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第2話
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――貴族会議における会話――
「どうやら、グローの所から婚約者がいなくなったという話は本当の事らしいですな…」
「やれやれ、貴族家たるものみすみす婚約者に逃げられるなど、恥ずかしいとは思わないのか…?」
互いの現状を話し合う貴族会議の場において、複数の人たちが会場の隅に集まって雑談を繰り広げていた。
その議題の中心は、グローの元から去っていったエミリアの話でもちきりになっており、同じ貴族家どうしであるためか、その話はすでに多くの人の知るところとなっていた。
「それで、その彼女はどうしていなくなったんだ?あの家でなにか問題があったというのか?」
「さぁ、詳しくは分からないが…。ただ、なにもないのに出ていったりはしないだろう?絶対何かあったに違いないぞこれは…♪」
グロー本人が話が大きくならないように徹していたのとは反対に、すでに事態は大きく広まっていきつつあった。
「久々に面白そうなことが起こったな。最近はなかなか暇を持て余していたから、これは意外と楽しめる案件かもしれないぞ?」
「あぁ、まったくだとも♪」
グローが最も嫌がる事態、それがまさに自分の知らないところで起こっていた。
――同じ時、グローの屋敷では――
「どうだ、エミリアの行方は見つかったか??」
「いえ、今だにさっぱりで…」
「こちらも全く情報有りません…。今だに手掛かりなしと言ったところで…」
彼らはエミリアの行方を必死に探していた。
それはエミリアの事を心配しているからではなく、彼女がこの家を捨てたという事実が彼らにとって非常に都合の悪いものだったからだ。
「エミリアの行きそうなところはすべてチェックしたんだが…。一体どこで何をしているというのか…」
「…あの、グロー様…」
「…なんだ?」
するとその時、部下の一人が恐る恐るといった雰囲気でグローに対して言葉を発し、なにか意見するような姿を見せた。
「このような事は言いたくはないのですけれど、やはりグロー様の態度に問題があったのではありませんか…?」
「……」
「出ていっても代わりはいくらでもいるとか、愛してもいないなどと言う言葉をかけなければ、このような事にはならなかったと思うのです…」
「…何が言いたいんだ?」
「い、言いたいことは一つだけです。グロー様、今からでも遅くはありません。エミリア様に対して、謝罪の言葉を発せられてはいかがでしょう」
「ふざけるな!!」
「ひっ!?!?」
部下の男は非常に真っ当な事を言っていたのだが、その言葉は強い口調のグローの言葉の前に封じ込まれる。
「僕がそんなことなどできるわけがないだろう!いいか、悪いのはすべて向こうの方じゃないか!だというのに僕が日和ってここで謝罪などしたら、それこそ我々の威信は地に落ちる!今ならまだ誰にも知られずに話を終えることができるんだ!まだこの一件を他の貴族家の連中にはバレていないだろうからな。だというのにそんなことをしてしまったら、自分の方から問題を大きくするだけではないか!」
「で、ですがグロー様、ここまで大々的に我々が動いていたら、もうきっと他の貴族家も情報をつかんでいる頃かもしれません。もしもそうだったら、今のグロー様の行動はむしろ彼らを面白がらせて喜ばせることに…」
「ふざけたことを言うんじゃない!まだバレているはずがないであろう!僕が大丈夫だと言ったら大丈夫に決まっているじゃないか!!」
皮肉なことに、部下の男の言っていることはすべて現実のものとなっていた。
それゆえに、ここではその意見にのって自分の方からエミリアのもとに出向き、これまでの非礼を詫びるよう行動する方がより賢い選択であると言えた。
それならば他の貴族家たちが介入する要素も最小限で済み、話はすぐに終わりを迎えることとなっただろう。
…しかし、グローが選んだのは泥沼の結末になるであろう選択だった。
それは他の貴族家を心から喜ばせるものとなり、ひいては自分たちの立場を今以上に苦しいものとすることとなるのであるが、グローはその事まで考えを及ぼすことができなかった。
「エミリアのために我々が評判を落とすことなどあってはならない…。一度でも謝ってしまったなら、全てこちらが悪いという事になってしまうではないか。そんなもの到底受け入れられない」
「……」
…もはや何を言っても聞く耳を持たない様子のグロー。
部下の者たちは少し、また少しとグローに対する気持ちを薄いものとしていっているのだが、グローはそんな彼らの心の変化には全く気付くことなく、そのまま続けてこう言葉を発した。
「とにかく、エミリアを見つけてここまで連れ戻すしかない。その後大々的に事態の終結を宣言し、他の貴族家たちが付け入る隙を与えないようにするだけだ。それですべてはうまくいく。お前たちはこの僕を信じて、うまくやってくれればそれでいいんだ」
「「……」」
…その時彼らがすでにグローに対するあきらめの表情を見せていたという事に、グローは気づかないままだった…。
