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第5話
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「届いた!!届いたぞ!!やっぱり僕の思った通り、ロミアはいまだに僕の事を想っていたんだ!!」
グレンは胸の高鳴りを抑えることができず、うれしさからか全身を震わせながらそう言葉をつぶやく。
「だってそうじゃないか!僕に気がないのなら返事をする必要がない!にもかかわらずこうして返事を送ってくるということは、やはり僕に気があるからに決まっている!!そうでなければ説明がつかない!」
…かつて自分が、ロミアはただの暇つぶしで都合がいいだけの関係だと言っておきながら、今度は自分がそうされているということにいまだ気づかないグレン。
普通に考えれば誰でもそれくらいの事は理解できることであろうに、今の彼はその考えに行きつくだけの合理的な思考力が全く存在しなかった。
…まぁ、そのようなものが彼に備わっていればそもそもこんな状況は引き起こされてはいなかったのだろうから、結局彼には元からそんな能力はなかったのだろうが…。
「さて、何と書かれているか…!まぁ見なくともわかる。私もいまだにあなたの事が忘れられませんとか、あなたの帰りをいつまでも待っていますとか、そのためにお屋敷はあの時のまま残してありますとか、どうせそう言ったことだろう?見なくともわかるとも♪」
そのいずれも完全に的外れだった。
ロミアはグレンの事を想ってなどいない上、帰りを待っているはずもない。
屋敷は当時のまま残してあるどこりか、むしろ当時のものを感じさせるものが完全に消滅しつつあった。
グレンの部下だった者たちも彼に対する印象を完全に失っていっており、すでにレイのサポートを受けるロミアがその屋敷の存在というのものを完全に別のものにしていきつつあった。
「が、ここで手紙を見ない理由などない。それじゃあ早速…♪」
まるでほしかったおもちゃを買い与えられた子どものように、無垢な笑みを浮かべながらその内容に目を通していくグレン。
その表情は最初こそ非常に明るく輝いていたが、次第にそこから輝きは失われていき、いよいよ明るさよりも暗さが勝っていく…。
『今だから言いますが、私があなたに抱いている印象は”気持ち悪い”以外にありません…。だってそうでしょう?すでに婚約者がいる身分でありながら、貴族だということを盾にして他の女性たちを口説きに行くなんて、気持ち悪いとしか言いようがありません。それに気づいていなかったのですか?私は彼女たちと同性だから手に取るようにわかりましたが、彼女たちあなたから声をかけられて心底嫌そうな表情を浮かべていましたよ?なのにあなたはそれに気づかず一方的な言葉を続けるばかり…。正直言って、私が気持ち悪さを感じたのはその方が大きかったかもしれません。私がいくらその事を追求しても、あなたは反省するどころかむしろ行為をエスカレートさせていくばかり。それどころか私に対して追放するだなんて言葉を行ってきましたよね?あなたはあの言葉を脅しのつもりで言ったのでしょうけれど、私にあなたを諦めさせるには十分な威力をもつ言葉となりました。おかげである意味、今ではそこに感謝しています。その後あなたは誰からも信頼されることなく、愛を向けられることもなく、逆追放という形で私の前から姿を消すことになりましたね?その時あなたは私に何と言ったか覚えていますか?もうこんなとこには二度と戻ってこない、いずれかならずお前たちの事をつぶしてやると言ったのですよ?私はそうなる日を楽しみにしていたのですが、結局それは実現することなく終わりそうだということに悲しみを抱いています。だってあなたがこんな手紙を送ってくるということは、それどころではないということなのですよね?私に頼らないとなにもできないくら、今のあなたは終わってしまっているということですよね?私があなたにかけた、気持ち悪いという言葉。それは過去の事だけでなく、今のあなたに対しても同じ事を想っています。この言葉はもしかしたら一生言えずにおわるのではないかと悲しかったのですが、あなたがこうして手紙を送ってきてくれたことで、それに返事をするという建前のもとこうして思いを伝えることができました。うれしく思っています。
