3 / 5
第3話
しおりを挟む
――あの日の記憶――
グレン様は私との婚約を果たしてからというもの、完全に変わってしまわれていた。
最初こそ私の事を大切にしてくれているような振る舞いを見せてくれていたものの、自分の前を他の貴族家の女性が通り過ぎれば視線を奪われたり、自分の方から声を駆けに行ったり、果ては彼女たちの気を引くために自らパーティーを主催することもあった。
ある日の事、そんなグレン様の言動に悲しみを募らせた私は、彼に対してこう言葉を発した。
「グレン様、これ以上はもう我慢ができません…。私はグレン様の言葉を信じて、あなた様のもとに婚約者として参ることを決めたのです。しかし、今私に向けられている言葉はどれも私の思いを裏切るものばかり…。こんな生活が繰り返されるというのなら、私は心が壊れてしまいそうです…」
その言葉を告げた時、私は特別にグレン様の事を断じたいという思いはなかった。
ただただ今の私の思いを正直に、それでいて素直に言葉にして彼につぶやいただけの事。
その裏にあったのは、私が心の中に隠し抱いていた思いの少しでも彼に受け取ってもらえたらうれしいなという思いだけだった。
ただ、そんな私の言葉に対して彼が返した言葉は、それはそれは期待を大きく裏切るものだった。
「…ロミア、君は一体何様になったつもりなんだ?最初から言っているだろう、君はこの僕に選ばれただけの存在なのだ。婚約に至るいきさつを考えても、お互いが持つ能力や過去を考えても、君が僕に大人しく付き従うというのは決定事項だろう?そこに文句を言ってわがままを通そうとするなんて、それはもう度が過ぎたことを言っているとは思わないか?君にはその自覚もないのか?」
グレン様は自信が私にうそをついていることを棚に上げて、一方的な言葉を言い始める。
そこに暖かさややさしさは一切感じられず、私の思いはただただ裏切られたのだということをまざまざと感じさせた。
「ロミア、君は黙って僕に従っていればそれでいいんだよ。余計なことは考えようとするんじゃない」
「し、しかし…。今のままではあまりにも…」
「ロミア、よく聞いてくれ。君が僕の言うことを聞けないというのなら、僕は君の事をここから追放しなければならない。それはすなわち、婚約の破棄を意味するものとなる。…ロミア、せっかく僕との婚約関係を手にするに至ったのに、それを自分のわがままで失うことになるほど愚かなことはないとは思わないか?君だって内心ではそう理解しているんだろう?」
「……」
いうだけ無駄、というのはこのことを言うのかもしれない。
私の思いは一切グレン様の心には届いていない様子で、彼は私がどれだけ心の叫びを告げようともそれに真剣に向き合う様子を見せず、どこまでも自分本位の言葉を続けていった。
「僕は貴族位の男なんだぞ?他の女性を気に入って関係を持つくらいなんでもないじゃないか。君のことだってちゃんとこうして受け入れてやっているじゃないか。…そもそも僕は、君が僕のすることに文句を言わなさそうだから婚約者として選んでやったのだぞ?にもかかわらずそれを果たせないとなるなら、それこそ僕に対する裏切りじゃないか?君はどうして自分がここにいるのかをしっかり理解しているのか?」
…どこまでも自分の立場を変えようとはしないグレン様。
確かに階級や立場の上では彼の方が上なのかもしれない。
でも、だからといって私の思いを無視して、この関係はただの飾りに過ぎないから私には何も言う権利はないと言ってくるなんて、それこそ私にかけてくれたかつての言葉の裏切りなのではないだろうか…。
「まぁ、どうにも受け入れられないというのなら出て言ってくれても構わない。君の代わりなどいくらでもいるのだから、わざわざ生意気で文句を言ってくる君にこだわる必要も僕にはない。そうやって真実の愛というのは作り上げられていくのだからな」
真実の愛、今まで私の事を裏切り続けてきたあなたからそんな言葉が出てくるとは思わなかった。
…でも、それは間違いなく私に対して向けられたものではないのでしょうね。
あなたがその頭の中で考えている関係は、すでに新しい女性との華々しい未来を描いたものに変わっていっているのでしょうから。
「…本気で、そうさせてもらいましょうか…。私の代わりがいくらでもいるのなら、それでもいいですよね…?」
「あぁ、それなら僕は君の事を追放しなければならなくなるな…。だって君の方から出て行ってしまわれたら、僕は貴族の位を持つ男でありながら婚約者に逃げられた男だということになってしまう。ならいっそ、自分の方から相手を追放してやったという方が、対外的にも良い印象を与えられることだろう。ロミア、僕が君のために恥をかくことなどありえない。君だってそのことはよくわかっているんだろう?」
…最後の最後まで、結局自分の事しか考えていないのでしょうね…。
でも、それならそれで私にも考えがあります。
あなたが私の事を追放されるというのなら、私もまたあなたの事を追放して差し上げましょう。
グレン様は私との婚約を果たしてからというもの、完全に変わってしまわれていた。
最初こそ私の事を大切にしてくれているような振る舞いを見せてくれていたものの、自分の前を他の貴族家の女性が通り過ぎれば視線を奪われたり、自分の方から声を駆けに行ったり、果ては彼女たちの気を引くために自らパーティーを主催することもあった。
