我が名は魔王豚ゴブリンなり! ~豚ゴブリンと蔑まされた少年はVRMMOイアンカムスで魔王となり最強プレイヤーを目指す~

ぱいん

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神域

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「由香!」

 オレは危険をかえりみず無我夢中で一直線に由香に駆け寄った。
 見ると由香の胸には麻痺毒が付与された毒矢が突き刺さっていた。これはアーチャークラスのプレイヤーが使用する毒矢であることが一目で分かった。そして、これを放った相手の正体にもすぐに気付くことが出来た。きっとオレには賞金がかけられ、この毒矢を放ったのは賞金目当てのプレイヤーなのだろう。でもそこで疑問と同時に怒りが込み上げて来た。
 
「なんでオレではなく由香が狙われなきゃならないんだ⁉」

 オレは忌々し気にそう呟きながら、由香の胸に突き刺さった毒矢を引き抜いた。引き抜かれた毒矢はすぐに分解され消滅する。
 由香は呼気を荒らげながら悲痛な表情でオレを見つめて来る。麻痺で動けない彼女のHPゲージが徐々に減少するのが見えた。どうやら先程の毒矢には麻痺だけじゃなく猛毒も付与されていたらしい。このまま回復しなければ数分後には由香のHPはゼロになり死亡判定を受けてしまうだろう。

「クソっ! ポーションがあれば由香を回復出来るのに」

 毒消しのポーション一つあれば彼女を簡単に救うことが出来るというのに、今のオレにはたったそれだけのことが出来ずにいる。街に入れさえすれば簡単に手に入る回復アイテムが、今のオレにとっては神話級アイテムに匹敵するほど入手困難な状況にあった。何故、オレには街に入れない制限がかけられているんだろうか。ソロプレイを強制されている時点で気付くべきだった。もしかしたらオレに課せられたのは試験という名の処刑だったのかもしれない。そうでなければ無職という最弱クラスで初期装備も無しに試験を受けさせるわけもない。
 一つ、オレの頭の中で最悪な仮説が立てられてしまった。エレウスは偽りの家族と結託しており、オレを絶望の淵に叩き落し自ら命を絶つように仕向けているのではないか、と。
 だとしたら、オレは絶対にエレウスを許さない。憎しみの炎がオレの全身を焼き焦がすかのような錯覚を受けた。自動的に狂戦士のスキルが発動しかけた時だった。
 由香が苦しそうに呻く声が聞こえた。
 オレはハッと我に返り、由香を見る。彼女の顔は蒼白していて苦しそうに喘いでいた。顔に濃く浮かんでいたのは怯えの色だった。

「シュウト、様……私、死にたく、ない……」

 ゴプリ、と由香は苦しそうに吐血する。
 大丈夫、君はオレと違って死亡判定を受けてもすぐに近くの神殿で復活することが出来るよ、とは口が裂けても言えなかった。彼女は心の底から怯え、死の恐怖に苦しんでいるように見えた。

「私にはこれしかないのに……何も成し遂げられないまま消えたくない……生きた証を残したかったのに」

 そう呻いた後、再び由香は吐血すると、苦しそうに咳き込んだ。ゲーム内で痛みなど感じるわけがないはずなのに、彼女の苦しむ姿はとてっも演技とは思えなかった。仮にこれが演技だとしたら、彼女は一流の女優になれると思えるほど迫真の演技だったに違いない。
 すると、周囲から複数の気配が現れた。数は8つ。どれもプレイヤーの気配だった。

「おいおい、情報通りの醜い姿じゃねえか。こいつ、本当にゴブリンの亜種とかじゃなくてプレイヤーなのか?」

 オレの背後から驚いた声が響いて来る。周囲を取り囲まれているようなので、迂闊に後ろを振り返るわけにもいかない。

「豚ゴブリンか。言いえて妙だな。オーク程身体は大きくねえが見た目はゴブリン。だから豚ゴブリンか。なんでそんなクソ不細工なアバターを使っていやがんだか」

 呆れたような男の声が聞こえて来る。オレだって好き好んで自分そっくりなアバターを使っているわけじゃない。

「まあ、ゴブリンだろうがオークだろうがオレ達は賞金が貰えれば何でもいいんだがな」

 右横から弓をつがえる音が聞こえた。オレは視線を少し横にずらす。坊主頭で眼帯の男性アバターの姿が見えた。こいつが由香を射ったアーチャーか。たちまち怒りと殺意が同時に込み上げてくる。

