抱かれてみたい

小桃沢ももみ

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ライム先輩との冬

おもちゃ

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 イアンが帰った後、アーロンは母からの荷物を整理する事にした。
 隅に放置されていた箱を部屋の真ん中迄運んで、寝台の上に中の物を出す。一番上にあったのは、今着てるのと色違いの寝巻きだ。それを綺麗に畳みなおしていると、その下に母からの手紙を見つけた。多分順番としては手紙が一番上にあったのだろう。それにケビンが気が付いていたのかいなかったのか、恐らく目的の物以外見えていなかったのだろうが。封のされていない封筒から白い便箋を取り出す。

 『元気でやっていますか? 寒くなって来たので冬用の衣類を送ります。お菓子も入れます。小さい布の袋は防虫用の香草が入っています。箪笥の引き出しに入れて使いなさい。

 追伸 貴方のおもちゃがそちらに行きたいと駄々を捏ねるので入れました。」

 母と二番目の兄ジェフは性格が似ているので、手紙も似ている。綺麗な筆跡で内容はとても簡潔だ。

 「おもちゃ?」

 アーロンは首を傾げながら、中を改め始めた。
 母が送ってきた衣類は全て銀鼠の物だ。此方でも買えるが無駄遣いをしないように節約しているアーロンにはとても助かる。暖かい靴下と、かなり厚めのじじシャツの上下、下着。その下に紙袋に入った大量のコーラ味の昆虫と蛇のグミ。紙の箱はチーズ味のクラッカーだ。後は身体を温めるお茶と、喉に良いお茶。それから衣類の防虫用の小袋。
 全部寝台の上に並べたら箱の中身は空っぽになった。おもちゃなんて無い。後は、今着ているのと、色違いの寝巻きが二揃い。それから今履いている室内履き。母が言うおもちゃとは、グミの事だろうか? しかし母に限って思い違いなどする訳が無い。アーロンの家で一番しっかりしているのは母とジェフなのだ。

 「んー、でも何も無いんだけど。おかしいなあ」

 仕方ないので首を捻りながらも寝台の上の物を箪笥の中にしまっていく。すると寝台の端に紺色の物が見えた。

 「え?」

 それはもぞもぞと寝台の上に這い上がって来た所だった。

 「マクマ! お前来ちゃったのか?」

 ぴょこん、と寝台の上に飛び上がって万歳するような格好で立っているのはアーロンが幼い頃に母が作ってくれた熊のぬいぐるみだった。アーロンの問いかけに同意するように仕切りに頷く。
 紺色のふわふわした布で作られた、熊のぬいぐるみは二本足で立つとアーロンの膝よりちょっと下に頭が来る。三、四歳位の子供が抱っこするにはちょっと大きい位なのだが、これが何と意思を持って動く。
 実はアーロンが生まれて初めてそれと思わずに作ってしまった魔道具なのだった。動くぬいぐるみなので、正確に言うと魔動人形なのだが。

 幼い頃のアーロンのおもちゃは壊れた魔道具の部品が多かった。それを小さなアーロンが思い付くままに、熊のぬいぐるみの中に詰め込んで行ったら動く様になったのだ。母に見せに行ったら「アーロンはわたくしに似たと思っていたけど、お兄様に似てたのね」と笑っていた。伯父には会った事が無いが、見た目は母そっくりで手先が器用らしい。
 正直幼な過ぎたので、今となってはどうやって作ったのか自分でも分からない。当時、これを足に入れたら足が動く、手に入れたら手が動く、と確信を持って組み立てたのだけは覚えている。ただもう一度やってみろと言われても出来る自信が無い。しかも母が言うには、「こうやって意思を持つ程の能力を身に付けた魔道具は分解してしまうと二度と同じ物にはならないの」との事だったので、興味を持った兄達もアーロンの動く熊を分解する事は諦めたのだ。

 「お前、来たって何もする事無いぞ。この部屋から出せないし」

 アーロンにマクマと呼ばれた熊のぬいぐるみは、首をうんうんと、いやいやという様に振るのを繰り返し、アーロンにひし、としがみついた。

 「仕方ないな。居ても良いけど、悪さするなよ」

 マクマはうんうんと頷くと寝台の上に乗ってぴょんぴょん跳ねてくるんと後ろに宙返りしてから、またアーロンの横に戻って来た。

 「それにしてもお前、三の兄上に良く見つからなかったな」

  アーロンの問いかけに、マクマは寝台の下に潜り込んだ。

 「ああ、そこに隠れてたのか」

 アーロンの三番目の兄ケビンとマクマの相性は良くない。マクマという名前を付けたのもケビンだ。最初はアーロンはただクマと呼んでいたのだが、ある日頭に来たケビンが「この悪魔クマ!」と叫んだのを聞き、上手く舌が回らなかった幼いアーロンが語尾だけ拾って「マクマ?」と聞き返したのが名前になってしまったのだ。小さな身体で素早く動き回る作り主に似た元気な熊だ。
 ただのぬいぐるみで、動く以外何が出来る訳でも無いが、誰かに見つかったら騒ぎになるのは分かっている。

 「困ったなあ。ま、明日考えよう」

 アーロンは面倒な事は次の日に回す事にして、寝る支度を始めた。




 
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