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第1話
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「サーシャ、君との婚約関係は今日をもって終わりにしたいと思うんだ。それが、お互いのためだと思っている」
開口一番、自分の部屋に私を呼び出すや否や、私の婚約者であるクライン様は刺々しい口調でそう言葉を発した。
「婚約破棄…。どういうことでしょうか?私が何か、クライン様のお気を悪くしてしまうような事でも…」
「アリッサ、これをよく見てほしい」
「…?」
彼はそう言いながら、自分の机の中にしまわれていた複数の手紙を取り出し、私の前に差し出した。
そこには、今のクライン様が心酔されているご様子の一人の女性の名前が書かれていた。
「ラミアと言うんだが…。この子がまぁ、僕の心をつかんで離さないんだ。だから僕はその思いに応えるべく、自分の婚約者の席を用意することにした。それに伴いサーシャ、君にはここを出ていってもらうことにしたよ」
「……」
噂には聞いていた。
クライン様が本当に婚約を狙っている相手が、私以外にいるという話を。
「サーシャ、そもそも僕たちの関係は政略婚約であるところが大きかった。お互いの家の関係を深めることを第一の目的として、この婚約を結ぶに至った。だが、それももう終わりにする時だろう?」
「終わりにする時って…。私は何も相談されていませんし、なんの話も聞いていないのですけれど…」
彼が本当にお互いのためだと思っているのなら、私と二人できちんと話をすることでしょう。
しかし一方的に話を決めてくるということは、本当は私の事を思ってのことなんて一切考えてもいないのでしょう。
「話をしていないのは、僕が本当に君のことを思っているからだよ。余計な事を相談して悩みを増やしてしまったら、君に負担を強いてしまうことになるだろう?僕はそうなることが嫌だったから、あえて一人で全て決めることにしたんだ。この選択が君に幸福をもたらすことを、心から信じている」
「はぁ……」
…それが建前の言葉に過ぎないことは明らかだけれど、これ以上この人を詰めてもなんの進展もなさそうなので、私は一旦彼の前から引き上げることにする。
「それじゃあクライン様、私との関係は本当に終わりにされるのですか?私の両親もクライン様のご両親も、心から婚約を喜んでおられましたのに…」
「仕方ないさ。生きていれば、こうなることだってあるだろう。サーシャ、とりあえず婚約破棄を受け入れてもらえたという事でいいかな?」
「受け入れたも何も…。私がここで拒否したところで、もうクライン様の決定には逆らえないのでしょう?でしたら聞く意味もないかと思いますけど…」
「そうかそうか、なら異議はないということでいいんだね?君の理解が早くて助かるよ」
そう言う意味で言ったわけではないのだけれど、クライン様には私の言葉の真意が全く届いていない様子。
いやもしかしたら、本当は分かっているけどあえて分かっていないような態度を見せているのかもしれない。
どちらにしても、この人が私の事なんて少しも考えていないという事は明らかだった。
「それじゃあサーシャ、早くここから出ていく準備に移ってくれ。君に与えている部屋はこの後ラミアに与えることにしようと思っているから、なるべく綺麗にしておいてくれよ?あぁそれと、君に用意していた洋服や家具もそのまま彼女に上げようと思っているんだ。だから勝手な事はしないでくれよ?」
まるで最初からすべて準備されていたかような周到さで、クライン様は婚約破棄後の流れを口にしていく。
…本当にどこまで私の事を軽く見ていたのだろうか…?
「クライン様、新しい婚約者を迎え入れることができてうれしいのは分かりますが、あえ一つだけ警告して差し上げてもよろしいですか?」
「警告?なんだい?」
やや驚きの表情を浮かべながら、クライン様はいぶかしげな視線を私に向けてくる。
私はそのままロッド様に向かい、こう言葉を告げた。
「クライン様が心酔されているご様子のラミアという女性、いろいろと黒いお噂があるようですけれど…。本当に私から乗り換えられても大丈夫なのですか?もしも彼女があなたになにか隠していたりしたら、それこそ取り返しのつかないことになりますよ?一応言っておきますけれど、私は後になってやっぱり婚約破棄を取り消したいなどと言われても、もう一度ここに戻ってくることはありませんからね?」
「……」
それは全て、私が本心から想っている事だった。
…ただ、やっぱりと言うべきか、その言葉はあまりクライン様には刺さっていない様子…。
「…なんだ、余裕そうな表情を浮かべている君とてやっぱり悔しくて仕方がないのか?まぁそれも仕方がないだろう、僕ほどやさしくて思いやりのある男はそういないだろうからな。ただ、君になんと言われようとももうこれは決定事項なんだ。覆すことはもうない。君は君で、僕くらい幸せになれる道を見つけて歩んでいってくれ。婚約破棄を後悔することなどあり得ないのだから、心配はいらないさ」
余裕に満ち溢れた表情でそう言葉を発するクライン様。
…その言葉と、私の言った警告と、どちらがより正確に未来を表現していたのかが明らかになるまでに、そう時間はかからなかった。
開口一番、自分の部屋に私を呼び出すや否や、私の婚約者であるクライン様は刺々しい口調でそう言葉を発した。
「婚約破棄…。どういうことでしょうか?私が何か、クライン様のお気を悪くしてしまうような事でも…」
「アリッサ、これをよく見てほしい」
「…?」
彼はそう言いながら、自分の机の中にしまわれていた複数の手紙を取り出し、私の前に差し出した。
そこには、今のクライン様が心酔されているご様子の一人の女性の名前が書かれていた。
「ラミアと言うんだが…。この子がまぁ、僕の心をつかんで離さないんだ。だから僕はその思いに応えるべく、自分の婚約者の席を用意することにした。それに伴いサーシャ、君にはここを出ていってもらうことにしたよ」
「……」
噂には聞いていた。
クライン様が本当に婚約を狙っている相手が、私以外にいるという話を。
「サーシャ、そもそも僕たちの関係は政略婚約であるところが大きかった。お互いの家の関係を深めることを第一の目的として、この婚約を結ぶに至った。だが、それももう終わりにする時だろう?」
「終わりにする時って…。私は何も相談されていませんし、なんの話も聞いていないのですけれど…」
彼が本当にお互いのためだと思っているのなら、私と二人できちんと話をすることでしょう。
しかし一方的に話を決めてくるということは、本当は私の事を思ってのことなんて一切考えてもいないのでしょう。
「話をしていないのは、僕が本当に君のことを思っているからだよ。余計な事を相談して悩みを増やしてしまったら、君に負担を強いてしまうことになるだろう?僕はそうなることが嫌だったから、あえて一人で全て決めることにしたんだ。この選択が君に幸福をもたらすことを、心から信じている」
「はぁ……」
…それが建前の言葉に過ぎないことは明らかだけれど、これ以上この人を詰めてもなんの進展もなさそうなので、私は一旦彼の前から引き上げることにする。
「それじゃあクライン様、私との関係は本当に終わりにされるのですか?私の両親もクライン様のご両親も、心から婚約を喜んでおられましたのに…」
「仕方ないさ。生きていれば、こうなることだってあるだろう。サーシャ、とりあえず婚約破棄を受け入れてもらえたという事でいいかな?」
「受け入れたも何も…。私がここで拒否したところで、もうクライン様の決定には逆らえないのでしょう?でしたら聞く意味もないかと思いますけど…」
「そうかそうか、なら異議はないということでいいんだね?君の理解が早くて助かるよ」
そう言う意味で言ったわけではないのだけれど、クライン様には私の言葉の真意が全く届いていない様子。
いやもしかしたら、本当は分かっているけどあえて分かっていないような態度を見せているのかもしれない。
どちらにしても、この人が私の事なんて少しも考えていないという事は明らかだった。
「それじゃあサーシャ、早くここから出ていく準備に移ってくれ。君に与えている部屋はこの後ラミアに与えることにしようと思っているから、なるべく綺麗にしておいてくれよ?あぁそれと、君に用意していた洋服や家具もそのまま彼女に上げようと思っているんだ。だから勝手な事はしないでくれよ?」
まるで最初からすべて準備されていたかような周到さで、クライン様は婚約破棄後の流れを口にしていく。
…本当にどこまで私の事を軽く見ていたのだろうか…?
「クライン様、新しい婚約者を迎え入れることができてうれしいのは分かりますが、あえ一つだけ警告して差し上げてもよろしいですか?」
「警告?なんだい?」
やや驚きの表情を浮かべながら、クライン様はいぶかしげな視線を私に向けてくる。
私はそのままロッド様に向かい、こう言葉を告げた。
「クライン様が心酔されているご様子のラミアという女性、いろいろと黒いお噂があるようですけれど…。本当に私から乗り換えられても大丈夫なのですか?もしも彼女があなたになにか隠していたりしたら、それこそ取り返しのつかないことになりますよ?一応言っておきますけれど、私は後になってやっぱり婚約破棄を取り消したいなどと言われても、もう一度ここに戻ってくることはありませんからね?」
「……」
それは全て、私が本心から想っている事だった。
…ただ、やっぱりと言うべきか、その言葉はあまりクライン様には刺さっていない様子…。
「…なんだ、余裕そうな表情を浮かべている君とてやっぱり悔しくて仕方がないのか?まぁそれも仕方がないだろう、僕ほどやさしくて思いやりのある男はそういないだろうからな。ただ、君になんと言われようとももうこれは決定事項なんだ。覆すことはもうない。君は君で、僕くらい幸せになれる道を見つけて歩んでいってくれ。婚約破棄を後悔することなどあり得ないのだから、心配はいらないさ」
余裕に満ち溢れた表情でそう言葉を発するクライン様。
…その言葉と、私の言った警告と、どちらがより正確に未来を表現していたのかが明らかになるまでに、そう時間はかからなかった。
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