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第4章 魔術学園奮闘編
第270話 菌には血も肉もないが、世代を超えて伝わる物があるとしたら……。
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人間が作った制度が血統を生み出すことなどあり得ない。そう思ったからステファノは、「ギフト=血統説」を馬鹿々々しいと考えて来た。
「魔術の歴史(基礎編)」のチャレンジでは説をまとめる上で、ギフトを血統因子と認め、それに対する平民の血統因子として魔力を想定して見せた。
しかし、ステファノはそれを心から信じ切っていたわけではない。論を進めるための便法であった。
(だが、「神器」が血統を創り出すものだとしたらどうだ? 聖スノーデンは文字通り貴族階級を創り出したのではないか)
平民に対して神器が用いられた形跡はないので、魔力の血統は神器とは無関係に形成されたのだろう。
それはセイナッド氏による覚醒儀式だったと考えられる。
(もしそうだとしたら……「疫病退散祈願」に神器が使われたのはなぜだ? 血統を与える道具がなぜ疫病退治に使われた?)
疫病退散とはそもそもどういうことか? ステファノはそこに立ち返って考えてみた。
(もしも旦那様の「抗菌剤」があれば、疫病に対抗できただろう。神器とはそういう働きのものか? 病気の源とされる菌を殺す? あるいは「無力化」か?)
ステファノは「菌の無力化」と「血統の付与」を何とか結びつけようと、必死に共通点を探した。
(菌は有害である状態から無害な状態に変わった。貴族は「能○」からギフト持ちに変わった)
不連続な変化である。何らかの外部要因が働いた可能性は大いにある。
(貴族の誕生は個人の変化ではなく、血統の変化だ。疫病の無害化もそうなのか? 血統の変化?)
菌には血も肉もないが、世代を超えて伝わる物があるとしたら……。
(それを「変える」ことができれば、後の世代を無害化できるかもしれない……)
もしも神器が血統変化を自在に行う魔道具であったら、聖教会はいつでも平民にギフトを与える力を持っていたことになる。
神器を使って貴族と平民の差をなくそうとしていたとしたら……。
(それがモーリー氏裏切りの原因かもしれない)
モーリー氏は裏切りが露見し聖スノーデンに討たれたが、結局貴族階級は保たれた。聖スノーデンが脳卒中に倒れたためだ。
(第2のモーリーが聖スノーデンを暗殺したのだろうか? だとすれば、どうやって?)
魔視脳覚醒者が「遠隔魔法」を使って脳血管を破裂させたのか? 相手が聖スノーデンでなければ可能だろうが……。
(少しでも異変に気づけば、魔法攻撃を無効化すれば良い。聖スノーデンに防げない攻撃などあるだろうか?)
そもそもステファノ同様、常時イドの繭をまとっていたはずだ。イドの繭はイデアに対する防壁となる。その「内側」には侵入できないのだ。
(内側か……。もしも、もしも体の内側に入り込むことができるなら、内部から魔法を発動できるだろうけど)
ステファノは妄想に近い想像を巡らせた。
(魔術発動具を聖スノーデンに突き刺したとしたら? その状態なら体の内側から魔法を発動できる。そんな状態を作り出せたらの話だが)
武においても英雄であった聖スノーデンに剣であれ、矢であれ、突き刺せる人間がいたとは思えない。
(ふうむ。魔術具ならどうだ? それも自動発動型の魔術具にして、何かのきっかけに聖スノーデンの体に刺さるようにしたら?)
それなら気づかれにくいはずだ。魔術具に籠められた魔力を見つけられる? 自分のイドで覆い隠せば……。
(それでも聖スノーデンであれば発動した魔法を消し去ることができただろうな。普通の状態なら)
聖スノーデンの防御を無効化したら? 彼が使うのは「終焉の紫」、すなわち「陰気」の塊のはずだ。その時そばに立っていたならば、大量の「陽気」を浴びせて聖スノーデンの防御を押し流せる?
(……できるかもしれない。だが、聖スノーデン本人に匹敵する魔法師でなければ不可能だ)
果たしてそんな人間が聖スノーデンの側近にいただろうか? まるで聖スノーデンその人であるかのように魔術具を製作し、陽気を自在に操れる人間が。
(いたとすれば、聖スノーデンの「影」か?)
英雄の陰に隠れていた異才。そういう人間を、ステファノは想像してみた。
影には顔がなく、ただ黒くわだかまっているのみであった。
◆◆◆
聖スノーデンの暗殺方法などという物騒なテーマを考え込んだせいで、ステファノは気分が鬱々とするのを感じていた。考察が行き止まりに至ったところでステファノはこのテーマを一旦切り上げ、次のテーマに取り組むことにした。
次は神学入門である。
「ギフトと魔力はなぜ分けられたのか?」、そして「ギフトと魔力の両方を備えたいわゆる『両持ち』はなぜ存在するのか?」というテーマであった。
先ほどまでのテーマと通じる部分がある。ステファノは王国史での調査結果を生かして、神学入門の課題に応えようと考えた。
(ギフトとは貴族階級を作り出すために与えられた血統因子だ。ならばなぜ、貴族階級を創設しなければならなかったか?)
これは神学の課題である。回答は「神」の立場、あるいは「世界」の視点で述べなければならなかった。
(なぜ神は貴族を作ったか? 言い換えればそういうことになる。それは……武力強化だろうな)
ギフトは圧倒的な軍事力だ。聖スノーデンがこの力で為した周辺諸国に対する国防を、集団の力で確立させたのがギフトである。
その時平民にギフトを与えてしまっては、新たな戦国時代を呼びよせてしまう。平和が訪れ、王国制を確立した後に初めて平民にギフトを与え、貴族との平等を実現するつもりだったのだろう。
(それなのに、なぜ魔力を平民に与えたか? これはギフトとは違う形の血統として、セイナッド氏から伝わり世に広がった)
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第271話 神は平民に魔力を与えた。」
とはいえ相手は神である。全能の創造主であるならば魔力の伝播を止められたはずだ。そうしなかったのは、魔力の血統を広げることに積極的な意味を見出していたからだ。そういう理屈になる。
(貴族を是とする立場から考えれば、魔力を持つ平民は「貴族を手助けする」役割を持つべきだ。ギフトが苦手とする分野を魔術が補う。そういう役割だったのだろう)
貴族階級の創設と維持を神の意思とするならば、平民が魔力を持ってもその妨げにはならないということになる。実際にその通りの経緯を歴史はたどった。
……
◆お楽しみに。
「魔術の歴史(基礎編)」のチャレンジでは説をまとめる上で、ギフトを血統因子と認め、それに対する平民の血統因子として魔力を想定して見せた。
しかし、ステファノはそれを心から信じ切っていたわけではない。論を進めるための便法であった。
(だが、「神器」が血統を創り出すものだとしたらどうだ? 聖スノーデンは文字通り貴族階級を創り出したのではないか)
平民に対して神器が用いられた形跡はないので、魔力の血統は神器とは無関係に形成されたのだろう。
それはセイナッド氏による覚醒儀式だったと考えられる。
(もしそうだとしたら……「疫病退散祈願」に神器が使われたのはなぜだ? 血統を与える道具がなぜ疫病退治に使われた?)
疫病退散とはそもそもどういうことか? ステファノはそこに立ち返って考えてみた。
(もしも旦那様の「抗菌剤」があれば、疫病に対抗できただろう。神器とはそういう働きのものか? 病気の源とされる菌を殺す? あるいは「無力化」か?)
ステファノは「菌の無力化」と「血統の付与」を何とか結びつけようと、必死に共通点を探した。
(菌は有害である状態から無害な状態に変わった。貴族は「能○」からギフト持ちに変わった)
不連続な変化である。何らかの外部要因が働いた可能性は大いにある。
(貴族の誕生は個人の変化ではなく、血統の変化だ。疫病の無害化もそうなのか? 血統の変化?)
菌には血も肉もないが、世代を超えて伝わる物があるとしたら……。
(それを「変える」ことができれば、後の世代を無害化できるかもしれない……)
もしも神器が血統変化を自在に行う魔道具であったら、聖教会はいつでも平民にギフトを与える力を持っていたことになる。
神器を使って貴族と平民の差をなくそうとしていたとしたら……。
(それがモーリー氏裏切りの原因かもしれない)
モーリー氏は裏切りが露見し聖スノーデンに討たれたが、結局貴族階級は保たれた。聖スノーデンが脳卒中に倒れたためだ。
(第2のモーリーが聖スノーデンを暗殺したのだろうか? だとすれば、どうやって?)
