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三章 棘の迷宮
第42話 カイム・ノヴェクという男
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「ここで私が死んだとしても、何も変わらない。もう手遅れだ。〈蜂の巣〉の支配者は既に病み切っている。判るか? もう、血は〈巣〉から溢れそうになっているんだよ」
ヘルレアが笑いを我慢するように、喉を何度も鳴らすと、それでも我慢がならなかったのか、大音声で笑い出した。真珠のような白い歯が剥き出しになる。
ジェイドは、そのあまりにも爆発的な哄笑に慄いた。
「バカが、人間! 私にお前等が、何に見えているのか分かっているのか。その低級な生き物に、まだ利用価値があれば、安楽と殺されるだけで済むと思うのか? ここには女王蜂も居る。じっくり甚振ってやるから、二人で解決方法を話し合うんだな」
ヘルレアは本気だろう。確かに女王蜂が傍にいるのだから、この状況では解決するのに難しくはないかもしれない。
ジェイドはさりげなく、チェスカルを観察する。扉の前で棒立ちになり、二丁の銃が床に投げ出されている。これは完全な訳ありだと察して、ジェイドは無言を貫いた。
だが、内心眉根も寄せていた。
チェスカルは蝕まれているように見えた。今は、互いに孤立しているので、本当のところは判らないが、それでも尋常で無いものを感じ取った。
ジェイドはあまり不自然にならないよう、更に部屋を見渡す。先程から部屋をいくら目視しても、主人が見つからない。能力を解放して探したいという焦りはあるが、これほど主人へ間近に迫っているであろう場所で、下手に力を解放してしまえば、カイムを傷付けかねない。
「今の状況が見えないか、世界蛇。話し合いどころではないと思うぞ」黒装束は女王蜂へ銃を突き付け直す動作で、現状を強調した。
「人外に人質など効くと思うのか。あまり面倒なことを口から垂れ流せば、お前の頭を潰すぞ。初動の差が理解出来ないのなら、今から味合わせてやる」
黒装束はついに押し黙ってしまった。
「目的も遂げられる――ならば、もう死ぬか……」ぼそりと呟く。黒装束は、女王蜂を完全に道連れにしようとしているのが分かる。
ジェイドの視界の端。最も視覚で捉え難い部屋の奥。カーテンのドレープが微かに波打つ。すると、カーテンの生地が割れて、カイムがひっそりと顔を出した。
ジェイドは目の回るような歓喜と、最悪の現状に踏み出した主人を見て絶望した。
ジェイドは視線を動かし掛けたが、男と女王蜂へその視線を固定した。主人の姿へ焦点を合わせたかったが、視界の端で動向を見守るしかなかった。
カイムの手には抜身のナイフが握られている。それはまるで玩具のような小ささだが、変わった形状なのが、遠くからでもよく判る。
女王蜂を捕らえた男の背後へと、音も、ましてや気配すらもなく、少しずつ近寄って行く。
ジェイドは自然、銃を構えようと動き出しそうになった。だが、勝手な動きをすれば、余計に主人を危険に曝す。ジェイドは主人の振る舞いに焦っていたが、口や態度に出せる状況でもない。
思考による遠隔通話も出来ない今、どのような接触も不可能だった。
もし思考だけで接触出来たとしても、表情に変化を起こしてしまいそうで、恐ろしくて、けして試みなかっただろうが。
――主が害されてしまったら。
鼓動が乱れて痛みさえ感じていた。表情に変化を起こさないようにするので精一杯だった。
――危険な事は止めてくれ。
――どうか、どうか。
ジェイドの心は酷く乱れて、いっそ自分が、女王蜂ごとあの男を射殺してしまおうか、という思考に取り憑かれた。
本能が働き出そうと暴れ狂って、身体感覚が鋭敏さを取り戻し始めた。それはどこか、転がり落ちていく感覚に似ていた。
