抱かれてみたい

小桃沢ももみ

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ライム先輩との冬

契の部屋と大丈夫

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 イアンとタイスケに挟まれながらアーロンは図書館の受付に進んだ。

 「すみません、部屋をお借りしたいのですが」
 「学年とクラス、名前をお願いします。爵位は結構です。それから使用人数と使用時間を教え下さい」
 「え?」
 「何か?」

 深緑色のマントを身に付けているが、前回とは違う職員だ。確か寮長は「スミス男爵家の」と名乗っていた気がする。しかしアーロンの驚いた声に不審そうにされたので前の職員が変だったのか、あの後変わったのか、疑問に思いながらも素直に従う。

 「1年Cクラス、マーフィ家のアーロンです。人数は五人、後から二人来ます。時間は二時間でお願いします」
 「希望の部屋か、希望の図書はありますか?」

 職員は机の中から分厚いノートを取り出した。アーロンは両脇のイアンとタイスケを見遣ってから遠慮がちに答えた。

 「……魔道具師の雇用契約について、貴族家に雇われる場合の賃金を調べたいです。それから魔道具の利益が出た時の雇い主との分配率についても」

 係員はぱらぱらとノートを捲り、「ふむ」と頷いた。

 「現在利用可能の部屋でそれに該当しそうなのは契の部屋になります」
 「ではそこでお願いします」
 「分かりました」

 係員が机にのっていた呼び鈴を鳴らすと案内担当の職員が近付いて来た。



 「さっきの話ってライム先輩の家に雇われる場合の話っすか?」

 聞いてくるだろうなと思っていたが、部屋に案内され三人だけになると早々にタイスケが口を開く。

 「うーん」

 アーロンは本棚を見回しながらどう答えようか考える。イアンは既に本棚に向かい合って読む本を探し始めているが、恐らく耳はこちらに向けているだろう。

 「まあ、そうなんだけど、はっきり決まった訳ではなくて。学院での僕の成績にもよるんで」
 「あ、あんまり立ち入った事を聞いちゃいけない感じなら、それ以上は言わなくて良いっす」

 タイスケが慌てた様に顔の前で手を振って、アーロンの言葉を押し留めるが、そんな気遣いが出来るなら最初から聞かないで欲しかった。中途半端に答えを止めると、アーロンが秘密主義みたいで心苦しくなる。でも正直この件についてあんまり話したくない。

 「う……ん。ごめんね」
 「大丈夫っす!」

 何が大丈夫なのか分からないが、タイスケは笑顔で手を振りながらイアンに近付いて行った。今回も三階だったが、前回の部屋と違って丸い部屋だ。入り口から入ると、正面の窓から本棚が円形に並んでいて、中央に大きな丸いテーブルがあった。何となく、タイスケとイアンが行ったのとはテーブルを挟んで反対側の本棚へと赴く。
 雇用、雇用と文字並んでいる中から、魔道具師のと付いている本を何冊か抜き出してテーブルに着く。
 本に没頭していると、扉が開いて、「おお、丸い」とイチロウの声がしたのにアーロンは顔を上げた。

 「成る程、今日の部屋はアーロン様の希望だったのか」

 面白がっているような表情の寮長に部屋を見回すと、イアンはまだ立って本を選んでいて、タイスケは部屋の外を散策しに行ったのか姿が無い。アーロンだけが一人机に座って本に熱中していた。
 そこで初めてアーロンは自分の行いをはっと振り返った。自分の事だけ考えていた。他の二人に読みたい本があるのか聞く事もしなかったと気が付いた。

 「あ、ごめん。僕自分の事で頭が一杯だった。イアン様、この部屋で良かった?」
 「大丈夫」

 イアンに迄タイスケと同じ事を言われてしまって、アーロンは恥ずかしくなった。赤くなって俯いていると、寮長が寄って来てアーロンが側に積んでいた本の書名を覗く。

 「ライム伯爵家との交渉の準備かい?」
 「うん、まあそうです」
 「愛し子という雇われ方の性質上友人には話し難いのかもしれないが、あまり肩に力を入れない方が良いと思うよ」

 それだけ言うと、寮長は本を選びに行ってしまった。イアンの横に並び、黙って本棚から本を抜き差しし始める。気まずい。アーロンが小さく息を吐き出すと、隣の椅子が引かれイチロウが腰を下ろした。

 「面白そうな本を見つけたので、自分はこれを読みます」

 と本を広げて読み始める。
 アーロンはその丸っこい横顔をじっと見つめてしまった。不意に本に向かったまま、イチロウが話し出した。

 「申し訳ありません。タイスケが詮索したのでしょう?」
 「あ、ううん」
 「あいつの性格はよく分かっていますので」
 「うん」
 「悪気は無いんです。叱ってはいるのですが、中々直らなくて。あの無神経さが良い方向に事を導く時もあるものですから強くは言えず」
 「そうだね」
 「アーロン様はしたい様になさって下さい。気にしなくて大丈夫ですよ。タイスケは鳥頭ですから、夕飯を食べて一晩寝たら忘れます」
 「なら良いんだけど」
 「ええ」

 それきりイチロウは口を開かなかったので、アーロンも自分が選んだ本に意識を戻した。
 
 

 
 
 
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