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第3話
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――レイヴン伯爵視点――
「なんだか妙な胸騒ぎがするな…。少し外に出てみるか…」
僕は普段、あまりこういう思いを抱くタイプではない。
しかし今日だけは、どういうわけか胸を刺すような不安感が心の中に大きく広がっていっていた。
屋敷の中から外に出てみれば、もうすでに日は落ちて暗くなり始めていた。
伯爵としての仕事というのは時間に追われるものでありながら、あまり日の位置を意識するものではない。
ゆえに、こういった体感時間とのずれが生まれるのだろう。
「…??」
周囲には僕以外の誰もおらず、ただただ静かな空間が広がっている。
朝と夕方には屋敷の前に広がる庭園を管理する使用人の姿が見られるけれど、今はもうそれらの仕事は全て終わっている時間だ。
…にもかかわらず、僕の耳にはどこからか妙な音が聞こえてきた。
スー…スー…
「…??」
…それはまるで、誰かが足を引きずっているかのような、そういった類の音だった。
けれど、僕はこの屋敷の近くからそういった音が聞こえてくることに覚えがない。
「どこだろう…?こっちの方だろうか…?」
小走りで屋敷の近くを動き回ったところ、その音の主はすぐに判明した。
…このあたりでは見たことのない女の人が、一人で立っていたからだ。
「あ、あなたはもしかして…。レイヴン伯爵様ですか…?」
「…!?!?!?」
…その時、僕は自分の全身を雷のような鋭い衝撃が走っていったのを感じた…。
濃い黒髪と、薄いながらも色気を感じさせる肌質、整った顔立ちに華奢な体つき、そして雰囲気として感じさせる幸薄さ…。
僕にとってドストレートにタイプな女性の姿がそこにはあったのだから…。
「…は、伯爵様…?」
「こ、これは取り乱してしまって申し訳ありません…。おっしゃる通り、私はこの屋敷で伯爵として仕事をしております、レイヴンと申します」
なんとか冷静さを取り繕って挨拶をするものの、心の中では激しい動揺を収められていない。
「(ど、どうすればいい…。このまま僕のお屋敷で一緒に過ごしませんか、というのはさすがに強引すぎるだろうか…。そ、そもそも彼女は一体どうしてここに居たんだろうか…?このあたりに住まう人々の顔は大方頭に入れているはずだけれど、それでも彼女の顔はこれまで見たことがないような…)」
色々な思いが同時に頭の中に湧き出てきて、自分でも混乱を抑えるのに必死になる。
…しかしその時、彼女は僕が願ってもいなかった言葉をつぶやいた。
「…伯爵様、どうか伯爵様にお願いしたいことがあるのです…」
「なんですか?」
「実は……」
彼女はそのまま僕に対し、これまで自分が歩んできた人生をそのまま赤裸々に語ってくれた。
…時には耳をふさぎたくなるような悲惨な過去がありながらも、彼女は僕の事を信じてか、包み隠すことなくそのまますべてを話してくれた。
その過程で、彼女は自分の名前がカタリナであることを教えてくれた。
その響きもまた僕好みであることにうれしさをかんじながら、僕はカタリナに対してこう言葉を返した。
「カタリナ、君の事はよくわかった。なら、このまま僕の元に来るといい。君のような素敵な人ならば、一緒に暮らすことに何の問題もない」
「ほ、ほんとうですか!?」
「あぁ、構わないとも♪」
「ありがとうございます、伯爵様!」
その時、それまで終始切なそうな雰囲気を発していたカタリナが、会って一番の可愛らしい笑みを浮かべてくれた。
僕は思わずその表情にドキッとさせられながら、努めてその感情を表に出さないように必死になり、そのままカタリナの事を伯爵屋敷の中に招き入れたのだった。
――――
「実は今度、ここで舞踏会と合わせて食事会を行うことになっているんだ。そこで集まってくれたみんなに向けて挨拶を行えば、いいタイミングになるんじゃないかと思ってね」
「そこまでお考えくださっておられたのですね…。本当にどう感謝を申し上げたらいいのか…」
カタリナは非常に申し訳なさそうな表情を浮かべるものの、これは決して狙ったものであったわけではなく、結果的にいいタイミングにまとまってくれただけの事だった。
しかし、そんなことを言われてしまってはなんだか僕もうれしさを隠せなくなってしまい…。
「ま、まぁ僕は伯爵だから、これくらいの事は造作もないとも!これ以外にもどんどんたよってもらって構わないからね!」
「はい、ありがとうございます♪」
貴族たちやその関係者を集めての食事会など、ただただ苦痛な時間を過ごすばかりのものだと思って消極的に考えていたけれど、カタリナがいてくれると言うのなら話は全く変わってくる。