でも、それはカイムの望むところでは無い。ジェイドは自らを律する苦悩と、表向きな平常さを取り繕うので内心一杯々になっていた。
ジェイド達は一切カイムの存在を気取られないような、挙動を完璧にこなしていてた。オリヴァンでさえへらへらしながらも、部屋の様子に興味なさげで、一切関係ない、高額な海水魚が床で跳ねる姿を見ていた。
男は女王蜂を捕え、尚且つヨルムンガンドが居る状況に、周りが見えなくなっているよう。自分が無防備な事に気付いていない。
ヘルレアにしか眼が行っていない。
カイムが男の背後に付くと、間髪入れずに手で顎から首を固定し、首筋から顎へ掛けて、凶器が上向くようにを突き刺した。凶器は眼に捉えられない速さで――それはバネを弾くような感覚を与える所作で――局所集中的に突き立てられ続けた。
流血は凄まじい早さで、飛沫くというより蛇口を捻ったかのような大量なものだった。
ナイフには細工がしてあり、直ぐに大量出血を促す形状だったのだ。
カイムは胸から上、ほっそりとした手指と顔を赤黒く染める。男はまったく現状を理解出来ないまま息絶えたのだろう、銃を乱射するような無意味で危険な行為すらできず、女王蜂を抱き込むようにしたまま、力を失い倒れ伏した。
「女王蜂、ご無事ですか?」カイムが女王蜂へ手を差し出そうとするが、自分の惨事を思い出したようで手を引っ込める。
「女王蜂へ手をお貸しするんだ」
ジェイドは主人から唐突に呼ばれてまごついたが、直ぐに女王蜂の元へ行って、彼女を助け起こした。女王蜂もかなり血を浴びている。
カイムは何気ない感じで、胸ポケットのハンカチで顔と手、そしてナイフを拭うと、鞘へ戻して忍ばせた。
ジェイドの主人は実に迷惑な事に、接近戦、それもナイフなどを使った肉弾戦も得意としている。誰がこの全身くまなく手入れをして整えた、スマートなお坊ちゃんが、殺傷にナイフを用いる危険極まりない戦闘形態も、憚らず用いると思うだろうか。
「状況が状況とはいえ、お見苦しいものをお見せしました。お部屋も穢してしまって」
「……いえ、そのような事は。カイム様こそお怪我は」
「僕は別に……、」
主人から伝わって来る感覚は、あくまで静かな調子で普段と変わりが無かった。
ジェイドは恐れに口を噤む。
――解っている。カイムの本質を知らないわけがない。それでも、思わずにいられない、この感覚。
ヘルレアがカイムを見詰めている。表情は何も動いてはいなかったが、カイムの様子を覗っているのは明らかだった。ヘルレアも解っているのだろう、そして感じているようだ。
カイムの血や死に対する忌避感の無さは尋常では無いものだと。
猟犬が背負い切れない死と汚穢を、身代わりで背負って生きて来たカイムだが、それを受け取り、なおも生き続ける精神の異質さが、否が応でも浮き彫りになってしまった。
――これを強さとは言わない、無関心だと言う方が正しい。
「ひとまず、猟犬共が敵を制圧出来たようだし。これで解決出来たと言って良いでしょう」
「何……制圧だと?」ジェイドは固まってしまう。
「既に、館から派兵された猟犬も戦闘に加わっていたんだ――敵方を誤魔化すのは難しくはなかった。外界術を使う猟犬ばかり呼んだからね」
カイムは密かに力を行使していたのだ。
ジェイドは思わず主人へ詰め寄る。
「カイム、無茶な事はするな! 精神にまで負担を掛けて……どういうつもりだ」
「勝算があるから、色々と動いたんだよ。無茶はしないさ、女王蜂も危険に曝す真似はしない」
「止めてくれ、もし、取り返しの付かない事になったら」
「……主人など、待てばいくらでも生まれて来る」どうということも無いようで、感情の色が見えない。
ジェイドは身体が凍り付くようだった。手が震えて止まらなくて、服の胸元を握り締めた。「カイム、猟犬を想うなら、二度とそのような口は利くな……頼む、どうか、利かないでくれ」
