あなたは婚約者よりも幼馴染を愛するのですね?

睡蓮

文字の大きさ
1 / 5

第1話

しおりを挟む
「今日もわざわざ僕のところに来てくれてありがとうユリア、会えて本当にうれしく思っているよ」
「私の方こそ、侯爵様としてお忙しい中でしょうに私の相手をしてくださって、本当にありがとうございます♪」

私が掃除をする廊下に向けて、部屋の中からそんな声が漏れ聞こえてくる。
声の主は他でもない、私の婚約者であるはずのノラン侯爵様と、彼の幼馴染であるユリアの二人。
…席を外すよう命じられた私は、完全に邪魔者扱い…。

「ところで、最近のお二人の関係はいかがなのでしょうか?侯爵様が自ら選んだ婚約相手とのことですから、さぞかし素敵なお相手様に違いないと思っているのですけれど」
「はぁ…。それが、後悔しかないのだよ。エリステルのやつ、少し見た目が好みだったから勢いのままに僕の婚約者として迎え入れてやったというのに、日に日に僕の事をがっかりさせることしかしないんだ…。一体どういう神経をしているのかわからんね…」
「まぁ、そんなろくでもないお相手だったのですか?」

2人がわざと私に聞こえるようにそうしゃべっているのか、それとも聞こえてくる声は偶然なのか、それはどちらかわからない。
でも、そう思われていること自体は事実らしい…。

「(…私の事を強引に連れてきたのは、侯爵様の方ではありませんか…。それなのに、まるで私の方から関係を望んだような言い方…)」

そもそもこの婚約関係は、侯爵様の強引なやり方から始まったもの…。
私はここに来る前は普通の女の子として、普通の生活を送っていた。
別にその生活にすごく満足していたというわけでもないけれど、すごく不満があったわけでもない。
ただただ、変わらない日常を繰り返していた。
するとそんなある日、侯爵様が突然私の前に現れて、こう言った。

「君と僕は運命に選ばれた相手なんだ。君はこれから貴族家に入り、幸せにならなければならない。僕は君を幸せにするという使命に気づいた。一緒に来てもらえるね?」

いきなりそんな言葉をかけられて、普通でいられるはずもない。
驚きの表情を隠せない私の事をよそに、侯爵様はそのまま私の事を半ば強引に自分のもとまで婚約者の名目で連れていき、こうして彼との共同生活が始まった。
…けれど、そこにあったのは彼の言っていた運命に選ばれたという関係なんかじゃなかった。

「ユリア、君に相談したく思っていたんだが…。実は僕は、エリステルに誘惑されたんだよ。だからこんなバカげた婚約関係を結ぶことになってしまったんだ」

…私が、誘惑…?

「まぁ、彼女ってそんな下品な女だったの!?…人は見た目によらないのですね…」
「だろう?だから僕もすっかり騙されてしまったんだよ…。そもそも、侯爵位にある貴族男性を誘惑にかかるなど、言語道断だろう?どれほど自分のやり方に自信を持っているのか知らないが、恥ずかしくはないのだろうかと言いたいね…」
「それはご愁傷さまですね…。そんな大ハズレ女に当たってしまわれただなんて…。もしも私が侯爵様の婚約者であったなら、その思いを裏切ることなんて絶対にしませんのに」
「ユリア…!!」
「もぅ、侯爵様ったら…♪」

…聞きたくもない二人の声が、部屋の中から漏れ聞こえてくる。
それは明らかに私に向けて発せられているものであるように見え、それと同時に二人の関係が実際に深くまで進行しているものを見せるものでもあった。
二人は、自分たちの事を間接的に私に見せつけたいのだろう。

「ねぇ侯爵様、そこまでおっしゃるのなら婚約破棄をされてはいかがですか?」
「そうだなぁ…。しかし、こちらからの婚約破棄は他の貴族家からの印象が割る可能性があってな…。当然僕だってこの婚約を続けたくないのは思っているんだが…」

それが、侯爵様の本音なのでしょうね。
私の事を幸せにするだとか、愛しているだとか、最初かけられたそれらの言葉はすべてからっぽなもので、私の事なんて全く見てもいなかったのでしょうね。
私がどうなろうとも、結局何とも思わないのでしょうね。
いなくなったところで、死んでしまったところで、それこそ悲しむどころか喜びになられるのでしょうね。
…私は侯爵様との運命を受け入れて、少しでも侯爵様に喜んでもらうよう頑張ってきたのに、その思いを受け止めてもらえることもなく、むしろ私の方が悪者にされるのでしょうね。

「それじゃあ、このままエリステルとの婚約を続けられるのですか?手遅れになってしまうかもしれないのではないですか?」
「はぁ…。いっそのこと、エリステルの方から婚約破棄を言ってきてくれればいいのだがなぁ…。それなら、僕はエリステルに騙された哀れな被害者になることができるから、他の貴族家からも妙な視線を向けられることもなくなる…」

