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37 襖張りですか?
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数日後、富士子は大部屋へ移された。六人部屋だが半分しか埋まっていない。富士子は窓際の二つの内、片方を当てがわれていて「明るくて景色がいい」と喜んでいた。個室ではないからトイレはついていなくて、外へ行かないといけない。その時だけはよたよた歩いているが、ベッドの上ではもうすっかり元気だ。
入り口側のベッドの患者にはたまに見舞いがあるが、窓際のもう一つのベッドには全く見舞いがないとこっそり富士子が教えてくれる。平介に付き添って毎日来ているが、同室者を拒絶するかのようにいつもカーテンがぴっちり閉まっているので、寝ている患者の姿すら見た事がない。
どうもこの病院は手術したての数日だけ個室でその後は大部屋という流れが決まっているのでずっと個室は使わせて貰えなかったから仕方がない。あの人も嫌だろうけどお互い様だから静かに過ごす、洋ちゃんもなるべく音を立てないでと富士子は同情の目で向かいのベッドを見た。
「来週か再来週には退院出来るみたい」
「早いんだな」
「うん、で、洋ちゃんにお願い。リンちゃん部屋と、今お父さんが寝ている部屋の襖を張り替えたい」
リンちゃん部屋というのは、行介一家が来ると泊まる新館の和室の事だ。星もいつもそこで寝ている。
「襖ぁ?」
「うん」
「そんなの、どうやってやるの? 大体何で急に?」
やり方も分からないのもあるが、何故今そんな事を言い出すのかも分からない。入院中の母に親孝行したい気持ちはあるけど、どう考えても大変そうだ。
「前から交換したいと思ってたのよう。結構黄色くなってるでしょ。風ちゃんがガリガリやったとこも、折り紙貼ってあるし。なんか一日ベッドで寝ていたら、やってないけどやらなくちゃいけない事色々思い出して」
まあ確かに、新館を建てた時行介が小学生だったから30年以上は前か、でも面倒臭い。
「仕方がない。やってあげなさい」
平介は他人事だ。
「親父手伝ってくれないの?」
「俺はもう歳だし、ヨボヨボしてるからな」
「えー、でもどうしても二人じゃないと出来ない所は手伝ってくれよ」
ネットで調べてみないと分からないが、多分簡単ではないだろう。障子張りならした事があるがあんな感じだろうか? 一回全部敷居から外さないとだろうけど障子と違って重そうだし、多分糊と刷毛が必要だし、古い紙を一旦剥がさないとダメなんじゃないだろうか。
「あら、大丈夫よ。一人で出来るわよ。あたし、シールで貼るやつ買ったから」
「シール?」
「うん。自分でやろうと思ってたから簡単なの買ったの」
「へえ、そんなのあるんだ。お袋が一人で出来るなら大丈夫かな」
富士子の軽い調子に騙された。襖張りは大変だった。洋介は二度とやらないと心に決めた。次はどんなにお金が掛かっても人に頼む。それくらい大変だった。
古いのを剥がさないまま上から張って良かったが、シールのやつでも一旦、枠と引き手を外さないといけない。そうして新しい襖を戸板に張って、また枠と引き手を嵌める。
この枠と引き手を外すのが中々大変だった。ネットの動画ではコツを掴んだら簡単に外せますと言っていたが、そのコツが中々掴めない。トンカチをカンカンと打つが、角度が悪いのか中々外れない。下手に力を入れようものなら割れてしまいそうになる。
しかもずっと中腰で同じ姿勢で作業するので腰が痛い。(後で富士子に文句を言ったら「え~、外さないでギリギリのとこでカッターで切っちゃって良かったのに」と言われてガックリきた)
それからやっぱり富士子は信用出来ない。「全部揃ってる」と言い切った割に、揃ってなかった。シールのを買ったと言っていたのに、シールじゃないタイプが混ざっていたし、柄も揃ってなかったので、結局ホームセンターに買いに行く羽目になった。ホームセンターにシールのやつの在庫がなかったので、裏に糊がついていて水を刷毛で塗って張るタイプを買った。
平介は宣言通り全く手伝ってくれなかった。ホームセンターへの買い出しは頼まなくてもついて来たが、家に帰ると家庭菜園だ、チャップスの餌やりだと外へ出て行ってしまい、戻って来ても台所で何かやっている。足りない物を探しに行くと持って来てくれるが、作業自体は絶対に手伝ってくれない。しかも張る時とか、二人で押さえたら簡単なのにと思う時には家にいなくて、トイレのついでに覗きに来ては「ここがよれてる」と口だけ出す。
後で「昔やった事があるがすごく大変だったので二度とやりたくなかった」と打ち明けられたが、それでもちょっとくらいは手伝って欲しかった。まあ、風太郎がこっちに来ないように見張ってくれていたのは助かったが。慣れない作業に半日掛けても新館の分しか出来ず、あまりにも疲れたので、平介の寝ている部屋は出来なかった。
富士子には片方の部屋しかやってないと言ったらブーブー文句を言われたが、後日 ーー退院してだいぶ経ってからだがーー、二人で残りの部屋をやったら大変さを理解してくれた。が、次はお金を掛けても業者に頼むと言ったら、「そんな勿体無い事……、絶対自分達でやる!」と鼻息荒く反対する。嫌だと言っているのにしっかり数に入れられているし、しかもその時に富士子が生きているとしても今より老いている訳で、確実に洋介一人でやらされると想像出来て今からうんざりしてしまった。