「お前達! オレに幾ら懸賞金がかけられたか知らないが討伐対象にあるのはオレだけだろう? このヒーラーの娘は無関係だから攻撃するのは止してくれ。そして可能ならすぐに助けてやってくれ! 瀕死の状態なんだ!」

 オレは両手を上げ、無抵抗の意思を表して見せるとそう哀願した。
 すると、周囲から嘲笑が響いて来る。

「回復役を先に潰すのは基本戦術だろう?」

「いや、だから! この娘は無関係なんだって! オレはソロプレイしかしていないんだ。この娘とパーティーを組んでいないことは一目見たら分かるだろう⁉」

 もしオレが由香とパーティーを組んでいたらそう表示されているはずだ。奴らもそれは分かっているはずなのに。

「今からパーティーを組もうとしていたかもしれないだろ? 疑わしきはまとめてぶち殺せって言葉を知らねえのか?」

 ゲラゲラと嘲った笑いが再び響いて来る。
 
「何がそんなに可笑しいんだ⁉ 人が死にかけているんだぞ⁉ お前ら、それでも血の通った人間か⁉ 頼むから彼女を助けてやってくれ! その代わりオレは抵抗しない。好きなようにしてくれて構わない。だから、お願いだ!」

 オレは怒り塗れながらも彼等に哀願の叫びを放った。
 すると、奴らはポカンとした表情で呆気にとられると、堰を切ったかのように ぎゃはははは! という馬鹿笑いが響いてきた。

「あんた、なにそんなに必死になっちゃってるわけ? ああ、そういう設定なのか。さしずめお姫様を守るナイト、じゃなくって発情オークって感じか?」

 うるさい、黙れ! オレは歯ぎしりしながら奴らからの侮辱を必死に堪えた。

「ゲームごときになにをそんなに必死こいてんだか。間違ってぶち殺しちまっても、すぐに神殿で復活するだろうし、オレ達もほんの少しの間『PK』の表示が出るだけで何の問題もねえよ」

 その時、オレの心が少し痛んだ。オレも最初はそう思ったさ。でも、彼女は死にたくないと心の底から怯えている。例えゲームだとしても、救いを求めている人間を見捨てるわけにはいかない。だって今のオレがそうだから。一度でもアバターが死亡したら、それでオレの人生も終わってしまうのだ。それを考えると、とてもじゃないが由香のことだってたかがゲームだから死んでもいいじゃないか、とは思えなかった。

「んなことより、女アバターをぶち殺す快感を得る方がオレ達にはメリットがあるからな。まあ、中身はおっさんかもしれねえけどよ」

 その言葉の後に、再び癇に障る馬鹿笑いが響いて来る。
 どうやらこいつらにはオレの言葉は届かないみたいだ。ゲームの世界でなら何をしてもいいと奴らはそう考えているに違いない。仮想世界でひとは誰しも現実世界では露わに出来ない本性を剥き出しにするものだ。これが彼等の本性だとすると、とても哀れな人間だと思った。

「ゲームでしかイキられないクズどもに、オレと由香を笑う資格なんてない……!」

 オレが怒りの言葉を発すると、たちまち彼等の笑いが止んだ。代わりにピリついた空気が立ち込めた。

「今、何ておっしゃいましたかね、豚ゴブリン君?」

 丁寧だが静かな怒りを湛えた男の声がオレに問いかけて来た。

「何度でも言ってやる。お前らはゲーム世界でしかイキられない根性無しどもなんだろう? そんな奴らに真剣にゲームをプレイしているオレ達を笑う資格は無いって言ったんだ!」

