天上の桜

乃平 悠鼓

文字の大きさ
12 / 205
第一章

出会い、そして西へ 《六》

しおりを挟む
※如意金箍棒は漢字で出るのに、キン斗雲のキンの漢字が出てこないなんて! スマホさ~ん((T_T))




********

 丁香ていかは、宿屋から出てくる女の姿に目を見張った。紫黒しこく色だっだ長い髪は灰簾石タンザナイト色に輝き、同じく黒檀こくたん色の双眸そうぼうも極上の灰簾石色に変わっていたからだ。髪と双眸は自らが信奉する神の色であるにも関わらず、今まさに目の前で変わろとしている衣の色は、この世界では愛染朱あいぜんしゅと呼ばれ、愛染明王を信仰する仏閣や愛染明王の加護を得たもののみに現れる色。
 そしてさらに丁香を混乱させたのは、彼女が右手に持つ白刃はくじんだっだ。そのジエンの剣格には、阿修羅王のお印である宝相華ほうそうげ白金プラチナ色に輝く右手首の腕釧ブレスレットと左腕の上腕の臂釧アームレットにも宝相華の図柄がつけられている。宝相華を身に付けられる者は、阿修羅一族のみ。

「どう言うことだい、これは」

 丁香が驚愕きょうがくに口を開くのも、致し方ないことだっだ。神仏混合、そんな者がこの世界に存在するのだろうか。そもそも、目の前の女は神仏なのか。丁香の前をとおり過ぎるおり

「命が惜しくば、決して私と目を合わせるな」

 と、女は言った。命を奪い取る神仏など、いるはずがない。
 旅人達が此処ここに集まったことを確認していた八戒は、足早に宿屋の玄関先にやって来る。いつの間にか丁香の隣には、玄奘も来ていた。

「玄奘と黄道士こうどうしはしばらく此処で、私達が前に出ます」
「なぜだ」
「これは私の感ですが、奴等は多分、上から来ます」

 そう言って空を見上げた八戒に釣られるように、玄奘も空を見つめた。空には星が瞬き、美しい下弦かげんの月がその姿を現していた。
 旅人が集まった宿屋は中央に大きな庭園があり、その庭園を囲むように正面、左側、後ろ側が宿屋になっている。宿屋は四階建てだ。右側は馬屋で、宿屋の左側の一階と地下の一部が蔵という造り。
 中央の庭園には正面玄関の向かいに扉が設けられ、その扉を開ければ玄関から庭園に行くことができる。今、扉は開け放たれており、庭園に集められた旅人達からは、玄関先にいる丁香と玄奘がよく見えていた。

「上か、厄介だな」
「出来うる限りは撃ち落としますが、翼を傷つけられた者達は、一斉にこちらにやって来ることになるでしょう。玄奘と黄道士には、此処で奴等を食い止めて欲しいと思いまして。今さら、血濡れることを躊躇ちゅうちょすることも無いでしょうし」
「言ってくれる、いいだろ。黄道士」
「わかった。だが、は確かなのかい」

 丁香の言葉に、“そうですね、どう思いますか” と、八戒は前方に進み出ている女に尋ねた。

「当たりだ。封印されていたのは翼を持つ妖怪、そして者達だ。おそらく、神の戦いに巻き込まれ利用され、その姿を変えられた者達」
「悪趣味なこった」

 話を聞いていた悟浄はそう言うと、革帯ベルトにつけていた飾りのような下がり物を引き抜く。すると、たちまちそれは大きくなり、クンに姿を変えた。長さは二尺半60センチ程ある短棒を三本つなぎ合わせた三節棍さんせつこん

「上からならオレが行った方がいい」

 尋ねるように悟空が八戒を見た。八戒は、“そうですね” と言うと、さっさと前方に歩みを進めた女の後ろ姿を見つめ

「私達が最前線に、その後に上から悟空、地上に悟浄。そして、宿屋の前に玄奘と黄道士。これでも、宿屋のすべてを護りきれるかどうか。特に、上からが」

 と、言葉を濁した。どう考えても、上の護りが手薄だ。宿屋の真上までいかれたら、どうしようもない。

アレがハムに渡した物で、しばらくの間は持つだろう」
「あたしの弟子達もいる。武闘派と言われるほどには、多少の力はあるつもりだよ」

 玄奘と丁香の言葉に、“わかりました” と八戒は言うと

「悟空、上は任せます」

 と、声をかけた。“任された” 悟空はそう言うと、右手で左耳の耳墜みみかざりを掴み取り 

「キン斗雲 とうん

 と言いながら、空に向かって投げた。投げられた耳墜はたちまち大きくなり、藍白あいじろ色の雲となって悟空の前に戻って来た。続いて悟空は左手で右耳の耳墜を掴み取ると

如意金箍棒にょいきんこぼう

 と呟く。すると小さな棒状の耳墜だっだそれは、神珍鉄しんちんてつ製の両端に金色の箍がはめられた棒になった。重さ一万三千五百斤やく8トン、長さは持ち主の意に従い自在に伸縮する、悟空が東海龍王の龍宮より奪い取った物である。

「来るぞ!」

 女の声に、八戒は女の隣にやって来ると、そっと自らの左手を胸の高さまで真っ直ぐに上げた。そして身体を横に向け向けると、静かに呟いた。

孔雀弓くじゃくきゅう

 その声に反応するかのように、左手中指にはめられていた孔雀石マラカイトのような指環ゆびわが輝きはじめ、指環のてのひら側から握り部分が現れ、それを握りしめるとその握り部分の上下からまがりしょうが現れ、つるがかけられた。見まごうことなきゴンである。
 その弓の弦にそっと右手を近づけると右手人差し指と細い鎖のようなもので繋がれた小指の二つの銀製らしき指環の間から三本のせんが現れた。

「来ました!」

 そう言うと、八戒は美しい夜空を真っ暗に染めるように押し出してくる妖怪達に弓を引き

雪華弾せっかだん

 と、その三本の箭を放った。




********

お印→徽章、シンボルマーク
下弦の月→月を弓に見立てての名前、新月から23日頃の月
神珍鉄→??? すみません、わかりませんでした
箭→矢
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

Another World-The origin

ファンファン
SF
現実に飽きた世界を、本物の「業」が震撼させる。 九十二歳、一之進。かつて国宝を打ち上げ、戦場を駆けた「生ける伝説」。 隠居した彼が手にしたのは、息子から贈られた最新のVRギアだった。 ステータス? スキル? そんなものは関係ない。 「本物」が振るう一撃は、物理演算さえも置き去りにする。 これは、役目を終えたはずの老兵たちが、電脳世界で再び「魂の火」を灯すまでの物語。

処理中です...