抱かれてみたい

小桃沢ももみ

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ライム先輩との冬

夕食と返事

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 夕食はチーズフォンデュが、食べたいと話してあった。学院の食堂では出てこないからだ。久しぶりにチーズをたっぷり食べたい気分だった。
 店は丸太を組んだ山小屋風の造りで、どこか家庭的なこぢんまりとした雰囲気だった。
 ライム先輩は個室に通されると給仕を一旦下がらせた。部屋には二人の他に、リバー先生に預けた荷物を持ったマーリーが残る。

 「君の荷物はリバー先生から受け取った」
 「はい」
 「食事が終わってから話そうかと思っていたのだが、どうにも気になってね。先に返事を聞いても良いだろうか?」

 ライム先輩の微笑みはいつになく硬い。それに釣られてアーロンも目の下がひくひくしたが、自分の太腿をぎゅっと握って小さく深呼吸すると一気に言った。

 「愛し子はお受けしようと思っています」
 「良かった」

 とライム先輩は安堵の息を吐く。

 「マーリーが預かった箱を見て断わられるのではないかと心配したよ」
 「いえ、そんな」

 アーロンは慌てて否定した。

 「ただ、条件についてご相談させて頂きたくて、その箱に入っているのはその為の資料です」
 「成る程」

 アーロンはマーリーを見た。マーリーもライム先輩に箱を渡そうと近付くが、ライム先輩は手を振って止める。

 「そうしたら、先に食事をしても良いかい? 実は柄にも無く緊張してね。朝も昼も食事が喉を通らなかったのだ」

 そう言われてアーロンは驚いてライム先輩の顔を見た。少し灯りの陰になっているからというのもあるが、窶れたという程ではないが先輩の顔はいつに無く青白くほっそりして見えた。

 (お昼、何食べたっけ? 先輩何食べてた?)

 自分の頭の中を攫ってみても記憶に無い。アーロンは慌てて頷いた。ライム先輩のお腹を空かせたままにしておいては申し訳ない。

 「勿論です」
 「お祝いにワインを頼んでも良いだろうか? 君は飲めるかい?」
 「はい。少しなら」

 飲酒は成人したら、という決まりだが、ワインの醸造が盛んなこの国では、実際はもっと早い年齢から飲酒している事が多く、特に罰則も無い。ライム先輩の様な嫡男の生徒は卒業前から社交の場に呼ばれており、お酒は飲み慣れているのだろう。
 但し貴族学院を卒業したら成人という事になっているので、学院内では酒の販売と提供はされていない。
 そしてアーロンの家では、三番目の兄ケビンが「二十歳になる迄飲酒するな! 背が伸びなくなるぞー!」と口煩く言うので、小柄な事を気にしているマーフィ家の兄弟は二十歳になる迄なるべくお酒は飲まない様にしていた。勿論アーロンもだが、今日は先輩に付き合って口をつける事にした。

 ワイン選びはライム先輩にお任せした。
 更にチーズフォンデュの種類がいくつかあると言われて、わくわくする。献立表を見ると、定番の他、様々な種類のチーズの組み合わせや、トマト味、ハーブを加えた物、キノコを加えた物の他、カレー味等もあった。チーズフォンデュはチーズ味一種類しかないと思っていたアーロンは喜んだ。
 二人で相談しながら選んだ結果、ライム先輩は定番を、アーロンはトマトとバジルを選んだ。二つのフォンデュ鍋を並べて、両方の味を食べ比べてみる趣向だ。
 それ以外に、生ハムの盛り合わせとグリーンサラダ、野菜のポタージュを頼んだ。注文はいつもの通りライム先輩にお任せだ、肉かパスタでも頼むかいと聞かれたがアーロンは断った。だが、チーズフォンデュが来て、アーロンは驚く。

 「あれ? パンと馬鈴薯だけなんですか?」

 アーロンの家のチーズフォンデュと違う。目の前には、一口大に切り分けられたパンと、蒸した馬鈴薯。
 家のチーズフォンデュなら、更に、蒸した人参やブロッコリー、鶏肉や鮭、ミニトマト等、色々チーズに付けられる物があるのに。

 「そうだが、……もしかしてチーズフォンデュは初めて食べるのかい?」

 返って不思議そうにライム先輩に聞き返されてしまって、アーロンは当惑した。

 「いえ、初めてではないですが、家で食べる時はもっと色々出てくるので……」

 違いを聞かれたアーロンは、家のチーズフォンデュについて説明した。

 「成る程。そのつもりだったのならもっと色々出てくると思っていたのだろうね? 私は家でチーズフォンデュを食べる事はないから、これが普通だと思っていたよ。ふむ」

 とライム先輩が振り返って部屋の中に待機していたマーリーを見た。マーリーは一歩前に出ると、

 「恐れながら一般的なチーズフォンデュはこの店の様にパンと馬鈴薯だけになります。アーロン様のお家のやり方は、独自の物か、地方特有の物かと思われます」

 と言って、頭を下げるとまた後ろに下がった。

 「そうなんですね」
 「君は沢山食べるから足りないだろうと思っていたのだよ。やっぱり肉かパスタを頼むかい?」

 ライム先輩に尋ねられて、アーロンはどうしようかと考えた。確かに足りないかもしれない。けれど今日はこの後に大仕事が残っている。先に愛し子を受けると言ったので、ライム先輩はもう普段の食事の様な感覚らしいがアーロンにとってはこれからが本番だ。お腹一杯にしてしまうのは緊張感が抜けそうで不安だった。

 「いえ、今日はこれで十分です」
 「そうかい? 足りなかったら、後で追加も出来るからね」
 「はい。ありがとうございます」
 
 ライム先輩の心遣いに、アーロンは果たして上手く話が出来るのだろうかと不安が増すばかりだった。
 
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