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第一章

6話「悪霊払い専門の学校とは」

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「まず優司君には悪霊と戦う為の力と技術を身につけて貰う為にとある高校へと入学して貰う事になるだろう。だけど安心して、そこは特殊な学校ではあるけど就職実績や進学実績もしっかりとあるから」

 鳳二が真剣な声色で言ってきたのは何と彼に力をつけさせる為に学校に入学しろとの事だった。
 しかしそんな事を急に言われても優司は既に高校受験を終えて入学待ちなのだ。

「ちょ、ちょっと待って下さい! 悪霊と戦うのは分かりますけど、それと学校とは何の関係があるんですか!? それに俺はもう別の高校を受けて合格してますし……」

 彼は正直に思った事を鳳二に伝えた。それに今更別の高校に行くだなんて言っても祖父母達が許してくれるとは到底、今の優司には思えなかったのだ。しかも受験の費用や勉強用具全てを祖父母達に負担して貰っているのだから尚更そんな非常識な事はできない。

「ふむ……確かし時期的にはそうだろうねぇ。そもそもこんな事が起こること自体がイレギュラーさ。でもこのままだと優司君は力を持たずにあの悪霊を探すことになるんだ。それは雲を素手で掴むようのものだよ」
「そ、そんな……。だとしら俺は一体……」

 鳳二が言っていることも少なからず今の彼なら理解出来た。
 確かに幽香のように特殊な力がなければ、あの悪霊を見つけ出したとしても太刀打ちできないだろう。現にあの時、優司は何も出来ずに親友達をやられた訳だからだ。

「大丈夫だよ。優司君は今、龍之介さんの家で暮らしているんだろ? なら私が連絡して話を通すよ。きっと君が悪霊と関わってしまった事と現在の状況を話せば何とかなる筈さ」

 鳳二の言っている龍之介とは優司の父方の祖父の名前だ。
 という事はやはり彼が優司の父と幼馴染という事は本当らしい。

 それとこれは自慢ではないが優司の爺さんは重度のコミュ障で基本的に婆さん意外とは話さないのだ。だから名前を知っているという事は中々に仲が良い証拠となるだろう。

「では今から龍之介さんに電話してくるからちょっと待っててね。あの人と話すと妙に緊張するから……あははっ」

 鳳二は何とも言えない表情を浮かべて隣の部屋へと入って行った。
 優司自身も爺さんと話す時はそれなりに気を使う方だから、その気持ちは分からなくもなかった。

「ねえ優司、腕の呪印は大丈夫か? 何ともない? 違和感とかも」

 鳳二が部屋に入ってくと同時に幽香は彼の右腕に近づくと心配そうな顔をして呪印の具合を聞いてきた。

「ん? ああ、大丈夫だよ。この部屋に入ってからは特に何も感じないからな」

 だが優司が言った通り、この部屋に居ると腕の疼きや痛みは特に感じないのだ。

 だけどそんな事よりも本当に今の幽香は”男”なのかという疑問が彼の頭に止めどなく湧いて止まらない。近くで見れば見るほどその容姿は女性に近く、あの夜と違う部分があるとするなら胸の部分だけだろう。
 
「ちょ、ちょっと近過ぎじゃないか……?」

 異様なぐらいに近づいてくる幽香に優司は一歩後ろに下がる。

「別に良いだろう? 久々の幼馴染の再開だし、それに今の僕は男だ。なにか不都合でもあるのかい?」

 だが透かさず幽香は彼の右腕を掴んで呪印の表面を親指で撫で始めた。
 だけど、その柔らかな肌が妙に心地いいと感じてしまった優司はもう手遅れかも知れない。

「この呪印のせいで……クソッ。消えろ消えろ消えろ……」

 幽香は呪印に触れながら一心不乱に何か言っているが優司はそのただならぬ雰囲気を察して聞かない事にした。
 
 そして彼の視線は行き場を失って胸の部分へとたどり着くとジャージ姿の上からでも分かるのだが、今の幽香の胸は”まな板”に等しいぐらい無いのだ。
 逆に言えばそれが男だという証明になっているから何とも言えない所だ。

「な、なあ幽香。そろそろ離れてくれないと鳳二さんが……」

 ただあの夜に見た幽香は中学生らしからぬ巨乳で、まさに例えるならマスクメロンというべき大きさだったという事だけは鮮明に優司は覚えているのだ。
 恐らく胸から御札を取り出していたぐらいだから印象的だったのだろう。

「やあ。待たせたね……って、お取り込み中だったかい?」

 彼が幽香に離れるように言った数秒後に偶然にも隣の部屋の障子が開いて鳳二が姿を現した。

「あっいや、そんな事はないですよ。ははっ……はぁ」
 
 しかし傍から見たらこの光景は誤解を受けるのに充分な状況だと言うことも彼には分かっていた。
 
「ほら幽香、鳳二さんが戻ってきたから離れてくれ。それにそんなに触られると擽ったいのだがな」
「あ……うん、分かった。それでお父さんどうだったの?」

 幽香は直ぐに右腕から手を離すと何事もなかったかのように涼しい顔をして鳳二に尋ねていた。
 だが優司は幽香のその表情と雰囲気の切り替えように、知らなくてもいい幼馴染の一面を知った気分になった。

 本当にあの幽香は一体何だったんだろうか……と。改めて考えると彼は少し怖くなった。
 
「ああ、龍之介さんとは無事に連絡できたよ。まあ向こうは相当怒っているようだったけどね」
「やっぱり爺ちゃん怒ってるよなぁ……。夜中に外出しただけでなく立ち入り禁止の廃墟に入って極めつけは呪われたって……ははっ……はぁ」

 鳳二から連絡が取れたと聞くと彼は爺さんが滅茶苦茶怒っている姿を想像して乾いた声しか出なかった。しかも色々とやらかしているからこそ、申し訳なさで心がいっぱなのだ。

「しかしだよ。ちゃんと学校の事も話したけど優司君の今の状況を考えると専用の学校に行った方が良いと龍之介さんも分かってくれていてね。だから君には幽香と共に悪霊退治の専門学校、通称【名古屋第一高等十字神道学園】に入学して貰う事になった」
「あ、悪霊退治専門の学校? なんですかそれ……」

 唐突にも鳳二から言われた学校の名前は一度も聞いた事がなく、優司は正直疑わずには要られなかった。本当にそんなマニアックで特殊な学校があるのだろうかと。

「優司……もしかして疑っているのか? よし、ならば説明してあげよう。名古屋第一高等十字神道学園とは世の中の科学的に解明できない事件や事象を解決する為に作られた”日本政府公認”の”特殊機関”なんだ。所謂、霊の除霊を生業とする”除霊師”を育成するのが目的だ。だから安心して欲しい」

 幽香には彼の考えている事がお見通しのようで疑問に思っている部分を教えてくれると、その学校は政府公認の学園らしい。だが優司的にはどうにも引っかかりが残る。 

「そ、そうなのか? ……いやでもおかしくないか? 俺は元々名古屋の学校に進学する予定だったから名古屋にある高校は全て調べた筈だ。だけど一度もそんな学校の名前は出てこなかったぞ?」

 そう、彼は元々名古屋のとある学校に進学する予定だった事から受験の際にネットを使って色々と調べていたのだ。しかし検索した時にそんな名前の学校は見たことも検索にすら引っかかった事はない。本当に日本政府公認の機関なのだろうかと。

「普通に調べたならまず情報は出てこないね。例えばネット検索とか。名古屋第一高等十字神道学園は政府が秘密裏に設立して、その多くは僕達みたいに霊が見えて干渉できる能力を持っていないと入学出来ないんだ。そして能力がある者達の所だけに政府は入学の案内を届けに来る仕様となっているよ」
「それはつまり、一見さんお断りの学校と言う事か」

 幽香が話している事が本当ならネット検索しても情報が出てこない事に納得がいく。
 しかし優司の元には案内というものが来ていないのだが大丈夫なのだろうか。

「ああ、それと政府にもちゃんと優司君の事は連絡しておくから大丈夫だよ。きっと”犬鳴”という名を出せば直ぐにでも動いてもらえる。だからその辺は安心していいよ」

 少しばかり不安になっている彼にそう言って鳳二は微笑んでいた。しかし犬鳴という名を使えば大丈夫だと言っているが、自分の苗字にそれ程の力があるとは優司には思えなかった。
 しかも今更高校を変えるという事は、また試験や面接があるという事でそれだけでも億劫だ。

「まあ詳しい話はまた後日になるね。きっと政府の役人がきて色々と教えてくれる筈だよ」
「分かりました……。色々とありがとうございます」
「ふふっ気にしないで良いよ。これもきっと何かの縁があっての事だからね」

 ここに来てから優司は鳳二達に頼りっぱなしで頭が上がらない。
 いつか助けてくれた恩を返せるといいと思うと同時に、今はあの悪霊を探して倒す為に力を身に付ける事が必要だと優司は力強く拳を握った。

「あとはそうだねぇ。暫くはここで泊まっていくと良いよ。優司君には学園に入学するまでにある程度の知識と霊と戦う為の基礎能力を養って貰う必要があるからね」

 鳳二が彼に霊についての知識と対抗力を身につける為に泊まる事を提案する。

「えっ!? い、良いんですか? 色々としてもらって更にそんな事まで……」
「大丈夫だとも。それにその方が幽香も喜ぶからね」

 その言葉を優司が訊くと心なしか隣に居る幽香が喜んでいるような気がした。
 具体的に言うなら口元がにやけていると言った方が良いだろう。 
 
「よ、喜ぶだなんて……! こんな状況でそんな……はへへっ」
 
 幽香は鳳二に向かって強めの口調で言っていたが、最後の何とも緩みきった言葉で全てが台無しだ。だがしかし、それでも優司としてはその提案は受け入れたい所なのだ。
 またこうして幼馴染の幽香と共に一緒に居られるし、親友達を救う為の力を身に付けたいからだ。

「鳳二さん幽香、これから暫くお世話になります。何卒よろしくお願いいたします!」

 彼は深々と頭を下げると共に声に出来る限りの覇気を込めて言う。

「うむっ! また一緒に過ごそう優司!」
「うんうん。これでこの寺も賑やかになりそうだね」

 すると二人は快く受け入れてくれて優司はそれが何よりも懐かしくて嬉しく思えた。
 恐らくまだ思い出せていない記憶の中に、ここでの過ごした記憶があるのだろう。
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