抱かれてみたい

小桃沢ももみ

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ライム先輩との冬

受付と政の間

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 イアンが受付の人に話し掛けるのに皆で後を追う。
 深緑色のマントを身に付けた職員が受付台の向こうでイアンの質問に答えた。

 「その日ですか? 生憎私は担当では無かったので、扉に鍵が掛かっていたかどうかは分かりかねます。上級生に悪戯されそうになった生徒がいた事は後日職員間で共有されています」

 と取り付く島もないのを見兼ねたのか、寮長が質問を始めた。

 「開館中に入り口の鍵を掛ける事はあるのですか?」

 係員はイアンから寮長へ視線を移し、そのついでにアーロン達一人一人に視線を移してから、最後にまた寮長を見ると答えた。

 「あの扉を見て下さい。太い横木が渡してあるのが見えますか?」

 と入り口の扉を手で指し示す。確かに年季が入って黒光りしている横木が見えた。

 「あれを動かすと鍵が掛かります。この図書館の生徒用の入り口は内側からのみ鍵が掛けられる仕様です。閉館時に、私達は中から鍵を閉め、職員用の出入り口から退出します」
 「成る程」
 「見て分かる様に誰でも触れます。ですから悪戯であの横木を動かして鍵を掛けてしまう生徒はいます。受付の職員か、巡回している職員が気が付いたら直ぐに鍵を開ける様にしていますが」
 「受付には必ず誰かいらっしゃるのですか?」
 「勿論です」
 「分かりました。ありがとうございました」
 「どういたしまして。用件は以上で終わりですか?」
 「いえ、個室をお借りしたいです」
 「学年と氏名をお願いします」
 「一学年、スミス男爵家のフランクです」
 「人数と利用時間は?」
 「五人、十七時半迄」
 「部屋の希望は?」
 「ありません」

 寮長の返事を聞くと、係員は受付台の下から分厚いノートを取り出すとぱらぱらと捲り、

 「政の間へどうぞ。案内の必要は?」

 と尋ねた。それに寮長が、

 「お願いします」

 と答えるのにタイスケが何か言おうとしたが、寮長に手で制される。そして人差し指を口の前で立ててしーっとやられたのを見て、アーロン達は黙って成り行きを見守った。
 職員が受付台の上にあった呼び鈴を取って鳴らす。音はしない、魔道具だ。アーロンは「あっ」と声を立てそうになって、慌てて自分の口を押さえた。
 直ぐに同じ深緑色のマントを着た別の職員が現れ、

 「政の間へ案内して下さい」

 と受付の職員が依頼すると、頷いて先導して歩き始めたのでついて行く。受付にお辞儀をして歩き出す時、アーロンは職員の視線がじっと自分に注がれているのに気が付いた。



         ☆



 通されたのは部屋の四方が本棚で本に囲まれている様な部屋だった。だが窓が大きいので部屋の中は明るいし圧迫感も無い。それは恐らく部屋の真ん中にどーんと置かれた巨大な机が本棚に負けない程主張しているからでもあるだろう。どれだけ大きな本を広げまくっても誰の邪魔にならなそうだ。好きな所に陣取って思う様この部屋の本を読み尽くしたいと、本好きならば思うだろう。
 寮長は直ぐに書棚から本を取ると興奮した様に話し出す。

 「まさか、政の間に通されるとは。イチロウ様が一緒だからかな」
 「ほう。有名な部屋なのですか?」

 と、それにイチロウが横へ並んで話し出す。ああ、これは長くなるなと今迄の経験で学んでいるアーロンは適当な席に腰掛けた。その横の席にイアンも腰を下ろす。

 「喜んでいるのは有名だからではないです。図書館の個室は、各部屋に何々の間という名前が付けられていて、それに関連した本が置かれています。勉強会をするなら、それに因んだ部屋を選ぶのです。今回は何も希望しなかったのに、政の間に通されたので驚いているのです。ほら、見て下さい。これは初代王の治世について書かれた本です」
 「おお。此方は息子の二代目についてですね」
 「ええ」 
 「彼方は、」
 「ちょっと待ったあー!」

 アーロンとイアンが二人の様子を見ながらぼんやりと座っているのに反して、それに大声で待ったを掛けたのはタイスケだ。だが、途端に他の四人に人差し指を立ててしーっとやられてしまった。

 「タイスケ、図書館内で大声は禁止だ」
 「おいらそんなに大声じゃないっす」

 イチロウに嗜められてぷりぷりとしたが、全員に首を横に振られたので、不満そうながらも声の調子を落とす。

 「それで結局、アーロン様の鍵問題はどうなったのか知りたいっす」

 寮長は驚いている。

 「え、何か不明点があるかい? あるならば順に上げてみて」
 「えー、何言ってんすか、不明点だらけじゃないっすか。ねえ、若?」

 とタイスケはイチロウに同意を求めたが、イチロウは嬉々として本を選ぶのに夢中で無視された。タイスケは諦めて、自分で寮長に答える。
 
 「えっとまず、当日の担当者は誰?でしょ。その人に鍵が閉まってたか聞かなきゃでしょ。そして閉まってたとしたら誰がやったか?でしょ。おいらが考えるだけで三つも不明点があるっす」
 
 寮長は途中から自分の手に持つ本を捲りながら聞いていて、そのまま話し出した。

 「タイスケ様は、入学してからの一週間に起こった出来事をお忘れかな?」
 「いや、忘れてないっす。アーロン様を巡る男爵家と子爵家の戦いに、救いの神ライム先輩現るの巻。でしたよね?」
 「うん、やっぱり分かってないね。この学院では私達男爵家の生徒の爵位が一番低い」
 「そうっすね」
 「この学院に居るのは貴族なんだよ。裏方には平民も居るがマントを着てるのは」
 「あ」
 「分かったかい?」
 「さっきの受付の人も貴族っすか?」
 「そう。そして恐らく生家の爵位は男爵より上で、それを職員として生徒に接している時でも忘れない人物。そういう人物には何を言っても無駄。あれ以上の返答は引き出せない」
 「それで諦めたんすね」
 「うん。アーロン様どうする? これ以上知りたいなら、リバー先生に聞くべきだと思うが」

 アーロンに四人の視線が集まる。

 「聞いてみます。あと、気になったのが最後にあの受付の方が僕の事じーっと見てたので、多分被害者が僕だって分かって話してたと思うんです」
 「うへえ、やな感じ」

 とアーロンの言葉にタイスケが反応するが、寮長は、

 「いや、それは別におかしくないね。職員間で情報が共有されているなら被害者の外見や素性も詳しく知っていて当然だ。その視線が嫌な感じだったのなら問題だが」

 と素気無い。アーロンは先程の状況を思い返してみたがどちらとも言えなかった。

 「感情は読み取れなかったです」
 「そう、じゃあ結構高い家柄なのかもしれない。まあどちらにしても、図書館内も校舎と同じ様に誰かと一緒に行動した方が良い。巡回の職員がいるとは言え、本棚の陰等館内には死角も多い。慎重に越した事は無いよ」

 と寮長が言うのに、一同は頷いた。
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