2 / 6
第2話
しおりを挟む
――リューグ視点――
「まったくちょろいものだなぁ。あんなに単純な性格の女が大人気だったなんて、貴族の男どもも女を見る目がないと言うか…」
「あら、それじゃあ私はどういったランクになるのでしょう?」
「決まっているだろう?他の見る目のない男たちとは違って、僕には確かな女を見る目を持っている。そんな僕の目に燦然《さんぜん》と輝いて見えるマイアこそ、この世界で最も素敵な女性だとも!」
「まぁ、お上手ですね♪」
伯爵は一人の女性と長椅子に座りながら、その体温を互いに感じ取れるほどの距離で体を寄せていた。
リューグがマイアと呼ぶその女性は、彼にとっては幼馴染の関係に当たり、以前から彼が溺愛を続けている人物であった。
「やっぱり僕の心を満たしてくれるのは君だけだとも。こうして君に会いに来る時間だけが僕は楽しみで、ソフィーとの時間など苦痛で仕方がないんだ」
「クスクス…。それじゃあどうしてソフィーの事を婚約者にすることにしたの?」
聞かずともその理由は分かっている様子のマイア。
しかしあえてそれを質問したのは、自分の方がソフィーよりも伯爵から愛されているのだという事を誇示したかったからなのだろう。
「ソフィーはなぜだか貴族連中から人気だったんだよ。まぁもともと侯爵令嬢だから名は知られていたんだが、それにしたって彼女と結ばれたいと考えている男が多くてな…。だから、この僕がかっさらってやることにしたのさ」
「悪いお方ですねぇ…。貴族の方々は悔しくてたまらなかったのではないですか?」
「それはもうそれはもう、なかなか見ごたえのあるリアクションを見せてくれたよ♪」
伯爵は机の上に用意されたグラスを手に取りながら上機嫌な様子で言葉を続ける。
「ソフィーと婚約する旨を、ソフィーの事を狙っていた奴らに一人ずつ報告して回ってやったんだ。そしたら奴ら、悔しくてたまらないという表情を見せつつも、言葉ではおめでとうございます、自分のことのようにうれしくおもいますなどと言って…♪」
「それを見たいがためにソフィーの事を婚約者にしたのですか?ほんと悪いお方…♪」
「僕は伯爵なんだぞ?こうして立場の違いというものを思い知らせてやるのは大事だろう?」
ルグレスの睨んでいた通り、伯爵はソフィーに対する思いなど一切抱いてはいなかった。
むしろそれどころか、自分の本命となる人物を他に侍らせているのだ。
「それじゃあ伯爵様、私の事はいつ正式な婚約者として迎え入れてくださるのですか?私はその時が待ち遠しくて仕方がないのですが」
「まぁまぁ焦らなくても大丈夫だとも。現に僕の心はもう君の事しか見えていないんだ。それに僕だって何の考えもなくただ嫌がらせでソフィーの事を婚約者にしたわけじゃない。ソフィーは僕がどれだけ好き勝手をしても文句の一つも言ってこないんだよ。だからいくらでも関係を引き延ばすことが出来る。そうやって周囲の貴族連中に傷を与え続けてやって、ここぞというタイミングで婚約破棄をしてやろうと思っているわけだ。このストーリーにおいて、ソフィー以上に適任な女など他にいないのだから」
「なるほど、それはそれは魅力的なストーリーですわね…♪」
これもまたルグレスが心配していた通りの事が現実に起こっていた。
リューグ伯爵はソフィーに対しての思いを全く抱いていないばかりか、自身の幼馴染であるマイアの事を何よりも優先しつつ、ソフィーの事はただの政治的な道具としか見ていないのだった。
「どのタイミングでソフィーの事を捨ててやるかが大事になってくるだろうが、まぁ大した問題ではない。きっと僕がどれだけ怪しい行動をとろうともソフィーは疑ってこないだろうし、伯爵である僕のやることに対してどの貴族たちも文句など言えないだろうからな」
「そういう意味では私は、この世界でもっとも愉快な男性から愛されているのですね!この幸せをソフィーに少しくらい分けてあげたいくらいだわぁ♪」
マイアは楽しくてたまらないという表情を浮かべながら、伯爵の言葉を心待ちにする。
自分が彼の中で一番くらいの高い位置にいるという事が、相当にうれしいらしい。
「ソフィーなんていう馬鹿な人がいてくれたおかげで、こんなにも楽しい思いができるだなんて。彼女には今度直接感謝の言葉を伝えようかしら?」
「それはいいな!なら僕らの正式な婚約式典を行う時、ソフィーの事を招待することにしよう!一体どんな反応を見せてくれるのか、なかなか楽しいことになるとは思わないか?」
「ほんと、伯爵様ったら素敵なお考えばかり言われるんですから♪」
今後のことをイメージするのが楽しくて仕方がないのか、二人はうきうきとした様子でソフィーの事を蔑む発言を繰り返す。
…しかし、二人はこの時全く気づいてはいなかった。
すでにソフィーの事を取り巻く環境は大きく変わりつつあり、その切っ先は他でもない自分たちの喉元に向けられつつあるのだという事に…。
「まったくちょろいものだなぁ。あんなに単純な性格の女が大人気だったなんて、貴族の男どもも女を見る目がないと言うか…」
「あら、それじゃあ私はどういったランクになるのでしょう?」
「決まっているだろう?他の見る目のない男たちとは違って、僕には確かな女を見る目を持っている。そんな僕の目に燦然《さんぜん》と輝いて見えるマイアこそ、この世界で最も素敵な女性だとも!」
「まぁ、お上手ですね♪」
伯爵は一人の女性と長椅子に座りながら、その体温を互いに感じ取れるほどの距離で体を寄せていた。
リューグがマイアと呼ぶその女性は、彼にとっては幼馴染の関係に当たり、以前から彼が溺愛を続けている人物であった。
「やっぱり僕の心を満たしてくれるのは君だけだとも。こうして君に会いに来る時間だけが僕は楽しみで、ソフィーとの時間など苦痛で仕方がないんだ」
「クスクス…。それじゃあどうしてソフィーの事を婚約者にすることにしたの?」
聞かずともその理由は分かっている様子のマイア。
しかしあえてそれを質問したのは、自分の方がソフィーよりも伯爵から愛されているのだという事を誇示したかったからなのだろう。
「ソフィーはなぜだか貴族連中から人気だったんだよ。まぁもともと侯爵令嬢だから名は知られていたんだが、それにしたって彼女と結ばれたいと考えている男が多くてな…。だから、この僕がかっさらってやることにしたのさ」
「悪いお方ですねぇ…。貴族の方々は悔しくてたまらなかったのではないですか?」
「それはもうそれはもう、なかなか見ごたえのあるリアクションを見せてくれたよ♪」
伯爵は机の上に用意されたグラスを手に取りながら上機嫌な様子で言葉を続ける。
「ソフィーと婚約する旨を、ソフィーの事を狙っていた奴らに一人ずつ報告して回ってやったんだ。そしたら奴ら、悔しくてたまらないという表情を見せつつも、言葉ではおめでとうございます、自分のことのようにうれしくおもいますなどと言って…♪」
「それを見たいがためにソフィーの事を婚約者にしたのですか?ほんと悪いお方…♪」
「僕は伯爵なんだぞ?こうして立場の違いというものを思い知らせてやるのは大事だろう?」
ルグレスの睨んでいた通り、伯爵はソフィーに対する思いなど一切抱いてはいなかった。
むしろそれどころか、自分の本命となる人物を他に侍らせているのだ。
「それじゃあ伯爵様、私の事はいつ正式な婚約者として迎え入れてくださるのですか?私はその時が待ち遠しくて仕方がないのですが」
「まぁまぁ焦らなくても大丈夫だとも。現に僕の心はもう君の事しか見えていないんだ。それに僕だって何の考えもなくただ嫌がらせでソフィーの事を婚約者にしたわけじゃない。ソフィーは僕がどれだけ好き勝手をしても文句の一つも言ってこないんだよ。だからいくらでも関係を引き延ばすことが出来る。そうやって周囲の貴族連中に傷を与え続けてやって、ここぞというタイミングで婚約破棄をしてやろうと思っているわけだ。このストーリーにおいて、ソフィー以上に適任な女など他にいないのだから」
「なるほど、それはそれは魅力的なストーリーですわね…♪」
これもまたルグレスが心配していた通りの事が現実に起こっていた。
リューグ伯爵はソフィーに対しての思いを全く抱いていないばかりか、自身の幼馴染であるマイアの事を何よりも優先しつつ、ソフィーの事はただの政治的な道具としか見ていないのだった。
「どのタイミングでソフィーの事を捨ててやるかが大事になってくるだろうが、まぁ大した問題ではない。きっと僕がどれだけ怪しい行動をとろうともソフィーは疑ってこないだろうし、伯爵である僕のやることに対してどの貴族たちも文句など言えないだろうからな」
「そういう意味では私は、この世界でもっとも愉快な男性から愛されているのですね!この幸せをソフィーに少しくらい分けてあげたいくらいだわぁ♪」
マイアは楽しくてたまらないという表情を浮かべながら、伯爵の言葉を心待ちにする。
自分が彼の中で一番くらいの高い位置にいるという事が、相当にうれしいらしい。
「ソフィーなんていう馬鹿な人がいてくれたおかげで、こんなにも楽しい思いができるだなんて。彼女には今度直接感謝の言葉を伝えようかしら?」
「それはいいな!なら僕らの正式な婚約式典を行う時、ソフィーの事を招待することにしよう!一体どんな反応を見せてくれるのか、なかなか楽しいことになるとは思わないか?」
「ほんと、伯爵様ったら素敵なお考えばかり言われるんですから♪」
今後のことをイメージするのが楽しくて仕方がないのか、二人はうきうきとした様子でソフィーの事を蔑む発言を繰り返す。
