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黒魔族
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四大災厄の一角、黒狼王〈フェンリル〉ことノアは驚愕の声を張り上げるエレウスを見てお行儀よくお座りをしながら「ワン!」と笑顔で吠えた。
「いいかい、シュウト君? イアンカムス世界における『四大災厄』ってのはだね、チートが過ぎて誰も倒すことが出来ない凶暴かつ凶悪なモンスターのことを言うんだよ。いわば絶対的力の象徴とも呼べる存在だ。この女神エレウス様のようにね」
エレウスはふふん、と勝ち誇ったような笑みを浮かべながら目を細めた。
「それなのに君ときたら! どんな奇跡が起これば黒狼王〈フェンリル〉を従魔にすることが出来るんだい⁉ 納得のいく説明を求める!」
エレウスは穏やかに笑っていたかと思えばいきなり感情を剥き出しにして怒声を張り上げて来た。ちょっと情緒不安定な奴だと思わず引いてしまう。
「ただの偶然だよ」
「偶然? 偶然も重なれば偶然じゃないし、ましてや奇跡なんかがそう何度も重なってたまるかい」
エレウスは鼻息を荒らげながらオレに迫ってくる。少しパニック状態になっているようにも見えた。それだけ今回の一件はエレウスにとって狼狽するほどの異常事態だったのかもしれないな。
オレは当時の事をエレウスに簡単に説明した。
レアモンスターをゲットしに大陸南部に出現したC級ダンジョンに向かったら、なんやかんやで偶然が重なって従魔にしちゃいました。以上、と。
「奇跡が十個重なってもそんな奇跡的なことは起こらないと思うぜ? もはやそれは必然的な運命だろう」
エレウスは呆れるようにそう呟くと、ハッと何かに気づいたように大きく目を見開いた。
「確かさっき、大陸南部のダンジョンって言ったよね? もしかしてそこは二重ダンジョンだったりするかい?」
「C級ダンジョンなのにA級のボスモンスターのベアタイガーも出たし、変な廃墟にも行ったよ?」
「廃墟? それってもしかして廃都ノアじゃないよね? 流石に今のシュウト君では街を守っている廃都の守護神〈アイアンゴーレム〉には絶対に敵わないどころか出会った時点で即詰みだろうからね。こうしてボクと生きて再会できるはずもないか」
「ああ、あそこは廃都ノアっていうのか。うん、そこで間違いないと思うぞ? 廃都の守護神〈アイアンゴーレム〉とも戦ったし。しかも3体も」
その瞬間、エレウスは笑顔のまま固まり、顔を蒼白させた。
「それで何で生きていられるのかがボクには理解不能だよ⁉ あのボスモンスターからは絶対に逃げられないようにプログラムされているし、そもそも何のイベントも起こさずにあそこに行けるわけもないんだ!」
いつもは悟り切ったような笑顔を浮かべているエレウスにしては珍しく動揺しているようだった。今回の一件はそれほどイレギュラーなことづくめだったのだろうか?