では、先の短い人生でしょうけれどどうかお元気で』
…
……
………
…………
その手紙を受け取ったグレンは、完全に放心状態になっていた。
怒りを感じるわけでも、憎しみを感じるわけでもなく、ただただその場に静かにうつむいていた。
「…ロミア、いつから君はこんな直接的な物言いができるようになったというんだ…。以前の君はもっとおとなしくてかわいかったじゃないか…。だから僕は、きっと今でも君の事を言い従えられると思っていたのに…。これじゃあまるで期待外れじゃないか…」
かつてロミアが言った、あなたはどれだけ自分本位なのかという言葉。
それは今に至っても変わっていない様子で、グレンの性格や性質を現すならこれ以上ないほどに適切な言葉であった。
「ま、まだだ…。こ、これはきっとロミアが素直になれていないだけの事…。これから何度も繰り返し手紙を送り続ければ、彼女とていずれ必ず僕の事を認めて受け入れてくれるに違いない…。さ、さぁ…早く返事を書かなければ…」
ロミアの暇つぶしに付き合あっているだけだという現実を受け入れようとせず、泣きつくような雰囲気でそう言葉をつぶやくグレン。
そこに復縁の可能性や許される可能性など一切ないというのに、それでもグレンは手紙を書き始める。
「今度こそ…。今度こそ正直に、素直な言葉がかえってくるはずだ…。女という者は得てしてそういうもの、最初から素直な言葉を言ってきたりはしない…。彼女は僕の事を試しているのだろう、これから僕がどんな手紙を送り返すかということを…」
かつてグレンがロミアに言った、素直に正直にという言葉。
その手紙に書かれていた文章はすべてロミアの素直な思いから来たものだというのは、なんと皮肉なことであろうか。
しかもその素直な言葉にいまだ気づかないグレンは、なんと愚かな事であろうか。
二人の手紙のやり取りはその後も何度か続けられたものの、結局最後にはグレンがすべての自身を失う形で決着となり、勝敗はこの時からすでに決していたのだった…。
グレンは胸の高鳴りを抑えることができず、うれしさからか全身を震わせながらそう言葉をつぶやく。
「だってそうじゃないか!僕に気がないのなら返事をする必要がない!にもかかわらずこうして返事を送ってくるということは、やはり僕に気があるからに決まっている!!そうでなければ説明がつかない!」
…かつて自分が、ロミアはただの暇つぶしで都合がいいだけの関係だと言っておきながら、今度は自分がそうされているということにいまだ気づかないグレン。
普通に考えれば誰でもそれくらいの事は理解できることであろうに、今の彼はその考えに行きつくだけの合理的な思考力が全く存在しなかった。
…まぁ、そのようなものが彼に備わっていればそもそもこんな状況は引き起こされてはいなかったのだろうから、結局彼には元からそんな能力はなかったのだろうが…。
「さて、何と書かれているか…!まぁ見なくともわかる。私もいまだにあなたの事が忘れられませんとか、あなたの帰りをいつまでも待っていますとか、そのためにお屋敷はあの時のまま残してありますとか、どうせそう言ったことだろう?見なくともわかるとも♪」
そのいずれも完全に的外れだった。
ロミアはグレンの事を想ってなどいない上、帰りを待っているはずもない。
屋敷は当時のまま残してあるどこりか、むしろ当時のものを感じさせるものが完全に消滅しつつあった。
グレンの部下だった者たちも彼に対する印象を完全に失っていっており、すでにレイのサポートを受けるロミアがその屋敷の存在というのものを完全に別のものにしていきつつあった。
「が、ここで手紙を見ない理由などない。それじゃあ早速…♪」
まるでほしかったおもちゃを買い与えられた子どものように、無垢な笑みを浮かべながらその内容に目を通していくグレン。
その表情は最初こそ非常に明るく輝いていたが、次第にそこから輝きは失われていき、いよいよ明るさよりも暗さが勝っていく…。