ある日の事、そんなグレン様の言動に悲しみを募らせた私は、彼に対してこう言葉を発した。
「グレン様、これ以上はもう我慢ができません…。私はグレン様の言葉を信じて、あなた様のもとに婚約者として参ることを決めたのです。しかし、今私に向けられている言葉はどれも私の思いを裏切るものばかり…。こんな生活が繰り返されるというのなら、私は心が壊れてしまいそうです…」
その言葉を告げた時、私は特別にグレン様の事を断じたいという思いはなかった。
ただただ今の私の思いを正直に、それでいて素直に言葉にして彼につぶやいただけの事。
その裏にあったのは、私が心の中に隠し抱いていた思いの少しでも彼に受け取ってもらえたらうれしいなという思いだけだった。
ただ、そんな私の言葉に対して彼が返した言葉は、それはそれは期待を大きく裏切るものだった。
「…ロミア、君は一体何様になったつもりなんだ?最初から言っているだろう、君はこの僕に選ばれただけの存在なのだ。婚約に至るいきさつを考えても、お互いが持つ能力や過去を考えても、君が僕に大人しく付き従うというのは決定事項だろう?そこに文句を言ってわがままを通そうとするなんて、それはもう度が過ぎたことを言っているとは思わないか?君にはその自覚もないのか?」
グレン様は自信が私にうそをついていることを棚に上げて、一方的な言葉を言い始める。
そこに暖かさややさしさは一切感じられず、私の思いはただただ裏切られたのだということをまざまざと感じさせた。
「ロミア、君は黙って僕に従っていればそれでいいんだよ。余計なことは考えようとするんじゃない」
「し、しかし…。今のままではあまりにも…」
「ロミア、よく聞いてくれ。君が僕の言うことを聞けないというのなら、僕は君の事をここから追放しなければならない。それはすなわち、婚約の破棄を意味するものとなる。…ロミア、せっかく僕との婚約関係を手にするに至ったのに、それを自分のわがままで失うことになるほど愚かなことはないとは思わないか?君だって内心ではそう理解しているんだろう?」
「……」
いうだけ無駄、というのはこのことを言うのかもしれない。
私の思いは一切グレン様の心には届いていない様子で、彼は私がどれだけ心の叫びを告げようともそれに真剣に向き合う様子を見せず、どこまでも自分本位の言葉を続けていった。
「僕は貴族位の男なんだぞ?他の女性を気に入って関係を持つくらいなんでもないじゃないか。君のことだってちゃんとこうして受け入れてやっているじゃないか。…そもそも僕は、君が僕のすることに文句を言わなさそうだから婚約者として選んでやったのだぞ?にもかかわらずそれを果たせないとなるなら、それこそ僕に対する裏切りじゃないか?君はどうして自分がここにいるのかをしっかり理解しているのか?」
…どこまでも自分の立場を変えようとはしないグレン様。
確かに階級や立場の上では彼の方が上なのかもしれない。
でも、だからといって私の思いを無視して、この関係はただの飾りに過ぎないから私には何も言う権利はないと言ってくるなんて、それこそ私にかけてくれたかつての言葉の裏切りなのではないだろうか…。
「まぁ、どうにも受け入れられないというのなら出て言ってくれても構わない。君の代わりなどいくらでもいるのだから、わざわざ生意気で文句を言ってくる君にこだわる必要も僕にはない。そうやって真実の愛というのは作り上げられていくのだからな」
真実の愛、今まで私の事を裏切り続けてきたあなたからそんな言葉が出てくるとは思わなかった。
…でも、それは間違いなく私に対して向けられたものではないのでしょうね。
あなたがその頭の中で考えている関係は、すでに新しい女性との華々しい未来を描いたものに変わっていっているのでしょうから。
「…本気で、そうさせてもらいましょうか…。私の代わりがいくらでもいるのなら、それでもいいですよね…?」
「あぁ、それなら僕は君の事を追放しなければならなくなるな…。だって君の方から出て行ってしまわれたら、僕は貴族の位を持つ男でありながら婚約者に逃げられた男だということになってしまう。ならいっそ、自分の方から相手を追放してやったという方が、対外的にも良い印象を与えられることだろう。ロミア、僕が君のために恥をかくことなどありえない。君だってそのことはよくわかっているんだろう?」
…最後の最後まで、結局自分の事しか考えていないのでしょうね…。
でも、それならそれで私にも考えがあります。
あなたが私の事を追放されるというのなら、私もまたあなたの事を追放して差し上げましょう。
23
あなたにおすすめの小説
あなたの幸せを、心からお祈りしています【宮廷音楽家の娘の逆転劇】
たくわん
恋愛
「平民の娘ごときが、騎士の妻になれると思ったのか」
宮廷音楽家の娘リディアは、愛を誓い合った騎士エドゥアルトから、一方的に婚約破棄を告げられる。理由は「身分違い」。彼が選んだのは、爵位と持参金を持つ貴族令嬢だった。
傷ついた心を抱えながらも、リディアは決意する。
「音楽の道で、誰にも見下されない存在になってみせる」
革新的な合奏曲の創作、宮廷初の「音楽会」の開催、そして若き隣国王子との出会い——。
才能と努力だけを武器に、リディアは宮廷音楽界の頂点へと駆け上がっていく。
一方、妻の浪費と実家の圧力に苦しむエドゥアルトは、次第に転落の道を辿り始める。そして彼は気づくのだ。自分が何を失ったのかを。
