4 / 6
第4話
しおりを挟む
――グローの思い――
「い、一体何が起こっている…!?どうして日に日に人数が少なくなっていくんだ!?」
「わ、私にはなんとも…。ただ少なくとも少し前までは、我々に協力する人間が多くいたのですが…」
エミリアの捜索が続けられていたある日の事、グローは一人の部下を呼び出してそう言葉をかけた。
たった今彼はその表情にかなりの焦りの色を示しているわけであるが、そこにはある一つの理由があった。
最近になって、これまで自分に忠義を約束してきていた者たちが一人ずついなくなっていってしまっていたのだ。
「どうしてこんなことになっているのか、調査をしておけといっただろう!このままではエミリアを連れ戻すことはおろか、我が家を存続させることさえも困難になってしまうぞ!」
「そ、それは分かっているのですが…」
「分かっているのですが、なんだ?いいわけでもするのか?」
「そ、それは…」
グローに対して非常に言葉を発しづらそうにしている部下の男。
しかし、このまま黙っているだけでは何の進展にもならないと思ったのか、意を決してその思いをそのままグローに対して口にした。
「こ、こんなことは非常に申し上げにくいのですが…。実は最近になって、グロー様に対する貴族会の動きが非常に不安定になっていっています…。エミリア様を追放したことがあだとなっているようで…」
「ちょっと待て!僕はエミリアの事を追放などしていないぞ!向こうが勝手に出て言ったんじゃないか!そこに僕に対する責任など微塵もありはしないだろう!」
「で、ですが、周りの方々はそうは思っておられない様子でして…」
その言葉が、こんな事態を引き起こしたグローに対する答えだった。
それはそのままこの実情を端的に表しているものであり、一切の偽りやでたらめはなかった。
…ただ、その現実をグローがそのまま受け入れられるかどうかは全く別の話だった。
「そんなもの知ったことか!それを何とかするのがお前の仕事なんじゃないのか!」
「わ、私にはどうにもできませんよ…。他の貴族家に話を通すというのなら、この家の長であられるグロー様に動いていただかないことにはなにもできません…。私がどこの誰に話をしようとも、グロー様が動いていただかないことにはなにも進展しません…」
「生意気なことを言うんじゃない!そもそもこんなことになったのはエミリアを管理していなかったお前のせいじゃないのか!僕に対して申し訳ないとは思わないのか!」
エミリアがいなくなった原因は、誰の目にもグローにあることくらい明らかなことだろう。
彼女に家出を迫っておきながら、本当にいなくなってしまったら今度はその責任を彼女自身のせいにしようとしているところもまた、グローの器の小ささを露呈する結果となっていた。
「いいから早くエミリアを連れ戻すんだ!今ならまだどうとでもなるタイミングだろう!」
「そ、それがもうそういうタイミングでもないと思われます…。グロー様がエミリア様の失踪に関する話を全てシャットダウンしてしまったのが裏目に出てしまったようで、他の貴族家の人々はその話を面白がって拡散させ続けていますし…」
「ま、まさかそんな……」
自分がエミリアの失踪を認めさえしなければ、まだどうとでも取り返せると考えていたグロー。
しかしその考えは甘いと言わざるを得ず、現実に彼の考えは全く反映されることなく終わりを迎えようとしていた。
…そもそも、こんな状況になってもなお自分の元から離れずにいるこの部下の存在をグローはありがたがるべきなのだが、そこにさえ気づいていない時点でエミリアとの関係を切り返せるほどの可能性を感じることは不可能と言ってよかった。
「エミリアのやつめ、僕への恩義を忘れてこんなことをしよって…。僕以外に婚約してくれる相手などこの世界に誰一人いないことだろう…。どうしてそんな簡単なことに気づけないのか…。子供にだってわかりそうな理屈だというのに…」
「…グロー様、やはりエミリア様に対して謝罪の言葉をお伝えになられた方がよろしいかと思うのですが…」
「ふざけるな!僕の方が絶対的に彼女よりも位が上なんだぞ!なのにどうしてこちらから謝らなければならないんだ!むしろ向こうの方から謝りに来るのが筋というものだろう!これだけ僕に迷惑をかけているというのに、平然とした雰囲気で今もどこかで生きていると思うと、その事の方が腹が立って仕方がない!」
「……」
…強気な雰囲気でそう言葉を発するグローの姿を見て、部下の男はややあきらめの表情を浮かべてみせる。
その瞬間、グローはまた一人自分の事を慕う部下の存在を失ったことになったのだが、彼自身がその事に気づいている様子は全くない。
むしろ、これ以上に状況を悪化させることの方にばかり気を取られているようにさえ感じ取れる…。
