うちのAIが転生させてくれたので異世界で静かに暮らそうと思ったが、外野がうるさいので自重を捨ててやった。

藍染 迅

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第25話 なるようになれですな。ケセラセラ。

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「えーと、カローからコローまではここの区画ね。ナローからノローはこっち。ハローからホローはあっちの端で、マローからモローまでは反対の区画。それぞれ好きに使ってねー」

 新人20人の命名という苦行に疲れた俺は、カ行、ナ行、ハ行、マ行の1文字に「ロー」をつなげて名前にするという画期的なアイデアでピンチを乗り切った。乗り切ったよ、うん。
 ア行は「アロー」、タ行は「タロー」を使用済みだったので欠番扱いにした。サ業も「シロー」が使用済みだったので回避。

「ゴロー」と「コロー」は別の名前としてセーフね。

『名付けがだいぶいい加減になってきたニャ』
『ソンナコトアリマセンヨ?』
『考えたら、元からいい加減だったニャ。ネーミング・センスは皆無だからニャ』
 
 そんなこと言っても、一度に20人は無理ですって。睡眠時間的にね。
 
 馬小屋は一家総出で建築しました。ええ。助け合いです。
 ナノマシン、アロー君一家(新人20名を含む)、BB団が力を合わせましたとも。

『ボクは頭脳労働担当ニャ。肉体構造的に建築関係は向いてないしニャ』
『いや、アリスさん変身できるじゃん。まあ、手は足りてるから良いけど』
『そういうトーメーは手伝わないニャ?』
『俺はあれですよ。「応援担当」ですよ』
 
 トビー君は見張りね。

 ちゃんと3時のおやつとか差し入れてますよ? BB団にはアップルパイ。アロー一家にはアップルね。
 適材適所って良いことだ。

 キング一味を連行した俺たちは5万マリの賞金を受け取った。

「うらやましいぜ。これで当分良い暮らしができるな?」

 衛兵長はそう言ってたけど……。
 
「毎度ありぃ。養蜂設備セットの代金、ちょうど頂戴いたしましたぁ」
「毎度っ! 酒造り設備一式のお代、確かに頂戴しやしたっ!」
 
 速攻で養蜂と日本酒造り設備購入の支払いに充てたけどね。
 また金欠になっちゃった。やれやれ、キリがない。

『日銭が入る仕事が要るニャ。このままだと毎日お粥になってしまうニャ!』
 
 確かに安定した日々の収入が無いとね。毎日お粥は願い下げです。

 どうしよう? こうしよう!

『せっかくお馬さんが27人もいるんだから、例の運送業ってのやってみようか?』

 馬方もいるしね。
 
『だったら、中古品の馬車を買って来るニャ。先ずはレンタルで仕事を始めて、馬車は順次買取ったら良いニャ』

 なるほど。堅実なビジョンだねえ。

『ところで、問題が2つあるニャ』
『何でしょうか、アリスさん?』

『1つ目は信用の問題ニャ。お客さんが大事な荷物を預けてくれるかってことニャ』
『まあね。ウチはぽっと出でこれまでの信用ってもんがないわな』
『別の方法で信用を得るニャ。供託金を預けて置いて、何かあったらそれで補償するという仕組みを作るニャ』
『ふむふむ。それならお客さんも安心だね。供託金の預け先ってどうしよう?』
『ここはやっぱりゴンゾーラ商会に一枚噛んでもらうニャ。当然口銭は取らせるニャ』

 確かに、街の顔役だからな。ゴンゾーラに預けてあると言えば客も安心だろ。
 リスクフリーで運送ができるというのは、この世界では画期的なことなので、この作戦はバッチリ当たった。

『2つ目の課題は旅の安全ニャ。盗賊とかが出やがった場合の対策が必要ニャ』

 これは……出やがるでしょうね。この世界の治安には期待できない。
 
『BB団を3編成に分けて馬車を守らせようか? それぞれに護衛を付ければ何とかなるんじゃない?』
『て言うか、ブリブリ団はお飾りで追加の護衛が本命ニャ』

 よくご存じで。
 護衛はアロー君、トビー君、そして俺。

『ボクは頭脳労働担当で、トーメーに同行するニャ。本当は、「美貌」担当ニャが』

 これだとお馬さんチームが23人余っちゃうので、お留守番担当はファーム行きにしました。
 農場ファームを開拓するだけですが。
 自動で上下する「耕運器」を牽いてもらい、草原の土を起こしてもらってます。