それが彼の家が貴族家として破滅する、第一歩となることも知らず…。
「どうやら、グローの所から婚約者がいなくなったという話は本当の事らしいですな…」
「やれやれ、貴族家たるものみすみす婚約者に逃げられるなど、恥ずかしいとは思わないのか…?」
互いの現状を話し合う貴族会議の場において、複数の人たちが会場の隅に集まって雑談を繰り広げていた。
その議題の中心は、グローの元から去っていったエミリアの話でもちきりになっており、同じ貴族家どうしであるためか、その話はすでに多くの人の知るところとなっていた。
「それで、その彼女はどうしていなくなったんだ?あの家でなにか問題があったというのか?」
「さぁ、詳しくは分からないが…。ただ、なにもないのに出ていったりはしないだろう?絶対何かあったに違いないぞこれは…♪」
グロー本人が話が大きくならないように徹していたのとは反対に、すでに事態は大きく広まっていきつつあった。
「久々に面白そうなことが起こったな。最近はなかなか暇を持て余していたから、これは意外と楽しめる案件かもしれないぞ?」
「あぁ、まったくだとも♪」
グローが最も嫌がる事態、それがまさに自分の知らないところで起こっていた。
――同じ時、グローの屋敷では――
「どうだ、エミリアの行方は見つかったか??」
「いえ、今だにさっぱりで…」
「こちらも全く情報有りません…。今だに手掛かりなしと言ったところで…」
彼らはエミリアの行方を必死に探していた。
それはエミリアの事を心配しているからではなく、彼女がこの家を捨てたという事実が彼らにとって非常に都合の悪いものだったからだ。
「エミリアの行きそうなところはすべてチェックしたんだが…。一体どこで何をしているというのか…」
「…あの、グロー様…」
「…なんだ?」
するとその時、部下の一人が恐る恐るといった雰囲気でグローに対して言葉を発し、なにか意見するような姿を見せた。
「このような事は言いたくはないのですけれど、やはりグロー様の態度に問題があったのではありませんか…?」
「……」
「出ていっても代わりはいくらでもいるとか、愛してもいないなどと言う言葉をかけなければ、このような事にはならなかったと思うのです…」
「…何が言いたいんだ?」
「い、言いたいことは一つだけです。グロー様、今からでも遅くはありません。エミリア様に対して、謝罪の言葉を発せられてはいかがでしょう」
「ふざけるな!!」
「ひっ!?!?」
部下の男は非常に真っ当な事を言っていたのだが、その言葉は強い口調のグローの言葉の前に封じ込まれる。
「僕がそんなことなどできるわけがないだろう!いいか、悪いのはすべて向こうの方じゃないか!だというのに僕が日和ってここで謝罪などしたら、それこそ我々の威信は地に落ちる!今ならまだ誰にも知られずに話を終えることができるんだ!まだこの一件を他の貴族家の連中にはバレていないだろうからな。だというのにそんなことをしてしまったら、自分の方から問題を大きくするだけではないか!」
「で、ですがグロー様、ここまで大々的に我々が動いていたら、もうきっと他の貴族家も情報をつかんでいる頃かもしれません。もしもそうだったら、今のグロー様の行動はむしろ彼らを面白がらせて喜ばせることに…」
「ふざけたことを言うんじゃない!まだバレているはずがないであろう!僕が大丈夫だと言ったら大丈夫に決まっているじゃないか!!」
皮肉なことに、部下の男の言っていることはすべて現実のものとなっていた。
それゆえに、ここではその意見にのって自分の方からエミリアのもとに出向き、これまでの非礼を詫びるよう行動する方がより賢い選択であると言えた。
それならば他の貴族家たちが介入する要素も最小限で済み、話はすぐに終わりを迎えることとなっただろう。
…しかし、グローが選んだのは泥沼の結末になるであろう選択だった。
それは他の貴族家を心から喜ばせるものとなり、ひいては自分たちの立場を今以上に苦しいものとすることとなるのであるが、グローはその事まで考えを及ぼすことができなかった。
「エミリアのために我々が評判を落とすことなどあってはならない…。一度でも謝ってしまったなら、全てこちらが悪いという事になってしまうではないか。そんなもの到底受け入れられない」
「……」
…もはや何を言っても聞く耳を持たない様子のグロー。
部下の者たちは少し、また少しとグローに対する気持ちを薄いものとしていっているのだが、グローはそんな彼らの心の変化には全く気付くことなく、そのまま続けてこう言葉を発した。
「とにかく、エミリアを見つけてここまで連れ戻すしかない。その後大々的に事態の終結を宣言し、他の貴族家たちが付け入る隙を与えないようにするだけだ。それですべてはうまくいく。お前たちはこの僕を信じて、うまくやってくれればそれでいいんだ」
「「……」」
…その時彼らがすでにグローに対するあきらめの表情を見せていたという事に、グローは気づかないままだった…。
それが彼の家が貴族家として破滅する、第一歩となることも知らず…。
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