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第1話
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「今日もわざわざ僕のところに来てくれてありがとうユリア、会えて本当にうれしく思っているよ」
「私の方こそ、侯爵様としてお忙しい中でしょうに私の相手をしてくださって、本当にありがとうございます♪」
私が掃除をする廊下に向けて、部屋の中からそんな声が漏れ聞こえてくる。
声の主は他でもない、私の婚約者であるはずのノラン侯爵様と、彼の幼馴染であるユリアの二人。
…席を外すよう命じられた私は、完全に邪魔者扱い…。
「ところで、最近のお二人の関係はいかがなのでしょうか?侯爵様が自ら選んだ婚約相手とのことですから、さぞかし素敵なお相手様に違いないと思っているのですけれど」
「はぁ…。それが、後悔しかないのだよ。エリステルのやつ、少し見た目が好みだったから勢いのままに僕の婚約者として迎え入れてやったというのに、日に日に僕の事をがっかりさせることしかしないんだ…。一体どういう神経をしているのかわからんね…」
「まぁ、そんなろくでもないお相手だったのですか?」
2人がわざと私に聞こえるようにそうしゃべっているのか、それとも聞こえてくる声は偶然なのか、それはどちらかわからない。
でも、そう思われていること自体は事実らしい…。
「(…私の事を強引に連れてきたのは、侯爵様の方ではありませんか…。それなのに、まるで私の方から関係を望んだような言い方…)」
そもそもこの婚約関係は、侯爵様の強引なやり方から始まったもの…。
私はここに来る前は普通の女の子として、普通の生活を送っていた。
別にその生活にすごく満足していたというわけでもないけれど、すごく不満があったわけでもない。
ただただ、変わらない日常を繰り返していた。
するとそんなある日、侯爵様が突然私の前に現れて、こう言った。
「君と僕は運命に選ばれた相手なんだ。君はこれから貴族家に入り、幸せにならなければならない。僕は君を幸せにするという使命に気づいた。一緒に来てもらえるね?」
いきなりそんな言葉をかけられて、普通でいられるはずもない。
驚きの表情を隠せない私の事をよそに、侯爵様はそのまま私の事を半ば強引に自分のもとまで婚約者の名目で連れていき、こうして彼との共同生活が始まった。
…けれど、そこにあったのは彼の言っていた運命に選ばれたという関係なんかじゃなかった。
「ユリア、君に相談したく思っていたんだが…。実は僕は、エリステルに誘惑されたんだよ。だからこんなバカげた婚約関係を結ぶことになってしまったんだ」
…私が、誘惑…?
「まぁ、彼女ってそんな下品な女だったの!?…人は見た目によらないのですね…」
「だろう?だから僕もすっかり騙されてしまったんだよ…。そもそも、侯爵位にある貴族男性を誘惑にかかるなど、言語道断だろう?どれほど自分のやり方に自信を持っているのか知らないが、恥ずかしくはないのだろうかと言いたいね…」
「それはご愁傷さまですね…。そんな大ハズレ女に当たってしまわれただなんて…。もしも私が侯爵様の婚約者であったなら、その思いを裏切ることなんて絶対にしませんのに」
「ユリア…!!」
「もぅ、侯爵様ったら…♪」
…聞きたくもない二人の声が、部屋の中から漏れ聞こえてくる。
それは明らかに私に向けて発せられているものであるように見え、それと同時に二人の関係が実際に深くまで進行しているものを見せるものでもあった。
二人は、自分たちの事を間接的に私に見せつけたいのだろう。
「ねぇ侯爵様、そこまでおっしゃるのなら婚約破棄をされてはいかがですか?」
「そうだなぁ…。しかし、こちらからの婚約破棄は他の貴族家からの印象が割る可能性があってな…。当然僕だってこの婚約を続けたくないのは思っているんだが…」
それが、侯爵様の本音なのでしょうね。
私の事を幸せにするだとか、愛しているだとか、最初かけられたそれらの言葉はすべてからっぽなもので、私の事なんて全く見てもいなかったのでしょうね。
私がどうなろうとも、結局何とも思わないのでしょうね。
いなくなったところで、死んでしまったところで、それこそ悲しむどころか喜びになられるのでしょうね。
…私は侯爵様との運命を受け入れて、少しでも侯爵様に喜んでもらうよう頑張ってきたのに、その思いを受け止めてもらえることもなく、むしろ私の方が悪者にされるのでしょうね。
「それじゃあ、このままエリステルとの婚約を続けられるのですか?手遅れになってしまうかもしれないのではないですか?」
「はぁ…。いっそのこと、エリステルの方から婚約破棄を言ってきてくれればいいのだがなぁ…。それなら、僕はエリステルに騙された哀れな被害者になることができるから、他の貴族家からも妙な視線を向けられることもなくなる…」
…それが、わざと私に声が聞こえる場所にいさせた目的らしいですね…。
私のほうから音を上げさせて、婚約破棄を現実のものにするという…。
でも、侯爵様がそういうお考えだというのなら、私にだって考えがあります。
これほど愛されておらず、邪険に扱われるだけの関係であるというのなら、この際私がどんな行動をとっても文句は言えませんよね…?
