我が名は魔王豚ゴブリンなり! ~豚ゴブリンと蔑まされた少年はVRMMOイアンカムスで魔王となり最強プレイヤーを目指す~

ぱいん

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願い事

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 突然現れた義兄の礼一を前にしてオレは固まってしまった。顔は強張り動悸が激しくなる。ドクン、ドクン! と鼓動が激しく脈打つのが分かった。

「シュウト、話がある。ちょっと近くの公園までついて来てくれ」

 義兄の礼一はそう言うのと同時に背後から複数の気配が現れるのを感じた。
 首だけ後ろに振り向くと、いかにもといった感じのヤンキーどもがニヤついた笑みをこびつかせながらオレの背後に佇んでいた。
 オレは完全に義兄一派に包囲された形になっていた。まあ、どうということもないが。

「分かった。手短に頼むよ。これから試験勉強しなくちゃならないからね」

「試験勉強? はん! そんなもの、もうお前には必要なくなるよ」

 そう言って義兄は目を細め口の両端を吊り上げながら肩で笑った。
 連れ込まれた公園は廃れていて、まるでここだけディストピアのような荒廃した世界のような空気を醸し出していた。遊具は壊れ、ベンチは崩れ落ち、周囲にはゴミが散乱していた。公衆トイレの壁は落書きで埋め尽くされていた。
 通行人の姿も皆無で、周囲の目の届かないここなら多少揉め事が起きても警察に通報されることもないだろう。
 オレは公園の中央で立ち止まると、リュックを肩にかけながら義兄に目を向ける。

「それで、話ってなんだい?」

「その前に確認だが、お前、変わったな? 本当にあの豚ゴブリンなのか?」

 義兄は顎に手を当てながら訝し気にオレの全身をジロジロと見回してくる。

「林達に聞いた時は半信半疑だったが、オレには分かる。姿は変わっているが、その癇に障る目だけは以前と同じだ。お前は確かに豚ゴブリンだ。見ているだけでぶち殺したくなるよ」

 義兄はそう言って目を細めながら笑った。その口調には好意的なものは微塵もなく、憎悪の念に塗れているのが分かった。

「なあ、お願いだあるんだ」

 そう言って義兄はオレの足元にロープを投げ捨てる。

「それで自殺してくれないか? 首を吊るのが嫌だったらビルの屋上からダイブするか、川で溺死するとかって選択肢もあるんだが好きなのを選ばせてやるよ。とにかく死んでくれればそれでいいぜ?」

 そう言って義兄はクスクスと嘲笑を浮かべながらにやついた顔でオレを見つめた。
 オレは驚きのあまり、思わず目を丸めてしまった。幾つかのパターンを予想していたが、ここまであからさまな提案をされるとは全くの予想外だった。流石にオレをバカにし過ぎだ。オレは呆れ果て、深く嘆息しながら呟いた。

「断る」

 オレは即座に拒絶の意志を伝えた。
 
「なんだと? 豚ゴブリンの分際でオレ様に逆らうつもりか⁉」

 逆らうも何も死ねと言われてハイそうですかと答える奴はいないだろう。もしかして、義兄は少し脅せばオレが素直に自殺するとでも本気で思っていたのだろうか? だとしたら、この男は相当頭がイカれているとしか思えなかった。いや、実際義理の家族共は全員イカれているのだろうな。

「そもそも選択にすらなっていないだろう? お前、バカなのか?」

 オレはうっかり侮辱の言葉を口に出してしまうも、お構いなしに肩をすくめて見せた。
 その瞬間、義兄の顔が酷く引きつった。額に青筋が浮き立ち、見る見るうちに顔が真っ赤に染まっていった。

「おい、今なんつった?」

「バカって言ったんだ」

 オレの言葉を理解できないのか、義兄は口を大きく開きながら顔をプルプルと震わせ、愕然とした表情を浮かべていた。

「てめえ、もしかしてお前ごときがオレ様に歯向かうつもりじゃないだろうな? だとしたら今すぐにぶち殺すぞ?」

 それ、言っている内容は全く変わっていないからな? 