…僕は当日の服装を一体どのようなものにしようかと必死に頭の中を回転させつつ、当日彼女に笑われない格好をすることでいっぱいになっていくのだった…。
「なんだか妙な胸騒ぎがするな…。少し外に出てみるか…」
僕は普段、あまりこういう思いを抱くタイプではない。
しかし今日だけは、どういうわけか胸を刺すような不安感が心の中に大きく広がっていっていた。
屋敷の中から外に出てみれば、もうすでに日は落ちて暗くなり始めていた。
伯爵としての仕事というのは時間に追われるものでありながら、あまり日の位置を意識するものではない。
ゆえに、こういった体感時間とのずれが生まれるのだろう。
「…??」
周囲には僕以外の誰もおらず、ただただ静かな空間が広がっている。
朝と夕方には屋敷の前に広がる庭園を管理する使用人の姿が見られるけれど、今はもうそれらの仕事は全て終わっている時間だ。
…にもかかわらず、僕の耳にはどこからか妙な音が聞こえてきた。
スー…スー…
「…??」
…それはまるで、誰かが足を引きずっているかのような、そういった類の音だった。
けれど、僕はこの屋敷の近くからそういった音が聞こえてくることに覚えがない。
「どこだろう…?こっちの方だろうか…?」
小走りで屋敷の近くを動き回ったところ、その音の主はすぐに判明した。
…このあたりでは見たことのない女の人が、一人で立っていたからだ。
「あ、あなたはもしかして…。レイヴン伯爵様ですか…?」
「…!?!?!?」
…その時、僕は自分の全身を雷のような鋭い衝撃が走っていったのを感じた…。
濃い黒髪と、薄いながらも色気を感じさせる肌質、整った顔立ちに華奢な体つき、そして雰囲気として感じさせる幸薄さ…。
僕にとってドストレートにタイプな女性の姿がそこにはあったのだから…。
「…は、伯爵様…?」
「こ、これは取り乱してしまって申し訳ありません…。おっしゃる通り、私はこの屋敷で伯爵として仕事をしております、レイヴンと申します」
なんとか冷静さを取り繕って挨拶をするものの、心の中では激しい動揺を収められていない。
「(ど、どうすればいい…。このまま僕のお屋敷で一緒に過ごしませんか、というのはさすがに強引すぎるだろうか…。そ、そもそも彼女は一体どうしてここに居たんだろうか…?このあたりに住まう人々の顔は大方頭に入れているはずだけれど、それでも彼女の顔はこれまで見たことがないような…)」
色々な思いが同時に頭の中に湧き出てきて、自分でも混乱を抑えるのに必死になる。
…しかしその時、彼女は僕が願ってもいなかった言葉をつぶやいた。
「…伯爵様、どうか伯爵様にお願いしたいことがあるのです…」
「なんですか?」
「実は……」
彼女はそのまま僕に対し、これまで自分が歩んできた人生をそのまま赤裸々に語ってくれた。
…時には耳をふさぎたくなるような悲惨な過去がありながらも、彼女は僕の事を信じてか、包み隠すことなくそのまますべてを話してくれた。
その過程で、彼女は自分の名前がカタリナであることを教えてくれた。
その響きもまた僕好みであることにうれしさをかんじながら、僕はカタリナに対してこう言葉を返した。
「カタリナ、君の事はよくわかった。なら、このまま僕の元に来るといい。君のような素敵な人ならば、一緒に暮らすことに何の問題もない」
「ほ、ほんとうですか!?」
「あぁ、構わないとも♪」
「ありがとうございます、伯爵様!」
その時、それまで終始切なそうな雰囲気を発していたカタリナが、会って一番の可愛らしい笑みを浮かべてくれた。
僕は思わずその表情にドキッとさせられながら、努めてその感情を表に出さないように必死になり、そのままカタリナの事を伯爵屋敷の中に招き入れたのだった。
――――
「実は今度、ここで舞踏会と合わせて食事会を行うことになっているんだ。そこで集まってくれたみんなに向けて挨拶を行えば、いいタイミングになるんじゃないかと思ってね」
「そこまでお考えくださっておられたのですね…。本当にどう感謝を申し上げたらいいのか…」
カタリナは非常に申し訳なさそうな表情を浮かべるものの、これは決して狙ったものであったわけではなく、結果的にいいタイミングにまとまってくれただけの事だった。
しかし、そんなことを言われてしまってはなんだか僕もうれしさを隠せなくなってしまい…。
「ま、まぁ僕は伯爵だから、これくらいの事は造作もないとも!これ以外にもどんどんたよってもらって構わないからね!」
「はい、ありがとうございます♪」
貴族たちやその関係者を集めての食事会など、ただただ苦痛な時間を過ごすばかりのものだと思って消極的に考えていたけれど、カタリナがいてくれると言うのなら話は全く変わってくる。
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