、「不可能」じゃない。鷹匠とか調教師というのは世間に存在するし、腕の良いゴールド・ハンターだっている。
 探せば効能の高い薬だって、世の中にはあるだろう。

 たまたま俺の所に集まっていただけ。そういうこともある。現にあったじゃない?
 それで押し切った。

 別に悪いことはしてないし、誰にも迷惑をかけていないし……。
 ここらで自由にやらせてもらおう。何気に子分らしきものもできちゃったし。

「それじゃ、早速乗り込もうか?」
「えっ? 真昼間ですけど?」
「知ってるよ? 善は急げって言うじゃないか。昼間の方が健康的だしさ」

 俺には暗視カメラがあるけど、ブラザーズは裸眼だからね。夜襲をかけたら敵を取り逃がすかもしれない。

「でも、昼間に近付いたら見つかっちまうんじゃ……?」
「俺がまず乗り込んで相手の気を逸らす。お前たちはその間に小屋を取り囲むんだ」
「気を逸らすってどうやって?」
「飼い猫のアリスが逃げ出したって体で小芝居を打つ。小屋の中に入ったら大暴れして連中を追い出すから、片っ端からぶちのめせ」
 
 そんなに上手くいくんですかという顔をして、ブラウニーは小首をかしげていたが、うちの場合はいけるんですねえ。
 何しろアリスさんが千両役者ですから。

 俺? 俺はおまけみたいなものよ。猫に逃げられた間抜けを演じればいいんだから。
 アホ面してればいい訳でしょ? 誰だ? 地でやればいいって言ったやつは?

「まずは小悪党の方から片付けようか? 練習にちょうどいい」
「へい。ヤマアラシのトド一味ですね」

 名前からして田舎臭いもんね。どうせ鈍いやつらだろう。

 ヤマアラシって名前だからか、連中は山の中の猟師小屋を根城にしていた。ドンパチやってもご近所迷惑にならないのはありがたい。
 鉄砲は無いけどが。

 俺達は馬車と馬に分かれて屋敷を出発した。俺とアリスがアロー君に乗って、BB団がゴロー君の引く馬車で移動する。
 BB団の御者役はボンドどいう若手だった。一番下っ端で、馬丁の経験があるそうだ。見習いで止めちまったらしいが。

 ゴローにも式神が憑いているので実際は御者要らずなんだけどね。自動運転馬車って時代の先取りも甚だしいね。運転も何も元々自分で歩いてるけど。

 小一時間のドライブで俺達はトド一味のアジトに到着した。
 馬車は音がうるさいので、100メートルほど手前で駐車する。ゴロー君はここでお留守番だ。 

 アロー君にはあらかじめ用意しておいた「靴下」を履いてもらった。その上「忍び足」で歩いてくれたので、隠密性は抜群だ。

 そうそう。アローに着せるボディーアーマーの件は、結局蜘蛛糸製ケプラーベストに落ち着いた。鎖帷子方式は重いし、ガチャガチャうるさいからね。ていうか、いざという時は皮膚を硬質化して刃物だろうと鈍器だろうと跳ね返せるので、ベストはあくまでも偽装である。

「ベストのおかげで運よく助かった」って言いたいだけ。「公式見解」って大切でしょう?
 防弾繊維は蜘蛛軍団がせっせと編んだだよー。

 うちって動物の比重が高いなあって最近気がついた。トメゴロウ王国と呼んでも良いのじゃなかろうか。

 くだらないことを考えている内に、猟師小屋を囲む林の端までやって来た。

「それじゃ、アリスさん。良い感じに迷子になったふりをして、小屋に入り込んでくれる?」
「にゃあ~」

 一声返事をしたアリスは、尻尾を立ててとっとと小屋に向かって行った。

「にゃあ」

 カリ、カリ、カリ、カリ。

「にゃ、にゃあ~」

 カリ、カリ、カリ、カリ。

「何だ? この音は? ワイルドキャットのこどもでも迷い込んだか?」
「うるせえから掴まえて捨てて来い!」

「えーっ? 俺スかぁ?」

 貧乏くじを引かされたらしい下っ端が、戸口に向かった。

「親だとか、他の獣なんかいねえだろうな?」

 一応の用心に横の窓から外を眺めたが、何も見えない。

「何だってんだ、一体?」

 短剣を右手に構えながらドアを細目に開けると、その隙間から黒い子猫が入り込んだ。

「ニャ~ゴ」

 子猫こと、アリスは一声鳴くと、小屋の奥へ走り込んで行った。

「おい! どこ行くんだ?」
「おっ? 何だ? 猫か?」
「何やってんだ? 追い出せ!」

 男たちは武器を仕舞って、アリスを追い立てようと右往左往した。とはいえ、猫の運動能力に追いつけるはずもなく、どたばた走り回って疲れるだけであった。

「はあ、はあ。畜生。馬鹿にしてやがる……」
「こうなったら叩き殺してやるから、覚悟しろ」

 小屋のあちこちから棒やら板やらを持ち出して、アリスを袋叩きにしようという構えだった。

「ナ~オ!」

 あざけるように雄たけびを上げると、アリスは小屋の壁を駆け上った。

「うわっ!」

 近くにいた男の肩に跳び付き、存分に顔を引っ掻く。ナノマシンも毒も使わない単純な引っ掻き攻撃だったが、男をひるませるには十分だった。

いてぇっ! いて、て、て……」

 棒を取り落として顔を押さえる男をしり目に、アリスは次の男に襲い掛かる。背中を駆け上がって、髪の毛の中を爪で引っ搔き回した。

「あっ! うわ、わ、わ、わっ!」

 どす黒い血で、顔が血だらけになる。

「掴まえろ! 掴んじまえばどうにでもなる!」
「いや、すばしっこすぎるだろう!」

 5分もすると、お尋ね者一味は全員血まみれの汗まみれで、服もずたずたになっていた。ゾンビ映画を地で行けるね。
 俺は木立に隠れていたが、アリスTV中継システムで一部始終を楽しませてもらった。

