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〈加賀編〉
小さく悲鳴を上げ、俺の中で果てたあと、動きを止め、荒い呼吸のままの倉知がもう一度「ああっ」と声を漏らした。
「え……、今二回イッた?」
笑いを堪えて見上げると、無言で抱きしめられた。すぐに解放すると、困った顔で腰を引き、ずるりと抜け出していく。
「うう……、しまった……」
隣に寝転び、顔を覆って何かうめいている。
「何、どうした」
「忘れてました、今日、六花の誕生日だった」
「え、なんでこのタイミングで思い出した?」
「なんででしょう」
とぼけた声がおかしくて、「はは」と笑う。
「でも六花ちゃん、今日ランチしたけど何も言ってなかったな」
冬生まれということはなんとなく覚えてはいたが、今日だとは。千葉は知っているのだろうか。モテキング千葉はおそらく女の個人情報を引き出すのが上手いが、ただの千葉はきっと全然だ。
「また二人でランチですか」
拗ねた口調の倉知が腕を伸ばし、ナイトテーブルのスマホをつかむ。
「あっ、まだ十分ある」
仰向けでスマホを操作し、急げ、急げ、と自分を急かしている。
倉知は毎年、家族全員の誕生日にお祝いのメッセージを送っている。実に倉知らしい。こういう人情深いところも愛おしい。
お互いを気にかけて、いつでも心の中に家族がいる。倉知家にはずっとこうであって欲しい。
今日の六花もそんな感じだった。最近、七世に会っていないが元気かとか、大学はどうだとか、話題が倉知のことばかりだった。本人に訊けばいいのにと思わないでもなかったが、離れて暮らしていたら、何かきっかけがないと連絡がしづらいものなのかもしれない。
誕生日はその大切な「きっかけ」の日だ。
もしかしたらあのとき六花は、弟からのメッセージを待っていたのだろうか。
「間に合った……。はあ、よかった」
隣で倉知が息をつく。
「写真撮って送ったら喜ぶな」
倉知の手からスマホをもぎ取った。
「え、なんの?」
「倉知君の顔」
「な、え、今? 今撮るんですか? あの、服は」
カメラを起動させ、体を起こし、横たわる倉知にスマホを向けると、顔の前に手のひらをかざし、「待ってください」と慌てて言った。
「なんで恥ずかしがってるの?」
「違います、どうせなら一緒に撮りましょう」
六花は弟の顔を見たがっている。でも、確かにツーショットは喜ぶかもしれない。今日は六花の誕生日。
目を見合わせ、うなずいた。
倉知の隣に寝転び、密着し、頭をくっつけた。
インカメラにした画面に映ったのは、汗で濡れた肌と湿った髪の男が二人。ほんのり上気した頬で、背景はシーツ。明らかにセックスの事後だ。こんな写真を見せられるのは六花くらいだし、喜ぶのも六花くらいだ。
「はい、撮れた」
「本当に送るんですか?」
「誕生日、おめでとう……、っと。うん、送っちゃった」
「わあ……」
倉知にスマホを手渡して、ベッドから降りた。
「シャワーしよ」
「それ独り言ですか? それともお誘い?」
ドアノブを握り、肩越しに振り向いた。倉知の視線が尻に注がれている。
笑い声を弾ませ、ドアを閉めずに寝室を出た。
〈おわり〉
小さく悲鳴を上げ、俺の中で果てたあと、動きを止め、荒い呼吸のままの倉知がもう一度「ああっ」と声を漏らした。
「え……、今二回イッた?」
笑いを堪えて見上げると、無言で抱きしめられた。すぐに解放すると、困った顔で腰を引き、ずるりと抜け出していく。
「うう……、しまった……」
隣に寝転び、顔を覆って何かうめいている。
「何、どうした」
「忘れてました、今日、六花の誕生日だった」
「え、なんでこのタイミングで思い出した?」
「なんででしょう」
とぼけた声がおかしくて、「はは」と笑う。
「でも六花ちゃん、今日ランチしたけど何も言ってなかったな」
冬生まれということはなんとなく覚えてはいたが、今日だとは。千葉は知っているのだろうか。モテキング千葉はおそらく女の個人情報を引き出すのが上手いが、ただの千葉はきっと全然だ。
「また二人でランチですか」
拗ねた口調の倉知が腕を伸ばし、ナイトテーブルのスマホをつかむ。
「あっ、まだ十分ある」
仰向けでスマホを操作し、急げ、急げ、と自分を急かしている。
倉知は毎年、家族全員の誕生日にお祝いのメッセージを送っている。実に倉知らしい。こういう人情深いところも愛おしい。
お互いを気にかけて、いつでも心の中に家族がいる。倉知家にはずっとこうであって欲しい。
今日の六花もそんな感じだった。最近、七世に会っていないが元気かとか、大学はどうだとか、話題が倉知のことばかりだった。本人に訊けばいいのにと思わないでもなかったが、離れて暮らしていたら、何かきっかけがないと連絡がしづらいものなのかもしれない。
誕生日はその大切な「きっかけ」の日だ。
もしかしたらあのとき六花は、弟からのメッセージを待っていたのだろうか。
「間に合った……。はあ、よかった」
隣で倉知が息をつく。
「写真撮って送ったら喜ぶな」
倉知の手からスマホをもぎ取った。
「え、なんの?」
「倉知君の顔」
「な、え、今? 今撮るんですか? あの、服は」
カメラを起動させ、体を起こし、横たわる倉知にスマホを向けると、顔の前に手のひらをかざし、「待ってください」と慌てて言った。
「なんで恥ずかしがってるの?」
「違います、どうせなら一緒に撮りましょう」
六花は弟の顔を見たがっている。でも、確かにツーショットは喜ぶかもしれない。今日は六花の誕生日。
目を見合わせ、うなずいた。
倉知の隣に寝転び、密着し、頭をくっつけた。
インカメラにした画面に映ったのは、汗で濡れた肌と湿った髪の男が二人。ほんのり上気した頬で、背景はシーツ。明らかにセックスの事後だ。こんな写真を見せられるのは六花くらいだし、喜ぶのも六花くらいだ。
「はい、撮れた」
「本当に送るんですか?」
「誕生日、おめでとう……、っと。うん、送っちゃった」
「わあ……」
倉知にスマホを手渡して、ベッドから降りた。
「シャワーしよ」
「それ独り言ですか? それともお誘い?」
ドアノブを握り、肩越しに振り向いた。倉知の視線が尻に注がれている。
笑い声を弾ませ、ドアを閉めずに寝室を出た。
〈おわり〉
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