 必死にゲームをプレイして何が悪い。オレにはプロゲーマーになるという夢があるんだ。ただの憂さ晴らしで弱い者虐めを楽しむようなお前達とは根本的に違うんだ。

「おうおう、言ってくれちゃったな、豚ゴブリン野郎。流石は100万Gの賞金首なだけあって口の方も達者みたいだな」

 さっきの奴ら、オレなんかに100万Gも賞金をかけたのか⁉ どれだけオレを憎んでいるというのだろうか。そもそも発端はあいつらがオレをPKしようとして返り討ちにしてやっただけなのに。逆恨みにもほどがあるというものだ。

「オレみたいな豚ゴブリンに百万Gも懸賞金をかけてもらえるだなんて光栄な話だな。そして、お前達はその豚ゴブリン野郎に今から叩きのめされることになる。死にたくなければとっとと逃げた方が身の為だぞ。Gや装備品を喪失したくはないだろう?」

 オレはステータス画面を表示させると、狂戦士のスキルを確認する。先程まで赤色になっていたスキルの色が元に戻っている。どうやら先程由香がかけてくれたヒールのおかげでスキル発動に必要なHPを確保出来たみたいだ。
 プレイヤーの頭上に表示されている名前の横にはレベル数も表示されている。見たところ、目の前の戦士風のアバターのレベルは40。恐らくは他の6人も似たようなレベルだろう。
 その程度のレベルであれば憤怒のスキルと狂戦士のスキルを併用して何とか奴らを倒すことが出来るかもしれない。ここは可能な限り奴らを挑発してヘイトを稼ぎ、オレに注意を引き付けることに専念しよう。

「ケッ、オレ達より格下の分際でよくそこまでほざけたな? でも、残念ながらオレ達はお前の言う通りクズ野郎だからな。ここはきっちり弱点を狙わせてもらうぜ」

 まさか⁉ こいつら、何処まで見下げ果てた奴らなんだ!
 アーチャーの言葉にいち早く反応したオレは、弦音が響く前に由香の身体に覆いかぶさった。
 背中に衝撃を受けた。ダメージはほとんど受けなかったが、HPの色が毒判定を受けた紫色に変化していた。
 オレも由香同様麻痺と猛毒を受け、身体が動かなくなってしまった。HPのゲージが徐々に減少していくのが見えた。

「お前らどんだけ痛々しいんだよ。死んでもすぐに神殿で復活するってのによ、どんだけ役に入り込んでいるってんだ?」

「ゲームの楽しみ方は人それぞれだしな。オレ達はオレ達で楽しませてもらおうじゃねえか」

「まあ、オレ達の楽しみ方ってのは弱い奴を徹底的にいたぶることなんだけれどもな!」

 そう言って一番近くにいた戦士風のアバターが倒れているオレの背中目掛けて剣を振り下ろした。たちまち衝撃を受けHPゲージが激しく震動する。
 斬撃を背中に食らうたびにHPは大きく減少した。麻痺毒で身動き出来なくなっていたオレには、一撃たりとも由香に攻撃が入らないように彼女に覆いかぶさるより術は無かった。
 
