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第2話
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――クライン視点――
「よしよしよし、婚約破棄は完全にうまく行った…♪」
「旦那様、おめでとうございます!」
「すべてはリオル、お前のおかげだ」
このリオルは、かねてから僕の野望を叶えるべく動き回ってくれている。
まさに、僕にとっての右腕と呼ぶにふさわしい男だ。
「それでリオル、ラミアとの食事の約束はどうなっている?」
「はい。街の中にある一等地と言えるレストランを予約しております。もうそろそろ予約の時間になりますから、準備に移られたほうがよろしいかと」
「そうか、分かった。さすがの手際の良さ、褒めてやるぞ」
「ありがとうございます」
リオルは僕に向けて深く頭を下げ、うれしさを態度で示してくる。
こいつには今度、また改めて褒美を与えなければいけないな…。
と考えていたその時、リオルは不意に僕に対してこう言葉を発した。
「ところでクライン様、あの話はどうなっているでしょうか?」
「あの話?」
…なにか特別な頼み事などされたはずはなかったため、向こうの言っていることがいまいち理解でいない。
「ほら、あの話です。サーシャ様との婚約が不成立になったなら、その時はこの私にサーシャ様のお譲りいただけるという…」
「あぁ、その話か」
言われて思い出した。
そういえばこのリオルは、なぜかサーシャの事を痛く気に入っているのだった。
あの女のどこにそこまで惚れたのかは分からないが、まぁ僕としても婚約破棄した後のサーシャに興味などなかったため、二つ返事でOKを出したのだった。
「別に僕は何求めたりしない。お前がサーシャと結ばれたいというのなら、好きにすればいいじゃないか」
「ありがとうございます!…それで確認なのですが、サーシャ様はどちらに??婚約破棄以降、そのお姿が全く見えないのですけれど…」
「あぁ…」
…ここから出ていくよう言ってしまったからか…。
最初はそこまで言う予定ではなかったのだが、ラミアが一日も早くここに来てくれることを思ったら気が高ぶってしまって、つい勢いのままにそう言ってしまったのだった…。
「ま、まぁしばらくしたら戻ってくるだろう…。リオル、彼女は今僕との婚約破棄を突き付けられて傷心しているんだ。だからそっと一人にしておくのが正解なのさ。いずれ戻ってくるとも」
「……」
「…リオル?」
僕の話にうなずくことをせず、むしろどこか疑っているような視線を向けてくるリオル。
この男がここまで僕にいぶかしげな視線を向けてきたことは今までなかったため、僕は自分の心の中に妙な思いを抱く。
「…なんだ?何か言いたいことでもあるのか?」
「…まさかとは思いますが、クライン様、サーシャ様の事を婚約破棄の上で追放されたのではありませんか?」
「っ!?」
…勢いのままにそうしてしまったことを直に突かれ、僕は少し自分の体が跳ねるのを感じた。
「クライン様、もしもそうだというのでしたら少し話が変わってきますが…?」
「あ、安心しろリオル。そんな事実はない。彼女がいないのは今だけだ。すぐに戻ってくる」
いや、戻っては来ない…。
あれほど自信満々に強い言葉で追放を迫ったのだから、戻ってくるはずがない…。
しかし、ここでその事をそのまま話すわけになどいかない…。
リオルの能力は非常に秀でていて、これからもこの僕を隣で支え続けていってもらわなければならないのだ。
サーシャ程度のために、その存在を失うことほど愚かな事はない。
「…クライン様、僕にとってサーシャ様の存在がどれほど大きなものかはご理解いただけていますよね?今はそのお言葉を信じさせていただくことにしますが、もしもそれが間違っていたというのでしたらその時は…」
「だ、大丈夫だとも。心配ない」
…この瞬間、僕はラミアの待つレストランに行く以外に、やるべきことができてしまう。
確かに彼女との時間を過ごす事はずっと楽しみにしていたことだが、このままこの状況を放っておいてこれ以上まずいことになることの方がよくない…。
きっとサーシャとて、告げられて日が浅いこの婚約破棄をまだ受け止められてはいないはずなのだ。
そこにこちらから少し優しい言葉をかけてみれば、きっと僕の方になびいてくる。
そののちにリオルとの関係を結ばせられれば、全ては丸く収まるのだ。
「リオル、お前が彼女の事を愛している気持ちはよくわかった。お前の幸せはこの僕が確かに保証しようではないか。お前とサーシャとの関係、この僕が確かに預かった」
「…ありがとうございます、クライン様。今はクライン様の事を信じさせていただきます」
「しかし、サーシャも喜ぶことだろう。まさかここまでお前に思われているとはな」
「僕はずっと前からそうでしたよ?クライン様の手前遠慮させていただいていただけで…」
「しかし、もう遠慮の必要はない。お互い、真実の愛に向かって突き進もうではないか」
まぁなんとかなるであろう。