「殺されるのは嫌だから、戦うとするよ」

 オレはにっこりと笑いながら義兄に答えた。その瞬間、周囲の空気が凍りついた。
 義兄はオレの笑顔を見ると眉根を寄せて言いかけた言葉を詰まらせた。多分、オレが恐怖のあまりパニック状態になって命乞いでもすると思っていたのだろう。予想外のオレの反応に戸惑いの表情を浮かべていた。
 残念ながらオレは二度と義兄の期待に応えるつもりはなかった。
 
「おお⁉ おま、おまえ、てめえ、なにをほざいて……⁉」

「御託は十分だ。20秒で全てを終わらせてやるからかかって来な」

 オレの言葉を聞き、義兄は一瞬呆気にとられると、大口を開けて大爆笑した。ぎゃはははは! と、品性の欠片も無い笑い声が木霊する。

「気でも触れちまったのか? 面白い、やれるもんならやってみろ。ただし、出来なかったら分かってんだろうな?」

「その時は好きなようにすればいいさ」

 オレがそう答えると、義兄は勝ち誇った笑みを浮かべながら右腕を上げる。

「お前ら、豚ゴブリンをぶっ殺せ!」

 ぎゃはははは! と義兄は下卑た笑い声を上げながら右腕を勢いよく下ろした。
 それと同時に、オレは「神域レベル2」と静かに呟いた。
 刹那、時間が静止し、周囲の景色がセピア色に変わる。ゲーム世界と全く同じ光景が現実世界でも再現することが出来た。
 オレは縮地のスキルも併用し、次々と棒立ちになって固まっているケダモノ達に襲い掛かった。
 ある者は片足を砕き、ある者は片腕を破壊し、ある者は腹部を殴打して内臓破裂寸前のダメージを与えた。それを50人分程、作業的に繰り返していった。
 残るは義兄を含めた5人のみ。しかし、今はまだ義兄に手出ししようとは思わなかった。彼は後のお楽しみに残しておこうと最初から決めていた。
 オレが最後に向かったのは最も憎悪すべき奴らだった。
 林達である。オレを殺しに来た以上、もう遠慮する必要はなかった。奴らには相応の報いを受けてもらおうと思った。
 オレはまず子分達の右腕と左足を破壊する。子分達三人の左足があり得ない方向にひん曲がっているの確認した後、オレは最後に残った林の元にゆっくりと歩いて近づいた。こいつだけは絶対に許さない。オレの脳裏には林から受けた数々の屈辱と地獄の責め苦を味わわされ続けた記憶が過る。オレみたいな被害者を二度と出さない為にも、林だけは念入りに破壊することにした。
 オレはまず子分達同様、林の右腕と左足を破壊する。本当は四肢を引き裂いてやりたい衝動に駆られたが辛うじて理性が働き思いとどまる。だが、オレは拳を下から振り上げ林の顎に拳を打ち込んだ。骨が砕ける感触が拳に伝わる。恐らく林はしばらくの間は固形物は食べられないだろう。本当は徹底的に破壊してやりたかったが、日常生活に支障をきたすまでの破壊は止めておいた。これ以上を求めればそれはただのリンチだ。復讐は十分に果たした。これに懲りて二度と悪さをしないことを祈る。殴りつけた拳に鈍痛が走った。
 神域のスキルの持続時間は20秒。しかし、林達への復讐を終えても5秒ほど時間が余った。
 今、残っているのは下品な笑い声を上げながら固まっている義兄だけとなった。他の奴らは時間が動くと同時に阿鼻叫喚の地獄の苦痛を味わいながら地面でのたうち回ることだろう。
 オレは義兄の目の前に行くと、そこで指をパチンと鳴らした。
 たちまち神域のスキルは強制解除され、再び義兄の耳障りな笑い声が耳に響いた。
 その瞬間、神域のスキル発動中にオレが移動した場所に突風が吹き荒れ土埃が激しく舞った。
 義兄はあまりに激しい突風に驚き、両腕で顔を覆い隠す。

「なんだ、今の風は?」

 オレはただ黙って静かに義兄を見つめた。

「まあいい。おら、どうしたよ? 20秒なんかすぐに過ぎちまうぞ? やれるもんならとっととオレ達をぶっ殺してみろよ、豚ゴブリンが」

「もう終わったよ」

 正確にはお前以外のクズどもは、だが。

「あん? お前、何を言って……」

 次の瞬間、義兄の背後から阿鼻叫喚の大合唱が巻き起こった。バタバタと人間が倒れる音と、絶叫同然の悲鳴や泣き叫ぶ声が木霊した。
 義兄は慌てて後ろを振り返り、地獄の光景を目の当たりにする。皆、腕や足から折れた骨が突き出ていた。血と糞尿の匂いが周囲から立ち込める。
 見ると林は失神していた。地面に仰向けになって口から泡を吹いて痙攣していた。間違いなく手加減はしたので死んではいないはずだ。だが、林はしばらくの間、病院のベッドから起き上がることも出来ないだろう。

「な、なんだ、これはなんなんだ? おい、ちょ、ま、待て、待てってばああああ⁉」

 義兄は狼狽のあまり支離滅裂な言葉を発した。

「礼一義兄さん。次は貴方の番だ」

 オレは義兄に迫った。

「こ、これはお前がやったのか⁉ ざけんな! 豚ゴブリンごときが、こんなこと許されると思っているのかよ⁉」

「構えろよ」

 オレがそう言って義兄に一歩近寄ると、義兄はヒッと小さく悲鳴を上げながら身構えた。
 そう言えば義兄はボクシングのプロテストに合格していたことを思い出す。昔はよくそのことをオレに自慢していたっけか。その後は大抵、オレはサンドバックにされていたのだが。

「礼一義兄さんは確かプロボクサーだったよね? なら賭けをしよう。一発でもオレに当てることが出来たら許してやる。失敗したら四肢を引き裂いて顎を壊し両目を潰してやるから覚悟してくれ」

「オレを舐めるんじゃねえぞ? お前ごときに殺されるオレ様じゃねえ!」

 義兄は激高すると、俊敏なフットワークでオレにジャブを繰り出してきた。
 そう言えば、 ボクサーのジャブは最速の攻撃技だと聞いたことがある。あながちその話も嘘ではないと思った。義兄のジャブは空を裂くような音を奏でていた。昔のオレなら間違いなく一発でももらえば命を失っていたかもしれない。
 しかし、今のオレにとっては世界最速の攻撃技もスローモーション同然のハエが止まったかのような遅い攻撃に過ぎなかった。
 オレはゆっくりと近づいて来る義兄の拳を軽々とかわす。その場から一歩も移動する必要を感じず、ただ身体を少し捻るだけで回避していた。
 
「何故だ⁉ 何故豚ゴブリンなんかがオレ様のジャブを、ストレートを軽々と回避出来るんだ⁉」

 最初は怒涛の勢いでオレに拳を繰り出してきた義兄だったが、一分も経過した頃には既に息が上がっていた。恐らく鍛錬を怠って来たのだろう。顔は徐々に引きつり蒼白していく。信じがたい現実を受け入れられずパニック状態になっているようだ。額から滝の様な汗を垂らし流し、足が痙攣しているのが見えた。
 義兄は大振りのストレートを放った後、そのまま体勢を崩して頭から地面に突っ込んでしまった。
 
「こんなことがあっていいわけがない! 豚ゴブリンごときにオレ様がいいようにあしらわれるなんて、そんな理不尽なことがあっていいわけがないんだ! 豚ゴブリン野郎めが! 死ね、死ね、てめえみたいな奴は死んじまえ!」

 義兄は錯乱状態に陥りながらもオレに対して罵声を吐き続けた。必死に立ち上がろうとするが身体は悲鳴を上げ激しく痙攣していた。
 オレは義兄を見下ろしながら拳を腰に置いて身構える。

「次はオレの番だ」

 オレは這いつくばりながら罵声を飛ばす義兄に向かって、全力の拳を振り下ろした。
 鉄球が勢いよく地面に落下したような衝撃が走り、地面が激しく震動した。爆発音は衝撃波の後に轟き、大量の土砂が上空に舞い散った。
 義兄は衝撃波に吹き飛ばされ、近くの壊れた遊具に転がって行った。
 オレの拳は義兄にではなく足元の地面に突き刺さっていた。殴った場所がクレーターのように窪み大穴が形成されていた。
 恐怖に戦慄いていた義兄の頭に多量の土砂が降りかかる。
 オレは恐怖に凍てついている義兄の側に歩いて行った。