「おら、どうしたよ? オレ達を叩きのめしてくれるんじゃなかったのか⁉ ああん、どうなんだよ、クソ豚野郎が!」

 奴らは、ギャハハハハハ! と癇に障る馬鹿笑いを上げながらオレに容赦ない攻撃を加えて来る。剣で斬られ矢を射られ炎の魔法で身体を焼かれる。
 オレはその時、懐かしい悪夢を垣間見ていた。学校で自分を虐めている奴らによって上半身を裸にされた後、腹に点数を書かれダーツの的にされたりしていた。そしてゲームに飽きた後は殴る蹴るの暴行を加えられ、時にはライターで皮膚を焼かれたりした。その時の傷跡は今も生々しく残っている。今の状況は現実世界のそれと同じ悪夢だった。
 それでも痛みが無いだけマシだ。でも、現実世界と一つだけ違う点がある。今のオレには守るべき存在があること。由香を救うためならこのような暴力と屈辱にはいくらでも耐えることが出来た。
 HPの残量が二桁まで減少しているのに気づいた。後一撃もらえばオレのアバターは死亡判定を受けるだろう。
 オレは自分の死よりも由香の身を案じた。アカウントが消滅して二度とゲームが出来なくなる恐怖よりも、オレは由香を救いたいと願った。
 自分でも愚かな選択だとは思う。たかがゲームなのに、アバターが死んでもすぐに復活出来るのに。他のプレイヤーと違って、オレのアバターの死は自分自身の人生の死と同義なのだ。プロゲーマーになる夢が破れればオレに生きる希望は残されていないのだからここは何を犠牲にしてでも逃げるべきだった。もしくは由香のことは気にせず敵を殲滅すべきだったのだ。
 由香を見捨てて今からでも逃げ出せば万が一にも生き延びれる可能性があるかもしれな。でも、オレの身体は由香に覆いかぶさったままピクリとも動かなかった。そんなことは何度も考えたさ。何回も由香を見捨てる選択肢を頭の中では選んだ。でも魂がそれを拒絶した。

「由香、どうやらオレはお終いみたいだ」

 恐怖に怯える由香の蒼白した顔を見ながらオレは呟いた。

「助けられなくて、ごめん」

 オレがそう呟いた瞬間、由香の頬に一粒の涙が零れ落ちた。止めの斬撃がオレの背中にヒットし、HPの数値が『1』にまで減少したのはその直後のことだった。
 死を覚悟し、オレはアバターが消滅する瞬間を待った。だが、いくら待っても消滅する気配はなかった。
 何が起こったんだ? 周囲を見回すと、そこには見慣れた光景が広がっていた。
 世界の風景がセピア色に変色していた。見るとオレを襲ってきたプレイヤー達は歪な笑みはそのままで、各自得物を振り上げ、オレに攻撃しようとしている状態で固まっていたのだ。まるで時間が停止したかのような光景である。

『HP残量が限界値に達しましたので『神域』のスキルが解放されました。緊急回避の為、即時スキルを発動しました』

 オレの目の前にいつの間にかメッセージ画面が表示されていた。

「神域のスキルが解放されただって? このスキルはどんな効果があるんだ⁉」

 相変わらずスキル効果の説明は記載されていない。でも、バカなオレでも何をすべきかは一瞬で分かった。
 せっかくこれ見よがしに固まってくれているんだ。それじゃ、遠慮なく今までの恨みを晴らさせてもらおうじゃないか!

『条件をクリアしましたので、憤怒のスキルレベルが2にアップします。憤怒レベル2のスキルを発動します』

 オレは憤怒のスキルが発動したメッセージ画面を見ながら何となく理解した。
 憤怒のスキルはオレの怒りによって発動し成長するスキルなのだと。
 そして、恐らく新たに覚醒した『神域』というスキルはオレが絶体絶命のピンチに陥った時に発動するチートスキルなのだろう。
 本当に時間が停止したのか、そう錯覚しているだけなのかは分からない。分かっているのはこの状況がオレにとっては千載一遇の好機であり、奴らにとっては絶体絶命の危機ということだけだ。

「うおおおおおおおおおおおお!」

 オレは近くにいた戦士風のアバターの顔面に怒りの拳を叩きつけた。たった一撃でアバターの顔が砕け散る。肉片は静止したままの状態で宙に留まっている。
 情けも容赦も必要ない。だってこれはたかがゲームなんだろう? 
 オレは込み上げる笑いを止めようとはしなかった。きっと今のオレは奴らみたいに愉悦塗れの笑みを浮かべていたに違いない。
 そうしてオレは由香を襲ったアーチャーに殴りかかった。腹部を殴りつけると、アーチャーの身体が真っ二つに折れる。折れた肉体はそのまま静止した状態で宙に浮かんだ状態になった。
 
