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第一章
幻想の箱庭に咲く華 《七》
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武器の説明は毎回長々と書いていますが、難しいですよね。(>_<)
********
華風丹は、氣の火花が舞い散る隣の建物の屋根に移動し、その屋根の上から前の建物の開け放たれた窓から中を見て
「まぁ!」
と、声を上げた。見つめた視線の先には、大刀と剣がぶつかり合い火花が散っている。だが驚くべきは、大刀を持つ蜃景と剣を交えている女だ。
白金の髪に鳩の血の双眸は、かつて修羅界に君臨していた阿修羅一族の印。そして、その身に纏う衣は……。
華風丹は手に持つ扇をふわりと広げ、その口元を覆うと
「本当にいたなんて。お母様の昔話に出てくる、物語にだけ存在する生き物かと思っていたわ」
と呟いた。
「華風丹様」
驚き立ち尽くす華風丹の姿に、どうしたのかと友禅が声をかける。
「鬼神と聖人がまみえた結果生まれた、心を持たずこの世界を無に帰すと言われる忌みの子。生きとし生けるもの全ての命を奪い、草木さえ生えぬ焦土と化すと言われた、あってはならない生き物。その存在を、否定されるべき者」
「まさ…か……! そんな生き物が……」
華風丹の言葉を聞いて、後ろに控えていた護衛の一人苧環が思わず呟く。
「しかし華風丹様、すでに阿修羅王は仏教に帰依し仏神となったはずです」
もう一人の護衛千寿が言う。華風丹は振り返って千寿を見つめ
「いくら仏教に帰依したからと言って、全力で争い合っていた修羅界の王鬼神阿修羅を、天上界が直ぐに仲間として認めると思う。いいえ、認めるはずがないわ。阿修羅王は天上界に登った後も、しばらくの間は鬼神として扱われたはずよ。だから、あのような者が生まれたの。仏神としての力を得る前、鬼神の力を持ったままであったが故に。」
そう言った。そして向き直り窓を見つめると
「それでも、鬼神と聖人の血が綺麗に混じり合ってさえいれば、天上界にあっても一二を争う聖人君子になれたでしょうに、見事なまでに身体の中で鬼神の血と聖人の血が分かれているわ。アレでは、化け物になってしまうのも仕方がないことよね」
と、言葉を繋いだ。その時、まるで今の華風丹の話を聞いていたかのように、剣を手にしたままの女が此方を見上げ、ニヤリと笑った。
その様子に華風丹は双眸を見開き、護衛の二人は訳のわからぬ恐怖に震えた。
「さすがは、化け物ね」
華風丹は、女の睛眸を見返した。
「鬼神、だったのか」
玄奘達がその場に駆けつけた時、沙麼蘿は鬼神の男と闘っていた。それは、何時もと同じに見えた。だが次の瞬間、鬼神の男の大刀と沙麼蘿の剣が重なり合った時、その姿が変わったのだ。
沙麼蘿は、玄奘達の紅から生まれた。その場では、普通の人間の姿に。だが次には、神仏混合の姿になると言う驚きの姿を見せた。しかし、それもまた偽りの姿だったと言うことだ。玄奘の呟きに
「成る程な」
と、悟浄が言った。その言葉に反応するように、八戒の視線が悟浄を捉える。
「沙麼蘿は水落鬼の攻撃を片手で止めただろう。この俺だって、両手で精一杯だったのにだ。だが、沙麼蘿が鬼神だと言うのならそれも頷ける。力だけで言うなら、鬼神を超えられる者はいない。修羅界で生きてきた鬼神にとって、その力がすべてだからだ。鬼神は闘いを好む、だがそこに、その場に至るまでの過程は必要ない。ただ、己の力と力をぶけ合う、それが重要だと聞いた。まさに、沙麼蘿がそうだろう」
「そうかも知れませんね。同じ修羅界に住む邪神は、そこにたどり着くまでの過程が何より大事らしいですからね。いかに相手を傷つけ踏みにじり倒すか。ですが、沙麼蘿は何時でも剣を交え相手を力ずくで倒すことを楽しんでいる」
二人の鬼神を目にし語り合う悟浄と八戒の横を通り抜け、玄奘は季緑松と黄丁香に声をかけた。
「お怪我はありませんか。李道士、黄道士」
「あぁ、大丈夫だ」
「玄奘はどうだい」
緑松と丁香に “自分は大丈夫です” と、玄奘は言葉を繋ぐ。その様子をまるで見ていたかのように “フン” と鼻で笑った沙麼蘿は
「さぁ、終わりにしようか」
と眼前の男、蜃景に言った。
「そうだな、と言いたい所だが邪魔が入るようだ」