「四大災厄関連のクエストはシュウト君が魔王になってから順序だてて行うつもりだったんだ。そもそも主より圧倒的に高レベルのモンスターを従えることはシステム上不可能なはずなのに……」
エレウスはそう言うと、両手の親指と人差し指で枠を作るとノアを覗き込んだ。
「黒狼王〈フェンリル〉の幼体 レベル500。あれれ? 幼体とはいえこんなにレベルが低いわけがないんだけれどもな?」
「ああ、そのことなんだが、ノア……その黒狼王の名前なんだけれども、ボスモンスターのベアタイガーを倒したんだ」
「レベル1200のベアタイガーを? 流石にこのレベルじゃ無理だよ。何かの間違いじゃないのかね?」
「いいや、それでオレが再確認したところ、レベル5000まで跳ね上がっていて、廃都の守護神〈アイアンゴーレム〉から逃げられたのもノアが成体に覚醒して一体だけ倒してくれたからなんだ。残りの二体は威圧のスキルで麻痺にして、その隙に逃げることが出来た。ぶっちゃけ死ぬかと思いました」
「レベルが10倍になって、その後は成体にまで覚醒か……うーん、それはボクにも分からん。まあ、ノアがそのC級ダンジョンにいた理由は何となく分かる。それは多分バグだね。それも奇跡的な」
「やっぱりバグなのか?」
「恐らくランダムで作成されたC級ダンジョンが、恐ろしいほどの確率で廃都ノアの隠しダンジョンと重なってしまったんだろう。黒狼王〈フェンリル〉は魔族国家ノアの守護神という設定があってだね、いずれ現れるであろう魔王を待ちながら廃都ノアを住処にしているんだ」
いずれ現れるであろう魔王を待ち続けている、か。オレはお行儀よくお座りしているノアをチラッと見た。ノアはオレの視線に気付くと嬉しそうに「ワン!」と吠える。
「それにも驚くが、これにはボクも呆れ果てたね」
エレウスはそう言ってポリポリと指で頬をかいた。
「従魔を300体集めろとは言ったけれども、まさか全てB級ダンジョン以上のボスモンスターばかりとは……凄いを通り越して君の執念が怖くなってくるぜ。流石は魔王候補なだけはある」
エレウスはドン引きした態度でオレを白い目でジロッと見た。
オレはそんなにおかしいことをしたのだろうか? ただのゴブリンやオークなんかを集めたって大した戦力にはならないし、こういう場合は少数精鋭を徹底しより強いキャラを仲間にするというのがゲーマーのセオリーだと思う。ソシャゲでノーマルのキャラを集めて喜ぶような奴はいない。最低でもSRくらいのレア度は欲しいところだろう。
本当は全てA級ダンジョンのボスモンスターで統一したかったことは伏せておいた。
「明日にもノルマは達成出来るからもう少し時間をくれ」
「いや、これで十分だ」
そう言ってエレウスは指をパチンと鳴らした。
オレの目の前に20体のモンスターが現れる。ストーンゴーレム5体にスケルトンナイトが15体。いずれもB級ダンジョンのボスモンスターだった。
「本当は従魔300体獲得のノルマを達成したらプレゼントする予定の子達だったんだけれども……君が集めて来た子達の前では存在が霞んでしまいそうだね。これで300飛んで1体。よし、全てのノルマ達成を確認した。これより転職イベントを行おうと思う」
「おお⁉ まさか今日転職出来るとは思わなかったぞ⁉」
予想外のご褒美を前にオレは目を輝かせながらエレウスの言葉を待った。
「では、この4つのクラスから好きなものを選びたまえ」
オレの目の前にメッセージ画面が表示される。
『次の中からお好みのクラスをタップしてください』
『1,赤魔族→攻撃魔法に優れているクラス』
『2,青魔族→防御に優れたクラス』
『3,白魔族→回復、支援スキルに優れたクラス』
『4,黒魔族→攻撃に特化したクラス』
「赤魔族は極大殲滅魔法を使えるのが特徴。青魔族は攻撃と魔法は劣化するけれども極めればほぼ全ての攻撃を無効化出来る。白魔族はそのまんま。モンスター軍団を強化するならこれ一択だ。ただし戦闘力は下級魔族より劣ってしまうデメリットがある。そして黒魔族だが、これは防御を捨てて攻撃に全振りしたかのような頭のイカれたクラスになっている」
エレウスの説明を聞き終えた後、オレの心は決まった。
「ボクの御薦めは赤魔族かな? どんな戦局にも対応できるオールラウンダーだからね」
「いや、オレはこいつを選ぶよ」
オレは迷わず4の黒魔族をタップする。
それを見たエレウスは呆れたように顔を歪ませた。
「やっぱりシュウト君ならそれを選ぶと思っていたよ……」
「失敬な。オレだって何も考えずに黒魔族を選んだわけじゃないんだぞ?」
赤魔族の極大殲滅魔法は確かに魅力的だ。でも、ダンジョン内では使用出来ないだろうし、オレはプロゲーマーを目指していることもあってギルド戦よりは個人戦を強化したいと考えた。
青魔族は論外。これは仲間がいることが大前提で、いくら防御力が高くても相手を倒せないのなら意味が無い。
白魔族は完全に支援特化型のクラスだ。ギルド戦のみを重視するならありだが、個人戦では何の役にも立たないだろう。
防御を捨て攻撃に全振り。頭がイカれているって? それこそ望むところだ。オレは圧倒的な力でイアンカムス最強のプレイヤーになりたいと常々願っていたのだから、黒魔族こそオレに最も相応しいと感じられた。
「まあいい。君は常に結果を出し続けてくれた。廃都ノアから生還した剛運の持ち主でもあるし、ボクは君の選択を尊重しよう」
エレウスは最後に「ちなみに黒魔族は狂魔族とも呼ばれているんだぜ?」と嬉しそうに小さく呟いた。
オレが最初に覚醒したスキルも『狂戦士』だったから黒魔族を選んだのはまさしく運命だったのかもしれない。いやそれこそ必然的な運命に違いない。オレはどんなルートを辿ってここまで来たとしても同じ選択をしていたと思う。
「それじゃ、転職いっとくかい?」
「ああ、お願いする」
「それじゃこれよりシュウト君は晴れて下級魔族から上級魔族の『黒魔族』に転職だ! おめでとう!」
パチンとエレウスが指を鳴らすと、オレの身体が黒色の光を放った。
身体には漆黒の軽鎧が一瞬で纏われ背には黒のマントが現れる。
腕も一回り大きくなったように見えた。心なしか身長も少しだけ伸びたような気がする。ほんのちょっとだけエレウスの姿が下に見えた。
「転職完了だ。これで君は上級魔族でも最高にイカれている『黒魔族』になった。称号は『魔王候補』だよ」
「もしかして次の転職先は……?」
「そう、お待ちかねの魔王だよ。でも魔王に転職するのは実に簡単なんだ。今までのようにレベル上げも従魔の獲得も必要ないしね」
「なら魔王になる条件って?」
「何処でもいいからエリアを獲得すること。ほら、実に簡単な軽作業だろう? でも現在、イアンカムス内のエリアはほぼ全て他のギルドによって占有されてしまっている。それにはどうしたらいいと思うかね?」
ニヤリ、と何かを企む悪役のような笑みを浮かべながらエレウスはオレを見る。
「ギルド戦か……!」
「その通り! 君は上級プレイヤーとなりギルド員も目標定数に達した。今よりシュウト君にはギルドを結成してもらう。その後は準備が出来次第、適当なギルドに喧嘩を吹っ掛ければいい。それに勝ちさえすれば君は晴れて魔王になれる!」
遂に魔王になれる。その言葉を聞き、オレの心は打ち震えた。
「さあ! ギルド結成コマンドをタップしたまえ。ギルド名はシュウト君に任せるよ」
オレはエレウスにそう促され、ステータス画面を表示させる。ウインドウが重なって現れ、
『条件クリアを確認致しました。ギルドを結成するならこちらのコマンドをタップしてください』
オレは『ギルド結成』のコマンドをタップする。
『お次にギルドマスターならびにギルド名を入力してください』
ギルマスは当然オレだ。ギルド名は……やっぱりこれしかないだろうな。
オレは指先で手早くギルド名をタップする。
『ギルド結成を承認致しました』
メッセージ画面はそれだけを伝えるとすぐに目の前から消え去った。
オレはギルド専用のステータスを表示する。
『ギルドマスター豚ゴブリン ギルド名 魔王豚ゴブリンギルド』
「シュウト君らしいというか、本当に直情的なギルド名だねえ? ボクならもっとこう中二病めいた名前を付けるところだけれどもね」
「とにかくオレの名前を世界中に知らしめたいと思ったからな」
確かにオレだって日本最強と謳われる『神威ギルド』みたいな中二病心がくすぐられるギルド名の方が良かったさ。しかし、これはゲームであっても遊びじゃない。死ねば終わりの戦いに身を投じている身としては死んだ場合、何かを残したいと思っている。家族のいないオレには世界に生きた痕跡を残せるものは名前くらいなものだった。
「ギルド名もそうだけれども、花が無いのは可哀想だ。ギルド結成のお祝いに花をプレゼントしてあげよう」
「花?」
オブジェか何かかな?
「二人とも出てきたまえ」
エレウスが指をパチンと鳴らすと目の前に見慣れた顔のメイドが二人現れた。
メイド長のタマモさんとうさ耳メイドのメリルだ。
「どうして二人がここに?」
「実を言うと彼女達もシュウト君と同じソウルリンカーなんだよ」
「二人ともソウルリンクシステムの被験者だってのか⁉」
アバターと命と感覚を共有するソウルリンクシステムを使っている人間がオレ以外にもいるだなんて。しかもそれがこの二人とは思いもしなかったぞ。
「ちょっと違う。何故なら彼女達は……」
その時、エレウスの口から紡ぎ出された言葉は、オレにとって最も深い人間の業のように思えた。
オレは驚愕の真実を前に一瞬だけ意識が遠のきかけた。今、エレウスは何て言ったんだ?
「悪い。ちょっと上手く聞き取れなかった。もう一度言ってくれないかな?」
「何度でも言ってあげるよ。彼女達は人間じゃない。ゲームの『NPC』にソウルリンクシステムを実装した実験体だ。付け加えておくと現実の彼女達と同一人物であることはボクが保証する」
バカなことを言っているな。だって、オレは現実世界で何度も彼女達と会話したり触れ合ったりしてきたんだぞ? ゲームのNPCが現実世界に出てきて、飲み食いしたりあんなに感情を豊かにバカ騒ぎなんかできるはずがないんだ。
「シュウト君、驚くのも無理はないけれども、真実を知ったからと言って彼女達に対する態度は変えず今まで通り接してあげてくれたまえ。一応、彼女達にも魂が宿っているのだからね」
NPCに魂が宿る? そんなことが可能なのか?
「聞きたいことは山とあるだろうが、今は魔王になることに専念してくれたまえ。タマモとメリルはギルドのサポート要員として自由に使ってくれ」
オレは頭の中で絡まった思考は隅に置いておくことにし、天を仰ぐように深く嘆息した後、エレウスに向き直った。
「分かった。ソウルリンクシステムにしろメリル達にしろ、魔王になったら全て聞かせてもらう。それでいいか?」
「もちろんだとも。では、これからの計画を軽く説明しようか」
そして、エレウスは間髪入れず再び衝撃的な言葉をオレに吐き出してきた。
「では魔王豚ゴブリンギルドはこれより日本最強と名高い『神威ギルド』に宣戦布告と同時にギルド戦を仕掛けるものとする」
神威ギルドの名を聞いた瞬間、オレの身体は全身が凍り付いたかのように固まってしまった。
「エレウス……今、なんとおっしゃいましたかな?」
「神威ギルドに戦争を仕掛けるって言ったのさ! ちなみに神威ギルドの構成員は100万人程度。でも大丈夫! 戦いは数だけで決まるものじゃないからさ! ここは魔王らしく、正々堂々と卑怯な戦法で戦っちゃおうぜ⁉」
正確にはオレはまだ『魔王候補』なのだが?
エリアを獲得すれば、ようやく魔王を名乗ることが出来る。しかし、それには神威ギルドを敵に回す必要がある。
実に前途多難で絶望的な『実に簡単な軽作業』だな、とオレは心の裡で呟くのだった。
「いいかい、シュウト君? イアンカムス世界における『四大災厄』ってのはだね、チートが過ぎて誰も倒すことが出来ない凶暴かつ凶悪なモンスターのことを言うんだよ。いわば絶対的力の象徴とも呼べる存在だ。この女神エレウス様のようにね」
エレウスはふふん、と勝ち誇ったような笑みを浮かべながら目を細めた。
「それなのに君ときたら! どんな奇跡が起これば黒狼王〈フェンリル〉を従魔にすることが出来るんだい⁉ 納得のいく説明を求める!」
エレウスは穏やかに笑っていたかと思えばいきなり感情を剥き出しにして怒声を張り上げて来た。ちょっと情緒不安定な奴だと思わず引いてしまう。
「ただの偶然だよ」
「偶然? 偶然も重なれば偶然じゃないし、ましてや奇跡なんかがそう何度も重なってたまるかい」
エレウスは鼻息を荒らげながらオレに迫ってくる。少しパニック状態になっているようにも見えた。それだけ今回の一件はエレウスにとって狼狽するほどの異常事態だったのかもしれないな。
オレは当時の事をエレウスに簡単に説明した。
レアモンスターをゲットしに大陸南部に出現したC級ダンジョンに向かったら、なんやかんやで偶然が重なって従魔にしちゃいました。以上、と。
「奇跡が十個重なってもそんな奇跡的なことは起こらないと思うぜ? もはやそれは必然的な運命だろう」
エレウスは呆れるようにそう呟くと、ハッと何かに気づいたように大きく目を見開いた。
「確かさっき、大陸南部のダンジョンって言ったよね? もしかしてそこは二重ダンジョンだったりするかい?」
「C級ダンジョンなのにA級のボスモンスターのベアタイガーも出たし、変な廃墟にも行ったよ?」
「廃墟? それってもしかして廃都ノアじゃないよね? 流石に今のシュウト君では街を守っている廃都の守護神〈アイアンゴーレム〉には絶対に敵わないどころか出会った時点で即詰みだろうからね。こうしてボクと生きて再会できるはずもないか」
「ああ、あそこは廃都ノアっていうのか。うん、そこで間違いないと思うぞ? 廃都の守護神〈アイアンゴーレム〉とも戦ったし。しかも3体も」
その瞬間、エレウスは笑顔のまま固まり、顔を蒼白させた。
「それで何で生きていられるのかがボクには理解不能だよ⁉ あのボスモンスターからは絶対に逃げられないようにプログラムされているし、そもそも何のイベントも起こさずにあそこに行けるわけもないんだ!」
いつもは悟り切ったような笑顔を浮かべているエレウスにしては珍しく動揺しているようだった。今回の一件はそれほどイレギュラーなことづくめだったのだろうか?
