電車の男 番外編

月世

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弟の彼氏 おまけ

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〈倉知編〉

 俺の手を取り、リビングを出る。
 廊下を早足で歩き、途中で止まった加賀さんが振り返る。
 無言でキスをして、再び歩き出す。
 靴を履くと、玄関のドアを開けて出て行こうとする。玄関に置いておいた泊まり用のバッグを慌てて掴む。なんでかわからないが、一刻も早く外に出たいように見えた。
 玄関を出ると、腕を掴まれたまま、しばらく無言で引きずられた。
「加賀さん」
 怒っている。のかもしれない。
 俺が亜矢と、何かあるのかと勘ぐられた。のかもしれない。
「違います、加賀さん」
「何が?」
 こっちを見ないで言った。
「あの、亜矢ちゃんとはなんでもないです。二年ぶりくらいに会って、なんでか急に、付き合わないかって言ってきて、俺、ちゃんと言ったんです。好きな人いるって」
「亜矢ちゃんとなんでもないことくらいわかるよ」
 足を止めて、俺の腕から手を離し、加賀さんがため息をついた。
「ごめん、すげえ大人げなかった」
 駅に向かう加賀さんの後ろを、ついていく。
「五月ちゃんの友達なのに、敵意剥き出しで悪いことした。二度と触るなって、感じ悪すぎだよな」
 後ろ姿を見ながら、泣きそうになるのを堪えた。
 嫉妬してくれた?
 だとしたら、嬉しい。
「でも、ああいう女がお前に触るのが許せないっていうか、穢れる気がして嫌だった」
 心臓が、キュっと痛んだ。
「お前、可愛いし、いろいろ教えたくなる女がいるのはわかる」
 急に立ち止まり、俺を振り返る。
「でも、お前にいろいろ教えるのは俺だけでいいだろ?」
「そんなの、当たり前です」
 答えると、嬉しそうに笑った。
「昼、何食いたい? どっか寄ってくか」
「そんなことより加賀さんを抱きたいです」
 間があった。俺を見上げて、口元を抑えると、「あー」と低い声でうなった。
「抱きしめて、キスして、加賀さんに、いれ」
「こんな道端で事細かに説明すんな」
 ごす、と手刀が飛んできた。
「帰るぞ」
「はい」
 真っ直ぐ伸びた背中が、照れ臭そうに先を急ぐ。
 小走りで駆け寄って、隣に並ぶ。
 手を繋ぎたいのを我慢して、競うように駅に向かった。

〈おわり〉
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