抱かれてみたい

小桃沢ももみ

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ライム先輩との冬

図書館からの移動

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 話が終わると、イアンも本を探しに立ったので、アーロンも室内の本の背を辿ってみた。
 王様の日記とか、誰かが描いた王様についての伝記とか、ちょっとアーロンには興味の無い内容ばかりだ。アーロンは室内の様子を見てタイスケを誘った。

 「タイスケ様、部屋の外の本を見に行かない?」
 「あー行くっす」

 政の本に飽き飽きしていたのか、二つ返事でついて来る。

 「余り遠くへ行かない様に」

 本に顔を向けたままの寮長に、遊びに行く子供に母親がかける声みたいな事を言われて部屋から出る。
 扉を開けて出ると直ぐ、回廊になっている。図書館の中央が吹き抜けで、一階迄繋がっているので真下にある貸し出し窓口がよく見えた。アーロン達がいる所は三階だ。

 「さっきの受付とは別なんすよね?」

 タイスケの質問にアーロンは口の前に人差し指を立てた。タイスケはかなり声を潜めて、

 「おいらの声ってそんなにおっきいですか?」

 と拗ねた素振りを見せる。アーロンは頷いた。

 「うん、それもあるし、声がお腹から出てるのかな? かなり遠く迄通るんだよね」
 「うう。さっきの部屋に戻る迄あんま喋んないようにします」
 「それがいいと思う」

 何度も皆に指摘されて可哀想な気もするけれど、確かに大きいので自重して欲しい。
 アーロンは下を見て答えた。

 「多分あそこで本を借りたり、借りたい本を探して貰ったりするんだと思う」
 「人一杯居ますね」
 「うん」

 アーロンは下を覗くのを止めて、周りを見回した。

 「取り敢えず、この階で本を探そうか。あんま遠くへ行くなって寮長に言われたし。タイスケ様離れない様にしよ。行きたい方向あったら、声を出さずに僕の肩を叩いて指差すようにして。僕もそうする」
 「分かったっす」
 「あとその時に、人を指差さない様に注意して。変に難癖つけられたく無いから。今からお互いに無言、いい?」

 タイスケは黙って頷いた。
 他の階も同じなのかは不明だが、三階の造りは回廊沿いに距離を置いて個室が設置されている。個室と個室の間が、共有の本棚になっている。簡単に言うと凸凹した組み合わせの繰り返しだ。個室、へっこんでいる所に書架、個室、へっこんでいる所に書架…、という順に延々と続いて行く。
 アーロン達の部屋の入り口上部には『政の間』と部屋名が書かれていたので、それを目印に時計回りに回って行こうとアーロンは進行方向を指さした。取り敢えず政の部屋の隣にあるへっこんでいる所を彷徨ってみた。



         ☆



 リバー先生に聞くなら夕食前が良いと寮長が言うので、図書館の後アーロン達は男爵家の寮へ戻った。それに火の国の二人もついてくる。と言っても、先頭を歩いているのは、本好き三人でその後ろをアーロンとタイスケでついて行く。
 
 「イアン様もあそこの仲間とは思いませんでした」
 「そうだねー。僕、僕のせいであの二人に我慢させちゃってたと申し訳無いよ」
 「んー、それは気にしなくていいと思うっす。行きたきゃ一人で行けば良かっただけっす。特にイアン様なんて、寮からこんなに近いんすから。二人ともアーロン様と一緒に行きたかっただけなんで、だいじょぶっすよ」
 「そうだといいなあ」

 図書館から男爵家の寮迄は徒歩十五分位だ。売店に行くのと同じなので確かにタイスケの言う通りではある。
 
 「しっかし、借りれる本と借りれない本があるんすねえ」
 「そうみたいだねえー」

 そろそろ出ようと言う寮長にイチロウとイアンが今読んでいる本を借りたいと言い出したのだが、寮長が「この部屋から持ち出せるかやってみたら借りれるか分かりますよ」と言うので試したら持ち出せなかったのだ。本を持ったまま扉から出ようとすると、一瞬で本が手元から消えた。本棚に戻っている筈だと寮長が言うのでタイスケが確かめたら確かにイチロウとイアンが読んでいた本が棚に戻っていた。「いっぱい本があって戻すのが面倒な時に便利っす」とタイスケは感心していたがそれはちょっと違うとアーロンは思った。

 「ねえ、タイスケ様も次の試験でAクラスを狙うんだよね?」
 「あー、そいつは無理なら仕方ないと若に言われました」
 「え、そうなの?」
 
 タイスケは頷く。タイスケの福々としたほっぺたを見つめながらアーロンはライム先輩から渡された契約書の事を考えていた。魔道具師として採用する場合は、在学中の魔道具関連の教科は全てA判定である事と教師による推薦が必要と条件が書かれていたのだ。
 アーロンが今年取った講義で魔道具に関係しそうなのは、三つ。月曜日の古語入門と、火曜日の四時間目のおじいちゃん先生が勝手に喋ってるだけの魔道具の講義と、水曜日四時間目の西の国についての講義。

 「アーロン様はどうなさるおつもりなんです?」
 「僕は、Bクラスを目標にするつもり」
 「あ、Cからは上がるつもりなんすね?」
 「うん」

 ライム先輩の契約書では、秘書の場合はBクラス以上となっていた。だからどちらにしろ今のクラスでは駄目なのだ。それに、一般教養の歴史の講義の時間をずらした結果、今はBクラスと一緒に受けているのだが、アーロンのクラスにいる子爵家の三人の様な嫌な感じの生徒が居なくて居心地が良さそうだった。
 試験の入れ替わりでどれだけ顔ぶれが変わるのかは分からないが、前を行く三人程自分は図書館の本には興味がないなと思ったので、次からは試験勉強をしようと思っている。

 「アーロン様がBならおいらも同じクラスにするっす」
 「ふふふ、一緒だったらいいねえ」
 「頑張るっす」
 「頑張ろう!」

 取り敢えず、前向きに、今出来る事をやってみようとアーロンは考えていた。
 
 
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