ジェイドは主人が、憎くて堪らなくなっていた。主人へ対して赦されない感情を抱いていると判っている。解っていても、自分を抑えられなかった。これ程大切に思っているのに、主人は自らを蔑ろにする言葉を平気で口にする。
カイムは眼を見張っていた。ジェイドの心が悲痛に叫ぶ様を驚いているようだった。今になっても、これだけ共に生きて来ても、主人と猟犬というものの心は、解り合えず、時に見知らぬ他人のようにすれ違う。
「ごめんよ、ジェイド……チェスカルにも大変な思いをさせたね」
チェスカルは何も言わず、いつも通り控えていた。本当なら、彼も主人に訴えたいことは幾らでもあるだろう。だが、格上のジェイドが居る以上、出しゃばるような真似はしない。
カイムは少し困った顔で笑む。主人に怒りはまるでなくて、本心から悪かったと謝る感覚が伝わって来た。
いつの間にか、主人と猟犬の繋がりが、結ばれていた。
カイムは猟犬の全てだ。
――この痛み。
カイム自身は、猟犬が主人を失う痛みを知らない。猟犬は自らの死を受け止める方が余程、辛くはなかった。たとえどれだけ離れていようとも、主の死は猟犬には判る。何故と問われたら、本能であり、生きている意味そのものだからだ。主人との離別は身体を引き裂かれるような苦しみを、猟犬へもたらすだろう。
想像すらしたくもない。
「うん、感覚も戻ったみたいだな。まあ……一種のショック療法か?」のほほんとカイムがへらへらしている。
「カイム様、これはただの空元気では」
「そうだぞ、まだ引きこもらせておくべきだ。弾き出してやる。あと、攻撃手段は銃を選べ、自分から敵の懐へ入るな」
「ええと、それは……ご存知の通り、僕はどちらかと言えば射撃ベタなんだよね」カイムはやれやれといった風に、気取って両手をぱっと広げる。
ジェイドはそれがまた無性に腹立たしくて、主人へとヘッドロックをお見舞いする。
「気のせいだと言ってるだろうが!」
チェスカルと同時に、ヘルレアまでもが溜息をつく。
「……この、どうしようもないファザコン共め」
呆れ顔で吹かすヘルレアの顔は、何故かとても優しく見えた。
「ここで私が死んだとしても、何も変わらない。もう手遅れだ。〈蜂の巣〉の支配者は既に病み切っている。判るか? もう、血は〈巣〉から溢れそうになっているんだよ」
ヘルレアが笑いを我慢するように、喉を何度も鳴らすと、それでも我慢がならなかったのか、大音声で笑い出した。真珠のような白い歯が剥き出しになる。
ジェイドは、そのあまりにも爆発的な哄笑に慄いた。
「バカが、人間! 私にお前等が、何に見えているのか分かっているのか。その低級な生き物に、まだ利用価値があれば、安楽と殺されるだけで済むと思うのか? ここには女王蜂も居る。じっくり甚振ってやるから、二人で解決方法を話し合うんだな」
ヘルレアは本気だろう。確かに女王蜂が傍にいるのだから、この状況では解決するのに難しくはないかもしれない。
ジェイドはさりげなく、チェスカルを観察する。扉の前で棒立ちになり、二丁の銃が床に投げ出されている。これは完全な訳ありだと察して、ジェイドは無言を貫いた。
だが、内心眉根も寄せていた。
チェスカルは蝕まれているように見えた。今は、互いに孤立しているので、本当のところは判らないが、それでも尋常で無いものを感じ取った。
ジェイドはあまり不自然にならないよう、更に部屋を見渡す。先程から部屋をいくら目視しても、主人が見つからない。能力を解放して探したいという焦りはあるが、これほど主人へ間近に迫っているであろう場所で、下手に力を解放してしまえば、カイムを傷付けかねない。
「今の状況が見えないか、世界蛇。話し合いどころではないと思うぞ」黒装束は女王蜂へ銃を突き付け直す動作で、現状を強調した。
「人外に人質など効くと思うのか。あまり面倒なことを口から垂れ流せば、お前の頭を潰すぞ。初動の差が理解出来ないのなら、今から味合わせてやる」