「い、一体何が起こっている…!?どうして日に日に人数が少なくなっていくんだ!?」
「わ、私にはなんとも…。ただ少なくとも少し前までは、我々に協力する人間が多くいたのですが…」
エミリアの捜索が続けられていたある日の事、グローは一人の部下を呼び出してそう言葉をかけた。
たった今彼はその表情にかなりの焦りの色を示しているわけであるが、そこにはある一つの理由があった。
最近になって、これまで自分に忠義を約束してきていた者たちが一人ずついなくなっていってしまっていたのだ。
「どうしてこんなことになっているのか、調査をしておけといっただろう!このままではエミリアを連れ戻すことはおろか、我が家を存続させることさえも困難になってしまうぞ!」
「そ、それは分かっているのですが…」
「分かっているのですが、なんだ?いいわけでもするのか?」
「そ、それは…」
グローに対して非常に言葉を発しづらそうにしている部下の男。
しかし、このまま黙っているだけでは何の進展にもならないと思ったのか、意を決してその思いをそのままグローに対して口にした。
「こ、こんなことは非常に申し上げにくいのですが…。実は最近になって、グロー様に対する貴族会の動きが非常に不安定になっていっています…。エミリア様を追放したことがあだとなっているようで…」
「ちょっと待て!僕はエミリアの事を追放などしていないぞ!向こうが勝手に出て言ったんじゃないか!そこに僕に対する責任など微塵もありはしないだろう!」
「で、ですが、周りの方々はそうは思っておられない様子でして…」
その言葉が、こんな事態を引き起こしたグローに対する答えだった。
それはそのままこの実情を端的に表しているものであり、一切の偽りやでたらめはなかった。
…ただ、その現実をグローがそのまま受け入れられるかどうかは全く別の話だった。
「そんなもの知ったことか!それを何とかするのがお前の仕事なんじゃないのか!」
「わ、私にはどうにもできませんよ…。他の貴族家に話を通すというのなら、この家の長であられるグロー様に動いていただかないことにはなにもできません…。私がどこの誰に話をしようとも、グロー様が動いていただかないことにはなにも進展しません…」
「生意気なことを言うんじゃない!そもそもこんなことになったのはエミリアを管理していなかったお前のせいじゃないのか!僕に対して申し訳ないとは思わないのか!」
エミリアがいなくなった原因は、誰の目にもグローにあることくらい明らかなことだろう。
彼女に家出を迫っておきながら、本当にいなくなってしまったら今度はその責任を彼女自身のせいにしようとしているところもまた、グローの器の小ささを露呈する結果となっていた。
「いいから早くエミリアを連れ戻すんだ!今ならまだどうとでもなるタイミングだろう!」
「そ、それがもうそういうタイミングでもないと思われます…。グロー様がエミリア様の失踪に関する話を全てシャットダウンしてしまったのが裏目に出てしまったようで、他の貴族家の人々はその話を面白がって拡散させ続けていますし…」
「ま、まさかそんな……」
自分がエミリアの失踪を認めさえしなければ、まだどうとでも取り返せると考えていたグロー。
しかしその考えは甘いと言わざるを得ず、現実に彼の考えは全く反映されることなく終わりを迎えようとしていた。
…そもそも、こんな状況になってもなお自分の元から離れずにいるこの部下の存在をグローはありがたがるべきなのだが、そこにさえ気づいていない時点でエミリアとの関係を切り返せるほどの可能性を感じることは不可能と言ってよかった。
「エミリアのやつめ、僕への恩義を忘れてこんなことをしよって…。僕以外に婚約してくれる相手などこの世界に誰一人いないことだろう…。どうしてそんな簡単なことに気づけないのか…。子供にだってわかりそうな理屈だというのに…」
「…グロー様、やはりエミリア様に対して謝罪の言葉をお伝えになられた方がよろしいかと思うのですが…」
「ふざけるな!僕の方が絶対的に彼女よりも位が上なんだぞ!なのにどうしてこちらから謝らなければならないんだ!むしろ向こうの方から謝りに来るのが筋というものだろう!これだけ僕に迷惑をかけているというのに、平然とした雰囲気で今もどこかで生きていると思うと、その事の方が腹が立って仕方がない!」
「……」
…強気な雰囲気でそう言葉を発するグローの姿を見て、部下の男はややあきらめの表情を浮かべてみせる。
その瞬間、グローはまた一人自分の事を慕う部下の存在を失ったことになったのだが、彼自身がその事に気づいている様子は全くない。
むしろ、これ以上に状況を悪化させることの方にばかり気を取られているようにさえ感じ取れる…。
