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22 元気でしたか?
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久しぶりに顔を見せた星は、痩せたような気はするが、寧ろ肌はピカピカ艶々で、より一層イケメンぶりが増したように見えた。
「お言葉に甘えて、今日は何も持って来なかったんですけど……」
いつも星は何か手土産を持ってくる。東京のお菓子を富士子と平介はそれはそれは楽しみにしているのだが、
「いいのよー。具合悪かったんでしょ。ここまで運転大変じゃなかった?」
「あ、それは大丈夫です。高速も空いてました」
「それより、早く座りなさい」
「そうそう。お父さん、ご馳走沢山作ったのよ」
「あ、本当だ。すごい」
二人はいそいそと、星をテーブルにつかせた。
ご馳走と言っても鍋だ。星に希望を聞いたら「お鍋がいいです」と言ったそうで、具沢山の豆乳鍋だ。
それと、鶏の丸焼き。祖母直伝のそれは毎年クリスマスの恒例メニューなのだが、平介から話を聞いた星が食べたいと言った事があったらしく、それもドーンとテーブルにのっている。中にはパンを細かく切ったのと鶏のレバー、セロリや玉ねぎ、じゃがいもなどの野菜を炒めた物が詰められている。特製のソースをかけて食べるととても美味しいのだが、正直洋介は、そんなくどい物、今の星は食べられないんじゃないかと心配していた。だが言っても平介は聞く耳を持たなかったのだ。
「ほら、洋ちゃん、取り分けて」
「ああ。えっと、星さんどのくらい食べられる?」
「えっと」
「ここがいいぞ」
張り切った平介が、ナイフを取って切り分け始めた。モモの食べやすい所と、中の詰め物をたっぷり、それにソースもたっぷりかけて、星の前に置いた。
「あ、これも美味しいのよう。お父さんが漬けたキムチ、こっちはあたしが漬けた白菜の浅漬け。うちで取れた柚子が入ってるのよ」
富士子も張り切って、星の前にどんどんおかずを寄せていく。
「ちょっと、洋ちゃん、お鍋よそって」
「あー」
言われて手を出したいのだが、平介が鶏を切っている最中なので無理だ。もうちょっと周りに気を使って小さくやってくれたらいいのだが、夢中になって大きく肘を張って手を動かしているので、ぶつかりそうで危なっかしい。星もそれは見て分かったようで、クスッと隣の洋介に笑いかけてきた。
「ちょっと待ってね」
「はい」
「先に鶏食べてて、食べられる?」
「はい。美味しそうです」
「良かった」
「ウフフー」
二人が喋っているのを見た富士子が嬉しそうに声を上げるので、洋介は気まずくなって眼を逸らす。
「あのね、食べ終わったらデザートもあるから」
「そうなんですか?」
「洋ちゃんが作った、」
「おい、母さん話してないでさっさと食べなさい」
「えー」
富士子が喋ろうとしたのを平介が遮る。
「鶏が邪魔で鍋が食べられないから、全部切り分けて皿を下げたい」
「あ、そうね」
いや最初っから分かってただろうとツッコミたいが、これがいつもの岬家の食事風景である。落ち着いて食べられない。そして富士子も平介も星が来てくれて舞い上がっている。
「この鶏がねえ、クリスマスじゃないから中々売ってなかったのよう」
「そうだったんですか? あ、そうですよね。普段見たことないかも」
「お父さん、スーパーいくつか回ってやっと見つけたんだって」
「えー、そんな。大変でしたよね、わざわざありがとうございます」
「いいから食べなさい」
「はい」
照れてつっけんどんになった平介にも星はニコニコとしている。そんな時の平介のキツイ言い方に家族は慣れているが、康子ちゃんなんか未だに慣れなくて一瞬キョドッたりするのに。
(なんかすげえな)
洋介は雰囲気の飲まれていた。星がいて、両親がはしゃいでもてなす。その違和感の無さに。
「それでね、洋ちゃんがね、」
「母さん、余ったの入れるタッパー」
「え、もう終わり?」
「いや、まだまだあるが」
「そのままじゃダメなの?」
「鍋を取るのに、皿が邪魔だから片付けたい」
「あ、そう。そうだったわね」
納得した富士子が箸を置いて立ち上がろうとすると、星が「あ、僕が」と立とうとしたので、洋介はその肩をそっと押さえた。
「俺が行ってくるから。星さんは座ってて」
「……はい」