 木の根や草は、アロー君に火炎放射で焼き払ってもらいました。ウチの子は多芸だねえ。

『農場ってさあ、何を作らせたら良いかな?』
『酒造用の米は絶対に必要ニャ。養蜂用のお花。各種野菜に果物も作るニャ』
『受粉とか交配は蜜蜂軍団が喜んでやってくれるね』
『品種改良はナノマシンがゲノム単位でチュクチュクするニャ』

 人体に影響ない範囲でよろしくお願いします。

『ウチの農場は病害虫も畑を荒らす獣も寄せ付けないから、品質と収穫率が最高ニャ!』
『完全有機栽培で無農薬だね』

 シロガネーゼにも喜ばれるような品質でっせ、ウチの農作物は。

『でもさ、すぐ収穫ってできるんだっけ?』
『任せるニャ。夜間はLED照明でピンクライトをしっかり当ててるニャ。その上、完全温度管理で生育環境は最適ニャ』
 
 全部アロー君の自家発電で賄えちゃいます。ウチのエネルギー自給率は100%ですから。

 サステナブルだわー。

『これなら、食料は自給自足ニャ。運送業で日銭を稼いで、養蜂と酒造で季節経営をするという、どこから見ても隙が無い多角経営ビジネスモデルニャ!』
『さすがアリスさん、良くできたプランですな。これなら老後は悠々自適ですな。ホッホッホッホッ』

 ……と思ってたんだけどねぇ。

 好事魔多し。悪いことは向こうからやって来る。

 噂が徐々に広がったんでしょうな。郊外で農場を持っている運送業のにーちゃんが、養蜂やら酒造やらで小金を貯めていると。

 盗賊がね、寄って来やがるんですよ。ウチの金目当てに。
 賞金稼ぎは1日で引退したつもりだったのになあ。お尋ね者が勝手によって来やはるんだス。

 結果、我が家は「盗賊ホイホイ」的な物になっちまった。

『もう~! 定期的に10名から30名くらいの団体さんが、宣伝もしないのにやって来るなんてさあ!』
『こんなお客は良い迷惑ニャ。もちろん、ウチの迎撃態勢は完璧ニャが、「討ち漏らし」がニャいのでお客さんに伝わっていニャイニャ』

 基本的にはトビー君1人で撃退できちゃいます。機動力が違うので。後、火力も。
 昨日も朝から30名の団体様が来ましたけど、朝飯食べてる間に瞬殺でした。はい。

「ボス、昨日の盗賊なんですけど……」
「生き残りは衛兵詰め所に突き出したよねえ?」
「いえ、そっちはいいんスけど……」
「何? 歯切れ悪いね」

「あいつら森の中に、馬を隠してました」
「また、馬~?」

 何頭連れて来たんだろう?
 
「え~っ? 30頭~?」

 それは困った。それは無理です。

「さすがにもう収容できないっスよね?」
「いや、そうじゃなくて……」

 もう、名前が思いつかないんだよおおおおーーっ!

「しょうがない。街に連れて行って売ろう」
「いいんスか? アローの兄貴が気にするんじゃ?」
「お家では飼えないってお話をするよ。きちんと話せばきっとわかってくれるって」

「ぶひひひ~ん! ぶるんぶるん!」

「あ、外で怒ってらっしゃいますけど……」
「わかりました! 飼います! いいえ、家族として迎え入れます!」
「名前の方は……?」
「もうあれです! 連番制を導入します。新人は『ウマ1』君、『ウマ2』君という形で番号で区別します!」

「『うまに』って食い物っぽいですけど、いいんスか?」
「余計なことを言わないように! 『うま煮』じゃないの、『ウマ』なのっ! アクセント・オン・ザ・サード・シラブルなのっ!」
「何言ってるか、ちょっとわかんないっス」

 はあ~。このままいったらウチは本当に「動物王国」になっちゃうよ? なっちゃう? なっちゃおうか?
 ああ、別に構わないか。ウチの子たち自給自足だから。

「馬小屋建築の担当はBB団ね」
「えぇええええ~っ!」

 ブラウニーにも苦労のお裾分けです。ハゲろ!

『アリスさん、寝てないで何とか言ってよ』
『菩薩の前に衆生はみな平等。人も馬も一緒なのニャ』
『はあ。人助けならぬ、馬助けでも善行を積んだことになりますかね?』
『己の欲望を後回しにするなら、それは徳を積んだことになるニャ』

 そういうことですか。なるようになれですな。ケセラセラ。
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