…それが、わざと私に声が聞こえる場所にいさせた目的らしいですね…。
私のほうから音を上げさせて、婚約破棄を現実のものにするという…。


でも、侯爵様がそういうお考えだというのなら、私にだって考えがあります。
これほど愛されておらず、邪険に扱われるだけの関係であるというのなら、この際私がどんな行動をとっても文句は言えませんよね…?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻よりも幼馴染が大事? なら、家と慰謝料はいただきます

佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢セリーヌは、隣国の王子ブラッドと政略結婚を果たし、幼い娘クロエを授かる。結婚後は夫の王領の離宮で暮らし、義王家とも程よい関係を保ち、領民に親しまれながら穏やかな日々を送っていた。 しかし数ヶ月前、ブラッドの幼馴染である伯爵令嬢エミリーが離縁され、娘アリスを連れて実家に戻ってきた。元は豊かな家柄だが、母子は生活に困っていた。 ブラッドは「昔から家族同然だ」として、エミリー母子を城に招き、衣装や馬車を手配し、催しにも同席させ、クロエとアリスを遊ばせるように勧めた。 セリーヌは王太子妃として堪えようとしたが、だんだんと不満が高まる。

悪女の私を愛さないと言ったのはあなたでしょう?今さら口説かれても困るので、さっさと離縁して頂けますか?

輝く魔法
恋愛
システィーナ・エヴァンスは王太子のキース・ジルベルトの婚約者として日々王妃教育に勤しみ努力していた。だがある日、妹のリリーナに嵌められ身に覚えの無い罪で婚約破棄を申し込まれる。だが、あまりにも無能な王太子のおかげで(?)冤罪は晴れ、正式に婚約も破棄される。そんな時隣国の皇太子、ユージン・ステライトから縁談が申し込まれる。もしかしたら彼に愛されるかもしれないー。そんな淡い期待を抱いて嫁いだが、ユージンもシスティーナの悪い噂を信じているようでー? 「今さら口説かれても困るんですけど…。」 後半はがっつり口説いてくる皇太子ですが結ばれません⭐︎でも一応恋愛要素はあります!ざまぁメインのラブコメって感じかなぁ。そういうのはちょっと…とか嫌だなって人はブラウザバックをお願いします(o^^o)更新も遅めかもなので続きが気になるって方は気長に待っててください。なお、これが初作品ですエヘヘ(о´∀`о) 優しい感想待ってます♪

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい

神崎 ルナ
恋愛
第三王女ロクサーヌには婚約者がいた。騎士団でも有望株のナイシス・ガラット侯爵令息。その美貌もあって人気がある彼との婚約が決められたのは幼いとき。彼には他に優先する幼なじみがいたが、政略結婚だからある程度は仕方ない、と思っていた。だが、王宮が魔導師に襲われ、魔術により天井の一部がロクサーヌへ落ちてきたとき、彼が真っ先に助けに行ったのは幼馴染だという女性だった。その後もロクサーヌのことは見えていないのか、完全にスルーして彼女を抱きかかえて去って行くナイシス。  嘘でしょう。  その後ロクサーヌは一月、目が覚めなかった。  そして目覚めたとき、おとなしやかと言われていたロクサーヌの姿はどこにもなかった。 「ガラット侯爵令息とは婚約破棄? 当然でしょう。それとね私、力が欲しいの」  もう誰かが護ってくれるなんて思わない。  ロクサーヌは力をつけてひとりで生きていこうと誓った。  だがそこへクスコ辺境伯がロクサーヌへ求婚する。 「ぜひ辺境へ来て欲しい」  ※時代考証がゆるゆるですm(__)m ご注意くださいm(__)m  総合・恋愛ランキング1位(2025.8.4)hotランキング1位(2025.8.5)になりましたΣ(・ω・ノ)ノ  ありがとうございます<(_ _)>

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

【完結】貴方の望み通りに・・・

kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも どんなに貴方を見つめても どんなに貴方を思っても だから、 もう貴方を望まない もう貴方を見つめない もう貴方のことは忘れる さようなら

【完結】恋は、終わったのです

楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。 今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。 『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』 身長を追い越してしまった時からだろうか。  それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。 あるいは――あの子に出会った時からだろうか。 ――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。

「無理をするな」と言うだけで何もしなかったあなたへ。今の私は、大公家の公子に大切にされています

葵 すみれ
恋愛
「無理をするな」と言いながら、仕事も責任も全部私に押しつけてきた婚約者。 倒れた私にかけたのは、労りではなく「失望した」の一言でした。 実家からも見限られ、すべてを失った私を拾い上げてくれたのは、黙って手を差し伸べてくれた、黒髪の騎士── 実は、大公家の第三公子でした。 もう言葉だけの優しさはいりません。 私は今、本当に無理をしなくていい場所で、大切にされています。 ※他サイトにも掲載しています

処理中です...