入り口側のベッドの患者にはたまに見舞いがあるが、窓際のもう一つのベッドには全く見舞いがないとこっそり富士子が教えてくれる。平介に付き添って毎日来ているが、同室者を拒絶するかのようにいつもカーテンがぴっちり閉まっているので、寝ている患者の姿すら見た事がない。
どうもこの病院は手術したての数日だけ個室でその後は大部屋という流れが決まっているのでずっと個室は使わせて貰えなかったから仕方がない。あの人も嫌だろうけどお互い様だから静かに過ごす、洋ちゃんもなるべく音を立てないでと富士子は同情の目で向かいのベッドを見た。
「来週か再来週には退院出来るみたい」
「早いんだな」
「うん、で、洋ちゃんにお願い。リンちゃん部屋と、今お父さんが寝ている部屋の襖を張り替えたい」
リンちゃん部屋というのは、行介一家が来ると泊まる新館の和室の事だ。星もいつもそこで寝ている。
「襖ぁ?」
「うん」
「そんなの、どうやってやるの? 大体何で急に?」
やり方も分からないのもあるが、何故今そんな事を言い出すのかも分からない。入院中の母に親孝行したい気持ちはあるけど、どう考えても大変そうだ。
「前から交換したいと思ってたのよう。結構黄色くなってるでしょ。風ちゃんがガリガリやったとこも、折り紙貼ってあるし。なんか一日ベッドで寝ていたら、やってないけどやらなくちゃいけない事色々思い出して」
まあ確かに、新館を建てた時行介が小学生だったから30年以上は前か、でも面倒臭い。
「仕方がない。やってあげなさい」
平介は他人事だ。
「親父手伝ってくれないの?」
「俺はもう歳だし、ヨボヨボしてるからな」
「えー、でもどうしても二人じゃないと出来ない所は手伝ってくれよ」
ネットで調べてみないと分からないが、多分簡単ではないだろう。障子張りならした事があるがあんな感じだろうか? 一回全部敷居から外さないとだろうけど障子と違って重そうだし、多分糊と刷毛が必要だし、古い紙を一旦剥がさないとダメなんじゃないだろうか。
「あら、大丈夫よ。一人で出来るわよ。あたし、シールで貼るやつ買ったから」
「シール?」
「うん。自分でやろうと思ってたから簡単なの買ったの」
「へえ、そんなのあるんだ。お袋が一人で出来るなら大丈夫かな」
富士子の軽い調子に騙された。襖張りは大変だった。洋介は二度とやらないと心に決めた。次はどんなにお金が掛かっても人に頼む。それくらい大変だった。
古いのを剥がさないまま上から張って良かったが、シールのやつでも一旦、枠と引き手を外さないといけない。そうして新しい襖を戸板に張って、また枠と引き手を嵌める。
この枠と引き手を外すのが中々大変だった。ネットの動画ではコツを掴んだら簡単に外せますと言っていたが、そのコツが中々掴めない。トンカチをカンカンと打つが、角度が悪いのか中々外れない。下手に力を入れようものなら割れてしまいそうになる。
しかもずっと中腰で同じ姿勢で作業するので腰が痛い。(後で富士子に文句を言ったら「え~、外さないでギリギリのとこでカッターで切っちゃって良かったのに」と言われてガックリきた)
それからやっぱり富士子は信用出来ない。「全部揃ってる」と言い切った割に、揃ってなかった。シールのを買ったと言っていたのに、シールじゃないタイプが混ざっていたし、柄も揃ってなかったので、結局ホームセンターに買いに行く羽目になった。ホームセンターにシールのやつの在庫がなかったので、裏に糊がついていて水を刷毛で塗って張るタイプを買った。
平介は宣言通り全く手伝ってくれなかった。ホームセンターへの買い出しは頼まなくてもついて来たが、家に帰ると家庭菜園だ、チャップスの餌やりだと外へ出て行ってしまい、戻って来ても台所で何かやっている。足りない物を探しに行くと持って来てくれるが、作業自体は絶対に手伝ってくれない。しかも張る時とか、二人で押さえたら簡単なのにと思う時には家にいなくて、トイレのついでに覗きに来ては「ここがよれてる」と口だけ出す。
後で「昔やった事があるがすごく大変だったので二度とやりたくなかった」と打ち明けられたが、それでもちょっとくらいは手伝って欲しかった。まあ、風太郎がこっちに来ないように見張ってくれていたのは助かったが。慣れない作業に半日掛けても新館の分しか出来ず、あまりにも疲れたので、平介の寝ている部屋は出来なかった。
富士子には片方の部屋しかやってないと言ったらブーブー文句を言われたが、後日 ーー退院してだいぶ経ってからだがーー、二人で残りの部屋をやったら大変さを理解してくれた。が、次はお金を掛けても業者に頼むと言ったら、「そんな勿体無い事……、絶対自分達でやる!」と鼻息荒く反対する。嫌だと言っているのにしっかり数に入れられているし、しかもその時に富士子が生きているとしても今より老いている訳で、確実に洋介一人でやらされると想像出来て今からうんざりしてしまった。
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