黒装束はついに押し黙ってしまった。
「目的も遂げられる――ならば、もう死ぬか……」ぼそりと呟く。黒装束は、女王蜂を完全に道連れにしようとしているのが分かる。
ジェイドの視界の端。最も視覚で捉え難い部屋の奥。カーテンのドレープが微かに波打つ。すると、カーテンの生地が割れて、カイムがひっそりと顔を出した。
ジェイドは目の回るような歓喜と、最悪の現状に踏み出した主人を見て絶望した。
ジェイドは視線を動かし掛けたが、男と女王蜂へその視線を固定した。主人の姿へ焦点を合わせたかったが、視界の端で動向を見守るしかなかった。
カイムの手には抜身のナイフが握られている。それはまるで玩具のような小ささだが、変わった形状なのが、遠くからでもよく判る。
女王蜂を捕らえた男の背後へと、音も、ましてや気配すらもなく、少しずつ近寄って行く。
ジェイドは自然、銃を構えようと動き出しそうになった。だが、勝手な動きをすれば、余計に主人を危険に曝す。ジェイドは主人の振る舞いに焦っていたが、口や態度に出せる状況でもない。
思考による遠隔通話も出来ない今、どのような接触も不可能だった。
もし思考だけで接触出来たとしても、表情に変化を起こしてしまいそうで、恐ろしくて、けして試みなかっただろうが。
――主が害されてしまったら。
鼓動が乱れて痛みさえ感じていた。表情に変化を起こさないようにするので精一杯だった。
――危険な事は止めてくれ。
――どうか、どうか。
ジェイドの心は酷く乱れて、いっそ自分が、女王蜂ごとあの男を射殺してしまおうか、という思考に取り憑かれた。
本能が働き出そうと暴れ狂って、身体感覚が鋭敏さを取り戻し始めた。それはどこか、転がり落ちていく感覚に似ていた。
でも、それはカイムの望むところでは無い。ジェイドは自らを律する苦悩と、表向きな平常さを取り繕うので内心一杯々になっていた。
ジェイド達は一切カイムの存在を気取られないような、挙動を完璧にこなしていてた。オリヴァンでさえへらへらしながらも、部屋の様子に興味なさげで、一切関係ない、高額な海水魚が床で跳ねる姿を見ていた。
男は女王蜂を捕え、尚且つヨルムンガンドが居る状況に、周りが見えなくなっているよう。自分が無防備な事に気付いていない。
ヘルレアにしか眼が行っていない。
カイムが男の背後に付くと、間髪入れずに手で顎から首を固定し、首筋から顎へ掛けて、凶器が上向くようにを突き刺した。凶器は眼に捉えられない速さで――それはバネを弾くような感覚を与える所作で――局所集中的に突き立てられ続けた。
流血は凄まじい早さで、飛沫くというより蛇口を捻ったかのような大量なものだった。
ナイフには細工がしてあり、直ぐに大量出血を促す形状だったのだ。
カイムは胸から上、ほっそりとした手指と顔を赤黒く染める。男はまったく現状を理解出来ないまま息絶えたのだろう、銃を乱射するような無意味で危険な行為すらできず、女王蜂を抱き込むようにしたまま、力を失い倒れ伏した。
「女王蜂、ご無事ですか?」カイムが女王蜂へ手を差し出そうとするが、自分の惨事を思い出したようで手を引っ込める。
「女王蜂へ手をお貸しするんだ」
ジェイドは主人から唐突に呼ばれてまごついたが、直ぐに女王蜂の元へ行って、彼女を助け起こした。女王蜂もかなり血を浴びている。
カイムは何気ない感じで、胸ポケットのハンカチで顔と手、そしてナイフを拭うと、鞘へ戻して忍ばせた。
ジェイドの主人は実に迷惑な事に、接近戦、それもナイフなどを使った肉弾戦も得意としている。誰がこの全身くまなく手入れをして整えた、スマートなお坊ちゃんが、殺傷にナイフを用いる危険極まりない戦闘形態も、憚らず用いると思うだろうか。
「状況が状況とはいえ、お見苦しいものをお見せしました。お部屋も穢してしまって」
「……いえ、そのような事は。カイム様こそお怪我は」