「ヒッ! ば、化け物……!」

 義兄は小さく悲鳴を洩らすと、身体を小刻みに震わせた。
 オレは地面に膝をつくと、義兄の耳元で呟いた。

「林達にオレを虐めさせて自殺させようと企んでいたことは知っている。いずれ林達にもお前ら偽の家族達にも法の裁きを受けさせてやるから楽しみにしているといい」

 義兄は目を剥き出しにすると、パクパクと何かを呟いた。オレにはその声は聞こえなかった。

「父さんの仇は絶対にとらせてもらう。そして、奪われたものは全て取り戻す。必ずだ」

 オレはそれだけを呟くと義兄から踵を返した。
 一度も後ろを振り返らず、オレはそのまま帰るべき場所に向かって歩き出すのだった。


 義兄との騒動を終えたオレは、寄り道せず獣人メイド喫茶エレウスのVIPルームに戻って来た。

「お帰りなさいませ、シュウト様! 学校はどうでしたか? シュウト様を虐めてきやがったクソどもはちゃんとぶち殺して来ましたか⁉」

 オレがVIPルームに戻ると、興奮状態のメリルがオレの前に現れた。
 メリルはちょっとだけ鬱陶しいと思う時もあるが、オレの身を案じてくれるのは正直に嬉しかった。

「ぶっ殺してはいないけれども、ちゃんと復讐と宣戦布告は済ませておいた。しばらくはオレを虐めて来た奴らも大人しくなるだろう」

 林達4人は病院のベッドの上でな、とオレは心の裡で付け加えた。

「えええ⁉ シュウト様、その辺を詳しく教えてください! 今晩のメリルの酒の肴にしますんで!」

 メリルは瞳を好奇の色に輝かせながらオレに迫ってくる。オレは眼前に迫って来たメリルの顔を片手で押しのけながら「また今度な」と軽くあしらった。

「そんなことよりもエレウスに会いたいんだが、呼び出すことは出来るか?」

「はい、可能ですよ? シュウト様ならいつでもログイン後にエレウス様のお名前を叫べばすぐにお姿を御現しになるはずです」

「そっか、メリル、ありがとう」

 今日、オレは一つ決意したことがあった。
 その決意を伝えるためにオレはこれからエレウスに会わなくてはならないんだ。
 オレは魔王の兜の形状をしたVRギアを被るとイアンカムスにログインする。
 そこはいつものセピア色に変わった女神神殿だった。

「エレウス、悪いが出てきてくれないか? 大切な話がある」

 すると、オレの声に反応するかのように目の前に光球が現れる。それは弾けると粒子になり人の形となった。

「やあ、久しぶり、シュウト君。ボクに大切な話って何かな、何かな?」

 エレウスは姿を現すなり瞳を輝かせ頬を染めながらオレに迫って来た。身体は宙に浮いていて逆さまの状態になっていた。

「真面目な話だ。一つお願いがあるんだ」

「お願い? それってもしかして報酬の3つのお願いのことかな?」

 オレはあの日、試験に合格すれば3つの願い事を何でも叶えてくれる契約を結んだ。

「一つ目の願い事が決まった。今すぐ叶えてもらうことは可能か?」

「最初の試験を突破出来たからね。OK、何でも言いたまえよ。二つ目の願い事は次の転職イベントをクリアしてからだけれども構わないかい?」

「ああ、残りの願い事はまだ決まっていないから問題ない」

「さあ、それじゃあ、君はどんな願い事を望むのかな? ボクの予想としては義理の家族への復讐だと思うんだけれども……?」

 そう言ってエレウスは不敵にほくそ笑んだ。

「いいや、それを願うにしてもまだ時期尚早だ。今は別の願い事がある」

「ほう? それは意外だね。今のボクにも君が何を望んでいるのか予想もつかないな。まさか大金が欲しいわけでもなさそうだし、それともハーレムとかかな?」

 そう言ってエレウスは頬を染めながら悪戯な笑みを浮かべた。
 オレは思わず噴き出しそうになった。コミュ障のオレがハーレムを願っても女子に触れるどころかまともに目も合わすことも出来ずパニックになるだけだ。大金を得てもオレには使い道が無い。そんな俗物的思考は端から持ち合わせていなかった。

