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第3話
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「サーシャ、もう戻る必要はないという事なんだな?」
「そうみたいですよお父様。なんでも、私よりも相性の良いお相手様と出会われたそうですから」
「やれやれ…。クラインの奴、互いの家のためにこれ以上ない婚約関係ですなどと言っていたくせに…。ふたを開けてみればサーシャに対する愛情などかけらもない婚約関係ではないか…」
家に戻ってきた私の話を聞いたお父様は、早速クライン様に対する不信感をそのまま口にする。
しかしその内容は婚約に未練があってのものではなく、終始身勝手な行動を繰り返すクライン様の行動そのものについてであった。
「サーシャ、よく戻ってきた。あんな男との婚約など、こちらの方からお断りだとも」
「お父様、ありがとうございます。今は私も心からそう思っているところです」
正直なところ、家に戻ってきた時私はお父様から残念な顔を見せられるかと思っていた。
娘が婚約を果たしたというなら、親なら誰だって嬉しく思うのが普通だろう。
しかし現実は反対で、お父様は戻ってきた私の表情を見るや否やうれしそうな表情を浮かべ、婚約破棄の一件を知った後はそのうれしさを一段と大きいものにしていた。
どうしてお父様があべこべともいえるそんな反応を見せたのか、そこにはクライン様にまつわるある噂があったからだという…。
「クラインはかなり大きな顔をしているが、その実すべての仕事を部下の男にまかせっきりらしい。本人はただのかざりのようなポジションで、いざという事が起こったなら真っ先にすべてを失うタイプの男だいう風に見える。そんな男に、サーシャを任せるのはなかなか危ないんじゃないかとずっと心配に思っていたんだよ」
「その噂、最近になって言われるようになったものですよね?一体何があったんでしょう??」
「これもただの噂だが…。サーシャ、君の婚約者のイスを争ってそんなことになっているということらしい」
「…??」
そんな話は今まで聞いたことがないから、一瞬何を言われたのか理解でいない。
「クラインの所にいた、リオルという男を知っているか?あの男が中心になって妙な動きを見せているらしい。詳しい事は分からないが、どうやらそこには今回の婚約破棄の一件が深くかかわっているらしいんだが…」
「……?」
私はつい先日まで彼のもとに居ながら、その事は全く知らなかった。
…とは言っても、婚約者様からさえ愛情をかけてもらえていなかったのだから、それ以外の人から向けられる気持ちに気づけるはずもないのだけれど…。
「まぁいずれにしても、これからの事は私に任せておくといい。向こうが何か言ってくるかもしれないが、その時は返り討ちにしてくれるとも」
「お父様、ありがとうございます!」
お父様はそう言うけれど、実際彼がこの後何か言ってくることはないのではないかと、私は思っていた。
それほど彼が愚かであるとは思ってもいなかったためだ。
ところが後に、お父様の言っていたことが現実のものとなり、向こうがある目的をもって再び私に話を持ち掛けてくることになろうとは、この時はまだ思ってもいないのだった…。
――リオルとその部下の会話――
「どうだ、サーシャ様の行方は分かったか?」
「おそらくは、ご実家の方に戻られているものと思われます」
「やはりそうか…。それで、戻ってくるような様子は見受けられるか?」
「状況から考えるに、ありえないものと思われます。現在サーシャ様はご家族と非常に良好な関係を築かれている様子で、そこにクライン様が付け入るような隙は見られないものと思われます。ですので…」
そこから先の言葉を、やや言いよどんでいる様子の男。
しかしリオルは躊躇することなく、その先の言葉を口にした。
「つまりは、クライン様の見通しは完全に間違いであり、サーシャ様はあのまま追放されてしまったというわけか…。こうなることを防ぐと約束してくださったというのに、これではなんたる裏切りか…」
もともとサーシャとの関係を深めるためにクラインに手を尽くしていたリオル。
しかしその根底にあるものが揺らいできた今、それでもロッドのために尽くそうという思いは薄くなっていた。
「…それでリオル様、これからいかがなされるのですか?サーシャ様はおそらくここに戻ってくることはないでしょうけれど、クライン様がその事をお認めになるとは思いませんし…」
「…それもそうだな。よし、少し我々は動き方を変えていくことにするか…」
クラインは完全に、リオルが自分に従う事を信じ切ったうえで偉そうな態度を取り、サーシャに対しても一方的な口調を崩さなかった。
しかし、リオルがその気を変えるというのなら話は大きく変わる。
…すでにそうなる結末が動き始めているというのに、クライン本人はその事に全く気付いておらず、新たに婚約者としようとしているラミアとの関係を考えるのみだった…。
「そうみたいですよお父様。なんでも、私よりも相性の良いお相手様と出会われたそうですから」
「やれやれ…。クラインの奴、互いの家のためにこれ以上ない婚約関係ですなどと言っていたくせに…。ふたを開けてみればサーシャに対する愛情などかけらもない婚約関係ではないか…」
家に戻ってきた私の話を聞いたお父様は、早速クライン様に対する不信感をそのまま口にする。
しかしその内容は婚約に未練があってのものではなく、終始身勝手な行動を繰り返すクライン様の行動そのものについてであった。
「サーシャ、よく戻ってきた。あんな男との婚約など、こちらの方からお断りだとも」
「お父様、ありがとうございます。今は私も心からそう思っているところです」
正直なところ、家に戻ってきた時私はお父様から残念な顔を見せられるかと思っていた。
娘が婚約を果たしたというなら、親なら誰だって嬉しく思うのが普通だろう。
しかし現実は反対で、お父様は戻ってきた私の表情を見るや否やうれしそうな表情を浮かべ、婚約破棄の一件を知った後はそのうれしさを一段と大きいものにしていた。
どうしてお父様があべこべともいえるそんな反応を見せたのか、そこにはクライン様にまつわるある噂があったからだという…。
「クラインはかなり大きな顔をしているが、その実すべての仕事を部下の男にまかせっきりらしい。本人はただのかざりのようなポジションで、いざという事が起こったなら真っ先にすべてを失うタイプの男だいう風に見える。そんな男に、サーシャを任せるのはなかなか危ないんじゃないかとずっと心配に思っていたんだよ」
「その噂、最近になって言われるようになったものですよね?一体何があったんでしょう??」
「これもただの噂だが…。サーシャ、君の婚約者のイスを争ってそんなことになっているということらしい」
「…??」
そんな話は今まで聞いたことがないから、一瞬何を言われたのか理解でいない。
「クラインの所にいた、リオルという男を知っているか?あの男が中心になって妙な動きを見せているらしい。詳しい事は分からないが、どうやらそこには今回の婚約破棄の一件が深くかかわっているらしいんだが…」
「……?」
私はつい先日まで彼のもとに居ながら、その事は全く知らなかった。
…とは言っても、婚約者様からさえ愛情をかけてもらえていなかったのだから、それ以外の人から向けられる気持ちに気づけるはずもないのだけれど…。
「まぁいずれにしても、これからの事は私に任せておくといい。向こうが何か言ってくるかもしれないが、その時は返り討ちにしてくれるとも」
「お父様、ありがとうございます!」
お父様はそう言うけれど、実際彼がこの後何か言ってくることはないのではないかと、私は思っていた。
それほど彼が愚かであるとは思ってもいなかったためだ。
ところが後に、お父様の言っていたことが現実のものとなり、向こうがある目的をもって再び私に話を持ち掛けてくることになろうとは、この時はまだ思ってもいないのだった…。
――リオルとその部下の会話――
「どうだ、サーシャ様の行方は分かったか?」
「おそらくは、ご実家の方に戻られているものと思われます」
「やはりそうか…。それで、戻ってくるような様子は見受けられるか?」
「状況から考えるに、ありえないものと思われます。現在サーシャ様はご家族と非常に良好な関係を築かれている様子で、そこにクライン様が付け入るような隙は見られないものと思われます。ですので…」
そこから先の言葉を、やや言いよどんでいる様子の男。
しかしリオルは躊躇することなく、その先の言葉を口にした。
「つまりは、クライン様の見通しは完全に間違いであり、サーシャ様はあのまま追放されてしまったというわけか…。こうなることを防ぐと約束してくださったというのに、これではなんたる裏切りか…」
もともとサーシャとの関係を深めるためにクラインに手を尽くしていたリオル。
しかしその根底にあるものが揺らいできた今、それでもロッドのために尽くそうという思いは薄くなっていた。
「…それでリオル様、これからいかがなされるのですか?サーシャ様はおそらくここに戻ってくることはないでしょうけれど、クライン様がその事をお認めになるとは思いませんし…」
「…それもそうだな。よし、少し我々は動き方を変えていくことにするか…」
クラインは完全に、リオルが自分に従う事を信じ切ったうえで偉そうな態度を取り、サーシャに対しても一方的な口調を崩さなかった。
しかし、リオルがその気を変えるというのなら話は大きく変わる。
…すでにそうなる結末が動き始めているというのに、クライン本人はその事に全く気付いておらず、新たに婚約者としようとしているラミアとの関係を考えるのみだった…。
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