「僕は別に……、」
主人から伝わって来る感覚は、あくまで静かな調子で普段と変わりが無かった。
ジェイドは恐れに口を噤む。
――解っている。カイムの本質を知らないわけがない。それでも、思わずにいられない、この感覚。
ヘルレアがカイムを見詰めている。表情は何も動いてはいなかったが、カイムの様子を覗っているのは明らかだった。ヘルレアも解っているのだろう、そして感じているようだ。
カイムの血や死に対する忌避感の無さは尋常では無いものだと。
猟犬が背負い切れない死と汚穢を、身代わりで背負って生きて来たカイムだが、それを受け取り、なおも生き続ける精神の異質さが、否が応でも浮き彫りになってしまった。
――これを強さとは言わない、無関心だと言う方が正しい。
「ひとまず、猟犬共が敵を制圧出来たようだし。これで解決出来たと言って良いでしょう」
「何……制圧だと?」ジェイドは固まってしまう。
「既に、館から派兵された猟犬も戦闘に加わっていたんだ――敵方を誤魔化すのは難しくはなかった。外界術を使う猟犬ばかり呼んだからね」
カイムは密かに力を行使していたのだ。
ジェイドは思わず主人へ詰め寄る。
「カイム、無茶な事はするな! 精神にまで負担を掛けて……どういうつもりだ」
「勝算があるから、色々と動いたんだよ。無茶はしないさ、女王蜂も危険に曝す真似はしない」
「止めてくれ、もし、取り返しの付かない事になったら」
「……主人など、待てばいくらでも生まれて来る」どうということも無いようで、感情の色が見えない。
ジェイドは身体が凍り付くようだった。手が震えて止まらなくて、服の胸元を握り締めた。「カイム、猟犬を想うなら、二度とそのような口は利くな……頼む、どうか、利かないでくれ」
ジェイドは主人が、憎くて堪らなくなっていた。主人へ対して赦されない感情を抱いていると判っている。解っていても、自分を抑えられなかった。これ程大切に思っているのに、主人は自らを蔑ろにする言葉を平気で口にする。
カイムは眼を見張っていた。ジェイドの心が悲痛に叫ぶ様を驚いているようだった。今になっても、これだけ共に生きて来ても、主人と猟犬というものの心は、解り合えず、時に見知らぬ他人のようにすれ違う。
「ごめんよ、ジェイド……チェスカルにも大変な思いをさせたね」
チェスカルは何も言わず、いつも通り控えていた。本当なら、彼も主人に訴えたいことは幾らでもあるだろう。だが、格上のジェイドが居る以上、出しゃばるような真似はしない。
カイムは少し困った顔で笑む。主人に怒りはまるでなくて、本心から悪かったと謝る感覚が伝わって来た。
いつの間にか、主人と猟犬の繋がりが、結ばれていた。
カイムは猟犬の全てだ。
――この痛み。
カイム自身は、猟犬が主人を失う痛みを知らない。猟犬は自らの死を受け止める方が余程、辛くはなかった。たとえどれだけ離れていようとも、主の死は猟犬には判る。何故と問われたら、本能であり、生きている意味そのものだからだ。主人との離別は身体を引き裂かれるような苦しみを、猟犬へもたらすだろう。
想像すらしたくもない。
「うん、感覚も戻ったみたいだな。まあ……一種のショック療法か?」のほほんとカイムがへらへらしている。
「カイム様、これはただの空元気では」
「そうだぞ、まだ引きこもらせておくべきだ。弾き出してやる。あと、攻撃手段は銃を選べ、自分から敵の懐へ入るな」
「ええと、それは……ご存知の通り、僕はどちらかと言えば射撃ベタなんだよね」カイムはやれやれといった風に、気取って両手をぱっと広げる。
ジェイドはそれがまた無性に腹立たしくて、主人へとヘッドロックをお見舞いする。
「気のせいだと言ってるだろうが!」
チェスカルと同時に、ヘルレアまでもが溜息をつく。
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