「私の方こそ、侯爵様としてお忙しい中でしょうに私の相手をしてくださって、本当にありがとうございます♪」
私が掃除をする廊下に向けて、部屋の中からそんな声が漏れ聞こえてくる。
声の主は他でもない、私の婚約者であるはずのノラン侯爵様と、彼の幼馴染であるユリアの二人。
…席を外すよう命じられた私は、完全に邪魔者扱い…。
「ところで、最近のお二人の関係はいかがなのでしょうか?侯爵様が自ら選んだ婚約相手とのことですから、さぞかし素敵なお相手様に違いないと思っているのですけれど」
「はぁ…。それが、後悔しかないのだよ。エリステルのやつ、少し見た目が好みだったから勢いのままに僕の婚約者として迎え入れてやったというのに、日に日に僕の事をがっかりさせることしかしないんだ…。一体どういう神経をしているのかわからんね…」
「まぁ、そんなろくでもないお相手だったのですか?」
2人がわざと私に聞こえるようにそうしゃべっているのか、それとも聞こえてくる声は偶然なのか、それはどちらかわからない。
でも、そう思われていること自体は事実らしい…。
「(…私の事を強引に連れてきたのは、侯爵様の方ではありませんか…。それなのに、まるで私の方から関係を望んだような言い方…)」
そもそもこの婚約関係は、侯爵様の強引なやり方から始まったもの…。
私はここに来る前は普通の女の子として、普通の生活を送っていた。
別にその生活にすごく満足していたというわけでもないけれど、すごく不満があったわけでもない。
ただただ、変わらない日常を繰り返していた。
するとそんなある日、侯爵様が突然私の前に現れて、こう言った。
「君と僕は運命に選ばれた相手なんだ。君はこれから貴族家に入り、幸せにならなければならない。僕は君を幸せにするという使命に気づいた。一緒に来てもらえるね?」
いきなりそんな言葉をかけられて、普通でいられるはずもない。
驚きの表情を隠せない私の事をよそに、侯爵様はそのまま私の事を半ば強引に自分のもとまで婚約者の名目で連れていき、こうして彼との共同生活が始まった。
…けれど、そこにあったのは彼の言っていた運命に選ばれたという関係なんかじゃなかった。
「ユリア、君に相談したく思っていたんだが…。実は僕は、エリステルに誘惑されたんだよ。だからこんなバカげた婚約関係を結ぶことになってしまったんだ」
…私が、誘惑…?
「まぁ、彼女ってそんな下品な女だったの!?…人は見た目によらないのですね…」
「だろう?だから僕もすっかり騙されてしまったんだよ…。そもそも、侯爵位にある貴族男性を誘惑にかかるなど、言語道断だろう?どれほど自分のやり方に自信を持っているのか知らないが、恥ずかしくはないのだろうかと言いたいね…」
「それはご愁傷さまですね…。そんな大ハズレ女に当たってしまわれただなんて…。もしも私が侯爵様の婚約者であったなら、その思いを裏切ることなんて絶対にしませんのに」
「ユリア…!!」
「もぅ、侯爵様ったら…♪」
…聞きたくもない二人の声が、部屋の中から漏れ聞こえてくる。
それは明らかに私に向けて発せられているものであるように見え、それと同時に二人の関係が実際に深くまで進行しているものを見せるものでもあった。
二人は、自分たちの事を間接的に私に見せつけたいのだろう。
「ねぇ侯爵様、そこまでおっしゃるのなら婚約破棄をされてはいかがですか?」
「そうだなぁ…。しかし、こちらからの婚約破棄は他の貴族家からの印象が割る可能性があってな…。当然僕だってこの婚約を続けたくないのは思っているんだが…」
それが、侯爵様の本音なのでしょうね。
私の事を幸せにするだとか、愛しているだとか、最初かけられたそれらの言葉はすべてからっぽなもので、私の事なんて全く見てもいなかったのでしょうね。
私がどうなろうとも、結局何とも思わないのでしょうね。
いなくなったところで、死んでしまったところで、それこそ悲しむどころか喜びになられるのでしょうね。
…私は侯爵様との運命を受け入れて、少しでも侯爵様に喜んでもらうよう頑張ってきたのに、その思いを受け止めてもらえることもなく、むしろ私の方が悪者にされるのでしょうね。
「それじゃあ、このままエリステルとの婚約を続けられるのですか?手遅れになってしまうかもしれないのではないですか?」
「はぁ…。いっそのこと、エリステルの方から婚約破棄を言ってきてくれればいいのだがなぁ…。それなら、僕はエリステルに騙された哀れな被害者になることができるから、他の貴族家からも妙な視線を向けられることもなくなる…」
…それが、わざと私に声が聞こえる場所にいさせた目的らしいですね…。
私のほうから音を上げさせて、婚約破棄を現実のものにするという…。
でも、侯爵様がそういうお考えだというのなら、私にだって考えがあります。
これほど愛されておらず、邪険に扱われるだけの関係であるというのなら、この際私がどんな行動をとっても文句は言えませんよね…?
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