うちのAIが転生させてくれたので異世界で静かに暮らそうと思ったが、外野がうるさいので自重を捨ててやった。

藍染 迅

文字の大きさ
36 / 80

第36話 いざ、第3層へ。森の世界へようこそ。

しおりを挟む
「森ですな」
「森ニャ」

 森の中に小道が通っていて、小道以外のエリアの入ろうとしても見えない壁があって進めないタイプの迷路だった。

「余計な手間を掛けてるなあ。迷路なら屋内タイプで良いのに」
「まるでゲームマスターがプロデュースしているような作り込みニャ」
「なるべく長く滞在してもらおうっていう意図があるのかなあ?」
「ぷぷるぷるぷる」
「えっ? 生体兵器を開発中の異世界秘密結社がより強力な兵器を開発するため試作品を異世界人と戦わせ、戦闘データを集めている可能性がある? 何そのシュールな設定?」

 だいたいスラ1君は「そっち側」の出身じゃなかった? 宇宙空間を彷徨さまよっている間に捕獲された? なぜまた宇宙に? 侵略のための遠征中? 怖いわー。宇宙貨物船を乗っ取ったりしてないよね?

「深く追求しない方が幸せな気がして来た……」
「ジジイの現実逃避は一級品ニャ」

「森林エリアの良いところを楽しみましょう。マイナスイオンとかフィトンチッドとか出てるんじゃないの?」
「どっちかというと便所の臭いでお馴染みのラフレシアの甘い香りが漂って来るニャ」
「要らんわっ!」
 
 せめて神秘の泉とか、龍神の滝壺とか、世界樹の森とかって感じの不思議スポットでも出て来ないかなあ。
 麗しのエルフとかね? 森と言えば、やっぱり……。

「ジャイアント冬虫夏草がいるニャ」
「見たくなーいっ! そう言うんじゃなくてさ。森の一等地的な場所に何かシンボル的なものがさ」
「ジャイアント森蛭もりビルがいるニャ」
「なんそれ? 確かに一等地にいそうだけどが!」
「複数形になると『ヒルズ』と呼ばれているニャ」
「不動産業界隈がざわつくからやめなさい!」

 やっぱり森林動物とか昆虫系のモンスターが出現するのかなあ? でっかい虫はあまり見たくないなあ?

「あ、ジャイアント・キャタピラーニャ」
「液体窒素弾発射!」

 ちゅどーん!

「ふう。危ない、危ない。『臭い汁』とか飛ばされたら、えらいこっちゃ」
「さては爺さん、虫が苦手だニャ?」
「苦手ではない! 嫌いなだけである」
「この際トラウマを吐き出しておくニャ。弱点を放置したら命取りになるかもしれないニャ」

「うう。ガキの頃、さんざん喰わされたんだよ!」
「虫をニャ?」
「親父の実家が長野だったんで、イナゴの佃煮とか、ざざ虫とか、蜂の子とかを『体に良いから』という触れ込みでむりやり喰わされたの!」
「日本の伝統食ニャ。食糧不足時代のたんぱく源として再注目されている文化じゃニャいか」
「そうなんだけど。翌朝鏡を見て、歯の隙間にイナゴやざざ虫の足が挟まっているのを見て、気持ち悪くなったの!」

 子供の頃の衝撃って大きいよね? 嫌いな物があったって良いじゃないか!
 たんぱく質が欲しけりゃ肉や豆を食います! ちゃんと食いますから!

「あ、左からジャンボオオクワガタ」
「うぎゃあああ!」

「ぷるるるー!」

 あっ! スラ1!
 健気にも俺のために盾になってくれたのか? 必殺の投網攻撃!

 おおー。硬い外骨格も溶解液の前では敵ではないのね? そうだ! 溶かしてしまえ!

「やったねー。すごいぞ、スラ1!」
「溶け残りの足が体から突き出ているニャ」
「きゃあああーー!」

 スラ1よ、次からは火炎放射で退治してくれ。

「あ、右からジャイアント・ダンゴムシが……」
「焼き払え! 薙ぎ払え!」

 しゅごぉおおおおーー!

「はあ、はあ、はあ……」
「ジジイ、世界を滅ぼしそうな勢いなのニャ」

 何とでも言え。我が嫁となる者はさらにおぞましい物を見るであろう……。

「はあー。ようやく森林エリアを抜けた―!」
「結局、虫しか出なかったニャ」
「何という不毛なエリアだ!」
「ドロップも虫ゼリーだけニャ」

 スラ1君が美味しく頂きました。おやつを上げる約束が果たせて良かったけど。

「おっ? ハニービーズの偵察結果が送られてきたニャ。前方にボス部屋らしき構造物発見。今回も遺跡タイプニャ」
「このフロアにも飽きて来たところだから助かったよ。今度は誰が出撃する?」
「ま゛っ!」
「泥ボーズ、行きたいの?」
「ま゛っ!」

 確かに、今まで見せ場らしい見せ場が無かったからなあ。新人の前で先輩の貫禄っていう奴を見せたいよね。

「アリスさん?」
「その意気や良しニャ。存分に働いてもらうニャ」
「ま゛っ!」

 遺跡は丘の上に立っていた。何と言うか、ギリシャ神殿みたいな感じ?
 っていうことは壁とか崩れていて、スッカスカなのよね。

「遠くからでも何がいるか丸見えですな」
「あれをボス部屋と呼んで良いかどうか、悩ましいところニャ」

 壁も崩れちゃっているからね。ハニービーズの報告では、壁は無くとも不思議パワーの効果で入り口以外からは立ち入りできないらしい。ナイス・セキュリティシステムだね。

 中にいるのは……バジリスク? 確かにでかい蛇だな。

「毒持ちだっけか? 泥ボーズには効かないけどね?」
「たまたまニャッたが、適切な人選になったニャ」

 相手は全長10メートルと馬鹿でかいので、泥ボーズ5体全員で相手をすることになった。2メートルが5体で10メートルね。そういう比較基準で良いんだっけ?

「たかが変温動物が相手ニャ。冷凍弾で弱らせてタコ殴りして来いニャ」
「ウチは弱点を見つけたら、とことん付け込むタイプだね」

 しかし、我々は大きな見落としをしていた。バジリスクは単なる大蛇ではない。猛毒ですら奴にとってはほんの余技程度の武器であった。
 バジリスク最大の攻撃手段とは――「石化の魔眼」であった。

「な、何だとっ!」
「んニャにぃいい―!」

 ピキーンっ!

 戦闘が始まるや否や、バジリスクは泥ボーズ5体に向かって「石化」の視線を飛ばした。遮蔽物のない部屋の中、泥ボーズは不覚にも一列横隊を組んでいたため全員が視線にさらされてしまった。

 ビキビキと音を立て、足元から石化していく泥ボーズ。

「い、いかん! このままでは泥ボーズが石になってしまう――!」
「んニャ?」

 次の瞬間、全身が石になったストーンボーズが完成した。

「ま゛っ!」

「元々泥でできてたんで、石化したら強化された感じになってますが……?」
「うーん。無料でアップグレードしてもらった感じニャ」

「まままま、ま゛ーん!」

「『ストーン・パーンチ』的なことを叫んでいる気がします」
「ニャ。妥当な翻訳と認めるニャ」

 破壊力が5倍(当社比)になった石ボーズは、バジリスクをタコ殴りにした。
 毒は効かないし、噛んでも締め付けても「石」なので……。

「結果、勝ちましたね」
「ニャ。しかし、とっても困る展開となったのニャ」
「何でしょうか、アリスさん?」
「内部メカのメンテナンスが非常にやりにくくなっちまったニャ!」

 確かにそうだわ。本体のロボット部分は石材の中に埋め込まれた格好になっちゃった。

「えっ? 宝箱が出たって?」

 今までのところ宝箱の中身は微妙だった。今回は期待できるのであろうか?
 蓋をつついてみると、パッカーン! 中から現れたのは……。

「『彫刻セット』?」
のみとハンマーニャ」

 どうやらお好きな形に石化したメンバーを彫って上げて下さいという意図らしい。

「まま゛っ」

「ニャんだと?」
「どうやらギリシャ彫刻風に彫りの深い顔にしてほしいらしい」

 泥素材の時は微妙な造形が難しいので、顔がのっぺりしていたと。ふむふむ。
 ダビデ像風に仕上げてほしいそうだ。

「アリスさん、そういうことだそうです」
「ふむふむ。『石ボーズ』改め『お地蔵ズ』となる日が来たようニャ」
「ま゛ま゛ま゛ま゛っ!」
「冗談です。このままで頑張らせていただきます。ということだそうです」

 手芸好きの俺としては吝かでもありませんよ。「こけし風」とか「トーテムポール風」とかね。「マヤ文明風」とか彫ってみたい気がする。

 えっ? 要らない? 何だ、つまんないねえ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

ホームレスは転生したら7歳児!?気弱でコミュ障だった僕が、気づいたら異種族の王になっていました

たぬきち
ファンタジー
1部が12/6に完結して、2部に入ります。 「俺だけ不幸なこんな世界…認めない…認めないぞ!!」 どこにでもいる、さえないおじさん。特技なし。彼女いない。仕事ない。お金ない。外見も悪い。頭もよくない。とにかくなんにもない。そんな主人公、アレン・ロザークが死の間際に涙ながらに訴えたのが人生のやりなおしー。 彼は30年という短い生涯を閉じると、記憶を引き継いだままその意識は幼少期へ飛ばされた。 幼少期に戻ったアレンは前世の記憶と、飼い猫と喋れるオリジナルスキルを頼りに、不都合な未来、出来事を改変していく。 記憶にない事象、改変後に新たに発生したトラブルと戦いながら、2度目の人生での仲間らとアレンは新たな人生を歩んでいく。 新しい世界では『魔宝殿』と呼ばれるダンジョンがあり、前世の世界ではいなかった魔獣、魔族、亜人などが存在し、ただの日雇い店員だった前世とは違い、ダンジョンへ仲間たちと挑んでいきます。 この物語は、記憶を引き継ぎ幼少期にタイムリープした主人公アレンが、自分の人生を都合のいい方へ改変しながら、最低最悪な未来を避け、全く新しい人生を手に入れていきます。 主人公最強系の魔法やスキルはありません。あくまでも前世の記憶と経験を頼りにアレンにとって都合のいい人生を手に入れる物語です。 ※ ネタバレのため、2部が完結したらまた少し書きます。タイトルも2部の始まりに合わせて変えました。

処理中です...