「四大災厄関連のクエストはシュウト君が魔王になってから順序だてて行うつもりだったんだ。そもそも主より圧倒的に高レベルのモンスターを従えることはシステム上不可能なはずなのに……」
エレウスはそう言うと、両手の親指と人差し指で枠を作るとノアを覗き込んだ。
「黒狼王〈フェンリル〉の幼体 レベル500。あれれ? 幼体とはいえこんなにレベルが低いわけがないんだけれどもな?」
「ああ、そのことなんだが、ノア……その黒狼王の名前なんだけれども、ボスモンスターのベアタイガーを倒したんだ」
「レベル1200のベアタイガーを? 流石にこのレベルじゃ無理だよ。何かの間違いじゃないのかね?」
「いいや、それでオレが再確認したところ、レベル5000まで跳ね上がっていて、廃都の守護神〈アイアンゴーレム〉から逃げられたのもノアが成体に覚醒して一体だけ倒してくれたからなんだ。残りの二体は威圧のスキルで麻痺にして、その隙に逃げることが出来た。ぶっちゃけ死ぬかと思いました」
「レベルが10倍になって、その後は成体にまで覚醒か……うーん、それはボクにも分からん。まあ、ノアがそのC級ダンジョンにいた理由は何となく分かる。それは多分バグだね。それも奇跡的な」
「やっぱりバグなのか?」
「恐らくランダムで作成されたC級ダンジョンが、恐ろしいほどの確率で廃都ノアの隠しダンジョンと重なってしまったんだろう。黒狼王〈フェンリル〉は魔族国家ノアの守護神という設定があってだね、いずれ現れるであろう魔王を待ちながら廃都ノアを住処にしているんだ」
いずれ現れるであろう魔王を待ち続けている、か。オレはお行儀よくお座りしているノアをチラッと見た。ノアはオレの視線に気付くと嬉しそうに「ワン!」と吠える。
「それにも驚くが、これにはボクも呆れ果てたね」
エレウスはそう言ってポリポリと指で頬をかいた。
「従魔を300体集めろとは言ったけれども、まさか全てB級ダンジョン以上のボスモンスターばかりとは……凄いを通り越して君の執念が怖くなってくるぜ。流石は魔王候補なだけはある」
エレウスはドン引きした態度でオレを白い目でジロッと見た。
オレはそんなにおかしいことをしたのだろうか? ただのゴブリンやオークなんかを集めたって大した戦力にはならないし、こういう場合は少数精鋭を徹底しより強いキャラを仲間にするというのがゲーマーのセオリーだと思う。ソシャゲでノーマルのキャラを集めて喜ぶような奴はいない。最低でもSRくらいのレア度は欲しいところだろう。
本当は全てA級ダンジョンのボスモンスターで統一したかったことは伏せておいた。
「明日にもノルマは達成出来るからもう少し時間をくれ」
「いや、これで十分だ」
そう言ってエレウスは指をパチンと鳴らした。
オレの目の前に20体のモンスターが現れる。ストーンゴーレム5体にスケルトンナイトが15体。いずれもB級ダンジョンのボスモンスターだった。
「本当は従魔300体獲得のノルマを達成したらプレゼントする予定の子達だったんだけれども……君が集めて来た子達の前では存在が霞んでしまいそうだね。これで300飛んで1体。よし、全てのノルマ達成を確認した。これより転職イベントを行おうと思う」
「おお⁉ まさか今日転職出来るとは思わなかったぞ⁉」
予想外のご褒美を前にオレは目を輝かせながらエレウスの言葉を待った。
「では、この4つのクラスから好きなものを選びたまえ」
オレの目の前にメッセージ画面が表示される。
『次の中からお好みのクラスをタップしてください』
『1,赤魔族→攻撃魔法に優れているクラス』
『2,青魔族→防御に優れたクラス』
『3,白魔族→回復、支援スキルに優れたクラス』
『4,黒魔族→攻撃に特化したクラス』
「赤魔族は極大殲滅魔法を使えるのが特徴。青魔族は攻撃と魔法は劣化するけれども極めればほぼ全ての攻撃を無効化出来る。白魔族はそのまんま。モンスター軍団を強化するならこれ一択だ。ただし戦闘力は下級魔族より劣ってしまうデメリットがある。そして黒魔族だが、これは防御を捨てて攻撃に全振りしたかのような頭のイカれたクラスになっている」
エレウスの説明を聞き終えた後、オレの心は決まった。
「ボクの御薦めは赤魔族かな? どんな戦局にも対応できるオールラウンダーだからね」
「いや、オレはこいつを選ぶよ」
オレは迷わず4の黒魔族をタップする。
それを見たエレウスは呆れたように顔を歪ませた。
「やっぱりシュウト君ならそれを選ぶと思っていたよ……」
「失敬な。オレだって何も考えずに黒魔族を選んだわけじゃないんだぞ?」
赤魔族の極大殲滅魔法は確かに魅力的だ。でも、ダンジョン内では使用出来ないだろうし、オレはプロゲーマーを目指していることもあってギルド戦よりは個人戦を強化したいと考えた。
青魔族は論外。これは仲間がいることが大前提で、いくら防御力が高くても相手を倒せないのなら意味が無い。
白魔族は完全に支援特化型のクラスだ。ギルド戦のみを重視するならありだが、個人戦では何の役にも立たないだろう。
防御を捨て攻撃に全振り。頭がイカれているって? それこそ望むところだ。オレは圧倒的な力でイアンカムス最強のプレイヤーになりたいと常々願っていたのだから、黒魔族こそオレに最も相応しいと感じられた。
「まあいい。君は常に結果を出し続けてくれた。廃都ノアから生還した剛運の持ち主でもあるし、ボクは君の選択を尊重しよう」
エレウスは最後に「ちなみに黒魔族は狂魔族とも呼ばれているんだぜ?」と嬉しそうに小さく呟いた。
オレが最初に覚醒したスキルも『狂戦士』だったから黒魔族を選んだのはまさしく運命だったのかもしれない。いやそれこそ必然的な運命に違いない。オレはどんなルートを辿ってここまで来たとしても同じ選択をしていたと思う。
「それじゃ、転職いっとくかい?」
「ああ、お願いする」
「それじゃこれよりシュウト君は晴れて下級魔族から上級魔族の『黒魔族』に転職だ! おめでとう!」
パチンとエレウスが指を鳴らすと、オレの身体が黒色の光を放った。
身体には漆黒の軽鎧が一瞬で纏われ背には黒のマントが現れる。
腕も一回り大きくなったように見えた。心なしか身長も少しだけ伸びたような気がする。ほんのちょっとだけエレウスの姿が下に見えた。
「転職完了だ。これで君は上級魔族でも最高にイカれている『黒魔族』になった。称号は『魔王候補』だよ」
「もしかして次の転職先は……?」
「そう、お待ちかねの魔王だよ。でも魔王に転職するのは実に簡単なんだ。今までのようにレベル上げも従魔の獲得も必要ないしね」
「なら魔王になる条件って?」
「何処でもいいからエリアを獲得すること。ほら、実に簡単な軽作業だろう? でも現在、イアンカムス内のエリアはほぼ全て他のギルドによって占有されてしまっている。それにはどうしたらいいと思うかね?」
ニヤリ、と何かを企む悪役のような笑みを浮かべながらエレウスはオレを見る。
「ギルド戦か……!」
「その通り! 君は上級プレイヤーとなりギルド員も目標定数に達した。今よりシュウト君にはギルドを結成してもらう。その後は準備が出来次第、適当なギルドに喧嘩を吹っ掛ければいい。それに勝ちさえすれば君は晴れて魔王になれる!」
遂に魔王になれる。その言葉を聞き、オレの心は打ち震えた。
「さあ! ギルド結成コマンドをタップしたまえ。ギルド名はシュウト君に任せるよ」
オレはエレウスにそう促され、ステータス画面を表示させる。ウインドウが重なって現れ、
『条件クリアを確認致しました。ギルドを結成するならこちらのコマンドをタップしてください』
オレは『ギルド結成』のコマンドをタップする。
『お次にギルドマスターならびにギルド名を入力してください』
ギルマスは当然オレだ。ギルド名は……やっぱりこれしかないだろうな。
オレは指先で手早くギルド名をタップする。
『ギルド結成を承認致しました』
メッセージ画面はそれだけを伝えるとすぐに目の前から消え去った。
オレはギルド専用のステータスを表示する。
『ギルドマスター豚ゴブリン ギルド名 魔王豚ゴブリンギルド』
「シュウト君らしいというか、本当に直情的なギルド名だねえ? ボクならもっとこう中二病めいた名前を付けるところだけれどもね」
「とにかくオレの名前を世界中に知らしめたいと思ったからな」
確かにオレだって日本最強と謳われる『神威ギルド』みたいな中二病心がくすぐられるギルド名の方が良かったさ。しかし、これはゲームであっても遊びじゃない。死ねば終わりの戦いに身を投じている身としては死んだ場合、何かを残したいと思っている。家族のいないオレには世界に生きた痕跡を残せるものは名前くらいなものだった。
「ギルド名もそうだけれども、花が無いのは可哀想だ。ギルド結成のお祝いに花をプレゼントしてあげよう」
「花?」
オブジェか何かかな?