愛しの第一王子殿下
みつまめ つぼみ
恋愛
公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。
そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。
クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。
そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。
【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。
五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」
婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。
愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー?
それって最高じゃないですか。
ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。
この作品は
「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。
どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
「婚約の約束を取り消しませんか」と言われ、涙が零れてしまったら
古堂すいう
恋愛
今日は待ちに待った婚約発表の日。
アベリア王国の公爵令嬢─ルルは、心を躍らせ王城のパーティーへと向かった。
けれど、パーティーで見たのは想い人である第二王子─ユシスと、その横に立つ妖艶で美人な隣国の王女。
王女がユシスにべったりとして離れないその様子を見て、ルルは切ない想いに胸を焦がして──。
『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!
志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」
皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。
そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?
『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!
(完結)婚約を破棄すると言われましても、そもそも貴方の家は先日お取り潰しになっていましたよね?
にがりの少なかった豆腐
恋愛
同じ学園に通う婚約者に婚約破棄を言い渡される
しかし、その相手は既に貴族ではなくなっていた。それに学園に居る事自体おかしいはずなのに
とっくに婚約は破棄されているのに、それに気づいていないのかしら?
※この作品は、旧題:婚約破棄? いえ、そもそも貴方の家は先日お取り潰しになっていますよ? を加筆修正した作品となります。
婚約破棄された令嬢のささやかな幸福
香木陽灯
恋愛
田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。
しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。
「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」
婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。
婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。
ならば一人で生きていくだけ。
アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。
「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」
初めての一人暮らしを満喫するアリシア。
趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。
「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」
何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。
しかし丁重にお断りした翌日、
「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」
妹までもがやってくる始末。
しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。
「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」
家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる