抱かれてみたい

小桃沢ももみ

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愛し子

グミ

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 控え目に扉を叩く音がして、アーロンは「うおっ」と声を上げた。
 集中し過ぎていたらしい。ふーっと伸びをしてから立ち上がり、部屋の扉を開けるとイアンが居た。

 「アーロン様大丈夫?」
 「うん?」

 一瞬何の事だっけと首を傾げそうになって思い出した。

 「大丈夫だよ」
 「良かった」
 「あ、入る?」

 部屋の中にイアンを誘おうとして、その後ろにちっちゃくなっている人影に気が付いた。

 「あれ?」
 「こんなの見なくていいから」

 イアンがぱっと両手を広げるようにして背後を隠す。

 「ごめんなさい!」

 と大声を張り上げたのはキースだ。

 「僕が、僕が先輩として付いていながら判断を間違えてアーロンちゃんを危険な目に合わせてしまいましたっ! 本当に申し訳ないっ!」
 
 イアンは嫌そうに後ろを振り返ると、

 「本当に、反省してるの? そもそも、反省してたら『アーロンちゃん』とか巫山戯た呼び方しないよね。それに、その格好からしてさ」

 とアーロンにキースが見えるように少し体を避けた。
 見るとキースは廊下に付けんばかりに頭を下げている。身体に斜めに掛かっている何か細長い布のような物が頭に迄垂れ下がって来ていて、文字が書いてある。
 読んでみた。

 「僕、……は、新入生、を、迷子、……にさせた、駄目、な、先輩、です? 何これ?」

 イアンを見上げると、苦みを潰した様な表情である。

 「なんかね、これ一週間掛けてるらしいよ」
 「は?」
 「大方愚兄辺りが考えた罰でしょ」
 「ええー」

 こんなのアーロンが恥ずかしいので、止めて欲しい。

 「何言ってるの、これは代々男爵家の寮に伝わる伝統的な襷というものでっ!」

 キースが布を広げて文字を読み易いようにして見せつけてくる。その後ろから呆れたような声が掛かった。

 「おいキース、取り敢えずアーロンに謝ったら戻って来い。お前の説教はまだ終わってない」
 「うわ! アーロン様申し訳ありませんでした! このキース、二度と二度とこのような事が起こらないように致します!」

 ばっと頭を下げると、慌てたように戻って行ったキースは「ほんとに反省してるからねー」とアーロンに手を振ったので、寮監のリバーに首根っこを掴まれるようにして連れられて行った。

 「はあ。アーロン様、お部屋お邪魔して良い?」
 「うん、どうぞ」

 イアンは何か紙袋のような物を持っている。

 「ちょっと作業してたから、今整理する」
 「ひっ!」
 
 アーロンが床を片付けていると、イアンが引き攣った顔で爪先立ちになった。

 「アーロン様、何それ何それ、虫……」

 床の一角に、茶色い、昆虫や蛇が散らばっているのを指差してイアンは震えている。

 「え? あ、これ、お菓子だよ? 食べないけど。あ、お菓子床に置いていたから怒ってる?」
 「いや、そうじゃなく、……お菓子?」
 「うん。グミって知ってる?」
 「知ってるけど、熊とか果物とか、可愛い色と形じゃないの普通」
 「え、王都ってそうなの? やっぱり都会は違うなー。家の領地はこういうのしかなくてさ、女の子とかでも平気でこう腹からむしゃむしゃ」

 とアーロンが床にあった蛇を拾い上げてそのお腹に歯を当てる真似をすると、キースは泣きそうな顔になった。それを見て、アーロンは慌ててそれらを紙袋に入れると低い方の箪笥の引き出しにしまった。爬虫類や虫が苦手な人に無理強いをしてはいけない。

 「もう、無いよ」
 「うん、ありがと」

 椅子を運んでベッドと向かい合わせに置くと、アーロンはどうぞとイアンに椅子を勧める。部屋には椅子は一脚しか無いので、イアンに椅子を勧めて自分はベッドに腰掛けるつもりだ。ベッドも整えて、海豚の抱き枕は壁にもたれ掛けさせる。
 それから残りの小物を拾い上げて、グミをしまった箪笥の上に置く。イアンは爪先立ちで恐る恐る進んで来ると昆虫グミがしまわれた箪笥から顔を背けるようにして椅子に座った。

 「お菓子、お菓子なんだ」
 「うん、そうだよ」
 「良かった、本物かと」
 「違うけど。イアン様、医学を志してるんだよね? この先、血とか、身体を切ったり縫ったりとか平気なの?」

 こてんと首を傾げると、

 「可愛い……、けど血と虫は違うから」

 とイアンは泣きそうな顔で首を横に振った。

 
 

 

 
 
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