抱かれてみたい

小桃沢ももみ

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授業

補佐の生徒

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 話に入って来たのは、生徒だった。制服を着て、腕に腕章を付けている。

 「君達の班は僕が今日一日補佐につきまーす。はい、では自己紹介、君から」

 指名されたイチロウが戸惑っていると、その生徒はイチロウの背中に飛び付いて頬を揉み始めた。背後から手を回す様にしている。

 「うわー、ぷにぷに。ほら、早くぅ。名前言う迄ずっとぷにぷにしちゃうぞ」

 知らない人に急に密着されたイチロウは助けを求める様に見て来たが、残り三人も状況が分からなくて固まっていた。
 他の生徒達はとアーロンが周りの様子を窺うと、子爵家の班は担任、伯爵家の子息を含む班は副担任、それ以外の班には目の前にいる生徒と同じ様に制服に腕章を付けた人が付いている。今日一日一年生の補佐につくという事は恐らく腕章を付けた生徒は上級生なのだろう。ただ、どこの班も真面目に説明を始めているのに、何故うちの班だけこんな変わった人が担当なんだと、アーロンは自分の籤運の無さを恨みたくなった。

 「ほらほらほら」

 急かされて、イチロウは何とか「いのくにのイチロウです」と名前を言った。が、まだ解放されない。

 「イチロウ君ねー、学院で学びたい事も教えてねー。うおーほんとぷにぷに」

 頬をぷにぷにされ続けながらイチロウはなんとか、「ぼうえきと、ごがくで、しゅ」と答え開放された。
 残り三人がどきどきしている中、次に狙われたのはタイスケだった。タイスケは無遠慮にもお腹を揉まれている。

 「おお、こっちもいいぷにぷに具合ですね~。君のお名前は?」

 開放されたイチロウは頬を抑えて放心中だ。アーロン達の補佐の上級生は、横から自分のお尻を割り込む様にして無理矢理タイスケの椅子に座ったので、彼と半分座席を分け合うようになったタイスケは完全に戸惑っている。
 イアンとアーロンは自分の番が来たらどうしようと怯えながら、他の男爵家の生徒に助けを求めて周りを見回した。だが誰とも不思議な位に目が合わない。離れている子爵家の子息達は兎も角、直ぐ横の男爵家の生徒は話し声が聞こえているだろうに。よっぽど集中しているのかと思ったら、どうもそうでは無く、全力でこちらを見ない様にしているのだった。明らかに関わらない様にしている。
 ついさっき迄の男爵家の子息達の団結力はどこへ行ってしまったのか、と嘆きたくなる位の薄情さだ。

 「ぷにぷにー。ほらほらー」

 急かされてタイスケは困った様に、「おいら、若のおまけだから~」と逃げようとしたが、返って強い力でお腹を揉まれた様で、「やめて、やめて」と泣きそうな声を出した。

 「早く早くう」

 観念したのか、「火の国のタイスケ、剣術」と答えて、「もうやめて」と逃げ出してイチロウの影に隠れた。可哀想な位怯えている。
 アーロンとイアンは二人肩を寄せ合う様にしていたが、内心では何方も補佐の上級生が自分の所へ来たら先に隣の友を差し出そうと思っていた。これは危ない奴だと認識していた。だが相手はタイスケの椅子から立ち上がるとイアンを見て「ホプキンス、医学でしょ?」と決め付けた。
 当たっていた様でイアンが頷く。

 「お兄さんにそっくりだもんね。うん、じゃあ最後の君!」

 呆気なく見逃され、イアンはほっとした様に息を吐く。そして魔の手はアーロンに伸びた。

 「うわー、ほんと可愛いねえ」

 補佐の上級生は近づいて来てアーロンの机に肘をつくと両手で自分の顔を支える様にして向き合い、正面からアーロンの顔にうっとりと見惚れた。
 どこもぷにぷにはされなかったとアーロンはほっとしたが、まじまじと見つめられ過ぎて居心地が悪い。思わず俯いてしまう。「お名前は?」と聞かれたので、「マーフィー家のアーロンです」と答えると、「声も可愛い!」と手を叩いて喜んでいる。その手の音にさすがに無視し切れなかったらしい、近くの席の男爵家の生徒がこちらを振り向いたがアーロンと目が合うと気まずそうな顔になり、直ぐに向き直った。

 (冷たい。それに、何だろう、この人)

 貴族学院に入学してまだ二日目だが、アーロンは今迄で最強の人物に出会ってしまった気がした。悪い人では無さそうだし、美形では無いのに不思議と目を惹く様な雰囲気がある。が、お近づきにはなりたくない。
 一応貴族だからそれなりに礼儀作法は家で教わっているので、どんなに嫌な人が居ても顔に出してはいけない事は分かっている。皆そうだろう。なのに他の三人は今すごい変な顔をしている。何だか途方も無く変な生き物に出会ってしまってどうして良いか分からないという顔。だから、アーロンもきっと同じような顔になっているだろう。
 けれどもそれが見えていないのか、気にならないのか、当の本人は鼻歌でも歌い出しそうにご機嫌だ。

 「僕の事は先輩って呼んでね!」
 
 と立ち上がって名乗るとちょっとのけぞる様にしてえっへんとでも言いたげな格好をして見せた。
 先輩と言うからには思った通り上級生なのだろう。名乗ったと言っても、名前は言わなかったけれども。補佐の上級生は、アーロンには何を学びたいかは聞かずに、四人に資料を配り始めた。

 「これが一年生がとれる講義一覧ね。書く物持ってるよね? 説明するから、直接ここに書き込んじゃっていいよ。この用紙は君達にあげるから。あと、二枚目のは、仮の時間割になっているから、空いている欄にとりたい講義を書く事が出来るよ。これで仮に時間割を組んで。提出用の用紙は昨日貰っているよね?」
 
 「はい」と四人は答えた。意外にも説明はしっかりしている。ただ、アーロンには不満があった。自分だけ何を学びたいか聞かれていないのだ。「あの」と手を挙げると、どうしたのと不思議そうに首を傾げられた。

 「その……、僕の学びたい事、聞かれてません」

 本当は僕の学びたい事は魔道具と西の国についてです、と言いたかったのだが、ちょっと恥ずかしくて言えなかったのだ。しかし生徒はきょとんとして「え、一般教養だけじゃないの?」と言う。

 「違います」

 何だかその答えに馬鹿にされた様に感じて、憮然としながらアーロンが答えると、補佐の生徒はぽんと自分の後頭部を叩く舌を出した。

 「そっかあ、ごめんごめん。てっきり僕とおんなじかと思った。君は違うんだね。僕が君だったらアーロンでございってぶいぶい言わせちゃうのに! そんなに可愛い顔してるのに。そっか、そうなのかー。うん分かった。でもそれなら教えて!」

 何故か気持ちを切り替えた様なやけに明るい調子で聞かれたので、アーロンは口籠ってしまい、ちょっと俯きながら「魔、道具と、西の国についてです」と小さな声で答えた。とっても気まずかった。
 

 
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