その蜃景の言葉通り二人の間、沙麼蘿の眼前に圏が飛んできた。沙麼蘿はその圏をいとも簡単に薙ぎ払う。
圏は環とも言われる金属で作られた円環。法具を起源として発展したと言われ、環の直径はおよそ一尺一寸ほど。外縁部にはたいてい刃がつき、さらに握るための部分がある。多くは一対で使う双環。
主な用法は振り回す、撃ち砕く、かぶせる、巻き込む、受け止める、圧す、などだが時に敵に向かって投げることもある。今、沙麼蘿に向かって投げられたのは乾坤圏と言われる圏(環状兵器)の一つ。
形状は手持ち燭台に似て直径は一尺と少し。円環の4分の1は握るための部分で、太さは手に収まる程度、円形をしている。残り4分の3には尖った刃が生え、扁平で湾曲している。
扁平な部分は幅一寸と少しほど、厚さ七分。内縁寄りの部分はやや厚めで、外縁部は薄いが刃は立っていない。
外縁部には鋭利な三角形の刃が幾つか生えており、それぞれ長さは二寸ほど。先端は湾曲して一方に寄り、鋸の刃に似ている。
湾曲部分にはさらに、狼牙(猛獣の牙に似た三日月状の棘)が幾つか生えている。先端は尖って刃は薄く、鋭利なことこの上ない。
円環の外縁部には、持ち手を除いてことごとく円錐形の棘が生えている。棘の先端は鋭く、間隔は七分から八分ほど。
圏一つにつき八本から十本の棘がある。乾坤圏の重さは一個あたり四斤から六斤。一つの革袋にこれを三個並べて入れておき、持ち手の部分は直ぐに取り出せるよう袋から露出させておく。
投げた際は高速で回転しながら敵へ飛んでいき、顔面や首を切り裂く。そんな物騒な武器を、沙麼蘿に向かって投げつけたのは。
********
まみえる→ここでは結婚
無に帰す→失われて元の何もなかった状態に戻ってしまう、という意味で用いられる言い回し
焦土→焼けて黒くなった土
聖人君子→知識や徳の優れた、高潔で理想的な人物
紅→ここでは血
燭台→ろうそくを立てるための台
扁平→凸凹が少なく、平べったいこと。また、そのさま
湾曲→弓形に曲がること
鋭利→刃物等が鋭く、切れ味のよいこと。また、そのさま
円錐形→円を底面として持つ錐(きり)状に尖った立体のこと
一斤→重さの単位。ここでは、一斤250グラム
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華風丹は、氣の火花が舞い散る隣の建物の屋根に移動し、その屋根の上から前の建物の開け放たれた窓から中を見て
「まぁ!」
と、声を上げた。見つめた視線の先には、大刀と剣がぶつかり合い火花が散っている。だが驚くべきは、大刀を持つ蜃景と剣を交えている女だ。
白金の髪に鳩の血の双眸は、かつて修羅界に君臨していた阿修羅一族の印。そして、その身に纏う衣は……。
華風丹は手に持つ扇をふわりと広げ、その口元を覆うと
「本当にいたなんて。お母様の昔話に出てくる、物語にだけ存在する生き物かと思っていたわ」
と呟いた。
「華風丹様」
驚き立ち尽くす華風丹の姿に、どうしたのかと友禅が声をかける。
「鬼神と聖人がまみえた結果生まれた、心を持たずこの世界を無に帰すと言われる忌みの子。生きとし生けるもの全ての命を奪い、草木さえ生えぬ焦土と化すと言われた、あってはならない生き物。その存在を、否定されるべき者」
「まさ…か……! そんな生き物が……」
華風丹の言葉を聞いて、後ろに控えていた護衛の一人苧環が思わず呟く。
「しかし華風丹様、すでに阿修羅王は仏教に帰依し仏神となったはずです」
もう一人の護衛千寿が言う。華風丹は振り返って千寿を見つめ
「いくら仏教に帰依したからと言って、全力で争い合っていた修羅界の王鬼神阿修羅を、天上界が直ぐに仲間として認めると思う。いいえ、認めるはずがないわ。阿修羅王は天上界に登った後も、しばらくの間は鬼神として扱われたはずよ。だから、あのような者が生まれたの。仏神としての力を得る前、鬼神の力を持ったままであったが故に。」
そう言った。そして向き直り窓を見つめると
「それでも、鬼神と聖人の血が綺麗に混じり合ってさえいれば、天上界にあっても一二を争う聖人君子になれたでしょうに、見事なまでに身体の中で鬼神の血と聖人の血が分かれているわ。アレでは、化け物になってしまうのも仕方がないことよね」
