飯屋のせがれ、魔術師になる。

藍染 迅

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第4章 魔術学園奮闘編

第500話 イドにはイドを!

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「何っ? どうした?」
「ステファノが攻撃された?」
「それは反則」

 競技者への直接攻撃はルールで禁止されている。現に、ジェニーはステファノに何かをぶつけたわけではない。
 それなのにステファノは明らかにダメージを受けている。

「……精神攻撃か」
「あぁん? ジェニーがだと?」

 ありうべき答えはそれしかないと、スールーは頷いた。ジェニーが発している不思議な声。
 それはギフトの発動条件に違いない。

「彼女は精神攻撃系のギフト持ちだ。それ以外、この状況はあり得ない」

「……ァアアアアー」
 
 ステファノが苦しんでいる隙に、長い声を発したままジェニーは最前線に進み出た。弓に矢をつがえ、素早く引き絞った。
 落ち着いて放たれた矢はステファノの標的に突き刺さる。

 ステファノは目も開けられない光の中にいた。

 試合開始と同時に押し寄せた光の波に、体全体を飲み込まれたのだ。太陽のフレアにあおられたように、真っ白な光を体中で感じる。
 光はとめどなく押し寄せていた。許容量を超えた光に、ステファノの「第3の眼」が悲鳴を上げていた。

雷丸いかずちまる……。助けてくれ!」
「ピーッ!」

 ステファノの髪をかき分けて、雷丸が顔を出した。きょろきょろと辺りを見回していたが、ステファノが苦しんでいると気づいたのか、頭のてっぺんに這い上がり、四肢を踏ん張った。

 雷丸の全身を覆う針が逆立ち、黄金色に光輝いた。

「ピィイ――ッ!」

 ステファノを襲っていた光の波が、ぴたりと収まる。

(あの声――。精神攻撃の発動条件だ。音を通じて、俺の魔視脳にリンクした。ならば……)

「色は匂えど、散りぬるを――。(音も、光も、一瞬のものでしかない)」

 ステファノはギフト「諸行無常いろはにほへと」の成句を高らかに詠唱した。すべてを手放し、成句にのみ意識を集中する。

「我が世誰ぞ、常ならむ――。(世界は移り変わり、俺自身も常に変化する)」

「有為の奥山、今日越えて――。(俺の存在は物質界に止まらない)」

「浅き夢見じ、飢干ゑひもせず――。ん――。(宇宙は幻想。実相は永遠なるイデア界にあり)」

 ステファノは全身から「始原の赤」の光を放出した。存在の根源たる陽気である。
 陽気は広がり、押し寄せるジェニーのID波を飲み込んだ。

 ジェニーのギフト「レゾナンス」は希少な精神攻撃系能力だ。特定波長の声を対象に聞かせている間、魔視脳の機能を阻害できる。同時に頭痛やめまいをもたらすものであった。

 ギフトも魔視脳の働きによる能力である。その発現にはイドが発するID波が関与していた。

(イドにはイドを!)

 ステファノの陽気はジェニーのID波を圧倒した。陽極まれば、陰に転ずる。
 ステファノはあふれる陰気を、自分の標的に飛ばした。

「ステファノの名において命じる。虹の王ナーガよ、我が標的を守れ! ナーガの鱗!」

 トーマは見た。人の胴ほどに太い、大蛇が標的に巻きつき鎌首をもたげる姿を。
 ステファノの標的は既に2本の矢を受けていた。しかし、続いて飛んで来た3本目の矢はぬるりと標的を避けた。

「くっ! どうして矢が当たらない?」

 ジェニーは焦ったが、どうすることもできなかった。

 ステファノは腰に下げた小物入れに手を入れた。じゃらじゃらと一掴みの鉄丸を取り出す。

 手のひらに載せた鉄丸に、雷属性の魔力を籠める。土属性の魔力により引力を操り、さらに雷気による推進力で加速させた。電磁加速砲レールガンである。

土生金どしょうこん飯綱嵐いづなあらし!」

 バリリッ! ドンッ!

 まばゆい光と轟音を発し、鉄丸の群れは一直線にジェニーの標的を撃った。鉄丸は音速に達し、衝撃波とともに標的を穿うがった。
 あまりの高速に鉄丸の表面は空気との摩擦で赤熱し、標的の表面を焦がす。

「雷気開放!」

 標的にめり込んだ十数個の鉄丸が一斉に高圧放電し、大気をプラズマ化した。

 バァアアン!

 視界を真っ白に染める閃光を発し、ジェニーの標的が炎に包まれた。電流は手近な金属部である鎖に流れ、一気に焼き切った。
 吊り下げていた鎖を失った標的は煙を上げながら、どさりと地面に落ちた。

「そっ、それまでっ!」

 審判が致命傷を認め、ステファノの勝利を宣言した。

 対戦相手に礼をして競技エリアを去るステファノは、勝利者とは思えぬ厳しい表情を浮かべていた。

 ◆◆◆

「うーん、どうなんだあの顔は? 勝ったのに不満そうだったね、ステファノの奴」
「思い通りに行かなかったんだろうなぁ。精神攻撃は予想してなかったな」

 ステファノの勝利を喜びたいスールーであったが、去り際に見せたステファノの表情が気になっていた。

「ステファノの思い上がり。世の中予想通りに行かない」

 サントスのコメントは手厳しい。それはステファノが自ら痛感していることでもあった。

「勝ちは勝ちだからな。俺に言わせりゃ、それで十分だと思うぜ」
「トーマは志が低すぎ。小物感丸出し」
「良いじゃねぇか、小物でも。己を知るって奴さ」

「アレは『霹靂へきれきの杖』の真似だったね」

 トーマとサントスのやり取りを無視して、スールーはステファノが放った術について自分の感想を語った。

「デズモンドの聖遺物アーティファクトか……?」
「真似というより強化版」

 サントスの見立てでは、たま数、スピード、威力の全てにおいてステファノの術の方が勝っていた。

「デズモンドの雷撃は避雷針で防がれたが、ステファノの鉄丸は避雷針など撃ち抜いて標的を破壊する。それを十数発同時に放つなど、威力過剰」

 その通りであった。「不殺ころさず」にこだわるステファノが、なぜそこまでの威力で攻撃したのか?

「怖かったのだろうね」

 スールーが目を伏せながら言った。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第501話 いざとなったら全然役に立たなかった。」

 確かにステファノは恐怖した。魔術師でもないジェニーが精神攻撃系ギフト保有者とは思わなかった。

(油断していた)

 威圧や眠気、感覚異常等の精神攻撃なら、受けてからでも対応できると考えていたのだ。いきなり魔視脳まじのうの機能を阻害されるとは予想していなかった。

(魔視脳を遮断されて、慌ててしまった)

 ……

◆お楽しみに。
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