私の事を婚約破棄した後、すぐに破滅してしまわれた元旦那様のお話

第4話

――ラミアとクラインの会話――

「ねぇクライン様、本当に大丈夫なのですよね？」
「なにも心配はいらないとも。もうサーシャの事は無事に追い出せたわけだし、それについて特に問題も起こらなかった。あとはもう、僕たち二人が新たな婚約者としてその身を固めるのみだよ♪」

夢中になっているラミアを前にして、クラインは非常に雰囲気が良い様子を隠せない。
元よりこうなることを目的としていた彼であったため、この時点では彼の目的は達せられているわけではあるが…。

「さて、それじゃあこれからの事をゆっくり考えようじゃないか。ラミア、待たせてしまってすまなかった。僕としたことがつい、余計な問題を起こしてしまって…」
「構いませんよクライン様。私もまた、こうなることをずっと心待ちにしていたのですから」

自身の体をクラインの方に寄せながら、猫なで声でそう言葉を発するラミア。
…しかしその心の中にある思いは、決してクラインの身に向けられているものではなかった。

「(ごめんなさいねクライン様…。私が本当に関係を築きたく思っているのは、あなたのそばにいるリオル様なの…。でも私が一人でアタックを仕掛けてもきっといい反応は得られないでしょうから、先にあなたの元に飛び込むことにしたのです。時期を見て今度は私の方があなたに婚約の破棄を突き付けて、私はめでたくリオル様と結ばれることになるでしょう♪)」

そう、クラインにサーシャとの婚約を破棄させる決断までさせた存在であるラミアは、その実クラインではなくリオルの方に夢中なのだった。
しかしクラインはその事に全く気付いてはおらず、彼女は自分の事を愛していると信じて疑っていなかった。
互いに向けられる思いの矢印は、複雑に入れ違っている様相を呈していながら、その誰もそれぞれの慕う人物については把握していなかったのだった。

「(リオル様、クライン様の婚約者となった私から関係を迫ったなら、間違いなくその心をなびかせてくれることでしょう。だって、自分の主人の婚約者から迫られることほど、男性の心をときめかせるものはないに決まっているのですから)」

ラミアはなかなかにしたたかな思惑を抱き、クラインの事は一方的に利用する存在にしか考えていなかった。
一方、ラミアの存在にすっかり夢中になってしまっているクラインは、そんな彼女の考えになど気づくはずもなく…。

「(ラミア、なんだか顔を赤くしているように見えるな…。やっぱり、僕との関係を長らく心待ちにしていてくれたのだろう。僕がサーシャの婚約破棄に少し手間取って、余計な時間をかけてしまったことが原因なのだろうか。…ただ、そのおかげでより一層僕を思う彼女の心が強くなったというのなら、それこを結果オーライというもの。この上なく理想的な状態になっていると言える…♪)」

心の中にそう言葉をつぶやいたクラインは、そのままラミアに向けてこう言葉をかける。

「ラミア、何か欲しいものはあるかい？今日は非常にめでたい日なんだから、なにか君にプレゼントをおくりたい。なにかないかい？」
「そうですね…。なににしましょう…」

ラミアは自身の顎に手を当て、頭の中で自身の考えを巡らせていく。
するとなにかいいアイディアが思いついたのか、やや笑みを浮かべながらクラインに対してこう言葉を返した。

「そうだ！それならお屋敷の人たちを集めて記念パーティーを開きたいですね！この喜びをみんなと分かち合いたいと思います！」
「なるほど…。たしかに、それは良いアイディアだ！すぐに開くことにしよう！」

クラインはラミアの提案を、自分たちの婚約を祝っての気持ちからくるものだと考えた。
しかし、彼女がその心に抱いていた思いはそうではなかった。

「(そうすれば当然、リオル様と顔を合わせることが出来る…！パーティーの最中であるなら、きっとお互いの思いも普段以上にたかぶっているはず…！この機を逃す手はないわ！)」

結局ラミアの中にあったのは、クラインに対する思いではなくリオルに対する思いのみだった。

「ねぇクライン様、もちろんリオル様もこられるのですよね？」
「あぁ、もちろんだとも。なんならこれからリオルに、パーティーの準備を命じようとしていたところだ」
「彼ならば間違いなく素晴らしいパーティーを準備してくれることでしょう！間違いないです！」

クラインの口からリオルの名が出た途端、ラミアは分かりやすく上機嫌な表情を浮かべる。
それこそ彼女の心がリオルの方に向いているというなによりの証拠であるのだが、クラインはその事を全く気にする様子はなかった。

…そして、開催されるパーティーが彼らの運命を大きく変える結果となることを、この時彼らはまだ知らないのであった…。