引きこもりの受難

小桃沢ももみ

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34 友達ですか?

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 地下の来客者用駐車場に車を停め、コンシェルジュに挨拶して行きたいと星が言うので一階に寄る。本来ならそのまま家まで一直線でエレベーターで上がれるそうだ。

 「家に着いたらトイレを貸してくれ」

 小声で平介が星に頼む。

 「大丈夫ですか? 先に家に行きましょうか?」
 「いや、真一君の用を済ませた後でいい」
 「すみません、すぐ終わらせますので。予定より早めに戻ったので、一声かけておこうかと思いまして。あと、来客用駐車場を借りることも言わないと。要件はそれだけなので、すぐに終わりますよ」
 「なら、大丈夫だ」

 コンシェルジュがいるなんて、やっぱおぼっちゃまだなあと洋介は感心した。駐車場に停まっている車もみんな高そうだった。いつもなら、コンシェルジュとは何かと平介は質問しただろうが、トイレを我慢しているので、口数が少ない。キョロキョロ辺りを見回す余裕はあるので、まだ膀胱はセーフのようだ。これが一点しか見なくなったらやばい。
 まるでホテルのロビーのような造りのエントランスホール。大きな壺に活けられた豪華な花まで飾ってある。コンシェルジュはスーツ型の制服を着たロングヘアーの美女で、彼女の存在が高級感を増している。

 「小林さん」
 「おかえりなさいませ、星様。お留守の間の、郵便物とお荷物はお部屋に届けてあります」
 「来客者用の駐車場を一台分お借りします」

 洋介と平介にコンシェルジュの目線が送られたので、軽く会釈した。

 「かしこまりました。ナンバーを教えていただけますか?」

 星がスマホを見ながら答える。ナンバープレートの写真を撮らせて下さいと言うので、何かと思ったらこの為だったのか。

 「何時までのご利用でしょうか?」
 「一時間くらい?」

 洋介が平介に確認すると頷いたので、それに合わせてコンシェルジュがパソコンに何やら入力していき、来客者用駐車場の件はそれで終わった。
 星がコンシェルジュと話し出す。

 「予定より一旦早めに帰国しましたが、またすぐアメリカに戻ります。その後は予定通りです」
 「かしこまりました」
 「留守の間に何か変わった事はありましたか?」
 「お掃除担当者からは特にございません。会社の方が何度かいらっしゃいましたが、星様から合鍵を預かっているとお伺いしましたのでそのままお通ししたました」
 「小畑さんと鈴木さんですよね? 聞いてますので、大丈夫です」

 小林さんと呼ばれたコンシェルジュは、パソコンの画面を確認して頷いた。

 「左様でございます」
 「じゃあ、大丈夫そうなので、行きますね。また出国前に声を掛けます」

 星がエレベーターの方へ踵を返すと、平介がいそいそと続く。あの慌て様はギリギリセーフか。

 「あ、お待ち下さい」

 セーフかと思ったら、呼び止められてしまった。

 「お客様がお待ちでございます」
 「? 予定してませんが?」
 「大学のご友人だとお伺いしております。帰るまでお待ちになりたいとの事でしたので、あちらでお待ち頂いておりますが、お知り合いの方でしょうか? 初めてお見かけする方なので、もしご存知ない方でしたら、わたくしの方でお断り致しますが、いかが致しましょうか?」

 星が訝し気にコンシェルジュが示す方向を見る。ホテルのロビーよろしくソファが幾つか置いてあって、待ち合わせしたり、何だったら仕事の打ち合わせも出来そうなスペースになっている。
 こちらから相手に気が付かれないようにこっそり確認出来る配置になっていた筈なのだが、相手の反応の方が早かった。

 「Shin!」

 外人だ。白人男性。金髪のイケメン、身長は洋介よりも高そうだ。年は星くらいか? 手足が長くて、スーツもお洒落な感じで、モデルさんみたいだ。星と並ぶと実に絵になる。
 やけに歯並びの良い白い歯。お手本みたいに綺麗な笑顔は星しかみてなくて、怒涛の様に英語が炸裂する。何を言ってるんだかさっぱり分からないが、星は渋い顔だ。
 結構離れた場所に居たのに、ほんの数歩で目の前に辿り着き、親し気に星の腰に手を伸ばしたが、すげなく星に払われている。
 ハグしようとしたのかもしれないが、なんか位置が違くないか? 相手はやけに親し気だが、怒った顔で星が言い返す。星はあまり好きじゃない人だったのかな? 
 すごい早口の英語。やっぱり何言ってんだかさっぱり分からないが、どう見ても揉めている。向こうはぐいぐいきていて、それに星は迷惑している様に見える。何かすべきだろうか? 星が困っているなら助けになるような事を言うべきか? いや、英語……、何て言えばいいのかさっぱり分からないんだけれど。
 洋介が悩んでいると、平介に袖を引かれた。

 「親父、どうした?」

 なんとなく小声で尋ねると平介も小声で答えた。

 「トイレ行きたい」
 「あ、そうだよなぁ」

 カウンター越しにコンシェルジュと目が合った。そうだと思い付いて聞いてみる。

 「あの、トイレってお借り出来ますか?」

 本当にホテルみたいな造りになっているなら、多分ロビーにもトイレが設置されているだろうと予想したのだが、平介はそんな事聞くなと言いた気に洋介の袖を更に引く。
 平介としては、洋介に星に話しかけて欲しかったのかもしれないが、あそこに割って入る勇気はない。今も弾丸の様に英語が行き交っている。怖い。

 「ございます。あちら、観葉植物が見えますか? その向こうに入り口がございます」
 「だって、親父。行ってくるか?」

 反対に平介は何か別の心配をしたのか、コンシェルジュに聞き返す。

 「それは私が使っていいやつですか?」
 「はい。居住者の方だけでなく、来客者の方にもお使い頂けるようになっております」

 その答えに安心した平介がトイレに向かおうとすると、気が付いた星が止めた。

 「平介さん、もう終わりましたから、僕の家で大丈夫ですよ」
 
 するとそれを聞いた外人さんがまた何か英語で話し出した。それに星が嫌そうに応答する。

 「いいえ、話は終わりです。そもそも、貴方とは今日は約束していません。先約があるので、失礼します」
 
 すると負けずに外人さんは英語でまた何かを言い、興奮した様に星の腕を掴んだ。これ、絶対終わらないやつ……。洋介が平介に目配せすると、平介はそそくさと観葉植物の向こうに消えて行った。


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