台所へ向かった洋介は、俯いた星が耳まで真っ赤になっていて、その脇腹をニヤニヤした富士子が肘で突いていて、平介は優しげに微笑んで見守っていたことを知らない。
「お言葉に甘えて、今日は何も持って来なかったんですけど……」
いつも星は何か手土産を持ってくる。東京のお菓子を富士子と平介はそれはそれは楽しみにしているのだが、
「いいのよー。具合悪かったんでしょ。ここまで運転大変じゃなかった?」
「あ、それは大丈夫です。高速も空いてました」
「それより、早く座りなさい」
「そうそう。お父さん、ご馳走沢山作ったのよ」
「あ、本当だ。すごい」
二人はいそいそと、星をテーブルにつかせた。
ご馳走と言っても鍋だ。星に希望を聞いたら「お鍋がいいです」と言ったそうで、具沢山の豆乳鍋だ。
それと、鶏の丸焼き。祖母直伝のそれは毎年クリスマスの恒例メニューなのだが、平介から話を聞いた星が食べたいと言った事があったらしく、それもドーンとテーブルにのっている。中にはパンを細かく切ったのと鶏のレバー、セロリや玉ねぎ、じゃがいもなどの野菜を炒めた物が詰められている。特製のソースをかけて食べるととても美味しいのだが、正直洋介は、そんなくどい物、今の星は食べられないんじゃないかと心配していた。だが言っても平介は聞く耳を持たなかったのだ。
「ほら、洋ちゃん、取り分けて」
「ああ。えっと、星さんどのくらい食べられる?」
「えっと」
「ここがいいぞ」
張り切った平介が、ナイフを取って切り分け始めた。モモの食べやすい所と、中の詰め物をたっぷり、それにソースもたっぷりかけて、星の前に置いた。
「あ、これも美味しいのよう。お父さんが漬けたキムチ、こっちはあたしが漬けた白菜の浅漬け。うちで取れた柚子が入ってるのよ」
富士子も張り切って、星の前にどんどんおかずを寄せていく。
「ちょっと、洋ちゃん、お鍋よそって」
「あー」
言われて手を出したいのだが、平介が鶏を切っている最中なので無理だ。もうちょっと周りに気を使って小さくやってくれたらいいのだが、夢中になって大きく肘を張って手を動かしているので、ぶつかりそうで危なっかしい。星もそれは見て分かったようで、クスッと隣の洋介に笑いかけてきた。
「ちょっと待ってね」
「はい」
「先に鶏食べてて、食べられる?」
「はい。美味しそうです」
「良かった」
「ウフフー」
二人が喋っているのを見た富士子が嬉しそうに声を上げるので、洋介は気まずくなって眼を逸らす。
「あのね、食べ終わったらデザートもあるから」
「そうなんですか?」
「洋ちゃんが作った、」
「おい、母さん話してないでさっさと食べなさい」
「えー」
富士子が喋ろうとしたのを平介が遮る。
「鶏が邪魔で鍋が食べられないから、全部切り分けて皿を下げたい」
「あ、そうね」
いや最初っから分かってただろうとツッコミたいが、これがいつもの岬家の食事風景である。落ち着いて食べられない。そして富士子も平介も星が来てくれて舞い上がっている。
「この鶏がねえ、クリスマスじゃないから中々売ってなかったのよう」
「そうだったんですか? あ、そうですよね。普段見たことないかも」
「お父さん、スーパーいくつか回ってやっと見つけたんだって」
「えー、そんな。大変でしたよね、わざわざありがとうございます」
「いいから食べなさい」
「はい」
照れてつっけんどんになった平介にも星はニコニコとしている。そんな時の平介のキツイ言い方に家族は慣れているが、康子ちゃんなんか未だに慣れなくて一瞬キョドッたりするのに。
(なんかすげえな)
洋介は雰囲気の飲まれていた。星がいて、両親がはしゃいでもてなす。その違和感の無さに。
「それでね、洋ちゃんがね、」
「母さん、余ったの入れるタッパー」
「え、もう終わり?」
「いや、まだまだあるが」
「そのままじゃダメなの?」
「鍋を取るのに、皿が邪魔だから片付けたい」
「あ、そう。そうだったわね」
納得した富士子が箸を置いて立ち上がろうとすると、星が「あ、僕が」と立とうとしたので、洋介はその肩をそっと押さえた。
「俺が行ってくるから。星さんは座ってて」
「……はい」
台所へ向かった洋介は、俯いた星が耳まで真っ赤になっていて、その脇腹をニヤニヤした富士子が肘で突いていて、平介は優しげに微笑んで見守っていたことを知らない。
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