飯屋のせがれ、魔術師になる。

藍染 迅

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第4章 魔術学園奮闘編

第333話 この本は……すごいな。

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 てっきり男だと思っていたが、ディミトリー氏は女であった。道具屋の娘の魔道具好きが高じてその道の大家にまでなり遂げたらしい。

「私の好きなアーティファクト」というほのぼのとしたタイトルの書籍に、実に様々なアーティファクトに関する観察と考察の記録が残されていた。

(この本は……すごいな。これからも研究を続けたい)

 様々な魔道具の名称、外見、機能、使用方法、所蔵先、そして術理に関する考察などが、事細かく書き記されていた。
 ステファノにとってはたまらない情報源であった。

(こういう時に複製が簡単に取れたら便利だよね)

 手で書き写すより光撮影器で撮影した方が速いが、それでも1ページ10秒以上かかる。しかも、現在のところ文字を判読できるだけの解像度もない。

(残念だなあ)

 今日のところは「黒板」の魔道具について調べることで己を満足させよう。ステファノは自分にそう言い聞かせた。
 目次をたどっていくと、初めから3分の1くらいの項目に「文字・画像表示用非接触式黒板」というものがあった。

(おそらくこれだろう。「非接触式」って? 「接触式」もあるのかな?)

 目次のページを開くと、黒板システムについてディミトリーが調査した結果がまとめられていた。
 機能についてはおよそステファノが聞いている内容と大差ない。

 ステファノの目を奪ったのは操作方法と術式の解析であった。

(文章も映像も、思念の入力により処理対象にするだって? 魔力云々ではなくて思念が手段なのか)

 作動させるきっかけは魔力注入であるが、処理対象の情報は思念を読み取らせることで与えるのであった。

魔視鏡マジスコープのように、使用者の脳に直接働きかけているのか)

 それだけでなく、表示させる操作も思考によって行う。

(操作のための思考パターンは、「これ・・を『雲』経由で『黒板』に投げる・・・」だって?)

「これ」とは表示させる対象のことである。映像の場合、図形や絵としてはっきり脳内にイメージする必要がある。どうしてもそれができない人がいるらしい。

 ステファノの場合は映像記憶フォトグラフィック・メモリーを呼び起こすだけで済む。

(多分俺は問題ないな。普通にできそうだ)

 教務課で聞いた「雲に送る」という操作法は、やはり正しかった。操作者→雲→黒板という流れで情報が渡されるのであった。

(「雲→黒板」という部分を利用できないかな? 普通に操作したら、「目の前のこの黒板」を指定していることになるのだろうが、「1000キロ離れたあの黒板」を指定できたらとんでもないことになる)

 そう思って読み進めると、「黒板が複数ある場合の使用法」という項目があった。その場合は魔術発動具――通常は短杖ワンド――を、黒板と「ペア」にすべしと書いてあった。
 2つの黒板を同時に使うためには、魔術発動具も2つ用意せよと。

(道具の「ペア」って何だ? 相手と結びつけるということか? もちろん目には見えない結びつきなのだろう)

 たとえて言えば、ステファノが編み出した「魔核混入マーキング」のようなことか?
 ステファノはがぜん書籍の内容に引き込まれた。

『魔術発動具を通して魔力を黒板に注入し、「ペアリング」と念じれば、黒板と魔術発動具がペアに設定される』

(簡単だな。先生たちは講義を始める前にこの設定をしているということだね)

『ペアリングは1つの発動具について1件のみ有効となる。新しい黒板とペアリングを行うと、以前のペアリング内容は上書きされる』

(なるほど。間違って違う黒板に思念が送られてしまうことはないというわけだね。ペアリングしたまま黒板から遠くに移動したらどうなるんだろう?)

『黒板から発動具が一定距離以上離れると、ペアリングが失われる』

(ああー、残念。1000キロ離れて思念を送ることはできないのか。「一定距離」っていうのを伸ばすことはできないかな?)

 なおもしつこく抜け穴を探していると、説明がよくわからない記述に出くわした。

『「ヘルプ」と思念を送ると黒板に支援画面が現れるが、解読不能の内容が大半を占めている』

 解読不能とはどういう意味か。文字が読み取れないのか、それとも読み取れても意味が理解できないというのだろうか。

(これは、実際に試してみないとわからないな。教務課にお願いして黒板を使わせてもらおう)

 それにしても、この書籍が実に示唆に富む内容であることは十分に理解したステファノであった。今後も細かく内容を検証していこうと思うのだった。

 ◆◆◆

「ドリーさんはディミトリーという魔道具研究家を知っていますか?」

 午後6時から第2試射場を訪れたステファノは、ディミトリーのことをドリーに聞いてみた。

「あいにく知らないな。わたしはそっち方面・・・・・に疎いのでな」

 何事も実践派であるドリーは魔道具への関心が薄かった。

「金銭的な余裕もないしな。魔道具に触れられるのは上級貴族か、富豪くらいのものだ」

 魔道具とは、とにかく貴重な代物であった。

「実は、教室で使われている黒板が通信機になるんじゃないかと思いまして」
「どういうことだ?」

 ステファノは黒板への表示が魔術発動具から「雲」を経由して黒板に送られていること。魔術発動具と黒板が「ペアリング」されていること。
 そうであれば、黒板を離れた場所においても表示内容を伝送できるかもしれないことを、ドリーに説明した。

「あれにはそういう術理があったのか。自分では使ったことがないので、知らなかったな」
「ドリーさんでもそうですか? 授業で使う先生方しか触らないものなのか」
「教務課であれば機能については把握しているだろう」
「その日の授業が終わった後なら触らせてもらえますかね?」
 
 壊すような使い方でなければ触らせてもらうことはできそうであった。
 今日はもう遅くなる。明日の夕方にでも使わせてもらえるように頼んでみようと、ステファノは考えていた。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第334話 消えることへのこだわりが変態だな。」

「それよりも報告会では大活躍だったな。炎隠れの術は見事だった」
「ありがとうございます。ドイル先生には見破られてしまいましたが」

 報告会の翌日は臨時休業となり、12/3の水曜日から1週間の期末試験期間となった。試験中はさすがのステファノも魔術訓練と柔研究会を休んでいた。
 ステファノが受けた試験は12/6の土曜日にあったスノーデン王国史初級と万能科学総論の2つだけであった。
 
 12/8の今日と12/9の明日はまだ期末試験期間が続いていたが、ステファノにとっては何もない日々であった。
 明日で全生徒にとっての1学期が終わり、翌日から冬期休暇が始まる。

「あれは仕方あるまい。先生も言っていたが、『隠れる』とわかった状況だからな。逃げ場が限られていたし」

 5メートル跳び上がって天井に貼りついたのは、苦肉の策であった。

 ……

◆お楽しみに。
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