…しかし、二人はこの時全く気づいてはいなかった。
すでにソフィーの事を取り巻く環境は大きく変わりつつあり、その切っ先は他でもない自分たちの喉元に向けられつつあるのだという事に…。
88
あなたにおすすめの小説
うまくやった、つもりだった
ひがん さく
恋愛
四大貴族、バルディストン公爵家の分家に生まれたオスカーは、ここまでうまくやってきた。
本家の一人娘シルヴィアが王太子の婚約者に選ばれ、オスカーは本家の後継ぎとして養子になった。
シルヴィアを姉と慕い、養父に気に入られ、王太子の側近になり、王太子が子爵令嬢と愛を深めるのを人目につかぬよう手助けをし、シルヴィアとの婚約破棄の準備も整えた。
誠実と王家への忠義を重んじるこの国では、シルヴィアの冷徹さは瑕疵であり、不誠実だと示せば十分だった。
かつてシルヴィアはオスカーが養子になることに反対した。
その姉が後妻か商家の平民に落ちる時が来た。
王太子の権威や素晴らしさを示すという一族の教えすら忘れた姉をオスカーは断罪する。
だが、シルヴィアは絶望もせずに呟いた。
「これだから、分家の者を家に入れるのは嫌だったのよ……」
あなたのことなんて、もうどうでもいいです
もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。
元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。
【完結】そんなに好きなら、そっちへ行けば?
雨雲レーダー
恋愛
侯爵令嬢クラリスは、王太子ユリウスから一方的に婚約破棄を告げられる。
理由は、平民の美少女リナリアに心を奪われたから。
クラリスはただ微笑み、こう返す。
「そんなに好きなら、そっちへ行けば?」
そうして物語は終わる……はずだった。
けれど、ここからすべてが狂い始める。
*完結まで予約投稿済みです。
*1日3回更新(7時・12時・18時)
【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。
五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」
婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。
愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー?
それって最高じゃないですか。
ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。
この作品は
「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。
どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。
幼馴染、幼馴染、そんなに彼女のことが大切ですか。――いいでしょう、ならば、婚約破棄をしましょう。~病弱な幼馴染の彼女は、実は……~
銀灰
恋愛
テリシアの婚約者セシルは、病弱だという幼馴染にばかりかまけていた。
自身で稼ぐこともせず、幼馴染を庇護するため、テシリアに金を無心する毎日を送るセシル。
そんな関係に限界を感じ、テリシアはセシルに婚約破棄を突き付けた。
テリシアに見捨てられたセシルは、てっきりその幼馴染と添い遂げると思われたが――。
その幼馴染は、道化のようなとんでもない秘密を抱えていた!?
はたして、物語の結末は――?
今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから
毛蟹
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。
ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。
彼女は別れろ。と、一方的に迫り。
最後には暴言を吐いた。
「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」
洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。
「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」
彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。
ちゃんと、別れ話をしようと。
ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる