飯屋のせがれ、魔術師になる。

藍染 迅

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第4章 魔術学園奮闘編

第248話 無属性、『遠当ての極み』です。

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「木彫か? こっちの穴の開いた板は何だ?」
「圧印器を使って木片を圧縮したものです。これを磨くと、こちらのコースターになります」

 マリアンヌは完成品と仕掛品を見比べた。

「ふうん。その鉄板は針のついた型だということか」
「押すのは針ではありません。魔力で押します・・・・・・・

 ステファノはまっさらな板と下絵を圧印器にセットし、卓上バイスで挟み込んだ。

「こんな形の物ですが、一種の魔力発動具・・・・・・・・として機能します」

 ステファノは右手をかざして呪文を唱えた。

「ステファノの名において命ずる。光あれ!」

 圧印器の隙間から真っ白な光が漏れ、挟まれた木片がみしみしと音を立ててきしんだ。

「止まれ!」

 圧印器から取り出した木片には見本と同様に細かい穴が開いていた。

「光魔術と土魔術を併用するということか? 土魔術は穴を開けるために使うというのはわかる。光魔術は何のためだ?」
「下絵を読み取るためです」
「読み取るとは……まさか?」

 マリアンヌの顔色が青ざめた。

「はい。圧印器のは押すためではなく、読み取るためにあります」
「道具が絵を読むだと?」
「絵の黒い所のみ、押す力が発生するように道具を調整してあります」
「どんな絵でも良いということか」

 マリアンヌは型の形が初めから決まっているものと思い込んでいた。そうではなく下絵に合わせて押す形を変えるということは……。

「文書や本を複製できるのだな?」
「今はまだそこまでの精度は出せません。しかし、ゆくゆくはそれを目指しています」
「ぬう、これも影響の大きい話だ。木彫を作る道具としてなら構わんが、製版の可能性については先程の拡声器同様当面口外を禁ずる。2人とも良いな?」

「わかりました」
「秘匿いたします」

「ステファノ、研究会のメンバーにも徹底するように。後でメンバー一覧を作って私に提出しなさい」
「後ほどお届けします」

 マリアンヌはステファノの魔術そのものよりも、2種類の魔道具にいたく感心したようであった。

「お前は魔術師より魔道具師の方が向いているのかもしれんな。そちらの専攻も考えてみるが良い」
「そうですね。自分でもそう思います。2学期までに考えてみます」
「うむ。事前に相談してくれたのは良かった。今後も何かあったら報告しなさい」

 そう言い残すと、マリアンヌは帰って行った。

 ◆◆◆

「何だかがっかりしたようでしたね?」
「マリアンヌ女史か? まあ、そうだな。女史の関心は戦の役に立つかどうかだからな」

 学科長が帰った後、今更訓練という気にもなれず、ドリーとステファノはコーヒーを飲んで気分転換をしていた。

 マリアンヌとドリーでは世代が違うのだが、ドリーは在学中によくマリアンヌと比較された。

「魔術の腕で負ける気はしないが、私は学科が苦手だった。戦で活躍することを競うのであれば、女史には適わないだろう」
「どれだけたくさん殺せるかという勝負ですね」

 ステファノも日常が戦争の中にある日々を生きてきた。きれいごとばかりでは生きていけないことはわかる。
 国を守らなければ民の生活も守れないと、理解している。

 自分も生きるために、人を殺した。

 それでも、「どれだけたくさん殺したか」で人の価値を決めるような世界で生きたくはない。
 理想論と言われても、ネルソンのように「どれだけ人を救えたか」に生涯をかけたい。

 ステファノは自分が立つ場所を、そこに定めようと思った。
 マリアンヌは正しい。戦い以外に価値を求めるなら、「魔道具師」というのは理にかなった選択肢である。

(俺の場合は、「魔術具師」かな)

 科学の進歩を邪魔しないところで、人々の暮らしを支えたい。人の命を救いたい。
 そのための基礎をアカデミーここで学ぼう。ステファノはそう考えた。

「あっ、そうだ!」
「どうした? 急に大声を出して」
「さっきマリアンヌ先生を待ちながら、新しい杖の使い方を思いついたんです」

 ステファノは20メートルの的を試させてほしいと、ドリーに頼んだ。

「構わんさ。ここはそのための施設だからな」
「ありがとうございます」
「で、何という技だ」

「無属性、『遠当ての極み』です」
「ほお、大きく出たな。5番、無属性『遠当ての極み』。発射を許可する。いつでも撃て」

 ステファノはヘルメスの杖を顔の横に構えた。右手で杖後部、左手で前方部を支える異常な構えであった。
 左足を前にして杖を水平に横たえ、顔をつける。

 しっ。

 わずかに風切る音が聞こえ、ドリーの目に杖に沿って水しぶきが上がったように見えた。

 どおん。

 まったく間を置かず、標的が見えない牛に襲われたように突き飛ばされる。鎖をぴんと引っ張って45度の角度まで標的は持ち上がった。

「イドを飛ばすことには変わりがないのだな?」
「はい。杖を振り回して投げ飛ばす代わりに、杖に沿って撃ち出してみました」

 ステファノは簡単に言うが、ドリーには想像ができない。イドの制御とはそれほど自在なものなのか?

「抵抗を受けないのでどこまででも飛びそうなんですよね。20メートルを超えると、狙いをつけるのが大変です」
「そんな遠間で攻撃魔術を使う奴などいないからな。私にも助言できかねるな」
「うーん……。ほ!」

 首を傾げて唸っていたステファノは、あることを思いついて顔を上げた。

「遠くを見るには遠眼鏡ですね」

 幸いなことに杖にはがついている。
 ステファノはヘルメスの杖に遠眼鏡を縛りつけ、眼鏡の視野が杖先の狙いと一致するように調整した。

「縛らなくとも簡単に取りつけられる台座のようなものがあれば便利だな」

 そんなことをぶつぶつ呟きながら、ステファノは視野の調整を終えた。

「これで試してみます」
「よし。5番、無属性『遠当ての極み』。任意に撃て」

 しっ。

 どおん。

「おお! これは狙いやすいですね。20メートルの的なら豆にでも当てられそうです」
「それは面白い。今日の晩飯を賭けてみるか?」
「えぇ? 博打は良くないって言ってませんでしたか?」
「馬鹿者。これは遊びだ。定食をおごるくらいで博打になるものか」

 ならばやりましょうということになった。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第249話 どんぐりは『豆』より大きいからな。調整させてもらった。」

「ふふ。自信がないか? 今なら降りても良いぞ?」

 言葉とは裏腹に、ドリーはステファノをけしかけていた。

「いや、やらせてください。良い練習になりそうだ」

 強がりではなく、ステファノはそう思った。動く標的を狙う練習はなかなかできない。

「よし! 契約成立だ。腕前の程、とくと見せてもらおう」

 ドリーは標的を30メートルまで遠ざけた。

「えっ? 遠くありません?」
「どんぐりは『豆』より大きいからな。調整させてもらった」

 涼しい顔でドリーは言った。
 
 ……

◆お楽しみに。
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