と、言葉を繋いだ。その時、まるで今の華風丹の話を聞いていたかのように、剣を手にしたままの女が此方を見上げ、ニヤリと笑った。
その様子に華風丹は双眸を見開き、護衛の二人は訳のわからぬ恐怖に震えた。
「さすがは、化け物ね」
華風丹は、女の睛眸を見返した。
「鬼神、だったのか」
玄奘達がその場に駆けつけた時、沙麼蘿は鬼神の男と闘っていた。それは、何時もと同じに見えた。だが次の瞬間、鬼神の男の大刀と沙麼蘿の剣が重なり合った時、その姿が変わったのだ。
沙麼蘿は、玄奘達の紅から生まれた。その場では、普通の人間の姿に。だが次には、神仏混合の姿になると言う驚きの姿を見せた。しかし、それもまた偽りの姿だったと言うことだ。玄奘の呟きに
「成る程な」
と、悟浄が言った。その言葉に反応するように、八戒の視線が悟浄を捉える。
「沙麼蘿は水落鬼の攻撃を片手で止めただろう。この俺だって、両手で精一杯だったのにだ。だが、沙麼蘿が鬼神だと言うのならそれも頷ける。力だけで言うなら、鬼神を超えられる者はいない。修羅界で生きてきた鬼神にとって、その力がすべてだからだ。鬼神は闘いを好む、だがそこに、その場に至るまでの過程は必要ない。ただ、己の力と力をぶけ合う、それが重要だと聞いた。まさに、沙麼蘿がそうだろう」
「そうかも知れませんね。同じ修羅界に住む邪神は、そこにたどり着くまでの過程が何より大事らしいですからね。いかに相手を傷つけ踏みにじり倒すか。ですが、沙麼蘿は何時でも剣を交え相手を力ずくで倒すことを楽しんでいる」
二人の鬼神を目にし語り合う悟浄と八戒の横を通り抜け、玄奘は季緑松と黄丁香に声をかけた。
「お怪我はありませんか。李道士、黄道士」
「あぁ、大丈夫だ」
「玄奘はどうだい」
緑松と丁香に “自分は大丈夫です” と、玄奘は言葉を繋ぐ。その様子をまるで見ていたかのように “フン” と鼻で笑った沙麼蘿は
「さぁ、終わりにしようか」
と眼前の男、蜃景に言った。
「そうだな、と言いたい所だが邪魔が入るようだ」
その蜃景の言葉通り二人の間、沙麼蘿の眼前に圏が飛んできた。沙麼蘿はその圏をいとも簡単に薙ぎ払う。
圏は環とも言われる金属で作られた円環。法具を起源として発展したと言われ、環の直径はおよそ一尺一寸ほど。外縁部にはたいてい刃がつき、さらに握るための部分がある。多くは一対で使う双環。
主な用法は振り回す、撃ち砕く、かぶせる、巻き込む、受け止める、圧す、などだが時に敵に向かって投げることもある。今、沙麼蘿に向かって投げられたのは乾坤圏と言われる圏(環状兵器)の一つ。
形状は手持ち燭台に似て直径は一尺と少し。円環の4分の1は握るための部分で、太さは手に収まる程度、円形をしている。残り4分の3には尖った刃が生え、扁平で湾曲している。
扁平な部分は幅一寸と少しほど、厚さ七分。内縁寄りの部分はやや厚めで、外縁部は薄いが刃は立っていない。
外縁部には鋭利な三角形の刃が幾つか生えており、それぞれ長さは二寸ほど。先端は湾曲して一方に寄り、鋸の刃に似ている。
湾曲部分にはさらに、狼牙(猛獣の牙に似た三日月状の棘)が幾つか生えている。先端は尖って刃は薄く、鋭利なことこの上ない。
円環の外縁部には、持ち手を除いてことごとく円錐形の棘が生えている。棘の先端は鋭く、間隔は七分から八分ほど。
圏一つにつき八本から十本の棘がある。乾坤圏の重さは一個あたり四斤から六斤。一つの革袋にこれを三個並べて入れておき、持ち手の部分は直ぐに取り出せるよう袋から露出させておく。
投げた際は高速で回転しながら敵へ飛んでいき、顔面や首を切り裂く。そんな物騒な武器を、沙麼蘿に向かって投げつけたのは。
********
まみえる→ここでは結婚
無に帰す→失われて元の何もなかった状態に戻ってしまう、という意味で用いられる言い回し
焦土→焼けて黒くなった土
聖人君子→知識や徳の優れた、高潔で理想的な人物
紅→ここでは血
燭台→ろうそくを立てるための台
扁平→凸凹が少なく、平べったいこと。また、そのさま
湾曲→弓形に曲がること
鋭利→刃物等が鋭く、切れ味のよいこと。また、そのさま
円錐形→円を底面として持つ錐(きり)状に尖った立体のこと
一斤→重さの単位。ここでは、一斤250グラム
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