『今だから言いますが、私があなたに抱いている印象は”気持ち悪い”以外にありません…。だってそうでしょう?すでに婚約者がいる身分でありながら、貴族だということを盾にして他の女性たちを口説きに行くなんて、気持ち悪いとしか言いようがありません。それに気づいていなかったのですか?私は彼女たちと同性だから手に取るようにわかりましたが、彼女たちあなたから声をかけられて心底嫌そうな表情を浮かべていましたよ?なのにあなたはそれに気づかず一方的な言葉を続けるばかり…。正直言って、私が気持ち悪さを感じたのはその方が大きかったかもしれません。私がいくらその事を追求しても、あなたは反省するどころかむしろ行為をエスカレートさせていくばかり。それどころか私に対して追放するだなんて言葉を行ってきましたよね?あなたはあの言葉を脅しのつもりで言ったのでしょうけれど、私にあなたを諦めさせるには十分な威力をもつ言葉となりました。おかげである意味、今ではそこに感謝しています。その後あなたは誰からも信頼されることなく、愛を向けられることもなく、逆追放という形で私の前から姿を消すことになりましたね?その時あなたは私に何と言ったか覚えていますか?もうこんなとこには二度と戻ってこない、いずれかならずお前たちの事をつぶしてやると言ったのですよ?私はそうなる日を楽しみにしていたのですが、結局それは実現することなく終わりそうだということに悲しみを抱いています。だってあなたがこんな手紙を送ってくるということは、それどころではないということなのですよね?私に頼らないとなにもできないくら、今のあなたは終わってしまっているということですよね?私があなたにかけた、気持ち悪いという言葉。それは過去の事だけでなく、今のあなたに対しても同じ事を想っています。この言葉はもしかしたら一生言えずにおわるのではないかと悲しかったのですが、あなたがこうして手紙を送ってきてくれたことで、それに返事をするという建前のもとこうして思いを伝えることができました。うれしく思っています。
では、先の短い人生でしょうけれどどうかお元気で』
…
……
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…………
その手紙を受け取ったグレンは、完全に放心状態になっていた。
怒りを感じるわけでも、憎しみを感じるわけでもなく、ただただその場に静かにうつむいていた。
「…ロミア、いつから君はこんな直接的な物言いができるようになったというんだ…。以前の君はもっとおとなしくてかわいかったじゃないか…。だから僕は、きっと今でも君の事を言い従えられると思っていたのに…。これじゃあまるで期待外れじゃないか…」
かつてロミアが言った、あなたはどれだけ自分本位なのかという言葉。
それは今に至っても変わっていない様子で、グレンの性格や性質を現すならこれ以上ないほどに適切な言葉であった。
「ま、まだだ…。こ、これはきっとロミアが素直になれていないだけの事…。これから何度も繰り返し手紙を送り続ければ、彼女とていずれ必ず僕の事を認めて受け入れてくれるに違いない…。さ、さぁ…早く返事を書かなければ…」
ロミアの暇つぶしに付き合あっているだけだという現実を受け入れようとせず、泣きつくような雰囲気でそう言葉をつぶやくグレン。
そこに復縁の可能性や許される可能性など一切ないというのに、それでもグレンは手紙を書き始める。
「今度こそ…。今度こそ正直に、素直な言葉がかえってくるはずだ…。女という者は得てしてそういうもの、最初から素直な言葉を言ってきたりはしない…。彼女は僕の事を試しているのだろう、これから僕がどんな手紙を送り返すかということを…」
かつてグレンがロミアに言った、素直に正直にという言葉。
その手紙に書かれていた文章はすべてロミアの素直な思いから来たものだというのは、なんと皮肉なことであろうか。
しかもその素直な言葉にいまだ気づかないグレンは、なんと愚かな事であろうか。
二人の手紙のやり取りはその後も何度か続けられたものの、結局最後にはグレンがすべての自身を失う形で決着となり、勝敗はこの時からすでに決していたのだった…。
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