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第3話
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――エミリアの思い――
「ど、どうしようかな…。まさかこんな大きな事になっているなんて…」
元いた場所から少し離れたところに身を隠しながら、エミリアは小さな声でそう言葉をつぶやいた。
たった今貴族家たちの間では、彼女の家出を中心とする話題でもちきりになっており、それは彼女が狙ったものでは全くなかった。
「ほんの一瞬だけ家を空けようと思ってただけなんだけれど、なんだかすごいことになっちゃってるよ…」
「エミリア、最初からそこまで分かってたんじゃないのか?」
「そんなまさか……」
「はぁ……」
そんなエミリアの言葉を聞いてため息をつくのは、エミリアの実の兄であるルフラット。
彼はこの場所で鍛冶屋を営んでおり、エミリアは当初短い間だけルフラットのもとに身を隠し、グローに対する小さな仕返しをしようと考えたのだった。
「噂に聞くと、グロー様は君を見失ってかなり焦っているらしい。周囲の貴族からの視線が気になって仕事が手につかず、状態も全く落ち着かないという話だ」
「それは別にいいんですけど…。私が心配なのは、この先私たちが貴族家の皆様からどう思われるかという事です…。お兄様にまでご迷惑をおかけしてしまったら、それこそ申し訳なくって…」
「あぁ、それなら心配ないとも」
ルフラットは心配そうな表情を浮かべるエミリアの事を軽く手で制すると、そのままそう思った理由を説明しにかかる。
「貴族会議の様子も少し話には聞いたけれど、彼らは完全に君の味方な様子だったとのことだ。元々グロー様は貴族として少し身に余る行動をとるところがあって、その点は他の貴族たちからも問題視されていたらしい。そんなところで君が婚約者としてはなかなかぶっとんだ行動を起こしたことで、彼を非難するこの上ない建前を作ったことになったんだ。だから、彼らにしてみれば君は正義の告発者とでも言いたげな様子らしい」
「そんな大げさな…。私、ただただ彼の元から家出してきただけですよ?」
「それでも、向こうにはこの上ないほどの焦りを与えたというわけだ。そもそも、最初に挑発的な事を言ってきたのは向こうの方からなんだろう?それなら君が気にすることは全くないじゃないか」
「そういうものですかね?」
「そういうものだとも」
優しい口調でエミリアの言葉に協調してみせるルフラット。
それは妹を思う兄の温かい思いからくるものが大きいのであろうが、他の感情も少しあった様子…。
「…お兄様、お兄様もこの状況を面白がってませんか?」
「ギク」
「……」
「……」
「……」
「……」
――貴族会の会話――
「それで、さすがにグローは自らの婚約者が失踪したことを認めたのか?」
「いえ、頑なに認めていません。これ以上否定を続けることなど困難であるというのに、なんとあきらめの悪い…」
「いや、こちらとしてはその方がいいでしょう。簡単に認められて謝られても、話はそれで終わってしまいますからね♪」
「なるほど、確かに。彼が悪あがきをすればするほど、我々は今回のショーを続けて楽しめるというわけですな?」
グローは今だ必死にエミリアの一件を秘匿し続けていた。
しかし、他の貴族家の元にはすでにその詳細の話が出回っており、むしろ彼らが持つ情報はグローよりも詳しいものであった。
なぜなら、貴族会に所属する一部の貴族がルフラットと顔見知りであり、エミリアに関する話をそこから入手していたためである。
逆に言えば、グローが自分のやってしまったことをすべて素直に貴族会に顔を出して報告していたなら、エミリアとの関係を一番いい形で解決することが叶っており、ここまで事態を大きくすることもなかった。
彼が自分の事を否定すればするほど解決からほど遠くなっていき、さらにそれが他の貴族たちを喜ばせる結果となっていくことほど、皮肉と言えることはなかった。
「エミリア様の居場所は我々でさえ知っているというのに、当のグロー様本人がまだ知らないとは、なんという事か」
「だからこそ家出を否定することに何の意味もないというのに、どうしてその事に気づきもしないのか…。エミリア様が家出をした理由が、なんだかよくわかる気がしますねぇ…。あんな愚かな男の元では、いくら貴族家の夫人になれると言えど心が苦しかったことでしょう」
「それに加えて、グロー様はかなり態度が大きいとして知られていますからね。むしろ彼女はこれまでよく頑張った方なのではないですか?」
ルフラットが考えていた通り、貴族会の流れは完全にエミリアに味方していた。
もっとも、それ以前にグローが彼らから嫌われすぎていただけなのかもしれないが…。
「ともかく、これからグロー様の動向が楽しみでなりませんね。この先いったいどのような言い訳の言葉を羅列してくるのか、期待して待っていましょう♪」
「ど、どうしようかな…。まさかこんな大きな事になっているなんて…」
元いた場所から少し離れたところに身を隠しながら、エミリアは小さな声でそう言葉をつぶやいた。
たった今貴族家たちの間では、彼女の家出を中心とする話題でもちきりになっており、それは彼女が狙ったものでは全くなかった。
「ほんの一瞬だけ家を空けようと思ってただけなんだけれど、なんだかすごいことになっちゃってるよ…」
「エミリア、最初からそこまで分かってたんじゃないのか?」
「そんなまさか……」
「はぁ……」
そんなエミリアの言葉を聞いてため息をつくのは、エミリアの実の兄であるルフラット。
彼はこの場所で鍛冶屋を営んでおり、エミリアは当初短い間だけルフラットのもとに身を隠し、グローに対する小さな仕返しをしようと考えたのだった。
「噂に聞くと、グロー様は君を見失ってかなり焦っているらしい。周囲の貴族からの視線が気になって仕事が手につかず、状態も全く落ち着かないという話だ」
「それは別にいいんですけど…。私が心配なのは、この先私たちが貴族家の皆様からどう思われるかという事です…。お兄様にまでご迷惑をおかけしてしまったら、それこそ申し訳なくって…」
「あぁ、それなら心配ないとも」
ルフラットは心配そうな表情を浮かべるエミリアの事を軽く手で制すると、そのままそう思った理由を説明しにかかる。
「貴族会議の様子も少し話には聞いたけれど、彼らは完全に君の味方な様子だったとのことだ。元々グロー様は貴族として少し身に余る行動をとるところがあって、その点は他の貴族たちからも問題視されていたらしい。そんなところで君が婚約者としてはなかなかぶっとんだ行動を起こしたことで、彼を非難するこの上ない建前を作ったことになったんだ。だから、彼らにしてみれば君は正義の告発者とでも言いたげな様子らしい」
「そんな大げさな…。私、ただただ彼の元から家出してきただけですよ?」
「それでも、向こうにはこの上ないほどの焦りを与えたというわけだ。そもそも、最初に挑発的な事を言ってきたのは向こうの方からなんだろう?それなら君が気にすることは全くないじゃないか」
「そういうものですかね?」
「そういうものだとも」
優しい口調でエミリアの言葉に協調してみせるルフラット。
それは妹を思う兄の温かい思いからくるものが大きいのであろうが、他の感情も少しあった様子…。
「…お兄様、お兄様もこの状況を面白がってませんか?」
「ギク」
「……」
「……」
「……」
「……」
――貴族会の会話――
「それで、さすがにグローは自らの婚約者が失踪したことを認めたのか?」
「いえ、頑なに認めていません。これ以上否定を続けることなど困難であるというのに、なんとあきらめの悪い…」
「いや、こちらとしてはその方がいいでしょう。簡単に認められて謝られても、話はそれで終わってしまいますからね♪」
「なるほど、確かに。彼が悪あがきをすればするほど、我々は今回のショーを続けて楽しめるというわけですな?」
グローは今だ必死にエミリアの一件を秘匿し続けていた。
しかし、他の貴族家の元にはすでにその詳細の話が出回っており、むしろ彼らが持つ情報はグローよりも詳しいものであった。
なぜなら、貴族会に所属する一部の貴族がルフラットと顔見知りであり、エミリアに関する話をそこから入手していたためである。
逆に言えば、グローが自分のやってしまったことをすべて素直に貴族会に顔を出して報告していたなら、エミリアとの関係を一番いい形で解決することが叶っており、ここまで事態を大きくすることもなかった。
彼が自分の事を否定すればするほど解決からほど遠くなっていき、さらにそれが他の貴族たちを喜ばせる結果となっていくことほど、皮肉と言えることはなかった。
「エミリア様の居場所は我々でさえ知っているというのに、当のグロー様本人がまだ知らないとは、なんという事か」
「だからこそ家出を否定することに何の意味もないというのに、どうしてその事に気づきもしないのか…。エミリア様が家出をした理由が、なんだかよくわかる気がしますねぇ…。あんな愚かな男の元では、いくら貴族家の夫人になれると言えど心が苦しかったことでしょう」
「それに加えて、グロー様はかなり態度が大きいとして知られていますからね。むしろ彼女はこれまでよく頑張った方なのではないですか?」
ルフラットが考えていた通り、貴族会の流れは完全にエミリアに味方していた。
もっとも、それ以前にグローが彼らから嫌われすぎていただけなのかもしれないが…。
「ともかく、これからグロー様の動向が楽しみでなりませんね。この先いったいどのような言い訳の言葉を羅列してくるのか、期待して待っていましょう♪」
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