「思い知れ! このクソったれどもが!」

 オレは絶叫にも似た咆哮を発すると、次々と奴らのアバターを粉々にしていった。
 バラバラになったアバターの肉片は破壊されたことにも気づかず全て宙に浮かんで静止していた。時間の流れが元に戻った瞬間、奴らは自分達が何故死んだのか理解できないまま死亡判定を食らうことだろう。

「終わった……」

 オレがそう呟くと、HPの残量が『2』に回復する。神域のスキルはそれと同時に解除された。
 身体を砕かれた8人のプレイヤーは悲鳴を上げる暇も与えられず、死亡した理由も知らされないまま消滅していった。
 
『PKを確認しました。魂食いレベル1のスキルを発動いたします。レベルが80上がりました』

「え? レベルが80も上がったってことは、まさか⁉」

 オレは慌ててステータス画面を確認する。
 
『無職 レベル108』

 何度も確認したが、オレは間違いなくレベル100を超えていた。

「やった、やったぞ! オレは試験をクリアしたんだ! 一週間どころか一日もかからずに……!」

 オレは思わず感極まった。不可能だと思っていた『一週間でレベル100に到達する』試験を見事にクリアしたのだ。
 これでプロゲーマーになるという子供の頃からの夢の実現が一歩近づいた。
 その時、由香の呻き声がたちまちオレを現実世界に引き戻した。
 浮かれるのは後回しにしよう。今は由香を助けることが先決だ。馬鹿喜びした一秒前の自分を殴りたい気持ちになった。
 
「由香、大丈夫か⁉ 襲ってきた奴らはオレが倒した。今、すぐに治療してやるからな」

 かといって、オレには回復アイテムは無い。もしかしたら由香が麻痺毒を回復するポーションを持っているかもしれない。

「由香、何か回復アイテムは持っていないか?」

 オレの問いかけに由香は苦しそうにわずかに首を横に振るだけだった。
 由香のレベルは1。恐らくアカウントを作った直後にここまで来てしまったのだろう。なら初期装備とヒールの魔法しかないはずだ。
 ならば街の近くまで行って通りかかったプレイヤーに助けてもらうしか方法は無い。

「由香、今からオレが近くの街まで連れて行ってやる。それまで何とか耐えてくれ!」

 オレが由香を抱きかかえようとした瞬間、何故かオレの手が弾かれた。そして、わずか1Pとはいえ、由香にダメージ判定が下ってしまった。
 ダメージを受けた由香は悲鳴のような呻きを洩らした。

「何故ダメージ判定が入ったんだ⁉ オレは由香を抱きかかえようとしただけだぞ⁉」

 まさか、オレが誰ともパーティーを組めない理由とは……⁉
 ハッと最悪の理由を思いつき、オレは愕然となった。
 もしオレの予想が正しければ、オレにはどうあっても由香を救う手立てが無い。
 オレが動揺している間にも由香のHPは減っていく一方。オレが触れた瞬間、心なしかダメージの減る勢いが強くなったような気がした。いや、間違いなく急速にダメージが減っていっている。

「由香、すまない! まさかこんなことになるなんて……⁉」

 その時、由香は苦し気な表情でオレに視線を向けると精一杯の笑顔を浮かべた。

「よろしい、ですのよ……これが私の運命だったのでしょう」

 一筋の涙が由香の翡翠色の瞳から零れ落ちる。

「全ては女神エレウス様の御心のままに……」

 由香はそう呟き、両手を胸の上で組んだ。
 だが、次の瞬間、由香の顔が歪んだ。

「嫌だ、私、死にたくない! 死にたくない! シュウト様、私、死ぬのが怖い! お願い、助けて、助けて、たすけ……」

 由香は最後の力を振り絞り、感情を露わに叫んだ。それはもはや悲鳴だった。彼女は最後の言葉を言い切ることが出来ず、そのまま目を大きく見開いたままこと切れた。
 真っ赤に染まった由香のHPの値が『0』になり、ステータスの色が死を意味する『黒』に変色した。
 由香に死亡判定が下された瞬間だった。
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