12
あなたにおすすめの小説
婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜
みおな
恋愛
王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。
「お前との婚約を破棄する!!」
私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。
だって、私は何ひとつ困らない。
困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。
貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
私はずっと、貴方のことが好きなのです。
でも貴方は私を嫌っています。
だから、私は命を懸けて今日も嘘を吐くのです。
貴方が心置きなく私を嫌っていられるように。
貴方を「嫌い」なのだと告げるのです。
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
冤罪で婚約破棄したくせに……今さらもう遅いです。
水垣するめ
恋愛
主人公サラ・ゴーマン公爵令嬢は第一王子のマイケル・フェネルと婚約していた。
しかしある日突然、サラはマイケルから婚約破棄される。
マイケルの隣には男爵家のララがくっついていて、「サラに脅された!」とマイケルに訴えていた。
当然冤罪だった。
以前ララに対して「あまり婚約しているマイケルに近づくのはやめたほうがいい」と忠告したのを、ララは「脅された!」と改変していた。
証拠は無い。
しかしマイケルはララの言葉を信じた。
マイケルは学園でサラを罪人として晒しあげる。
そしてサラの言い分を聞かずに一方的に婚約破棄を宣言した。
もちろん、ララの言い分は全て嘘だったため、後に冤罪が発覚することになりマイケルは周囲から非難される……。
妻よりも幼馴染が大事? なら、家と慰謝料はいただきます
佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢セリーヌは、隣国の王子ブラッドと政略結婚を果たし、幼い娘クロエを授かる。結婚後は夫の王領の離宮で暮らし、義王家とも程よい関係を保ち、領民に親しまれながら穏やかな日々を送っていた。
しかし数ヶ月前、ブラッドの幼馴染である伯爵令嬢エミリーが離縁され、娘アリスを連れて実家に戻ってきた。元は豊かな家柄だが、母子は生活に困っていた。
ブラッドは「昔から家族同然だ」として、エミリー母子を城に招き、衣装や馬車を手配し、催しにも同席させ、クロエとアリスを遊ばせるように勧めた。
セリーヌは王太子妃として堪えようとしたが、だんだんと不満が高まる。
(完結)婚約を破棄すると言われましても、そもそも貴方の家は先日お取り潰しになっていましたよね?
にがりの少なかった豆腐
恋愛
同じ学園に通う婚約者に婚約破棄を言い渡される
しかし、その相手は既に貴族ではなくなっていた。それに学園に居る事自体おかしいはずなのに
とっくに婚約は破棄されているのに、それに気づいていないのかしら?
※この作品は、旧題:婚約破棄? いえ、そもそも貴方の家は先日お取り潰しになっていますよ? を加筆修正した作品となります。
地味でつまらない私は、殿下の婚約者として相応しくなかったのではありませんか?
木山楽斗
恋愛
「君のような地味でつまらない女は僕には相応しくない」
侯爵令嬢イルセアは、婚約者である第三王子からある日そう言われて婚約破棄された。
彼は貴族には華やかさが重要であると考えており、イルセアとは正反対の派手な令嬢を婚約者として迎えることを、独断で決めたのである。
そんな彼の行動を愚かと思いながらも、イルセアは変わる必要があるとも考えていた。
第三王子の批判は真っ当なものではないと理解しながらも、一理あるものだと彼女は感じていたのである。
そこでイルセアは、兄の婚約者の手を借りて派手過ぎない程に自らを着飾った。
そして彼女は、婚約破棄されたことによって自身に降りかかってきた悪評などを覆すためにも、とある舞踏会に臨んだのだ。
その舞踏会において、イルセアは第三王子と再会することになった。
彼はイルセアのことを誰であるか知らずに、初対面として声をかけてきたのである。
意気揚々と口説いてくる第三王子に対して、イルセアは言葉を返した。
「地味でつまらない私は、殿下の婚約者として相応しくなかったのではありませんか?」と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる