引きこもりの受難

小桃沢ももみ

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3 お洒落ですか?

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 ちょっと粘つく椅子を引いて、腰掛ける。これこれ、この感じ。何でかテーブルも椅子もちょっと粘ついてるんだよ、籐の椅子にテーブル。ちゃんと拭いてるのにさ。お客さんが席を立ったらすぐに食べた物を下げて拭いてるもん、お店の人。それに掃除もきちんとしてるだろうし、バックヤードの物が通路に溢れてたりしてない。ちゃんと綺麗にしてる店なのに、なぜか全体的にベタッとしてるんだよね。でもそれが懐かしい。と洋介は内心ニヤニヤしながら椅子を引いた。
 座って、あ、失敗したってと焦る。上座とか気にしていなかった。星を上座に座らせるべきだったろうか? お客様?だし。
 どっちが上座だろうと店を見回す。洋介達が案内された席は壁側ではなかったので、どちらも壁に面していなくて上座が分かりにくい場所だった。入口やトイレからも離れている。だから、いいかなと洋介はそれについて考えるのを放棄した。
 洋介がキョロキョロした為、注文が決まったのかと勘違いした店員が寄って来る。男同士は注文が早い。大抵食べる物が決まっているし。食べ終わったらすぐに出る。

 「あ、まだです。まだ。呼びます、後で」

 洋介がそう言うと、はいと店員は引けて行った。

 「これ、メニュー。好きなもん選んで下さい」
 「あの、岬さんのオススメは?」

 星がメニューを受け取りながら、何故か上目遣いで訊いてくる。
 上目遣い?何でだろう、身長はそう変わらないのにと考え、ああと理解した。星は洋介より座高が低いのだ。つまりは洋介より脚が長い。
 何だこのイケメン。ムカつくほど、イケメン過ぎるぞと洋介は少々でもない敵意を持つ。

 「オススメですか? 俺も此処に来てたの随分前なので、覚えてないんですけど、これとかこれは美味しかったな。でもどれもハズレないですよ。その、イタリアンとか好きな人ですか?」
 「はい。でも何でも好きです。好き嫌いないんです、僕」
 「そうですか。なら大丈夫かな。此処のは、パスタでも、スパゲッティよりっていうか、街の定食屋さん系のパスタです。庶民的な味です。サイズもね、お財布に優しい。だから若い人に人気」
 「そうなんですか。でも、いろんな年齢層の方がいらっしゃいますね」

 星はメニューを大事そうに両手で捧げ持つようにしながらゆっくりと店内を見回す。その様子は、洋介のようなガサツなタイプと違う。おっとりした、良いところのお坊ちゃんのようだ。

 「ケーキも一緒に頼んじゃった方がいいです。後で頼むと待たされるんですよ」
 「じゃあそうします。ショーケースにいっぱい並んでましたね」
 「ああ、見に行きます?」
 「え? 恥ずかしくないですか?」
 「ん~、でも此処からだとトイレに行く途中だからトイレに行く振りして見たら平気じゃないですか?」

 洋介がそう言うと、星はトイレの位置とショーケースの位置を確認して頷いた。

 「高校生の頃もそうされてたんですか?」
 「まさか、高校生の時は堂々と行ってましたよ。まあ女の子がいる時はしませんでしたけど」
 「デートですか?」
 「ははは。いやあ、昔はね、俺が高校の時ですけど、この辺、今よりもっと拓けてなかったんで入る店にも限りがあったんですよ。ちょっと女の子とお茶しようと思ったら、此処か、もう少し行った所にある店か、駅の反対側の喫茶店くらいで、後はファーストフード。選択肢の幅が狭かったんで」
 「今よりもっとって、千葉駅の周り、お店は沢山あると思いますけど」
 「あ、この辺来た事あるんですか?」
 「はい。車で」

 ああ、と頷きながら、イケメン良い車乗ってそうだなあと洋介は若干妬み交じりの妄想をする。赤いスポーツカーとか、黒い外車とか白い外車とか。上開いてるやつに乗ってそう。俺、買えないから、もう車に詳しくないんだよなあ。ま、元々そんなに詳しくも無かったけどと洋介の気が沈む。
 
 「決まりました」

 ニコッとして、星が洋介が見易いようにこちらを向け開いたままメニューを戻してくれる。それを受け取りながら「どれにしたんですか?」と尋ねる。

 「これ、岬さんがオススメって言ってたのと、ケーキはこれからトイレに行く振りして見て来ます」
 「そうですか、行ってらっしゃい」

 案外素直な若者だなあって、洋介は感心して送り出した。その間に決めようと洋介はメニューを睨む。タラコスパか、和風山菜スパか。ううん。星が決めた蟹のトマトクリームも捨て難いが……。

 「決めました」

 見上げると星が戻って来ていた。
 おお、やっぱ脚長えな。

 「そうですか」

 和風山菜スパにしようと決め、洋介はメニューを閉じた。

 「岬さんは見に行かないんですか?」
 「え? ああ。俺は今日はショートケーキの気分なんで」
 「ふ。あ、そうなんですか。実は僕、ショートケーキとレモンクリームパイで迷ったんです」
 「あ、レモンクリームパイもオススメです。さっぱりしてて」
 「じゃあ、レモンクリームパイにします」

 洋介が手を挙げて店員を呼ぶ。すぐに寄ってきたので、星さん先にどうぞとメニューを渡しながら譲る。洋介も注文を終えてメニューを元に戻すと、はあと星が溜息をついた。
 なんだろ、もう飽きたのかな? 帰りたい?と洋介は不安になる。このデート?に乗り気では無かったが相手につまらないと思われるのは凹む。オジサンは厄介な性格なのだ。

 「あ、そう言えば、さっき店入る前に言い掛けた事って何ですか?」
 「え? あ、あれですか……」

 急に頬を染めて、オドオドする星。何だろう、色が白いから赤くなると目立つな。妙な色気があるって言うか。なんか、俺変な事言ったか? あ、もういいって言われたのに聞いたからかな? 大した事ない話を蒸し返したから気まずいとかと洋介はドキドキしてしまう。

 「いえ、あの……。その、岬さんお洒落でカッコいいなって思って」

 は? 自分より遥かにイケメンな若い男に率直に褒められて洋介の頭の中は真っ白になった。
 


 
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