天上の桜

乃平 悠鼓

文字の大きさ
39 / 204
第一章

幻想の箱庭に咲く華 《五》

しおりを挟む
武器の説明って難しい。(>_<)
今回出てくる大刀(だいとう)は、日本の薙刀(なぎなた)に近い感じです。三国志がお好きな方は、関羽(かんう)が持っていた青龍偃月刀(せいりゅうえんげつとう)をそのままイメージしていただければ、と。
そして、またもや “こう鎌” の “こう” の漢字がスマホでは出なかった。(ToT)




********

ジエンを握り締め、その場所がわかっているかのように高く飛び上がった沙麼蘿さばら眼前めのまえに、一筋の光が屋根を突き破り飛び込んで来た。
そこにいたのは、大柄な男。雪のように白い髪に、黒みがかった赤色牛の血ビーフブラッド双眸そうぼう。手に持つ大刀ダァダオが沙麼蘿の剣と交わり、そこから氣が火花のように散った。



その大柄な男が、近くの屋根の上から緑松りょくしょうこう丁香ていかの姿を見つけた時、すぐ近くに大神オオカミがいた。

「ほぉ」

と、面白いものを見つけたように呟いた男は、二人めがけ一気にその屋根を下り目の前の屋根に飛び込んだ。
そこで最初に見たもの、それは季緑松でも黄丁香でも大神でもなく、一人の女。見紛みまごうことなき灰簾石タンザナイト色のその髪と双眸は、道神どうじんのもの。

「道神……だと」

いや違うと、男は思う。自分を見て、ニヤリと口角を上げた女が身にまとう物は仏神ぶっじんの物。あの髪と双眸は偽りか、そんなことがありえるのかと。だが次の瞬間、その思いも消えた。

「……!」

己の大刀と女の剣が氣の火花を散らしてぶつかり合ったと同時に、女の姿が変わった。身を包むきぬはそのままであるにもかかわらず、その髪はきらめく白金はっきんに、そして双眸は灰簾石色から妖艶ようえんな美しい赤色鳩の血ピジョンブラッドに変わったのだ。
白金の髪に鳩の血ピジョンブラッドの双眸は、かつて修羅界しゅらかいの王でありながら仏教に帰依きえし、我らを裏切り天上界に登った阿修羅あしゅら一族のみが持つ色ではないか。



ぶつかり合った剣と大刀が離れ、二人はそれぞれに地面に着地する。剣と大刀が離れた瞬間、沙麼蘿の髪と双眸も元の灰簾石色に戻った。振り返った沙麼蘿を見て

「この、裏切り者の一族がぁー!!」

と、男は大刀を沙麼蘿に向け振り払う。美しい笑みを見せながら剣でそれを受け止める沙麼蘿は、まるでこの戦いを楽しんでいるかのようだった。

「鬼神…、だったのかい」

丁香ていかは思わず呟く。確かに、おかしいとは思っていた。神仏混合、実際にはそんなものがあるはずはないのだ。
沙麼蘿は鬼神だ、嫌、元鬼神だ。仏教に帰依し、仏界に登った阿修羅一族ならば今は仏神。なのに何故なぜ、仏神でありながら沙麼蘿は道神の姿をとるのか。
今も、目の前で剣と大刀がぶつかり合い離れるたびに、その姿は鬼神から道神に戻っている。

「何故、邪神じゃしんつかえる」
「仕える、だと。仕えたつもりはねぇな。考えが同じだった、ただそれだけのことだ」

そう言う男の睛眸ひとみを、沙麼蘿は見た。

「気に入らねぇな」

沙麼蘿と睛眸を合わせても、その命を奪われることのない男。それは、鬼神の中でもそれなりの力を持っていると言うことだ。そんな鬼神達が邪神と手を組み、天上の桜を狙う。

「神仏に、取って代わるつもりか」
「いいんじゃねぇか。俺らが天上界に上がり、神仏が下界に落ちる。こんなおもしれぇ話があると思うか」

男は、ハハハと声を上げて笑った。だが、笑い事ではなかったのは、観世音菩薩かんぜおんぼさつの仏像の瓔珞ネックレスを通してこの光景を見つめていた、仏界の仏神達だ。



天上界の広間にて下界の話を聞いていた仏神達は、ざわざわとざわめき

「お聞きになられましたか! 修羅界の者達は天上の桜を奪い取り、この天界に攻め込んで来る気です」
「我々を下界に落とし、この世界を思いのまま操る気なのです!」

と、次々に声を上げた。その様子に、如来達は互いの顔を見合せ、静かに頷き合う。

「観世音菩薩、道界へ行ってきて下さい。」
修羅界アレらは本気のようだ」
「天上の桜は、守らねばなりません」
沙麼蘿あのこに言うこと聞かせることができるのは、すめらぎだけですからね」

釈迦しゃか如来にょらい大日だいにち如来、阿弥陀あみだ如来、薬師やくし如来の言葉に、観世音菩薩は “はい” と呟くときびすを返し、道界へと向かって行った。


男の持つ大刀ダァダオは、長柄ながえ武器の代表的なもので “大刀は百兵ひゃくへい之師のし” と称され、長柄の先に大きな刃が付いている。
大刀には多くの種類があり “青龍せいりゅう偃月刀えんげつとう” “青龍刀” “春秋刀” “関刀かんとう” 等があるが、男の大刀は青龍偃月刀。三日月形の刀部と柄の付け根に龍の頭をつけ、龍が刀をくわえているように見え、刀の部分にも龍の彫り物が入れられている。
大刀の刀刃は長さ三尺六寸やく60センチ程と大きく、刃は湾曲し最大幅が一尺一寸やく25センチ程と大きな刃で、刀背の部分にこうれん(鎌状の角)があり、刀穂が付けらている。
全長は八尺二寸やく1.9メートル程で、刃と逆の方に把尖はせん(槍先のようなもの)が付いている。
大刀は重量があり、自在に扱うにはかなりの実力が必要だ。大刀を扱うことを表現した “大刀看定手かんていしゅ” と言う言葉がある。定手とは “護手盤ごしゅばん”(つば)の下側を持つ手のことだが、この部分をうまく使うことで大刀を巧みに操ることができるのだ。
目の前の男は、とりわけその手法に優れているように沙麼蘿には見えた。大刀の腕には、相当な自信があるようだ。

「さすがに、れだけの氣が飛びゃ分かるわな。俺らだけの手柄には、できないらしい」

男の言葉が何を意味するのか、それは沙麼蘿にも分かった。相手の氣が強ければ強いほど、その氣を目印に力のある者が集まる。
今も、おそらくは玄奘が相手にしている女とこの男の仲間だけだっただろう氣に加え、二方向から数人がこの道観に現れた。

「玄奘の首を取ろうとする者達が揃った、と言うところか」

沙麼蘿の言葉に丁香と緑松は双眸を見開き、目の前で対峙たいじする二人を見つめた。




********

見紛う→見まちがえる
妖艶→あでやかで美しいこと
踵→かかと
刀穂→タッセル。多くの糸をたばね、その先端を散らして垂らしたもの。房
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...