「二人とも出てきたまえ」
エレウスが指をパチンと鳴らすと目の前に見慣れた顔のメイドが二人現れた。
メイド長のタマモさんとうさ耳メイドのメリルだ。
「どうして二人がここに?」
「実を言うと彼女達もシュウト君と同じソウルリンカーなんだよ」
「二人ともソウルリンクシステムの被験者だってのか⁉」
アバターと命と感覚を共有するソウルリンクシステムを使っている人間がオレ以外にもいるだなんて。しかもそれがこの二人とは思いもしなかったぞ。
「ちょっと違う。何故なら彼女達は……」
その時、エレウスの口から紡ぎ出された言葉は、オレにとって最も深い人間の業のように思えた。
オレは驚愕の真実を前に一瞬だけ意識が遠のきかけた。今、エレウスは何て言ったんだ?
「悪い。ちょっと上手く聞き取れなかった。もう一度言ってくれないかな?」
「何度でも言ってあげるよ。彼女達は人間じゃない。ゲームの『NPC』にソウルリンクシステムを実装した実験体だ。付け加えておくと現実の彼女達と同一人物であることはボクが保証する」
バカなことを言っているな。だって、オレは現実世界で何度も彼女達と会話したり触れ合ったりしてきたんだぞ? ゲームのNPCが現実世界に出てきて、飲み食いしたりあんなに感情を豊かにバカ騒ぎなんかできるはずがないんだ。
「シュウト君、驚くのも無理はないけれども、真実を知ったからと言って彼女達に対する態度は変えず今まで通り接してあげてくれたまえ。一応、彼女達にも魂が宿っているのだからね」
NPCに魂が宿る? そんなことが可能なのか?
「聞きたいことは山とあるだろうが、今は魔王になることに専念してくれたまえ。タマモとメリルはギルドのサポート要員として自由に使ってくれ」
オレは頭の中で絡まった思考は隅に置いておくことにし、天を仰ぐように深く嘆息した後、エレウスに向き直った。
「分かった。ソウルリンクシステムにしろメリル達にしろ、魔王になったら全て聞かせてもらう。それでいいか?」
「もちろんだとも。では、これからの計画を軽く説明しようか」
そして、エレウスは間髪入れず再び衝撃的な言葉をオレに吐き出してきた。
「では魔王豚ゴブリンギルドはこれより日本最強と名高い『神威ギルド』に宣戦布告と同時にギルド戦を仕掛けるものとする」
神威ギルドの名を聞いた瞬間、オレの身体は全身が凍り付いたかのように固まってしまった。
「エレウス……今、なんとおっしゃいましたかな?」
「神威ギルドに戦争を仕掛けるって言ったのさ! ちなみに神威ギルドの構成員は100万人程度。でも大丈夫! 戦いは数だけで決まるものじゃないからさ! ここは魔王らしく、正々堂々と卑怯な戦法で戦っちゃおうぜ⁉」
正確にはオレはまだ『魔王候補』なのだが?
エリアを獲得すれば、ようやく魔王を名乗ることが出来る。しかし、それには神威ギルドを敵に回す必要がある。
実に前途多難で絶望的な『実に簡単な軽作業』だな、とオレは心の裡で呟くのだった。
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