「ごめんくださーい」
「うちの猫がお邪魔してませんかー? 先程入って行くところが見えたんですけどー?」

 俺はとぼけた顔で戸口から顔を突っ込んだ。

「何だ、てめえ?」
「あっ! 猫の飼い主か?」
「てめえ、何やってんだ?」
「早くこの猫連れて行け!」

 アリスさん、大分無双したね。普通の猫でも、戦闘力は人間より上だからね。アリスは普通じゃないし。

「ああ、いたいた。アリスちゅわ~ん。パパのところにおいで―」
「にゃ、にゃ、にゃ、にゃーん」

 アリスはついでにとばかり2、3人の悪党を蹴り飛ばしながら、宙を飛んで俺の肩に着地した。お見事。10点満点!

「ああー。イイコでちゅねぇ~」

 俺は猫なで声を出して、アリスの体を点検するふりをした。

「大丈夫でちたか~? オジサンたちにいじめられませんでちたか~?」
「あっ! こんなところにキズがある! おい、お前ら! うちの子に手を出していないだろうな?」

 棒っ切れ振り回してさんざん追い掛けてたの、見てたけどね? 一応、様式美ですよ。質疑応答。

「ふざけんな! ケガさせられたのはこっちの方だ!」
「おう! この落とし前どうつけるつもりだ!」

「ああ~。そういうタイプね。パパちょっと頭に来ちゃったな?」

 そっとアリスを床におろすと、俺は男たちに向かってダイブ・・・した。床に転がりながら背中を軸に回転し、両足を振り回して男たちの下半身に蹴りつける。

 デリケートな部分を中心に。

 アリスさんからダウンロードしたカポエラの動きだ。初見じゃ防げないだろう? こんなトリッキーな格闘技。

「うっ!」
「ぐわぁっ!」
「うぐぐぐ……!」

 3人無力化したところで立ち上がり、俺は啖呵たんかを切った。

「ここじゃあ狭すぎる。まとめて相手をしてやるから表に出ろ!」

 カッコいい啖呵が決まったところで、俺は先頭に立って表に出た。

 いや、そうしないと誰も動かないんじゃないかと思って。冷静になられたら、狭いところの方が1人を袋叩きにしやすいってことに気づかれちゃうから。

 勝てるけどね、余裕で。アリスさんがいるし。
 それじゃあブラザーズの出番が無くなっちゃうからね。「六尺スタン」の初戦果も見たいじゃない。

 主な理由は「面倒くさかったから」だけど。やだよ。むさくるしい盗賊の相手なんか。
 ムサ対ムサなら公平じゃないか。フェアな戦いって素晴らしい。

 さて、表に出た俺はとっとと森へと駆け込んだ。「脇役」は舞台を去ります。
 アリスさん? もちろん俺の肩の上ですよ。あたたた、爪は立てないで。

「あれ? 野郎、どこへ行きやがった?」
「さては逃げやがったか? あのガキ!」

 人聞きの悪い……。逃げたのは本当だけど。
 俺はステルスモードでブラザーズ改めBB団のところまで戻って来た。

(ほい。いい感じに舞台をあっためてきたぜ。主役の出番だよ)
(主役って、ボス。他人ひと事みたいに)

 ふふふ。身近にいて他人事っていうのが一番面白いね。型稽古の成果、見せてもらおうじゃないの。
 俺は安全圏でゆっくり観戦させていただくとしよう。

 式神ネットワークさん、しっかりと中継をお願いします。

「しょうがねえなあ……」

 ぼやきながらブラウニーは仲間を連れて森を出て行った。 

「ああ。いた、いた」

 トド一味はまだ小屋の前でうろついていた。俺が戻るかもしれないと待っていたのだろう。
 そこに登場したのは、見覚えのない6人の男達。

「何だ、てめえら?」

 おお、殺気立っておりますな。アリスと俺にさんざん痛めつけられた後だからな。気が立っているのは当然か。
 だけど、そっちは5人でBB団は6人だよ? 強気に出て大丈夫なの?

「何だって言われてもな。ただの賞金稼ぎだ」
「何だと? こらァ!」

 ブラウニーったら、良い感じで凄むじゃない。やっぱり場慣れしてるねえ。さすが元チンピラ。
 自己紹介も終わったことだし、早速おっぱじめようぜ。

「舐めてんじゃねえぞ、こら!」

 先手はトド一味。あいつはアリスに引っかかれた奴だね。顔に斜線が入ってるぜ。
 やっぱり小悪党を先にしておいて正解だったな。人数も少ないし、迫力もないからブラウニーが堂々として見えるぜ。

「きゃんきゃんうるせえ野郎だ。まとめて相手をしてやるから、キリキリお縄につきやがれ!」

 六尺棒を上段に構えるブラウニー。よっ! 千両役者!

「何だと、ゴルァあー! ぶっ殺してやる!」

 斜線顔が短剣でブラウニーに突っかけた。
 そうは行っても、ブラウニーは六尺棒を構えている。

「臨!」

 夢想流杖術上段の構え。あー、そこへ突っ込んでいく馬鹿がいるね。

ぴょう!」

 次のターンでは敵の攻撃を受け流す手順が組み込まれている。そして下段への足払いだ。
 だが、ブラウニーの攻撃は不発に終わった。

 初撃で相手が倒れてしまったからだ。棒のスピードが想定外だったらしい。
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