「そんなもん望むかよ⁉」

「まあ、ボクみたいな美少女を前にしたら他の女の子なんてカスみたいなものだしね。その可能性は微塵も考えていなかったぜ? もしくはボクとHなことをしたいっていうなら話は別だ。いつでも好きなようにボクを貪りたまえ。ボクならどんなプレイでも受け入れてあげるぜ?」

 エレウスはそう言ってグフフ、とセクハラ親父みたいな下卑た笑いを洩らした。
 それだけは絶対に無いと断言しておく。
 オレの心の声を聞いてかいないでか、エレウスは少しショックを受けたようなリアクションを見せた。
 
「実はオレの願いは……」

 オレの願い事を聞いた瞬間、エレウスは目を点にして呆気にとられた表情を浮かべた。

「そんなことが命を懸けてまで叶えたい願いなのかい?」

「今のオレにとっては何よりも代え難い願い事なんだ」

「相変わらず君はクレイジーだね? 本当にボクの予想の遥か斜め上を行っているよ」

 今、オレが願ったことはそんなにイカれている内容なのだろうか? 

「可能なら理由を聞いても?」

「実は今日、学校でこんなことがあったんだ」

 オレは今日、学校であった出来事を思い返す。
 姿が変わり、クラスメイト達の視線が変わったこと。生まれて初めて女子に告白されたこと。いじめっ子達に復讐し、偽りの家族に宣戦布告したことをエレウスに語って聞かせた。

「オレ、ようやく人間扱いされるようになったんだ。そうしたらさ、何だかとてつもなく空しい気持ちになってしまったんだよ」

「学校の皆からようやく人間扱いされるようになった上、女子から告白も受けた。そしていじめっ子達に復讐を果たしこれでようやくシュウト君もまともな学校生活を送れるようになったんだよね? それの何が空しいのかな?」

「少し見た目が変わっただけで扱いが180度変わったことが許せないんだよ」

 オレは深く嘆息すると話を続けた。

「オレの中身は何も変わっちゃいない。中身じゃなく見た目だけで人を評価し、見下し、傷つけてくるような奴らと同じ空間にいたくなくなったんだ。だから、オレはさっきあんなことを願ったんだ」

 オレは先程、イアンカムスのプロゲーマー規約から『学歴』の部分を削除してくれるようにエレウスに願ったのだ。人種や性別に学歴ではなく純粋なゲーマーの能力のみを評価してプロ試験を受けさせてもらいたい。そうすればもう学校にも行かずに済む。それがオレが命を懸けてでも叶えたい願いになったのだ。
 エレウスはニッコリと微笑むと「今、規約変更が完了したよ。これでシュウト君はいつでもプロ試験を受けられるぜ」と言いながらオレの肩を叩いた。

「本当か?」

「ボクが君に嘘を吐くわけがないだろう? そもそもこの規約はボクのあずかり知らないものだ。きっと会社の奴らが教育機関からクレームを受けて勝手に設定した規約だろうね」

 案外あっさりと願い事が叶ってしまったのでオレは拍子抜けしてしまった。

「でも、これでようやくシュウト君もゲームに集中できるね。実に喜ばしいことだ。ちなみに、試練の方はどんな進捗状況かね?」

「レベルは1500に到達済みだ。従魔も281体いる。見てみるか?」

「是非とも」

 そうして、オレは従魔召喚のスキルで281体の従魔を召喚する。
 すると、召喚された従魔の一匹、ノアの姿を見たエレウスの表情が強張った。

「な、な、何でここに四大災厄の一角、黒狼王の幼体がいるんだい⁉」

 驚愕に満ちたエレウスの絶叫は女神神殿内に木霊するのであった。
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