魔視脳覚醒者が「遠隔魔法」を使って脳血管を破裂させたのか? 相手が聖スノーデンでなければ可能だろうが……。
(少しでも異変に気づけば、魔法攻撃を無効化すれば良い。聖スノーデンに防げない攻撃などあるだろうか?)
そもそもステファノ同様、常時イドの繭をまとっていたはずだ。イドの繭はイデアに対する防壁となる。その「内側」には侵入できないのだ。
(内側か……。もしも、もしも体の内側に入り込むことができるなら、内部から魔法を発動できるだろうけど)
ステファノは妄想に近い想像を巡らせた。
(魔術発動具を聖スノーデンに突き刺したとしたら? その状態なら体の内側から魔法を発動できる。そんな状態を作り出せたらの話だが)
武においても英雄であった聖スノーデンに剣であれ、矢であれ、突き刺せる人間がいたとは思えない。
(ふうむ。魔術具ならどうだ? それも自動発動型の魔術具にして、何かのきっかけに聖スノーデンの体に刺さるようにしたら?)
それなら気づかれにくいはずだ。魔術具に籠められた魔力を見つけられる? 自分のイドで覆い隠せば……。
(それでも聖スノーデンであれば発動した魔法を消し去ることができただろうな。普通の状態なら)
聖スノーデンの防御を無効化したら? 彼が使うのは「終焉の紫」、すなわち「陰気」の塊のはずだ。その時そばに立っていたならば、大量の「陽気」を浴びせて聖スノーデンの防御を押し流せる?
(……できるかもしれない。だが、聖スノーデン本人に匹敵する魔法師でなければ不可能だ)
果たしてそんな人間が聖スノーデンの側近にいただろうか? まるで聖スノーデンその人であるかのように魔術具を製作し、陽気を自在に操れる人間が。
(いたとすれば、聖スノーデンの「影」か?)
英雄の陰に隠れていた異才。そういう人間を、ステファノは想像してみた。
影には顔がなく、ただ黒くわだかまっているのみであった。
◆◆◆
聖スノーデンの暗殺方法などという物騒なテーマを考え込んだせいで、ステファノは気分が鬱々とするのを感じていた。考察が行き止まりに至ったところでステファノはこのテーマを一旦切り上げ、次のテーマに取り組むことにした。
次は神学入門である。
「ギフトと魔力はなぜ分けられたのか?」、そして「ギフトと魔力の両方を備えたいわゆる『両持ち』はなぜ存在するのか?」というテーマであった。
先ほどまでのテーマと通じる部分がある。ステファノは王国史での調査結果を生かして、神学入門の課題に応えようと考えた。
(ギフトとは貴族階級を作り出すために与えられた血統因子だ。ならばなぜ、貴族階級を創設しなければならなかったか?)
これは神学の課題である。回答は「神」の立場、あるいは「世界」の視点で述べなければならなかった。
(なぜ神は貴族を作ったか? 言い換えればそういうことになる。それは……武力強化だろうな)
ギフトは圧倒的な軍事力だ。聖スノーデンがこの力で為した周辺諸国に対する国防を、集団の力で確立させたのがギフトである。
その時平民にギフトを与えてしまっては、新たな戦国時代を呼びよせてしまう。平和が訪れ、王国制を確立した後に初めて平民にギフトを与え、貴族との平等を実現するつもりだったのだろう。
(それなのに、なぜ魔力を平民に与えたか? これはギフトとは違う形の血統として、セイナッド氏から伝わり世に広がった)
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第271話 神は平民に魔力を与えた。」
とはいえ相手は神である。全能の創造主であるならば魔力の伝播を止められたはずだ。そうしなかったのは、魔力の血統を広げることに積極的な意味を見出していたからだ。そういう理屈になる。
(貴族を是とする立場から考えれば、魔力を持つ平民は「貴族を手助けする」役割を持つべきだ。ギフトが苦手とする分野を魔術が補う。そういう役割だったのだろう)
貴族階級の創設と維持を神の意思とするならば、平民が魔力を持ってもその妨げにはならないということになる。実際にその通りの経緯を歴史はたどった。
……
◆お楽しみに。
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