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第1話
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貴族家の中においても大きな影響力を持っている、リューグ伯爵。
そんなリューグ伯爵には、自らが認める一人の婚約者がいた。
「ソフィー、僕は今日と明日は屋敷には戻らないから、こっちの事はよろしく頼むよ」
「承知いたしました」
リューグ伯爵が声をかけたソフィーが、その婚約相手である。
彼女はもともと侯爵令嬢であり、その存在は貴族の人々の間ではそれなりに知られていた。
というのも、彼女が非常に穏やかで心優しい性格であるために、将来婚約を考えたいと心の中に思う人々が多かったためである。
「それじゃあ行ってくるよ」
「いってらっしゃいませ、伯爵様」
丁寧な口調で、それでいて暖かい雰囲気で伯爵の事を見送るソフィー。
整った容姿をしており、どちらかといえば美人と言ってもいい顔立ちのソフィーからそう言葉をかけられることを、多くの貴族家の男性は望んでいた。
しかし結局そのレースは伯爵が権力を誇示する形で勝利を収めることとなり、伯爵が相手とあっては他の男性たちもソフィーの事を諦めるしかなかった。
…しかし、伯爵はソフィーに対する愛情というものを持ってはいないのだった…。
――――
「ソフィー様、少しお休みになられてはいかがですか?こうも動かれてばかりでは体に毒ですよ?」
伯爵家の使用人であるルグレスが、ソフィーの体を気遣いながらそう言葉を告げる。
というのも、レグルスは使用人でありながらソフィーに対して淡い恋心を抱いており、なかなか割り切れない思いをその胸の内に抱いていたのだった。
「ありがとうルグレス。だけど、私は伯爵夫人になったわけだから…。休んでいたら、伯爵様の事をがっかりさせてしまうかもしれないし…」
「伯爵様の事、そこまで思われているのですね…。うらやましい…」
「はい?」
「い、いえ!!なんでもないです!!」
しかし当然、ルグレスはその思いが許されるものではないという事を重々理解している。
だからこそ自分の思いは完全にあきらめており、あくまで自分はリューグ伯爵とソフィーの関係をサポートするのが使命なのだと心の中に誓っていた。
「伯爵様は数日は戻られないそうですね。かなりお忙しいのでしょうか?」
「私も詳しくは聞かされていないけれど…。伯爵様は貴族会の取り仕切りを任されているらしいから、きっとすぐに終わるものでもないのでしょうね…」
このような形で伯爵が屋敷を空けることは、決して珍しい事ではなかった。
ゆえに、このような状況が続くことを感じて、ソフィーは本当に自分が伯爵から愛されているのかどうかを心の中に少し疑問に感じたりすることもあったが、そうに決まっていると信じて伯爵に尽くすことをその胸の中で誓っていた。
…そんな純粋なソフィーの様子を見つつ、ルグレスはその心の中に複雑な思いを抱いていた。
「(…ソフィー様は完全に伯爵様の事を信用されている様子だけれど、僕が見る限り、たぶん伯爵様はそこまでソフィー様の事を愛されていない…。これじゃあ、ソフィー様が気の毒でならないよ…)」
ルグレスはそう思いだけのきっかけに、心当たりがあった。
「(そもそも伯爵様は、ソフィー様が周りから人気だったから婚約を決めることにしただけで、ソフィー様を愛しているから婚約を決めたわけじゃない…。ソフィー様は純粋でまっすぐな性格をしていて、それでいて整った顔立ちをされていたから、貴族男性からはかなり人気を得ていた。いったい誰が彼女の心を手にするのかという戦いが水面下で繰り広げられていたけれど、そんな戦いに目を付けたのが伯爵様だった。彼はソフィー様の事を他の貴族男性が欲しがっているという事を知って、なら自分が手に入れてやるという思いだけで婚約を決めてしまった…。他の貴族たちも思うところはあっただろうけど、伯爵様が決定したことなのだから逆らえるはずもない…。そして今、伯爵様はソフィー様に対して冷たい態度を取り続けている…。これはもう誰がどう見たって、伯爵様はソフィー様に対する愛情を持っていないじゃないか…)」
ソフィーの幸せを心から願っているルグレスは、ソフィーが伯爵からずさんに扱われることだけを恐れていた。
伯爵の元で使用人をする彼の元には、当然伯爵を経由していろいろな情報がその耳に入ってくる。
そのいずれもソフィーの事を幸せにするものではなく、むしろソフィーの純粋な思いを踏みにじるものが多かった。
「…ルグレス、大丈夫?顔色が悪いみたいだけれど…」
「い、いえ!大丈夫ですよ!」
「本当に?なにか気になることがあったら私が伯爵様に相談してみるけれど…」
「だ、大丈夫ですよ、本当に…」
言いたいこと、伝えたいことはたくさんその心の中に抱えているルグレス。
…伯爵がどうして数日戻ってこないのか、その理由もまた彼はうっすらと察していた。
