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第1話
「ユフィーレア、君との婚約はこの瞬間をもって終わりにすることに決めた」
「……」
いきなり自室に私の事を呼び出してきたかと思ったら、婚約者であるザルバ様はそう言葉を発してきた。
その時の表情は冷たいもので、口調も淡白だった。
「ユフィーレア、君には伝えなければならないことだとずっと思っていたんだが、なかなか伝える事ができなかった。その事は申し訳なく思っている」
「……」
「しかし、これは僕にとって非常に重要な事なんだ。僕は、真実の愛を手にすることができたのだから…」
真実の愛、とザルバ様は言った。
私にしてみればそんなもの全く関係のない話なのだけれど、ザルバ様の表情はどこか興奮していて、決して冗談で言っているものではないのだという事が理解できた。
「真実の愛とは…?」
「そうだよね、気になるよね、ならばゆっくり話してあげよう。真実の愛というのは、それはそれは崇高で気高いものなんだ…。生きとし生ける人間にとって、この得なく輝かしい存在であり美しく……」
なにか説明を始めるザルバ様だけれど、私が聞きたいのはその相手というもの…。
なのに、聞いてもいない真実の愛そのものについての説明をし始めてしまう。
私はそれを適当に聞き流し、それに続くザルバ様の言葉を待った。
「そんな関係を築くことこそ、僕にとって何より優先されるべきこと…。そしてその相手というのが、僕の幼馴染であるアナだったんだ」
「……」
名前は聞かなくても、うすうすは察しがついていた。
アナというのはザルバ様の幼馴染で、出身も同じ場所。
今は貴族として振る舞われているザルバ様の事を、昔からよく知っている人物だ。
そんな彼女は、私とザルバ様が婚約関係になってからというもの、ザルバ様の周りによく現れるようになっていた。
…まるで、略奪婚でも企てていたかのように…。
向こうがどう思っているかは知らないけれど、少なくとも私にはそのタイミングに見えていた。
「ユフィーレア、君がどう思っているのかは知らないが、アナは本当にかわいらしい女性なんだよ。彼女ほど僕の事を理解し、気を遣える人物はいないからね」
それは、ただただ昔のザルバ様を知っているからそう思うだけなのでは?と言い返しそうになるけれど、たぶんここで何を言っても状況は変わらないのだろうから私は言葉を飲み込む。
けれどザルバ様はそんな私に構わず、言葉を続けていく。
「ユフィーレア、君に婚約関係を持ち掛けたのは、僕の失敗だった。責任は僕にある。君に期待しすぎてしまったのかもしれない。僕にとって真実の愛の持ち主はアナであるというのに、それに気づけなかったんだ。しかし、今はもう違う。それに気づくことができたんだ。だから、もう僕は間違えるわけにはいかない。自分の思いに正直になって、アナとの未来を創っていきたく思っている。その最初の一歩が、君との婚約を破棄するというものなんだ」
そうですか、つまり私の事は何とも思っていないという事なのですね。
この婚約関係はザルバ様が必死に言葉を発してつくられたものですけれど、それを一方的に壊されるというのですね。
そこに私の考えなど一切組み込まれていないというのですね。
「君とて、僕と同じ立場だったら同じことをするはずだ。真実の愛に気づいてなお、それを振り払うような事をするのはただの愚か者だからね」
私の目には、今のザルバ様のおこないこそ愚かものに見えてならないのですけれど…。
目の前の誘惑にそのままのっかって、さらに婚約破棄まで行って関係を滅茶苦茶にするだなんて、まるで子供みたい。
「しかし、だからこそ僕は君に約束しよう。僕は絶対にアナの事を幸せにして見せるし、僕自身も幸せになってみせる。婚約破棄をするからには、それくらいの覚悟がなければ意味がないからね」
なら、私の幸せはどうでもいいとおっしゃられるのですね。
自分たちだけうまくいけばそれでいいと、それが真実の愛の正体だと、ザルバ様はそうおっしゃりたいのですね。
「僕たちが幸せになることこそ、この婚約破棄の意味するものとして正しいものであると信じている。それに文句を言うものがいたとしたら、そいつはただの愛に飢えたかわいそうなやつなだけだ。自分が愛に飢えているからこそ、人の愛に嫉妬してしまうんだよ。ユフィーレア、君はそんな愚かな奴らとは違うだろう?君はきちんと理解してくれているんだろう?この僕の行いというものが正しいという事を」
「……」
むしろザルバ様自身の方が愚か者に見えるのは、私だけでしょうか…?
あまつさえ婚約破棄を正当化してしまうなんて、ろくでなしにしか見えないのですけれど…?