少なくとも、どちらも関係を築けなくなるようなことはないであろう。
この時の僕は、そう思っていた。
「よしよしよし、婚約破棄は完全にうまく行った…♪」
「旦那様、おめでとうございます!」
「すべてはリオル、お前のおかげだ」
このリオルは、かねてから僕の野望を叶えるべく動き回ってくれている。
まさに、僕にとっての右腕と呼ぶにふさわしい男だ。
「それでリオル、ラミアとの食事の約束はどうなっている?」
「はい。街の中にある一等地と言えるレストランを予約しております。もうそろそろ予約の時間になりますから、準備に移られたほうがよろしいかと」
「そうか、分かった。さすがの手際の良さ、褒めてやるぞ」
「ありがとうございます」
リオルは僕に向けて深く頭を下げ、うれしさを態度で示してくる。
こいつには今度、また改めて褒美を与えなければいけないな…。
と考えていたその時、リオルは不意に僕に対してこう言葉を発した。
「ところでクライン様、あの話はどうなっているでしょうか?」
「あの話?」
…なにか特別な頼み事などされたはずはなかったため、向こうの言っていることがいまいち理解でいない。
「ほら、あの話です。サーシャ様との婚約が不成立になったなら、その時はこの私にサーシャ様のお譲りいただけるという…」
「あぁ、その話か」
言われて思い出した。
そういえばこのリオルは、なぜかサーシャの事を痛く気に入っているのだった。
あの女のどこにそこまで惚れたのかは分からないが、まぁ僕としても婚約破棄した後のサーシャに興味などなかったため、二つ返事でOKを出したのだった。
「別に僕は何求めたりしない。お前がサーシャと結ばれたいというのなら、好きにすればいいじゃないか」
「ありがとうございます!…それで確認なのですが、サーシャ様はどちらに??婚約破棄以降、そのお姿が全く見えないのですけれど…」
「あぁ…」
…ここから出ていくよう言ってしまったからか…。
最初はそこまで言う予定ではなかったのだが、ラミアが一日も早くここに来てくれることを思ったら気が高ぶってしまって、つい勢いのままにそう言ってしまったのだった…。
「ま、まぁしばらくしたら戻ってくるだろう…。リオル、彼女は今僕との婚約破棄を突き付けられて傷心しているんだ。だからそっと一人にしておくのが正解なのさ。いずれ戻ってくるとも」
「……」
「…リオル?」
僕の話にうなずくことをせず、むしろどこか疑っているような視線を向けてくるリオル。
この男がここまで僕にいぶかしげな視線を向けてきたことは今までなかったため、僕は自分の心の中に妙な思いを抱く。
「…なんだ?何か言いたいことでもあるのか?」
「…まさかとは思いますが、クライン様、サーシャ様の事を婚約破棄の上で追放されたのではありませんか?」
「っ!?」
…勢いのままにそうしてしまったことを直に突かれ、僕は少し自分の体が跳ねるのを感じた。
「クライン様、もしもそうだというのでしたら少し話が変わってきますが…?」
「あ、安心しろリオル。そんな事実はない。彼女がいないのは今だけだ。すぐに戻ってくる」
いや、戻っては来ない…。
あれほど自信満々に強い言葉で追放を迫ったのだから、戻ってくるはずがない…。
しかし、ここでその事をそのまま話すわけになどいかない…。
リオルの能力は非常に秀でていて、これからもこの僕を隣で支え続けていってもらわなければならないのだ。
サーシャ程度のために、その存在を失うことほど愚かな事はない。
「…クライン様、僕にとってサーシャ様の存在がどれほど大きなものかはご理解いただけていますよね?今はそのお言葉を信じさせていただくことにしますが、もしもそれが間違っていたというのでしたらその時は…」
「だ、大丈夫だとも。心配ない」
…この瞬間、僕はラミアの待つレストランに行く以外に、やるべきことができてしまう。
確かに彼女との時間を過ごす事はずっと楽しみにしていたことだが、このままこの状況を放っておいてこれ以上まずいことになることの方がよくない…。
きっとサーシャとて、告げられて日が浅いこの婚約破棄をまだ受け止められてはいないはずなのだ。
そこにこちらから少し優しい言葉をかけてみれば、きっと僕の方になびいてくる。
そののちにリオルとの関係を結ばせられれば、全ては丸く収まるのだ。
「リオル、お前が彼女の事を愛している気持ちはよくわかった。お前の幸せはこの僕が確かに保証しようではないか。お前とサーシャとの関係、この僕が確かに預かった」
「…ありがとうございます、クライン様。今はクライン様の事を信じさせていただきます」
「しかし、サーシャも喜ぶことだろう。まさかここまでお前に思われているとはな」
「僕はずっと前からそうでしたよ?クライン様の手前遠慮させていただいていただけで…」
「しかし、もう遠慮の必要はない。お互い、真実の愛に向かって突き進もうではないか」
まぁなんとかなるであろう。
少なくとも、どちらも関係を築けなくなるようなことはないであろう。
この時の僕は、そう思っていた。
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