だからこそその胸の中にある思いはすべて複雑なものであり、目の前で懸命に伯爵に尽くそうとしているソフィーの事がまっすぐな目で見られなかった…。
そんなリューグ伯爵には、自らが認める一人の婚約者がいた。
「ソフィー、僕は今日と明日は屋敷には戻らないから、こっちの事はよろしく頼むよ」
「承知いたしました」
リューグ伯爵が声をかけたソフィーが、その婚約相手である。
彼女はもともと侯爵令嬢であり、その存在は貴族の人々の間ではそれなりに知られていた。
というのも、彼女が非常に穏やかで心優しい性格であるために、将来婚約を考えたいと心の中に思う人々が多かったためである。
「それじゃあ行ってくるよ」
「いってらっしゃいませ、伯爵様」
丁寧な口調で、それでいて暖かい雰囲気で伯爵の事を見送るソフィー。
整った容姿をしており、どちらかといえば美人と言ってもいい顔立ちのソフィーからそう言葉をかけられることを、多くの貴族家の男性は望んでいた。
しかし結局そのレースは伯爵が権力を誇示する形で勝利を収めることとなり、伯爵が相手とあっては他の男性たちもソフィーの事を諦めるしかなかった。
…しかし、伯爵はソフィーに対する愛情というものを持ってはいないのだった…。
――――
「ソフィー様、少しお休みになられてはいかがですか?こうも動かれてばかりでは体に毒ですよ?」
伯爵家の使用人であるルグレスが、ソフィーの体を気遣いながらそう言葉を告げる。
というのも、レグルスは使用人でありながらソフィーに対して淡い恋心を抱いており、なかなか割り切れない思いをその胸の内に抱いていたのだった。
「ありがとうルグレス。だけど、私は伯爵夫人になったわけだから…。休んでいたら、伯爵様の事をがっかりさせてしまうかもしれないし…」
「伯爵様の事、そこまで思われているのですね…。うらやましい…」
「はい?」
「い、いえ!!なんでもないです!!」
しかし当然、ルグレスはその思いが許されるものではないという事を重々理解している。
だからこそ自分の思いは完全にあきらめており、あくまで自分はリューグ伯爵とソフィーの関係をサポートするのが使命なのだと心の中に誓っていた。
「伯爵様は数日は戻られないそうですね。かなりお忙しいのでしょうか?」
「私も詳しくは聞かされていないけれど…。伯爵様は貴族会の取り仕切りを任されているらしいから、きっとすぐに終わるものでもないのでしょうね…」
このような形で伯爵が屋敷を空けることは、決して珍しい事ではなかった。
ゆえに、このような状況が続くことを感じて、ソフィーは本当に自分が伯爵から愛されているのかどうかを心の中に少し疑問に感じたりすることもあったが、そうに決まっていると信じて伯爵に尽くすことをその胸の中で誓っていた。
…そんな純粋なソフィーの様子を見つつ、ルグレスはその心の中に複雑な思いを抱いていた。
「(…ソフィー様は完全に伯爵様の事を信用されている様子だけれど、僕が見る限り、たぶん伯爵様はそこまでソフィー様の事を愛されていない…。これじゃあ、ソフィー様が気の毒でならないよ…)」
ルグレスはそう思いだけのきっかけに、心当たりがあった。
「(そもそも伯爵様は、ソフィー様が周りから人気だったから婚約を決めることにしただけで、ソフィー様を愛しているから婚約を決めたわけじゃない…。ソフィー様は純粋でまっすぐな性格をしていて、それでいて整った顔立ちをされていたから、貴族男性からはかなり人気を得ていた。いったい誰が彼女の心を手にするのかという戦いが水面下で繰り広げられていたけれど、そんな戦いに目を付けたのが伯爵様だった。彼はソフィー様の事を他の貴族男性が欲しがっているという事を知って、なら自分が手に入れてやるという思いだけで婚約を決めてしまった…。他の貴族たちも思うところはあっただろうけど、伯爵様が決定したことなのだから逆らえるはずもない…。そして今、伯爵様はソフィー様に対して冷たい態度を取り続けている…。これはもう誰がどう見たって、伯爵様はソフィー様に対する愛情を持っていないじゃないか…)」
ソフィーの幸せを心から願っているルグレスは、ソフィーが伯爵からずさんに扱われることだけを恐れていた。
伯爵の元で使用人をする彼の元には、当然伯爵を経由していろいろな情報がその耳に入ってくる。
そのいずれもソフィーの事を幸せにするものではなく、むしろソフィーの純粋な思いを踏みにじるものが多かった。
「…ルグレス、大丈夫?顔色が悪いみたいだけれど…」
「い、いえ!大丈夫ですよ!」
「本当に?なにか気になることがあったら私が伯爵様に相談してみるけれど…」
「だ、大丈夫ですよ、本当に…」
言いたいこと、伝えたいことはたくさんその心の中に抱えているルグレス。
…伯爵がどうして数日戻ってこないのか、その理由もまた彼はうっすらと察していた。
だからこそその胸の中にある思いはすべて複雑なものであり、目の前で懸命に伯爵に尽くそうとしているソフィーの事がまっすぐな目で見られなかった…。
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