その結果幸せになろうが不幸せになろうが、別にどうだっていい事ですし…。
「ユフィーレア、そういうわけだ。僕は自分の真実の愛に向かって歩き始める。だからもう君との時間は終わりだ。僕の事は諦めてくれ。そして応援してくれ」
「……」
それが、婚約関係にある私たちの間で交わされた最後の言葉だった。
「……」
いきなり自室に私の事を呼び出してきたかと思ったら、婚約者であるザルバ様はそう言葉を発してきた。
その時の表情は冷たいもので、口調も淡白だった。
「ユフィーレア、君には伝えなければならないことだとずっと思っていたんだが、なかなか伝える事ができなかった。その事は申し訳なく思っている」
「……」
「しかし、これは僕にとって非常に重要な事なんだ。僕は、真実の愛を手にすることができたのだから…」
真実の愛、とザルバ様は言った。
私にしてみればそんなもの全く関係のない話なのだけれど、ザルバ様の表情はどこか興奮していて、決して冗談で言っているものではないのだという事が理解できた。
「真実の愛とは…?」
「そうだよね、気になるよね、ならばゆっくり話してあげよう。真実の愛というのは、それはそれは崇高で気高いものなんだ…。生きとし生ける人間にとって、この得なく輝かしい存在であり美しく……」
なにか説明を始めるザルバ様だけれど、私が聞きたいのはその相手というもの…。
なのに、聞いてもいない真実の愛そのものについての説明をし始めてしまう。
私はそれを適当に聞き流し、それに続くザルバ様の言葉を待った。
「そんな関係を築くことこそ、僕にとって何より優先されるべきこと…。そしてその相手というのが、僕の幼馴染であるアナだったんだ」
「……」
名前は聞かなくても、うすうすは察しがついていた。
アナというのはザルバ様の幼馴染で、出身も同じ場所。
今は貴族として振る舞われているザルバ様の事を、昔からよく知っている人物だ。
そんな彼女は、私とザルバ様が婚約関係になってからというもの、ザルバ様の周りによく現れるようになっていた。
…まるで、略奪婚でも企てていたかのように…。
向こうがどう思っているかは知らないけれど、少なくとも私にはそのタイミングに見えていた。
「ユフィーレア、君がどう思っているのかは知らないが、アナは本当にかわいらしい女性なんだよ。彼女ほど僕の事を理解し、気を遣える人物はいないからね」
それは、ただただ昔のザルバ様を知っているからそう思うだけなのでは?と言い返しそうになるけれど、たぶんここで何を言っても状況は変わらないのだろうから私は言葉を飲み込む。
けれどザルバ様はそんな私に構わず、言葉を続けていく。
「ユフィーレア、君に婚約関係を持ち掛けたのは、僕の失敗だった。責任は僕にある。君に期待しすぎてしまったのかもしれない。僕にとって真実の愛の持ち主はアナであるというのに、それに気づけなかったんだ。しかし、今はもう違う。それに気づくことができたんだ。だから、もう僕は間違えるわけにはいかない。自分の思いに正直になって、アナとの未来を創っていきたく思っている。その最初の一歩が、君との婚約を破棄するというものなんだ」
そうですか、つまり私の事は何とも思っていないという事なのですね。
この婚約関係はザルバ様が必死に言葉を発してつくられたものですけれど、それを一方的に壊されるというのですね。
そこに私の考えなど一切組み込まれていないというのですね。
「君とて、僕と同じ立場だったら同じことをするはずだ。真実の愛に気づいてなお、それを振り払うような事をするのはただの愚か者だからね」
私の目には、今のザルバ様のおこないこそ愚かものに見えてならないのですけれど…。
目の前の誘惑にそのままのっかって、さらに婚約破棄まで行って関係を滅茶苦茶にするだなんて、まるで子供みたい。
「しかし、だからこそ僕は君に約束しよう。僕は絶対にアナの事を幸せにして見せるし、僕自身も幸せになってみせる。婚約破棄をするからには、それくらいの覚悟がなければ意味がないからね」
なら、私の幸せはどうでもいいとおっしゃられるのですね。
自分たちだけうまくいけばそれでいいと、それが真実の愛の正体だと、ザルバ様はそうおっしゃりたいのですね。
「僕たちが幸せになることこそ、この婚約破棄の意味するものとして正しいものであると信じている。それに文句を言うものがいたとしたら、そいつはただの愛に飢えたかわいそうなやつなだけだ。自分が愛に飢えているからこそ、人の愛に嫉妬してしまうんだよ。ユフィーレア、君はそんな愚かな奴らとは違うだろう?君はきちんと理解してくれているんだろう?この僕の行いというものが正しいという事を」
「……」
むしろザルバ様自身の方が愚か者に見えるのは、私だけでしょうか…?
あまつさえ婚約破棄を正当化してしまうなんて、ろくでなしにしか見えないのですけれど…?
その結果幸せになろうが不幸せになろうが、別にどうだっていい事ですし…。
「ユフィーレア、そういうわけだ。僕は自分の真実の愛に向かって歩き始める。だからもう君との時間は終わりだ。僕の事は諦めてくれ。そして応援してくれ」
「……」
それが、婚約関係にある私たちの間で交わされた最後の言葉だった。
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